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其ノ五「昔は嫌いだった人を、少しだけ理解できるようになりました」他四通

皆様、御機嫌如何です。

「時代違いの相談室」では、
少し昔の相談員に、
今の悩みを読んでもらっています。

時代が違えば、
言葉の重さも、
不安の置き方も、
少し変わるようです。

本日は、

「昔は嫌いだった人を、少しだけ理解できるようになりました」

他四通にお答へ致します。

それでは、開室いたします。


一通目
「昔は嫌いだった人を、少しだけ理解できるようになりました」

(ペンネーム)二杯目の珈琲 40代 男性 
配送業

相談

若い頃、とても苦手だった先輩がいました。

細かいことに厳しく、何でも先回りして注意する人で、当時は一緒にいるだけで疲れていました。

最近、自分が後輩を見る立場になって、あの人が言っていたことを時々思い出します。

今でも好きだったとは思いません。

でも、以前より少しだけ理解できる気がします。

人は年を取ると、嫌いだった人まで理解できるようになるのでしょうか。

回答

年を取ったからと申すより、あなたの立つ場所が変はったのでせう。

若い頃には、注意される側からしか見えなかった。

今は、誰かに注意をする側の面倒まで少し見えるようになった。

人は、自分が同じ場所へ立って初めて分かることがあります。

だからといって、昔の相手がすべて正しかったことにはなりません。

嫌だったものは、嫌だったので宜しい。

理解とは、過去を書き換へて相手を善人にすることではありません。

「あの人にも、あの人なりの事情があったのかもしれぬ」

と考へられる場所が一つ増えることです。

人間は、好きになった相手だけから学ぶものではありません。

時には、二度と会ひたくないと思った人から、何年も後になって受け取るものもあるのであります。
(作家・文士)

やわらか返信室より

昔の職場で言われたことを、自分が後輩に言いかけて驚くことがあります。

「あの人と同じことを言ってるな」と気づいて、少しだけ声を弱める。

理解するというのは、仲直りとは違うところで起きることもあるようです。

二通目
「長いLINEが届くと、読む前から少し疲れてしまいます」

(ペンネーム)雨の日の充電器 20代 女性 大学院生

相談

友人から長いLINEが届くと、読む前から少し気が重くなることがあります。

大事な話だと思うので、きちんと読みたい気持ちはあります。

でも画面いっぱいに文章が続いていると、「ちゃんと返さなきゃ」と思って、開くのを後回しにしてしまいます。

友人を面倒だと思っているのでしょうか。

回答

友人が面倒なのか、長い文を受け取った時の負担が面倒なのか。

先づ、その二つを分けて考へることです。

今は、小さな板の上へ長い手紙が突然現れ、それを何処に居ても読めるのでせう。

便利ではありますが、読む側の神経には「今すぐ向き合はねばならぬ」と感じさせることもあるやもしれません。

疲れてゐる時に重い話を受け取れば、読むのをためらふことくらゐあります。

それだけで友人への愛情を疑ふ必要はありません。

ただし、何日も放っておけば、今度は別の負担になります。

「今日はゆっくり読めないから、あとで返すね」

それだけ先に伝へてもよい。

心の余裕にも、時刻があります。

いつでも同じだけ親身であらうとして、自分を疲らせぬことです。
(医師)

やわらか返信室より

通知を開いて、思ったより文章が長いと、一度そっと閉じることがあります。

嫌なわけではない。

むしろ雑に読みたくないから、少し後にしたい。

大事に読みたい気持ちと、今は読めない気持ちは、同時にあることがあります。

三通目
「外では愛想よくできるのに、家族には雑になってしまいます」

(ペンネーム)玄関のスリッパ 50代 女性 介護職

相談

仕事では、できるだけ感じよく人と接するようにしています。

多少嫌なことがあっても、笑顔で返せます。

でも家に帰ると、夫や子どもには返事が雑になったり、少しのことで不機嫌になったりします。

一番身近な人に、一番気を遣えていない気がします。

回答

家とは、気を抜ける場所でもありますから、外と同じ顔で一日中暮らす必要はありません。

然し、

「家族だから分かってくれる」

を便利に使ひ過ぎますと、家の者だけがあなたの疲れを引き受けることになります。

外で使ひ切った愛想を、全部持ち帰れとは申しません。

せめて、

「今日は少し疲れてゐる」

と一言申すだけでも違ひます。

不機嫌を説明せず相手に読ませるより、その方がずっと親切です。

家族とは、遠慮の要らぬ相手ではありません。

多少の遠慮を失くしても続いてゆけるほど近い相手、と考へた方が宜しいでせう。

親しい者への礼儀は、立派な言葉より、雑に扱はぬことから始まるのであります。
(婦人記者)

やわらか返信室より

外では「ありがとうございます」と言えるのに、家では「そこ置いといて」で終わる日があります。

近い人ほど、説明を省いても伝わると思ってしまう。

たぶん家族は、いちばん言葉を省略されやすい相手でもあります。

四通目
「人の遅刻には腹が立つのに、自分が遅れる時には事情があると思ってしまいます」

(ペンネーム)五分前の腕時計 30代 男性 会社役員

相談

待ち合わせで人が遅れてくると、かなり腹が立ちます。

「時間くらい守ってほしい」と思います。

でも自分が遅れる時は、電車が遅れたとか、仕事が長引いたとか、「今日は仕方なかった」と考えてしまいます。

最近、この差は少し勝手ではないかと思うようになりました。

回答

少しどころではありません。

大変都合のよい裁判官でありますな。

他人が遅れれば「時間を守れ」。

自分が遅れれば「事情があった」。

それでは規則ではなく、あなたの機嫌であります。

勿論、遅刻には事情もあるでせう。

ならば、他人にも同じだけ事情がある可能性を認めねばなりません。

自分には事情を認め、他人には結果だけを見せる。

人はこの不公平を、実に自然にやります。

だからこそ分別が要るのです。

時間を大事にしたいなら、まず自分が守る。

守れなかった日は、事情を並べる前に詫びる。

そして他人が遅れた時には、自分が一度も遅れたことのない人間の顔をしないことです。

人に求める基準は、自分にも適用出来るものだけにしなさい。
(本欄記者)

やわらか返信室より

駅で待っている十分は長いのに、自分が走っている十分はあっという間です。

同じ十分でも、待つ側と待たせる側では随分違って見えます。

五通目
「注意されると、内容より言い方ばかり気になります」

(ペンネーム)二階の踊り場 20代 男性 
契約社員

相談

仕事で注意された時、相手の言っている内容が正しいと分かっていても、「そんな言い方をしなくても」と思ってしまいます。

家に帰ってからも、注意された内容より、その人の言い方ばかり思い出します。

自分でも、そこに逃げているような気がする時があります。

回答

その通り。

あなたは逃げてゐます。

相手の言ひ方が悪かった。

態度が気に入らなかった。

声が強かった。

それらを十並べたところで、指摘された事実は一つも消えません。

内容が間違ってゐるなら、筋道を立てて反論すれば宜しい。

内容が正しいなら、先づ直しなさい。

話はそれからです。

人間は、自分に不都合なことを言はれると、内容ではなく言ひ方を裁きたくなる。

その方が、自分を改めずに済みますからな。

無礼な物言ひまで我慢せよとは申しません。

然し、相手の無礼と自分の未熟を交換条件にしてはならない。

相手が悪ければ、自分は直さなくてもよいのですか。

そんな理屈では、一生、成長の機会を他人の態度に預けることになります。

注意の中から使へるものを拾ひ、自分の欠点を直す。

言ひ方への不満は、その後で処理しなさい。

人に教へられる時まで、自分の気分を最優先する者は、いつまで経っても同じところで躓きます。
(教授・教育者)

やわらか返信室より

注意された日の夜は、内容より語尾の方をよく覚えていることがあります。

「そこまで言わなくても」が頭の中に残って、本当に直すところが後ろへ行く。

悔しさと反省は、同じ日にきれいに並んではくれません。

個人的に思うこと


昔の自分が書いたメモを見つけて、「今ならこんな書き方はしないな」と思うことがあります。

その時は、その時なりに真剣だったはずです。

昔の自分を笑えるようになった時、少しだけ時間が進んだことに気づきます。


別の相談も届いております。


📖人付き合いの中で、少し気になった言葉の話


📰やわらか返信室が見つけた、小さな人間観察の記録


🌙暮らしの途中で、ふと立ち止まった日の話


📮昔の相談員が、現代の悩みに答える話


筆者紹介

宜しければ、そちらもお読みください。

思い当たることが、一つくらいあるやもしれません。

閉室前にひとこと


昔と今では、
言葉の形も、
人との距離も、
随分変わったようです。

それでも、
自分のことだけは少し都合よく見てしまうところは、
昔も今も、あまり変わらないのかもしれません。

それでは、本日はこの辺で。

また次回、開室いたします。

皆様、御機嫌よう。

では失禮致します。


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