戯曲『緋色の桔梗』兄を殺した男の名は:細川ガラシャと父・明智光秀の輪廻転生ファンタジー3
【輪廻しないはずの彼女の魂は、なぜ地上によみがえったのか──罪と赦しのファンタジー】

イラスト:夏乃まつり様
🔹前回までのあらすじ
明治20年(1887年)・京都。
八木道場に通う少女・坂井千代は、人知れず犯罪者を成敗する“異能の剣士”だった。
人を殺すことへの罪の意識に苛まれ、すがるように教会へ通う日々、彼女が見始めたのは炎の中で殺される夢──
それは、戦国武将・明智光秀の娘のキリシタン・細川ガラシャの記憶らしい。
その頃、秘密結社・赫影会は、千代のような、歴史上の偉人の記憶を持つ異能者を取り込もうと目論んでいた。
兄を赫影会の頭領に殺された千代。道場の仲間たちとともに、夜の竹林で赫影会との戦闘に臨む。
※残酷描写あり
第二幕第二場:竹林での邂逅
夜間、竹林の外れ。
霧が立ち込める中、千代、志乃、 眞魚、寛太郎が進む。
夜空には緋色──赤く光る妖しげな月。
眞魚 ちっ、どこへ行きやがった。
寛太郎 先生のおっしゃる通り、深追いは禁物……。しかし、千代さんについて聞かれた以上、逃がすわけには!
志乃 でも静かすぎない?
千代 しっ、来る!
突如、木の影から赫影会の下級会員たちが現れる。
戦闘開始。
寛太郎 くっ、数が多い……!
志乃 やるしかない!
全員が刀で応戦。
しかし敵は千代を集中的に狙い、仲間と引き離していく。
千代、やがて孤立。
複数の赫影会に囲まれる。
時間遅延の異能も使うが、敵が影のように次々現れる。
千代 (息を切らしながら)きりがない……でも、こんなところで、死んだりはしない……!
赫影会が斬りかかろうとした瞬間、舞台奥・影の中から一閃。
赫影会が斬られる。
千代 え……?
重低音。
現れる黒装束の男──月岡聡十。
胸元に旗印の月のバッジ、腰に小さな巾着。
木々の葉を震わせるほどの威圧感。
背景に赤い月が煌々と光る。
下級会員たちに動揺が走り、次の瞬間、彼らの動きはピタリと止まる。
その後、スローモーションで悶え出し、血飛沫が出る音と同時に全員が倒れる。
千代、何が起きたかわからず、腰を抜かした姿勢で、呆然と男を見つめる。
聡十 (圧倒するような低音だが、静けさのある声で)立て。貴様は易々と死ぬ器ではない。
千代 あなたは……? 胸に、赤い月の印……赫影会なのに、なぜ……。
聡十 (重く)ようやく……出会えた……お前を、死なせるわけにはいかない。
千代、胸に何かが去来するが、それが何かわからない。
千代 あなたは……誰……?
聡十 知る必要はない。(去ろうとする)
千代 待って、あなたは……!
聡十 (ふと立ち止まり)……柿本牧師……。
千代 (動揺)なぜ! あなたが柿本牧師を知っているの? 牧師様に何を……。
聡十 柿本牧師の書斎へ行け。そこにある書物を片っ端から調べろ。そこでお前は、お前自身に気づくだろう。
霧に紛れ聡十退場。
千代、一人呆然と佇み、場面転換。
第二幕第三場:兄を殺した男の名は
八木道場入口の手前で千代が立ち止まる。
千代 なぜ、助けたの……。まるで月の影から生まれたような気配……あの男は──。
仲間三人も戻ってきて、八木が道場から出てくる。
八木 おぉ、皆、無事か……。
眞魚 赫影会の奴らは殲滅したので、ここでの話は聞かれていないでしょう。
寛太郎 千代さんも無事でよかった。あれほど取り囲まれていたのに、お一人で始末するなんて、本当に強い方です。
千代 いえ、あれは……。
志乃 だけどさ、本当に、赤い月が出るのねぇ。今まで気にしていなかっただけかしら。あいつらの気配が今までで一番濃くて、しかも、月が真っ赤で、クラクラしてきたわぁ。
寛太郎 なんだか、僕もぼんやり、自分の中の何かがひっくり返るような、気持ちの悪い感覚……。
眞魚 俺も今日は気分が悪い。柄にもなく、目眩やら幻覚やらが出そうだから、そろそろ休ませてもらうぜ。
八木 (目を伏せ、つぶやく)奴らは、お前たちの過去を探っている。お前たちの内面をかき乱してな。
志乃 よくわからないけど、今日は寝室を貸してくださいな。
八木 よかろう。皆、もう休め。
志乃、眞魚、寛太郎、口々に師範へ挨拶しながら退場。
千代だけが残る。
八木 ……何を見た。
千代 男でした。……私以外の使い手は初めて見ましたが、時間遅延の異能を使いました。
八木の目が鋭く光る。
八木 気配は。
千代 巌をくだる滝のような威圧感。(半ば独り言のように小声で)でも、なぜか殺気は感じなかった……。
八木 間違いない。その男は第六天魔王・織田信長の転生者と謳われる、赫影会の頭領。お前の兄が殺される直前、正体を追っていた男……月岡聡十。
千代 (青ざめ)あれが……! (嚙みしめるように)月岡聡十……。
八木、物思いに沈む千代の背中をさすりつつ、二人で退場。
場面転換する間、徐々に夜が明けるように、全体が明るくなっていく。
次回第4話「少女の決意」はこちら
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連載中の戯曲『緋色の桔梗』は推敲を経て、書籍化・文学フリマ販売を目指しています。サポートは制作費に使わせていただきます!※何らかの形で上演をする場合はご一報ください。