今日は夫の【彼のルーツ】に恋をした。― 大西洋のそばの別荘で、背筋が伸びる人。― |2026.07.09
はじめに
このエッセイは、
国際結婚と、海外生活と、マルチリンガル育児の中で、
私が日々つまずきながら、
「わたしらしく生きる」ための実験の記録です。
「毎日、夫に恋する生活を。」
2026年の元旦に、そう決めて、
「今日の夫の好きなところ」を、
一つだけ、言葉にしています。
それだけで、同じ一日が、
少し違って見えることがあります。
完璧な妻でも、理想的な母でもありません。
それでも、結婚と子育てを通して、
女性として、妻として、母として、人として、
成長していきたいなと。
今日もこの記録が、
誰かの生活の中の、
小さな呼吸になりますように。
別荘に着くと、夫の背筋が伸びる
7月9日。
私たちはマミーの家を離れて、
お義父さんの別荘へ向かいました。
大西洋に面した、
フランスの西のほうの町です。
パリ近郊とは、空気がまるで違う。
近づくにつれて家の密度が下がって、
平らな緑が
どこまでも続くようになります。
この別荘は、
お義父さんが家を出たあと、
何年も経ってから、
リタイアのタイミングで買った家です。
だから、
夫が幼少期を過ごした家ではありません。
それでも、
この家に着くと、
夫の背筋に一本、何かが入るのがわかります。
私より、明らかにまっすぐになる。
お母さんの家では見なかった姿です。
厳格だった父
お義父さんは、
昔はとても厳格な人だったそうです。
これは、
家族がいつも口をそろえて言うこと。
高度経済成長期のただ中で、
キャリアを駆け上がりながら、
セミプロのランナーとしても
結果を残し続けてきた人。
夫も、夫のお兄さんも、
スポーツと学業でいつもトップだった。
それは、
このお義父さんの熱心な教育の
たまものでもあります。
やわらかく包んでくれる母と、
厳しく、まっすぐを求める父。
マミーと昔の話をすると、
ひとつだけ、
教育方針で同意できなかったことがある、と言います。
それは、ランキング。
順位で子どもを並べることに、
なんの意味もない、と。
マミーは今でも言います。
それぞれの子には、
それぞれの良さがあるんだから、と。
幼少期の話になるたびに
その話を持ち出すくらいだから、
夫や、彼のお兄さんと、
お義父さんのあいだには、
私にはうかがい知れない、
父と息子の関係があるんだと思います。
だから、
私より夫のほうが、
この家では背筋が伸びる。
でも、私と息子から見れば
一方で、
私や息子から見るお義父さんは、
リタイアしたあとの、
優しいおじいちゃんです。
おじいちゃんって、
責任がないぶん、
孫に向けるのは
愛と優しさだけになる。
夫の家族はいつも、
冗談混じりに言います。
人って、こんなにやわらかくなるものなんだね、と。
かつて誰より厳しかった人が、
孫の前では
いちばん甘い顔をしている。
その落差を、
家族みんなが面白がっている。
そして今、
お義父さんは別のパートナーと暮らしていて、
まさに第二の人生を歩んでいます。
これはお義父さんに限らず、
こちらに来るたびに感じる、
フランスらしい文化だなと思います。
結婚や人生の考え方が、日本とは違う。
何歳になっても、
男性は男性の、
女性は女性の部分を
ちゃんと大切にしていて、
子どもがいても、
自分という個の人生が
ちゃんと別に存在している。
息子は、距離を測っていた
私の息子は、
けっこう繊細なところがあります。
夫とお義父さんの距離。
マミーとお義父さんの距離。
そういうものを、
小さいなりに見ているのかもしれません。
別荘に着いてから、
おじいちゃんと打ち解けるまでは、
少しシャイでした。
でも、一度打ち解けたら、
もうこっちのものです。
本を読んでもらって、
プールで遊んでもらって、
庭の亀を見せてもらって。
夫が子どもの頃に遊んでいた
おもちゃで遊んで、
おじいちゃんがプレゼントに
買っておいてくれた机で、
パズルをする。
お義父さんは、
コレクションが大好きな人です。
バンド・デシネ、
つまりフランスの漫画本を
たくさん持っていて、
書棚には、
夫が昔読んでいた本たちが
ずらりと並んでいます。
祖父の家に、
父の子ども時代が残っていて、
そこで孫が遊んでいる。
言葉にすると、
とても不思議な光景でした。
なぜこの人が、19歳で海を渡ったのか
お義父さんとゆっくり過ごすと、
夫のルーツはやっぱり
この人にあるんだな、と感じます。
そして同時に、
昔は本当に厳格な人だったんだな、
というのも、今でも端々に感じる。
子どもとしては、
それはそれで、
大変なこともあったんだと思います。
そこで、腑に落ちることがありました。
夫が、
なぜ19歳で海外に出たのか。
実は私も、
同じ19歳で日本を出ています。
理由はそれぞれ違うけれど、
「ここではない場所へ」と
体が動いた年齢が、同じでした。
お母さんと過ごしたあとに、
お父さんと時間を過ごすと、
夫のルーツと、
今の夫がなぜ今の夫になったのか、
その道のりが、
すごくよく理解できます。
弱みや、
苦手なことが、
どこから来ているのか。
そして、
そこには決して
悪い意図がないということも。
正しくあろうとする人たち
孫と嫁という立場で
迎え入れてもらっている身としては、
もう、
愛と優しさと感謝しか
向けようがありません。
ご両親は、どちらも本当に、
正しくあろうとして、
平等で、
愛のある人たちです。
それは、
お兄さんも同じ。
家族全員が共有している、
同じ価値観というか、
原則のようなものがある。
それをベースに夫を見ると、
普段の彼の行動が、
すごくよく理解できます。
そして、
なぜ私が、
この人と家族になりたいと思ったのかを、
思い出させてくれます。
今日の夫の好きなところ
【彼のルーツ】
7月に入ってから、
私たちは何度もぶつかりました。
完璧を求めるところ。
弱さを見せたがらないところ。
決めたら、誰より速く動くところ。
正直、しんどいと思う瞬間も
たくさんありました。
でもこの別荘で、
厳格だったお義父さんの背中と、
その隣でまっすぐ伸びる夫の背筋を見て、
その全部の出どころが、
すっと腑に落ちました。
この人は、
こういう父のもとで、
まっすぐを求められて育った人でした。
苦手なところにも、
弱いところにも、
悪い意図なんて、ひとつもない。
ただ、そう育っただけ。
夫は今回、
自分がどこから来たのかを、
いちばん見られたくない部分ごと、
私と息子に見せてくれました。
そのルーツを知って、
私はもう一度、
この人と家族でいたいと思いました。
今日の夫の好きなところは、
【彼のルーツ】。
▼ 「私を、お客さんにしなかったこと」昨日の話はこちらに。
▼ ステージを降りた瞬間から、私たちは始まりました。
▼ このシリーズを最初から読む。
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