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「頭、撫でて」の意味を、私は知らなかった

息子が泣きながら眠ったあと、
私は、エダちゃんに電話をかけた。

「ちょっと相談に乗って。」

電話がつながると、
張っていたものが切れた。

「もしかしたら、私のせいなのかな。」
そんな言葉が、自然と口から出た。

小さい頃、私が体調を崩した時期があった。

「ママが死んじゃったらどうしよう。」

そんな思いをさせてしまったことも、
きっとあった。

「大人になったら、自分で働いて、ご飯を作って、洗濯もして、生きていくんだよ。」

「今のうちに力をつけておかないと、大変になるよ。」

そんな話も、何度もしてきた。

「大人になりたくない。」
「ママが死んだら、一人で生きていけない。」

そう泣く息子を見たら、
今まで私が話してきたことが、
この子の中で少しずつ積み重なって、
不安を大きくしてしまったんじゃないか。

そんな考えが頭から離れなかった。

エダちゃんは、黙って聞いてくれた。

そして静かに言った。

「学校ってことはないの?」

「え?」

「学校で何か聞いたとか。授業とか。」

その言葉で、ふと思い出した。

少し前、命について考える授業があった気がする。

将来のこと。

大人になること。

そういう話も、学校で聞いていたのかもしれない。

「それだったら……。」

思わずつぶやいた。
原因が私だけじゃないのかもしれない。

そう思えただけで、
胸の奥が少しだけ軽くなった。

すると、エダちゃんがもう一つ言った。

「かいちゃん、最近ちょっと顔、大きくなってない?」

「えっ?あ!太ったのかなって思ってた。」

「太ったんじゃなくて、むくんでるように思う。」

「ずっと緊張してると、そういうこともあるからね。」

その言葉で、また一つ思い出した。

その夜も、息子は言った。

「頭、撫でて。」

最初は、いつものように前から後ろへ撫でていた。

すると、

「違う。」

と止められた。

「つむじから、首の方。」

そう言って、自分で向きを直された。

「え、そこまで指定するの?」

思わず笑ってしまった。

面白いな、それくらいにしか思っていなかった。


エダちゃんは言った。

「その方向で合ってるよ。」

「頭の後ろから首の方へ流すように触れる方が、自律神経を整える時には落ち着きやすいことがあるの。」

「だから、かいちゃん、自分で一番楽になる撫で方を選んでたんじゃないかな。」

「えっ。」

思わず声が出た。

「そうだったの?」
「あの子、自分で落ち着く方法を探してたんだ。」

何度も「違う、こっち」と
撫で方を直してきた理由が、
そこで初めてつながった。

あれは、ただのこだわりじゃ
なかったのかもしれない。

自分でも理由の分からない苦しさの中で、
少しでも楽になれる方法を、
身体は知っていたのかもしれない。

そう思った瞬間、

「やっぱり、この子は相当ストレスを抱えていたんだ。」

初めて、その苦しさが現実のものとして
胸に落ちてきた。

電話を切ったあと、

明日は首からあごのあたりを、
少し優しくさすってあげようと思った。

原因は、まだ分からない。

でも、

私の過去を疑っていた視界が、
少しだけ広がった気がした。



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