戯曲『緋色の桔梗』戦闘開始:細川ガラシャと父・明智光秀の輪廻転生ファンタジー5
【輪廻しないはずの彼女の魂は、なぜ地上によみがえったのか──罪と赦しのファンタジー】
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イラスト:夏乃まつり様
🔹前回までのあらすじ
明治20年(1887年)・京都。
八木道場に通う少女・坂井千代は、人知れず犯罪者を成敗する“異能の剣士”だった。
人を殺すことへの罪の意識に苛まれ、すがるように教会へ通う日々、彼女が見始めたのは炎の中で殺される夢──
それは、明智光秀の娘にしてキリシタン・細川ガラシャの記憶らしい。
その頃、秘密結社・赫影会は、千代のような、歴史上の偉人の記憶を持つ異能者を取り込もうと目論んでいた。
自分がガラシャの転生者だと感じ始めている千代と、他の歴史上の人物の記憶を持つ八木道場の仲間たち。赤い月が出る夜、彼らの力が最大限に高まり、赫影会との戦いの火ぶたが切って落とされる。
※残酷描写あり
第二幕第五場:戦闘開始
舞台中央、夜の八木道場の中庭。
青く暗い庭に、月光が一筋、差し込んでいる。
志乃、 眞魚、寛太郎が縁側で見張りについている。
独白を終えた千代が、三人の傍に近づく。
志乃 (虚ろな目を上げ) 夢を見たの。宮中の庭を、御簾越しに見下ろしていた。松風と琴の音が聞こえてきて、とても気分が良くて……でも、寂しくてたまらない。
眞魚 俺は灯籠に囲まれた寺の中で、経を唱えていた。それから広間のような場所で、貧しい人々が机に向かって書物を広げ、勉学に励んでいるようだった。
俺には学がないから、詳しいことはわからん。だが、あの夢の中では、仏教や儒教の難解な教えも理解できたような気がする。
寛太郎 僕は合戦場で、敵を押しとどめるため、最後まで踏ん張っていた。勝機が失せ、念仏を唱えながら、目の前の武士と刺し違えたところで夢は終わる……なぜ、自分がそんな……。
千代 夢が、鮮明な記憶へと変容してきている。私も、今は目を閉じるだけで、瞼の裏にハッキリと見える、感じる。
燃え盛る炎の熱気、私を介錯しようとする武士の涙、刃が描く銀色の光……。でも、胸にかけた十字架のおかげで、恐怖はなく、心は凪のように穏やかで……私は、やはり……。
(ハッと我に返り)今は、そのような場合ではない。(三人に)奴らがいつ襲撃に来るか、わからないのですよ。外に意識を向けましょう。
寛太郎 はい。千代さんは、必ずお守りします。
眞魚 月岡とかいう、赫影会の黒幕もやって来るだろうな。千代、どんな男だったんだ。こんなときになんだが、信長公の生まれ変わりと言われる男の気迫を見られると思うと、俺は武者震いが止まらねぇ。
千代 これまでの連中とは異能も剣技も格段に異なる。空間全体を鉛のように重くする威圧感。四人がかりでも、むやみに攻撃して勝てる相手ではない。さらに時間を止められるとなれば……。
志乃 千代ちゃんは時間を遅らせられるんですものね。それだけでも凄いのに、月岡は狙った相手の時間を完全に静止させられるの?
千代 ええ。あの夜、一瞬の出来事ではあったものの、確かに見ました。味方のはずの、赫影会の手下たちの動きをピタリと止め、次の瞬間には一太刀で全員を斬り殺した。斬撃すら見えなかったけれど。
寛太郎 (気味悪そうに)そんな相手に、僕たちで戦いを挑んでいるわけですよね……本当は、怖くてたまらない……。
千代 奴の狙いは私たちの異能。少なくとも、すぐに私たちを殺しはしない。(寛太郎を励ますように微笑み)生きている限り、勝機はあります。それに寛太郎、あなたには結界の能力がある。頼りにしていますよ。
寛太郎、少し頬を赤らめ、嬉しさをこらえてうつむく。
眞魚 ところで、月岡は千代の異能を狙っているだけなんだろうか。
千代 どういう意味?
眞魚 月岡が信長公、お前が細川ガラシャだとして……前の世で接点を持った記憶はないのか?
千代 (しばし考え)織田信長らしき姿を見た憶えはありません。
ただ、夢に、おそらく信長が死んだ日の、断片的な様子が浮かんでくることはあります。
眞魚 本能寺で自害する様子か?
千代 寺院が燃え盛る様子──あれが本能寺だと思い始めたのは、ごく最近で……男たちの声や断末魔が聞こえるばかりで、信長の様子は確認できない。
でもその後、明智光秀らしき男の死体が晒されているので、つじつまは合います。
眞魚 間違いなさそうだ。信長公は家臣の光秀に裏切られた。明智の旗印・水色の桔梗を掲げる軍勢に囲まれ、運命を悟り自害したのは俺でも知っている有名な話だ。
千代 (不意に顔を上げ、呟く)水色の……桔梗……?
志乃 歴史が正しければ、信長とガラシャに接点はないんじゃ?
千代 彼女を明智から細川に嫁がせたのは、信長だったそうです。全国で覇権を握る目的で、家臣の縁戚関係を広げるために。面識があったとしても、政略結婚の駒としか思っていなかったのでは。
眞魚 また、駒として利用しようとしているのかもしれないな。天下統一という悲願を達成しないまま、志半ばで命を奪われた信長公の魂があるとして……因縁の相手の娘が転生し、同じ時代に現れた。
赫影会の陰謀に利用するだけでなく、千代に復讐しようと……。
志乃 で、手始めにお兄さんを殺したの?
寛太郎 冗談じゃない! 千代さんと細川ガラシャは別人です! もし転生者だとしても、あくまで千代さんは千代さんです。
(途中から涙声になり)前世の、それも本人ではなく父親の罪を、千代さんが背負うなんておかしい……!
千代 ありがとう、寛太郎。いいのよ、私はもとより罪深い身。贖うべきものがあるなら贖ってみせましょう。
寛太郎 そんなの……僕たちだって、人を殺めているのに……なぜ、千代さんばかり狙われて。
眞魚 おう、寛太郎。仮の話をしただけだろ、お前を泣かせるつもりはなかったんだ。
志乃 眞魚ったら、年下を泣かせたわね。(寛太郎に寄り添い)よしよし、大丈夫よ、千代ねえさんは強いんだから。月岡なんかに負けないわ。
寛太郎、静かに泣きつづけ、志乃は慰めつづける。
眞魚、イライラし始める。
眞魚 (やがて辛抱しかねて)いい加減にしねぇか! 男のくせにメソメソと、くどいんだよ。
志乃 (眞魚をにらみ)大声を出さないで! (寛太郎に向き直り)千代ねえさんは大丈夫だからね。痛い目にあうのは赫影会よ。あいつらの罪といったら、大いびきをかく眞魚の眠りよりずっと深いわ。
眞魚 何だと、てめぇ……。
不意に轟音。
舞台両袖から赫影会の黒衣たちが現れ、襲いかかってくる。
志乃 (鋭い目つきに変わり)来たわね……。松風!(手をかざすと赫影会の数名が転倒する)
眞魚 懲りねぇ奴らだ……! 降剣!(大太刀を振り上げ、一気に降ろすと炎のような光が走る)
数名の敵が悶え、倒れる。
別の数名が千代におどりかかろうとする。
寛太郎 (小太刀を構え素早く)結界!(地面に文様が光り、防壁を張る。おどりかかろうとしていた数名が跳ね返る) 千代さんは、僕が守ります。
千代 (赫影会に剣先を向け、冷たく) あなたたちが、兄を殺した。許しはしない。兄の志を、穢す者は、ここで成敗する。
赫影会の者たち、千代の殺気にやや後退。
八木道場の弟子たち、敵に襲い掛かり、激しく火花散る戦闘となる。
だが、倒しても倒しても会員が現れ、赫影会が優勢に。
双方、戦いながら会話。
赫影会A 八木はどこだ?
眞魚 先生に何の用だ、ここにはいねぇよ。(異能”降剣” を使う。赫影会よける)
赫影会B あの爺は目障りだ。本来は我らの一員になるべき者たちをかき集め、厄介な特殊部隊に仕立てた。自分は落ちこぼれた元下級武士の身でありながら、異能者を操ろうなどとは。
志乃 あんたたちの一員ですって? それって私たちのことかしら。でも、残念でした。四人とも百年前から八木先生の愛弟子のつもり!
赫影会A はぐらかさないほうが身のためだぞ。我らは大義のためなら手段を選ばない。
眞魚 大義だぁ? 世界征服への野心の間違いじゃねぇのか。
寛太郎 あなた方の目的は知りませんが、何であろうと、このようなやり方をする者に、大義を語る資格はありません。
赫影会C ごちゃごちゃとやかましい。あの方に、八木の暗殺と、お前たち全員の捕獲を命じられた。
今までの雑魚より、はるかに技量が上の精鋭も来ている。逃がしはしない。
弟子たち、目を見開く。
眞魚 師匠の暗殺だと……?
志乃 聞き捨てならない。
千代 (鋭く)月岡の命令ね!
寛太郎 残念ですが、八木先生はここにはおられない。すでに避難されていますが、あなた方には想像もできない場所です。
赫影会A 奥の間に潜んでいるな。異能者であれば気配でわかる。ごまかせるとでも思ったか。
赫影会Aが顎をしゃくって合図すると、数名の会員が異能を使って目くらましの霧を出す。
千代たちの動きを封じると、一気に道場内へ押し入ろうとする。
眞魚 舐めやがって!
志乃 視界を塞いでも、気配でわかるわよ!
眞魚と志乃が異能で止めようとした瞬間、舞台奥に不気味な赤い月が現れる。
徐々に舞台上がうっすら赤みを帯びていく。
眞魚、降剣を使う。瞬間、これまでにはない大きな波動。
黒くゆらめく大きな炎の影と、数珠がこすれるような音。
マントラのような響きが聞こえ、赫影会が耳をふさぐ。
志乃、松風を使う。巨大な風が周囲をうごめき、道場内へ入ろうとしていた者たちは転倒。
風に乗って琴の音色が聞こえるや、彼らはうめき声を上げて絶命。
赫影会B (おびえて)何だ……今のは……?
赫影会A (やや興奮し)おお……頭領が仰った通りだ! 今宵、赤い月が昇れば、奴らは覚醒する!
千代 どうしたの……眞魚? 志乃? その異能は……!
眞魚 (エネルギーがみなぎっている様子で)今夜は調子がいいぞ! 強力な力が体中にみなぎってくる!
(目をギラつかせて、敵をバッサバッサと斬り殺す)どうした、かかってこい!
志乃 きゃははは! 私も体が軽い! どこまでも追いかけるわよ!(逃げ惑う男をしつこく追いかけ、追い詰める。降参しようとしている相手を強力な松風で惨殺)
千代 二人とも……おかしいわよ……いくら敵だからって……まるで楽しむように殺すなんて!
眞魚 うるせぇ! こいつらは師匠を殺そうとしているんだ、容赦はしねぇ。
志乃 そうよ千代ちゃん、どのみち殺す相手なんだから。情けをかけても無駄無駄。
千代 でも、許しを乞おうとしている相手にまで!
眞魚 なんだぁ? てめぇだって、ついさっきまで殺してたじゃねぇか。聖女ぶるな、偽善者!
千代、核心をつかれ黙り込む。寛太郎が眞魚におどりかかる。
千代 寛太郎!
寛太郎 千代さんを侮辱するな! 結界……飛翔!(展開した結界から無数の光線が浮かび上がり、千代以外の者たちを襲う)
眞魚 (光線をよけながら)俺に歯向かいやがったな、小僧。結界を張るしか能がないと思っていたが、そんな力を隠し持っていたか。
寛太郎 (嘲笑するように)今までは、力を溜め込んでいたまで。すべての源は、この赤い月の力ですよ!
寛太郎と眞魚、志乃と赫影会の数名が、異能と剣技で乱闘。
千代 みんな、いい加減にしなさい! もう、全員、やめて頂戴……。(ハッとして赫影会Aに刀を向け)あなたたちの仕業ね。三人を元に戻しなさい。
赫影会A (不敵な笑みを浮かべ)人聞きの悪い。まるで我々が洗脳したかのような言い方だな。すべて、あの者たちの内部に巣くっていた闇が、赤い月によって目覚めたまでのこと。むしろ今までの奴らは、本来の奴らではなかった。これこそが真の姿だ。
千代 ふざけないで! 三人はあんな残虐な人たちじゃないわ!
千代が時間遅延を使う。赫影会Aは素早くよけ、刀から光線を発射。
千代は刀で跳ね返し、その後、剣技で激しく戦闘をつづける──。
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