見出し画像

白滝童子の化け物退治珍道中、二の巻

【前回のあらすじ】

玉尊帝ぎょくそんていの御代、文化爛熟の都を離れ、白滝童子は旅仲間の白拍子・魔府院まふいんと共に感東・武蔵ヶ原へと旅立つ。
その地にて出会ったのは、腐れ蜜柑とただれあんころ──食べられなかった恨みを抱え、怪異と化した菓子たちであった。
童子は式札を操り、魔府院は舞で結界を張る。
二匹は、怪異の放つ腐臭と怨念に立ち向かい、五芒術式ごぼうじゅつしき光華浄爆こうかじょうばく」にて浄化を果たす。
戦いの果て、残された器には「し」の御印おしるしが刻まれていた。
それは、四十七の御印を集める旅の第一歩──
「幸せは、一本の白滝から始まるでござる……ぺん」
こうして二匹は、次なる土地へと風のままに旅を続けるのであった。
……前回の物語(一の巻)はこちら

【主な登場人物】

🦊千年稲荷(せんねんいなり)
日乃本国・感東地方に鎮座する瑞宝堂ずいほうどうの巫女。白滝童子の師匠。
神託を授ける霊的存在で、口癖は「あーれーまー、なんですとー!」
童子を送り出したあとは、旅の成就を見守っている。
🐣白滝童子(しらたきどうじ)
式札を操る陰陽師見習い。語尾に「ぺん」をつける癖あり。
日乃本四十七の地を巡り、「いろはの御印」を集める使命を帯びる。
実はかなづちで泳げない。
💃白拍子・魔府院(まふいん)
性別不詳の艶やかな舞い手。オネエ口調で華やかに祓いを舞う。
「野暮ねぇ、そんなもんどっちでもいいのよぉ!」が口癖。
シマウマのくせに縞がない。白黒つけるのが嫌い。

めいんきゃらくたーだぺん

『次なる国にてダサい臭いを払って候』

 武蔵ヶ原の化け物騒動を解決した、白滝童子と白拍子・魔府院まふいんは、次なる目的地へと旅立った。
 向かった先は感東かんとうの北、祭珠の国さいたまのくに

 洗練された洒落者しゃれものが集う、感東きっての服飾の街と言われている。
 更に、肥沃な土地柄を生かして、新鮮な食材が栽培されている土地でもあった。

 そのような話を聞いて、祭珠の宿場町に足を踏み入れた二匹であったが……

 広々とした通りには、猫の子一匹見当たらない。

 ひゅうう~。

 寒風が吹き抜けた。

侘しいでござる……

「な、何とも、侘しい宿場町でござる、ぺん……」

「ほんっと、しけた街ねぇ。お洒落な土地柄って聞いてたから、あたし楽しみにしてたのよぉ~。い・い・か・れ・し♪」

 白滝童子はつぶらな瞳をしょぼしょぼさせ、魔府院はあからさまに、がくりと肩を落としていた。

 宿場町には人影は見当たらないものの、決して住人がいない訳では無い。 
 立ち並ぶ旅篭はたごや民家、商人の軒先に感じる人の気配、くりやの窓から立ち上る湯気、煙が住人の存在を告げていた。
 住人達は何かを恐れて、家や店の中で息を潜めているような、そんな雰囲気が街中を覆っていた。

「ここは街道一の宿場町よねぇ?もっと、人の往来が盛んでもいいんじゃな~い?」

 魔府院は不満そうに『ぶひひーん』と、鼻を鳴らしした。

「はて、確かにこれは面妖でござる……ぺん」

 白滝童子は立ち止まり、目を閉じると四方に『霊異探知の術法』を試みた。

『やはりな……なにか、おる』

 再び目を開くと、ふぅと小さく息を吐きてけて家と歩を進めた。
 ぷいと振りむくと、魔府院は眉間にしわを寄せたまま、一見の民家の壁に聞きを当て、中の様子を伺っていた。

「これ魔府院。お主一体、何をしているでござるか?盗み聞きとは、はしたないでござる、ぺん!」

「ちょい白滝ちゃん、お静かに。ふふーん?なになに……」

「ちゃんは要らぬと言うてるでござる……」

 何時になく真剣な様子の魔府院をいぶかしみ、白滝童子もその隣に並ぶと家屋の中の物音に耳を澄ました。

『これも……あの仕立て屋……物の怪どもは……ああ、今夜』

 ぼそぼそとした話し声が聞こえてきた。
 この界隈には何かの怪異が起きているようだ。

「白滝ちゃん、この家に乗り込むわよ!話を聞かせて貰いましょ」

 壁から離れ、その民家の戸口に向かう二匹。
 とんとんと開き戸を叩きながら、家人を呼んだ。

「これ、頼もう。家人はおらぬでござるか?ちと尋ねたき議があるでござる」

「ちょっとぉ~。話があるんだけどぉ~。ここ、開けてくれないかしら?」

 魔府院はどんどんどん!と戸を叩きながら野太い声を出していた。

「これ、魔府院よ。穏便にな……」

 扇子で魔府院の背を叩く、白滝童子の小さな瞳が余計に小さく見えた。

「たのもぉ~」

 魔府院が幾分声を和らげ家人を呼ぶと。

 がた、がた、がたり。
 扉が軋んだ音を立てて開かれた。

「はい……何用でございましょう?」

 扉の前に家人の男が現れた。
 白滝童子は家人の男に向かい丁寧に頭を下げた。

「拙者らは、諸国の安寧を願って旅する者。付近を通った折、何やら面妖な気を感じ、その元を調べているでござる」

「おお……これはお役目様。御足労下さるとは、まことにあり難きこと。何もおもてなしが出来ませぬが、ささ、中にお入りなさいませ」

 家の主に招かれて家屋に入る、白滝と魔府院。
 居間の座卓に座ると女房殿から茶を供せられ、一口すすった。

「主殿、この地に現れた怪異とはどのような事でござるか……ぺん?」

「はい……お役目様もご存じかと思いますが、この祭珠の地は都にも負けぬ洒落物の地、生地反物、帯に着物に巾着袋。下着はふんどしから猿股、足袋草履まで。とにかく、上質ながらも庶民にも手が届く、中でもしまうら屋の
品々は若い衆にも年配者にも贔屓にされる大店おおだなでございました」

 家の主は、自分の着ているものを誇示しながら、饒舌に語るのだった。

「そうそう。あたしも肌襦袢、愛用してるわよぉ。でもぉ~、最近変よね?」

 魔府院も主の話に賛同し、相槌を打って会話に加わった。
 怪異に見舞われた街中とは思えない、和やかなひと時だった。

「しかし……大店の主殿が病に伏せられて以来、はた迷惑なうつけ衆が街道をうろつきまわり、街の中は荒れ放題、若い娘も色気なしになってしまい、街全体が……そして、あの化け物共が現れたのでございます」

 主は縮こまって、両手をぶるぶると震わせていた。

「化け物?ほう、それを見た者はおるでござるか?」

 白滝童子は扇子をぱちりぱちりとさせると、瞳の奥がきらりんと輝いた。

「近所の旅篭の奉公人が……身の毛もよだつような、化け物を見たと」

 主の顔面が蒼白になり、歯の根をがちがち鳴らして、煙管箱きせるばこを引き寄せた。

「なんと!かような者共がおると。あい解ったでござる。拙者らが向かい、化け物共を成敗するでござる。ぺん!」

 しゅたっと立ち上がった白滝童子。
 
「魔府院、行くでござる!化け物を調伏し、この街を救うでござる。ぺぺーん!」

 主に一礼をすると、化け物退治のため、しまうらやの蔵へと出向いていった。
 二匹が家から出たその時、生ぬるい風が吹き、汗臭さと泥臭さの混じった異臭が漂い、二匹は着物の袖で鼻を隠した。

「おええぇ~!」

 魔府院が必死に吐き気を堪えていた。

 宿場の通りを歩く事、半刻。
 ひときわ大きな建物の姿が見えてきた。

 しかし。
 その敷地内は異様な雰囲気に満ちていた。

 店を囲む大きな屛と門扉は黒の漆塗りで、金の扉飾りは名工の作。
 派手さはないものの決して地味な訳でもなく、簡素な作りでありながらこの店の品格よく表すものだった。

 その店構えを以てなお、敷地の奥から漂ってくる異様な気の流れ。
 霊験を積んだ二匹は、はっきりと化け物たちの放つ妖気を捉えていた。

「むむむ、何と凄まじい妖気。こうも強き怨念とあらば心してかからねば。魔府院よ。お主の結界、頼りにしてるでござる、ぺん」

 白滝童子は懐から、師匠である千年稲荷様から拝領された、封魔縛霊ふうまばくれいの式札を取り出した。
 高位の術式が封じられた式札は、鬼神族や祟り神となった怨霊をも封じて滅する、霊験あらたかな式札だった。

 懐から取り出した式札の封印を解く。
 白拍子の魔府院も白滝童子の動きに合わせ、封魔の舞を舞い始める。

 舞の霊験により、現世と幽界の境目に光のとばりが降りてくる。
 白滝童子たちのいる空間と、現世のしまうら屋の敷地が魔府院の術法結界によって隔てられた。

「これは……なかなか手強そうね。街の住民、まとめておかしくなっちゃうくらいだし、白滝ちゃんも心して掛かるのよ」

 そう言いながら、白滝童子を流し目で見る魔府院。
 長いまつ毛をばたつかせながら、護法結界の印を結び、舞を舞う。

「……来るでござる。拙者、準備万端。何時でも参られるが良いでござる。ぺん!」

 ずんどこずってん、ずんどこどん!

 前方の蔵の中から化け物が二体、こちらに向かってやってきた。

化け物があらわれた!

「おらおらおらぁ~、てめぇら、何もんだぁ?」

「おろろろろ~、俺様達を知っての狼藉かぁ?」

 あらわれた化け物たちはどす黒い緑色の「ぢゃあじい」と呼ばれる南蛮渡来の装束を身に着け、蟹股でこちらへ歩いてきた。

「はて?その方らの名前など、知らぬでござるなぁ。……ぺ~ん」

「ぎゃはは!やだぁ、何あんたら。だっさいわねぇ!こっちに寄らないでよ!」

 白滝童子は扇子で仰ぎながら、藪睨みな目つきで迫りくる化け物を見据え、魔府院は土埃を上げながら舞い続けた。

「だ、ださい……おうさ、われの名は堕災球ださいたま!洒落者には災いを~」
「われの名は、苦斎球くさいたま!同じく洒落者どもに悪臭を!」

 憤怒の形相の猛々しい化け物2体は、どででで……と地団太を踏み鳴らし、汗臭い手拭いを振り回しながら白滝童子たちに向かって突進してきた。

「しゃらくせぇ、小童こわっぱどもめぇ~!われらの恨み、思いしれぇ~」

「あ~ん?知らないわよ、そんなもの。知りたくもない」

 2体の罵声など、どこ吹く風。
 魔府院は涼しい顔で、舞を舞い続けた。

「そこな化け物共、覚悟するでござる!拙者、千年稲荷が一番弟子の白滝童子が、見事おぬしらを調伏するでござる~ぺん!」

 化け物に向かって名乗りを上げた白滝童子は、手にした式札を化け物めがけて投げつけた!

「五芒術式、光華浄爆」

 投げつけた式札から艶やかな五色の光が拡がり、空中に五芒の陣が展開される。
 その五つの頂点から2体の化け物を目掛けて光条が走った。

「おのれ、小癪な!われらを田舎もんだと言うて、舐めんなよ~!」

おらおらおら~!舐めんなよっ!

 なんと!
 化け物、堕災球は結界をものともせずに、すどどど……と白滝童子に掴みかかろうと迫ってきた!

「うわーっ!こ、こっちに来るなでござる。しっしっ!むむ……これは手強いでござる。ならばこれで!ぺぺぺん!」

 白滝童子は、新たな式札を堕災球に向かって投げつけた。

「水神浄霊!流汚滅濁りゅうおめつだく!」

 すぽん!

 式札が、堕災球の大きく開いた口の中に、吸い込まれていった。

 じゃばじゃば……
 清らかな水が流れ渦を巻き始める。
 堕災球とその子分の苦斎球はその渦に揉まれて、ぐるぐると回り始めた。

「あ~れ~!目が回る~」

 その様子を見た白滝童子は、手にした最後の式札の封印を解く。

「さて、そろそろ締めの大技行くでござる……てい!烈破術式れっぱじゅつしき、怪魔封滅!怨霊調伏!ぺーん」

 白滝童子の最終奥義の術式が炸裂し、化け物共は澄み切った空に光の粒になり消えて行った。
 魔府院が護法術式を解くと、辺りはすがすがしい、大店の敷地の中だった。
 そして化け物たちが消えた地面には、美しい緑色の反物が落ちていた。

 はらはらり~。

 反物の中から、一枚の印書きが舞い落ちる。
 そして、その印が虹入りの光に包まれると、宙に「な」の文字が浮かび上がった。

「ふむ、これが此度の御印の文字でござる。……さらにこの反物、まことに上質にてござる。さすがしまうら屋、洒落者の大店。ぺぺん!」

「やったわねぇ、白滝ちゃん。二つ目の御印を手に入れたわ。稲荷様にご報告しておくわね!」

悪霊退散、一件落着!

 そう言って魔府院は、からくり仔馬の腹の中から長四角の板を取り出し、何やら文字を書きつけて空に放った。

 反物を拾い上げ、魔府院と共にしまうら屋の中に入って行った。

「お邪魔するでござる。主はおられるか?此度の一件について、お伝えしたき事がござる……ぺん」

 白滝の呼びかけに応じて、店の主が店の奥から姿を現した。

「わたくしがこの店を仕切っております、しまうらせんべぇと申します。この度は恐るべき物の怪を退治いただき、ご恩は一生忘れません……つきましては心ばかりのお礼を……」

 店主は恭しくお辞儀をしたまま、白滝童子に礼を言う。

「あいや、ご店主。礼には及ばぬでござる。我ら修行を兼ねての旅故、街の者が健やかに暮らせればそれが一番。皆の笑顔こそ、最高の褒美なのでござるよ。ぺん」

 かしこまる店主に向け、優しく語る白滝童子。
 魔府院もにこやかに様子を見ていた……が。

「そうそう。みんな笑顔で暮らせる街って、素敵よねぇ。街も住人もみんなお洒落で、そして美味しいものがあって……ねえ?そうだ!ここの名物ってなにかしらぁ~?折角ですもの、買って帰りましょう」

 花より団子、色気もあるが食い気もある。
 縞は無いけどしまうま魔府院、白拍子。
 天下無双、これにあり。

 二匹の様子を見ていた店主、しまうらせんべぇは恐る恐る声をかけた。

「あ、あの……白滝童子さま、これは当代名物の『草加煎餅』でございますが…良ければお持ちになって下さいませ」

 しまうら屋の店主せんべぇは、和紙に包まれた煎餅を恭しく差し出した。

「あらま。これがこの地の名産菓子?醤油のいい香りがするわねぇ。いいんじゃな~い。ありがたく頂きましょ♪」

 そう言って魔府院は煎餅を受け取り、一枚を白滝童子に手渡した。
 じっと煎餅の包みを見る白滝。
 瞑目し何かを思っていたようだが、そっと立ち上がると店主の側に立ち、何やらごにょごにょと囁いた。

「はあ?な、なんと……はい、お安い御用ですとも。暫しお待ちを」

 無事に化け物を退治して、店主から礼を受け取った二匹は、晴れ渡った空の下、受け取った煎餅をかじりながら祭珠の国を後にした。

「やだこれ、おいしい!この歯ごたえが堪らないわぁ!んん~?白滝ちゃん、もしかして煎餅は得手じゃない?うふふ……いいわよ、あたしが食べてあ・げ・る・♪」

 そう言って白滝童子の手から煎餅を奪い、ばりばりと食べ始めた。
 その様子を、やや冷ややかな眼差しで眺める同時だったが、やがて小さな竹筒から白滝を取り出し、おいしそうに飲み込んだ。

 ちゅるん!

「幸せは、一本の白滝からはじまるでござる。……ぺん」

 遥か後方で、二匹の活躍により難を逃れたしまうら屋の店主が、何度もお辞儀をして礼を尽くしていた。

(以下次号)


『作者の呟き』
フォロワー&読者の皆さん。
いつも作品を応援してくださり、本当にありがとうございます。
今回の『白滝童子の化け物退治珍道中・二の巻』も、お楽しみ頂けましたでしょうか。
さて、今回の物語について少々補足をさせて頂きます。
舞台となった『祭珠の国』──どこかで聞いたような地名が出てきたかもしれませんが、これはあくまで物語の中の架空世界。
現実界の「埼玉」にお住いの皆さま、もし似た響きにお気づきでも、どうか広い心でお楽しみいただけたら幸いです。

そしてもし、この作品が『面白い』『気に入った』と感じていただけたなら、フォローやスキを押していただけると、とても励みになります。
コメントなども大歓迎!
次回のモチベーションが更に高まります。
皆さん、よろしくお願い致します。
次回も今回同様、熱量倍増して愉快痛快な物語をお届けしたいと思います。
それではまた次回、noteでお会いしましょう。


『前回のお話』

『本作第1回目』

『こちらの作品もよろしくお願いします』


いいなと思ったら応援しよう!

ママンマフィン 応援ありがとうございます!もしもこの記事があなたの心に響いたのなら、チップでの応援、とっても嬉しいです。頂いたチップは、次回作の創作パワーとして大切に使わせて頂きます!