『光の庭園 ~ののちゃんとゆかいな仲間たち~』かちんこちんの朝の章
【寒い寒い冬の朝。ののちゃんは窓の外を見て……】
「屋根からキラキラが生えてきたにゃん!」
【連載4回目】
ののちゃんはジャガーの子供。
いつでも元気いっぱいな女の子。
今日も光の庭園に建つお家の中で、仲良しのお友達と楽しく遊んでいます。
季節は冬。
毎日たくさんの雪が降り積もり、寒さもいつもとは全く違うものでした。
温かいお家で過ごしているののちゃんでしたが、その日はなかなかベッドから出られないほど、お部屋の中も冷え込んでいました。
実はその日、北風の使者がここ「光の庭園」に、特別な贈り物を届けるためにやって来たようです。
『なんで、こんなに寒いにゃん?』
『今日はもう、お外なんか行かないにゃん!』
【ベッドにもぐり込んだまま、丸くなってしまったののちゃん】

おやおや。
ぷく~っとほっぺを膨らませたののちゃん、今日は一日、ベッドの中から出る気は無さそうです。
でもね、ののちゃんはその時、大切な事を忘れていたのです。
今日が何の日だったのか。
それは──
ののちゃんの大切なお友達。
ちょこちゃんの、お誕生日だという事を……
そんな、ののちゃんの様子を見ていたアレーナさん。
ちょっとだけ光の魔法を使って、ののちゃんを助けてくれました。
『あらまぁ……ののちゃん、元気を出してね』
お部屋の中がもっとぽかぽか、温かくなって、ののちゃんもお目目ぱっちり、目が覚めたようでした。
「うにゃあ。お部屋の中がぽかぽかになってるにゃん!ののちゃん、このくらいの温かさが大好きにゃん」
寒さが苦手なののちゃん、ちょっと暑いくらいのお部屋の中で、元気が戻って来たようです。
「うにゃ~ん?窓の外……なんだかきらきらしてるにゃん?」
ベッドの中からやっと出てきたののちゃん、窓からお部屋の中に差し込んでくるきらきらに気が付き、急いで窓辺に駆け寄りました。
「うわぁ~!なにこれ~?きらきらして透き通った何かが、屋根から生えてきてるにゃん!」
それは、一晩で屋根に出来上がった「つらら」でした。
でも、どうやらののちゃんは、つららを知らなかったようですね。
「なんだかこのきらきら、ガラスで出来た大きな牙みたいにゃん!大きなトラさんでも隠れてるのかにゃ?それとも怪獣?」
ののちゃんは、窓の外できらきら光っているつららにびっくりして、思わずしりもちをついていました。
お日様の光が一瞬つららに当たると、その光はますます強い輝きを放って部屋の中で拡がりました。
ののちゃんは眩しくて思わず目を閉じました。
「うにゃ、眩しい!」
目を閉じて両手で抑えると、瞼の裏に浮かんで見えたのは、ちょこちゃんの姿でした。
「あらら?どうしてちょこちゃんの姿?」
ゆっくりと目を開けたののちゃんの視線は、お部屋の壁に掛けられた「カレンダー」に止っていました。
そこには「二月・うおのめの日」と書かれた箇所に、ちょこちゃんの絵が描かれていました。
「あ!」
それを見たののちゃんは……とっても大切な事を思い出したようでした。
「そうだ……この日は、ちょこちゃんのお誕生日にゃん!」
大切な事を思い出したののちゃんは、大急ぎで隣の部屋に駆け込みました。
「大変大変、大変にゃん!ちょこちゃんにプレゼント、用意しなくちゃダメにゃん」
部屋の隅にある箱の中を、一生懸命に探すののちゃん。
いったいその箱の中に何があるのでしょう?
「あれあれ、あれれ?確か、ここに入れておいたんだけどにゃあ?どこに行っちゃったんだろう」
どうやら、ちょこちゃんに渡すお誕生日プレゼントを、ののちゃんは用意してあったみたいです。
でも、それが見当たらなくなっちゃった。
どうしましょう?
「変だにゃぁ。この前お外できらきらを見つけたから、お家に持って帰って、ちょこちゃんのお誕生日に上げようと思ったんだけど、消えちゃったにゃん!」
ふむふむ。
なぁるほどね。
ののちゃんはどうやら、外で見つけた「つらら」をお誕生日のプレゼントにしようと思って、お家に持ち帰ってしまったようです。
でもね。
つららは、お部屋の中ではきらきらでは無くなってしまうんです。
とけて消えてしまうものなの。
「にゃるほど。お部屋の中に置いてあったから溶けちゃったんだにゃん、それならあのつららを取って、急いでちょこちゃんに渡すにゃん!」
そう言うとののちゃんは、手早く上着を羽織って家の外へと飛び出していきました。

確かに、つららはきらきらと輝いていて美しいのですが……
屋根の縁からぶら下がっているつららを取る事って、とても危険な事なんですよ。
屋根の上には、これまでに降って来た雪が、沢山積もっているんです。
軒下に近づいた瞬間、その雪が流れ落ちてくることだってあるんですよ。
ののちゃんはそれを知らずに、嬉しそうに軒下のつららに手を出そうとしていました。
「うわぁ~、おっきいにゃん!しかもきらっきらにゃん!これは素敵なプレゼントになるにゃ~ん!」
屋根の上に積もった雪に気づかず、ののちゃんはつららを取ろうとして、軒下に近づこうとしています!
あぶない!
その時──アレーナさんがそっと、救いの手を差し伸べてくれました。
『ののちゃ~ん、こっちだよ!』
「えっ?えっ?この声はちょこちゃん?どこにいるにゃん?」
どこからともなくちょこちゃんの声が聞こえてきて、ののちゃんはその場に立ち止まってあたりをきょろきょろ。
その時でした。
ざ、ざ、ざ……どすん!
お家の屋根に積もった沢山の雪が、お日様に温められたせいで、全て地面に落ちてしまったのでした。
きらきらと輝いていたつららも、もう軒下から無くなっていました。
「ああー!つ、つららが、プレゼントしようと思っていたつららが!」
地面に落ちて、雪に埋まってしまったつららを見て、ののちゃんの目には光るものがありました。
でも、ののちゃんが無事で本当に良かった。
光の庭園の管理人、電脳精霊のアレーナさんも、ほっと胸をなでおろしていました。
ののちゃん、本当に危ないところでした。
もしもののちゃんが、もう少し軒下に近づいていたら……
※良い子の皆さん、窓に綺麗なつららがあっても、絶対に近づかないようにしましょうね。
アレーナさんとの、約束ですよ。
「残念だけど……でも、ののが埋まってしまったら、あのつららも役に立たなくなるんだにゃん。仕方がないにゃん。それなら別なものをプレゼントするんだにゃん!」
ののちゃんはそう言って気を取り直すと、他に何かないかと考えました。
それでしばらく考えていると、自慢のおひげがピピン!と弾けました。
「そうだ!鏡の池には、ちょこちゃんの大好きなお魚が、たぁ~っくさんいるはずにゃん!あれを捕まえてプレゼントするにゃん」
今度は必ず上手くいく、そう考えたののちゃんは、家の前の物置から様々な道具を取り出し、それを持って池に急いで向かったのでした。
鏡の池に着くと、まさに鏡のようにきらきらと輝く氷に覆われた池が、ののちゃんの目の前に広がっていました。
「あららのら~?これは、ど、どうしよう?池がかちんこちんになっていて、これじゃあお魚が釣れないにゃん!」
ののちゃんは池のほとりにしゃがみ込むと、氷の張っている池の中を覗き込みました。
「あれあれあれれれ!お、お魚が……氷の中でかちんこちんになってるにゃん!うにゃ?そうだ!このまま凍ったお魚を持ち帰れば、プレゼントになるにゃん」
ののちゃんが覗き込んだ池の中で、お魚が氷漬けになっていたのです。
北風の使者が、ちょっとやり過ぎてしまったようです。
でも、ののちゃんはその魚が閉じ込められた氷を何とか手に入れようと、スコップを片手に凍った池の上に足を踏み入れたのです。
ぴしっ、ぴしっ。
踏みしめる氷の軋む音が、あたりに響きます。
「だ、だめよ!ののちゃん、危ないわ!」
ののちゃんが気になって、後を追って来たアレーナさんはびっくりです。
そして、急いで魔法を唱えました。

ふわふわ……ふわり。
優しい風が光を纏いながら、ののちゃんの身体を持ち上げ、そっと岸辺に下ろします。
それと同時に──
がしゃん!
池の氷が音を立てて割れてしまいました。
氷に閉じ込められていた大きな魚は、氷が割れて池の深いところに泳ぎ去っていきました。
「ああー、お魚が!プレゼントのお魚、逃げちゃった……」
水底に消えていったお魚を見ながら、ののちゃんはしょんぼり。
瞳をうるうるさせながら、すっかりうなだれてしまいました。
「これじゃあ、ちょこちゃんにプレゼントをあげられないにゃん!ちょこちゃん、きっとがっかりするにゃん……」
ののちゃんが見つめる池の先は、薄い氷が張っていてお日様の光を受けてきらきらと輝いていました。
その様子を見ていたののちゃん、ふと心の中で何かぷかぷかと浮き上がってくるのを感じました。
「わぁ、なんだか心の奥がほわほわするにゃん。これはなに?ちょこちゃんのにこにこする姿が見えてくるにゃ……」
ののちゃんが再び池の向こうに目を向けたとき、池の氷のきらきらの上に、ちょこちゃんが嬉しそうに微笑む姿が、ふわぁっと浮かび上がりました。
「あれれ?ちょこちゃん、どうしてそんなに嬉しそうにゃん?ののは、まだ何もプレゼントしてないにゃん」
光の中でニコニコしながら、喜びでいっぱいのちょこちゃん。
その姿を見て、ののちゃんのお目目が丸くなったのでした。
そして──
ののちゃんは一生懸命に、ちょこちゃんがなぜ嬉しくなったのかを考えてみました。
「ののは、つららもお魚も手に入れられなかったにゃん……なのになぜ?」
ののちゃんは、首を大きく傾けて考えました。
理由がわからず、だんだん心の波がざわざわしはじめます。
(あらあら。これはそろそろ、答え合わせの時間が来たようね)
少し離れた空の上からののちゃんを見守っていた精霊のアレーナさん。
ののちゃんの側にそっと寄り添うと、小さな声で囁きました。
『ののちゃんは、ちょこちゃんからプレゼントを貰った時、どんな気持ちになるかしら?』
「うにゃあ……それは、嬉しくてにっこにこになっちゃうにゃん!」
嬉しそうに話すののちゃんも、いつの間にか笑顔になっていました。
『それならね──いま、ののちゃんが嬉しくなったのはなぜかしら?』
アレーナさんは続けて優しく語りかけました。
「えっと……ちょこちゃんが嬉しそうににこにこしてたから!」
ののちゃんの笑顔は、まるでお日様のようにきらきらとしていました。
『そうね。ののちゃんはちょこちゃんの笑顔が見たかったのね。でもね、それはちょこちゃんも同じなの。ののちゃんがいつも元気でいて、ちょこちゃん仲よくしてあげるのが一番の贈り物なのよ』
ののちゃんはアレーナさんの言葉を静かに聞いていましたが、やがて何かに気づいたようでした。
ぴょん!と、その場に立ち上がると小さく呟きました。
「のの、いま大事なことが分かったにゃん!ちょこちゃんにあげたいものが何なのか、ちゃんとわかったんだにゃん!」
瞳をきらきらさせて、ののちゃんは走り始めました。
ちょこちゃんが待つお家に向かって、ののちゃんはわくわくした気持ちを胸に走りました。
どこにもないけど、誰もが持っている”最高の贈り物”を届けるために……。
鏡の池からちょこちゃんのお家までの道を、懸命に走るののちゃん。
その身体からは、きらきらした光の粒が飛び散り、白い息があたりに広がります。
やがて家の前までたどり着くと……そこには雪だるまを作って遊ぶちょこちゃんの姿がありました。
「ちょこちゃぁーーん!」
ののちゃんは声を張り上げて、ちょこちゃんの名前を呼びました。
「あらまぁ、ののちゃん。ごきげんようなのぺん」
息を切らせながら走ってくるののちゃんを、不思議そうに見つめるちょこちゃん。
ちょこちゃんの側に駆け寄ったののちゃんは、ちょこちゃんに抱き付くと、耳元でそっと囁いたのでした。

「ちょこちゃん、お誕生日おめでとうにゃん!ののはこれからも、ずーーっと友達だにゃん!」
ののちゃんに抱き付かれたちょこちゃんは、心の中にふんわりと、優しさが流れ込んでくるのを感じました。
そしてぽかぽかと温かく、まるで春の日差しに包まれたような気持ちになりました。
「ありがとう、ののちゃん。どんなプレゼントよりも嬉しいぺん。ののちゃんの気持ちが一番うれしいぺん」
ちょこちゃんはちょっと照れ臭そうな様子でしたが、にこっと笑顔になって、ののちゃんの手をしっかりと握りしめました。
(うふふ。何とかうまく行ったみたいね。良かったわ)
その様子を見たアレーナさんも、ほっとした様子です。
二匹の周囲にきらきらした、祝福の光の粒を振りまきました。
その後──
北風の使者がやって来てそっと呟きました。
「うむ。どうやら、大切なものが何なのかが解ったようじゃな。わしの役目はほぼ終わりのようじゃ。後片付けをして帰るとするか……」
北風の使者が、ぴゅーっとひと吹きすると、ののちゃんとちょこちゃんの心の中からもやもやとした”おり”が消え去っていきました。
さらにあたりの湿った空気の中から、美しいダイヤモンドダストが周囲に煌めきながら現れたのです。
「あ?ちょこちゃん、みてみて!」
「うわぁ~、すごい、きれいだね!」
きらきらした輝きを、二匹は仲良く手を繋いで、いつまでも見つめているのでした。
(おしまい)
『作者の呟き』
フォロワー、そして読者の皆さん。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
今回の「光の庭園・かちんこちんの朝の章」は、
公開までに少し時間が空いてしまいましたが、
こうして無事にお届けできて、ほっとしています。
日々の生活や家族のことで慌ただしい時期もあり、
なかなか執筆に向き合えない日もありました。
それでも、待っていてくださる読者さんや、
いつも応援してくださるフォロワーさんの存在が、
私の背中をそっと押してくれました。
本当にありがとうございます。
ののちゃんとちょこちゃんの小さな冬の物語が、
あなたの心にも、
ほんの少しでも温かさを届けられたなら嬉しいです。
次の章も、ゆっくりですが準備を進めています。
これからもののちゃん達の冒険を、
どうぞ見守ってくださいね。
それではまた、ののちゃん達に逢いに来てくださいね!
次回もよろしくお願いします。
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