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万葉吃草|里山暮らしの研究室

 第二の執筆拠点『里山文庫』滞在中、個人的な興味に基づく里山暮らし研究の一環として野草も採取して食材とした。これは万葉集の歌に読まれた事物、その中でも当時の人の目に留まった野草を暮らしの中に取り入れてみようという試みである。

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 それは特別なもの、希少なものの探索ではない。
 今も昔も、人の暮らしのそばに変わらず生えている、ありきたりで身近な植物に目を向けるということだ。

暮らしの環境「今と未来のまほろば」を探求する

 『里山文庫』は倭建命ヤマトタケルノミコトが「大和は国のまほろば(住みやすい最高の理想郷)」と称した故郷(現代における奈良県桜井市・巻向まきむく周辺)のほど近く、桜井と奈良をつなぐ古道『山の辺の道』の道中にある。

「重なりあった青い垣根の山、その中にこもっている大和は、美しい」

 倭建命ヤマトタケルノミコトがそのように詠い伝える古代奈良の環境を想像しながら、現代のこの地域での暮らしを体験するにはもってこいである。

 ただし想像以上の猛暑日だったので、野外へ繰り出すのはやめて、今回は敷地内に生えていたものを少しだけ採取させていただくに留めた。

野草食関連の書籍も市販されていますが、あくまで予習用として初めは有識者に習って採取〜調理を経験してみた方が良いです)

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万葉集にも登場する庭草

 今回庭で採取した野草は2種。
 野の環境ではないし、季節的にもそんなものである。
 ただ暑い中を買い物に出かけるのも面倒なので、これでヨシとした。

(左)ツユクサ (右)スベリヒユ

 ツユクサとスベリヒユは、いずれも万葉集に登場する植物。つまり今も昔も、人の暮らしのそばに変わらず生えている身近な植物ということだ。


 ツユクサは以下のような性質から、移ろいやすい人の心や、儚い命の比喩として詠まれたとされる。

  • 朝咲いて昼には萎む(月草つきくさ鴨頭草つきくさと呼ばれていた)

  • 月草で染めた縹色はなだいろの着物は水で色落ちしやすい

月草に 衣そ染むる 君がため まだらの衣 らむと思ひて
【現代語訳】
月草で衣を染めます。あなたのために色どり美しい衣を摺ろうと思って。

巻7-1255、作者未詳
万葉百科 奈良県立万葉文化館
 

 こうしてあらためて眺めてみると、論理(科学)的な観察を「言葉のアヤ(人の心情を吐露する文学表現)」に昇華していたのだなと感心する。


 スベリヒユは多肉質なその身に水分を蓄え、荒地でも旺盛に繁殖する。暑さにも強く、引き抜いて放置しても生き残り、そこから新たに増殖もする。いわゆる多肉植物の性質そのものである。

 茹でるとぬめりが出る性質があり、山形県などでは「ひょう」と呼ばれ、食用とされる。また生葉のしぼり汁は虫刺されの痒み止めに良いらしい。

 万葉集では「いはゐつら(いわい蔓)」という名で登場する。鳥取県などでスベリヒユのことを「いはいづる」と呼ぶ方言があることを根拠として、万葉集の歌に登場する「いはゐつら(いわい蔓)」もスベリヒユであろうと考えるのが定説らしい。
 ただし他にもジュンサイ説や、ミズハコベ説などもあるのだとか。

入間道いりまぢの 大屋が原の いはゐつら 引かばぬるぬる にな絶えそね
【現代語訳】
入間路にある大家が原のいわい蔓の、つるを引けばぬるぬる続くように、私との仲を絶やすな。

巻14-3378、作者未詳
万葉百科 奈良県立万葉文化館

 この「ぬるぬる」という表現がスベリヒユのぬめりを指すとも考えられるが、個人的には「つるを引けば」のあたりがイマイチピンときていない。


採取しながら食養生についてゆるく考えてみる

 いずれも先端部分のみを摘み取った。
 ツユクサは見るからに少し固そうである。本当なら花が咲く前くらいに採取したいところだが少し時期が遅いし、梅雨明け以降ほとんど雨が降っていない。この暑さじゃあ、ツユクサだって乾燥に耐える為に身を堅くする必要があるだろう。

 恐らく少し筋っぽいだろうけれど、そこはまあ冒険ということで。

庭のスベリヒユ

 この暑さこそが好きなスベリヒユは旺盛に枝葉を伸ばしていた。
 その季節にぐんぐん成長するのは、その環境に耐えうる力があるということだ。だから人間がその季節を生き抜くためにも、基本的にはその時期に元気な旬の植物を喰うのは理に適っていると考えている。

 例えば、夏は水分の多いきゅうりや茄子、葉物野菜で身体を冷まし、冬は糖質や繊維を蓄えた根菜を中心に身体を温める。もの凄くざっくりとした食養生の感覚ではあるが、私は専門家ではないので、その程度の認識である。

 そうして採取したツユクサとスベリヒユに、自宅の庭で収穫し持参したファースト・ゴーヤを加え、滞在中の食材に含めた。

 そしてこれら三種の旬を高知県で入手した「土佐あかうしの肉味噌」と和えることにした。

土佐あかうしの肉味噌とファースト・ゴーヤ

下処理と調理

 地に対して垂直に生えるツユクサに対し、スベリヒユは地を這うように水平方向に伸びてゆく。地面に近いところにあるものを採取するので、よく洗うことが肝心だ。

 ボウルの中で流水に晒して両者をザブザブと洗った。
 そうして虫や土埃を除いたら、さっと湯掻いて水に晒す。スベリヒユはシュウ酸を含むので、この工程でアク抜きをする。
 いずれもあまり長く熱に晒すとせっかくの食感が損なわれてしまうが、今回採取したツユクサは見た目・手触りからして固そうな印象を受けたので、気持ち長めに湯掻いておいた。

 ゴーヤの苦味が苦手な場合は塩で揉んだり、水に晒したりすると良いと聞くが、私はむしろこの苦味が好きだし、五味の中でも酸味と苦味は現代人の食事に不足しがちと言われるので、積極的に取り入れたい。
 よく洗って、中のワタと種だけ除いた。 

 ちなみにゴーヤが日本に伝来したのは江戸時代初期とされ、野の草ではなく日本の中世の頃から食されてきた栽培品目の一つである。
 万葉集の時代には存在しなかったので、当然歌にも詠まれていない。

ツユクサは一部チーズオムレツに加えた

 ツユクサ、スベリヒユ(野草2種)とゴーヤ(野菜1種)は、いずれも胡麻油で軽く炒め、件の肉味噌を絡めた。

実食とアレンジ

 まあゴーヤは普通に美味い。
 そしてスベリヒユとツユクサもクセはない。

 スベリヒユは水に晒した後の絞りが少し甘かったのか、元々多肉質で水分を多く抱えていることもあり少し水っぽくなってしまった。そして加熱しすぎたのか、食感という食感もほとんどない。
 湯掻く時間を短めにして、水晒しを長く、そして炒める時間は最小限にするのが良さそうだ。

(左)スベリヒユ (右)ツユクサ (下)ゴーヤ

 そして問題のツユクサは、想像の通り固かった。
 だが噛みきれない、飲み下せないような代物ではなく、「よく噛んで食べなさい」という食育にちょうど良いかもしれない。そういうものだと思って食べればこんなものかと思う程度だった。
 いずれにせよ、採取適期は梅雨のような潤った頃として、いかにも瑞々しい葉を採取するのが好ましい。

 万葉集の歌に表現されるような心情(言葉のアヤ)も、へったくれもないが致し方ない。

もう少し肉味噌味があっても良いかも

 これらはご飯のお供にしたり、そうめんに乗せたりしても良い。余りご飯にでも混ぜておにぎりにすれば、フィールドワークや山の辺の道を歩く時のお昼ご飯にも良さそうだ。

一枚板のテーブルで寛ぐランチタイム

 食事はキッチンに設置されたダイニングテーブルで食べても良いし、座敷の共用部を利用しても良い。私はLEDライトが煌々と照る空間よりも、適度に陽の光が遮られたほんのり明るい空間の方が落ち着くタチである。

大きな一枚板のテーブルの間からも庭園が見える

 その点、一枚板のテーブルが設置された北側の部屋は程よい。
 のんびり過ごしたい時は、土間を渡ってこちらに食事を運んできて食べたりもした。

ある日の昼食
(玄米入り香り米、カツオのトマトソースonツユクサのチーズオムレツ、肉味噌ゴーヤ、烏龍茶)

 向こうに床の間が見える隣室は宿泊用の個室だが、人が居ない時は襖も開け放たれ風通しが良い。



 連携アカウント『生駒谷のポロ』では、自ら手入れしている半自然フィールドで採取した野草を試しています。

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