今日は夫の【何も起きない一日を、くれたこと】に恋をした。― 生牡蠣と、砂浜と、切り抜き。― |2026.07.13
はじめに
このエッセイは、
国際結婚と、海外生活と、マルチリンガル育児の中で、
私が日々つまずきながら、
「わたしらしく生きる」ための実験の記録です。
「毎日、夫に恋する生活を。」
2026年の元旦に、そう決めて、
「今日の夫の好きなところ」を、
一つだけ、言葉にしています。
それだけで、同じ一日が、
少し違って見えることがあります。
完璧な妻でも、理想的な母でもありません。
それでも、結婚と子育てを通して、
女性として、妻として、母として、人として、
成長していきたいなと。
今日もこの記録が、
誰かの生活の中の、
小さな呼吸になりますように。
何も起きなかった日のことを、書きます
7月13日。
先に言っておくと、
今日は、
事件が何も起きません。
牡蠣を食べて、
海で砂遊びをして、
夜に花火を見て、
それだけの一日です。
でも、
その「それだけ」が、
私にはとても大きかった。
7月に入ってから、
私たちはずっと何かと戦っていました。
出発前の喧嘩。
割れたお皿。
ハノイの空港。
一昨日の、声が筒抜けの大喧嘩。
事件のない一日が、
もう何日もなかったんです。
生牡蠣を、剥く
今日のお昼は、
生牡蠣を食べました。
大西洋の近くなので、
牡蠣がおいしい地方で、夏の恒例メニューらしく。
夫が、
黙々と牡蠣を剥いていました。
専用のナイフで、
殻の蝶番にぐっと差し込んで、ひねる。
慣れた手つきでした。
子どもの頃から、
夏にこうやって食べてきたんだと思います。
レモンを絞って、
そのままつるっと。
冷えた白ワインと一緒に。
一昨日、あんなに言い合った二人が、
今日は並んで牡蠣を剥いている。
夫婦って、
こういうものなのかもしれません。
深刻な顔で
「私たちの関係は」と話し合った次の日に、
普通に牡蠣を剥いて、
普通においしいねと言っている。
お義父さんの、切り抜き
食卓で、
お義父さんが、
一枚の切り抜きを渡してくれました。
マリアンヌという雑誌の記事でした。
フランス社会の課題や、
女性の活躍についての記事。
お義父さんは、
大変な読書家です。
別荘には、
図書館みたいに本が並んでいて、
政治にも経済にも、
強い関心を持っている人です。
そして、その記事は、
先日、私がうまくついていけなかった話題に
関するものでした。
つまり、覚えていてくれたんです。
あの子は、
あの話題に入れなかったな、と。
言葉が完璧じゃなくて、
会話の輪から半歩ずれてしまう。
その半歩を、
この家族はいつも、
黙って埋めようとしてくれる。
前の日は、
夫が通訳で埋めてくれた。
この日は、
お義父さんが、
活字で埋めてくれました。
読めば、自分のペースで理解できる。
会話の速さに、
急かされなくていい。
言葉のハンデを、
ハンデのまま放っておかない人たちだな、
と思いました。
そして、この人たちと家族になれてよかったなと。
砂浜で、ただ座っていた午後
午後は、
みんなでビーチに行きました。
この地方の海は、
夏でも水がひんやり冷たい。
息子は、
ひたすら砂遊びをしていました。
バケツに砂を詰めては、
ひっくり返して、
崩れて、また詰める。
その繰り返しを、
飽きずにずっとやっている。
おじいちゃんとおばあちゃんも、
それに飽きずに付き合ってくれていて。
私と夫は、
その隣にただ座っていました。
特に、何も話さない。
一昨日は、
あんなに言葉をぶつけ合ったのに、
この日は、
言葉がいらなかった。
いつもなら、
頭の後ろに、
次の手続きや、次の予約が
並んでいます。
でもこの午後は、
その列が、空っぽでした。
「子守りは任せておきな」
7月13日の夜は、
フランスでは特別な夜です。
翌日、7月14日は、
フランス革命記念日、パリ祭。
その前夜、
24時になる少し前に、
全国のあちこちで花火が上がります。
夕食のあと、
息子を寝かしつけていたら、
おじいちゃんとおばあちゃんが言いました。
子守りは任せておきな、
二人で行っておいで、と。
ここで少しだけ、
家族のことを書いておきます。
「おばあちゃん」と書いたのは、
お義父さんのパートナーさんのことです。
お義父さんと10年以上一緒にいる人で、
籍は入れていません。
息子にとっての本当の祖母は、
パリにいるマミーのほうですが、
このパートナーさんも、
本物の孫みたいに、
息子に接してくれます。
フランスでは、
こういう家族の形が、
わりと自然にあります。
血のつながりや、籍の有無より、
「今、その子を愛しているか」
のほうが優先される感じ。
その二人が、
いいから行っておいで、と
送り出してくれました。
長袖を着て、手をつないで
私たちは、
昨日お義父さんが買ってくれた
マリニエールの長袖を着て、
家を出ました。
これでダナンの冬も大丈夫だね、
と言われて買ってもらった、
あのボーダーの長袖です。
まさか翌日に、
フランスの夜風の中で着るとは
思っていませんでした。
歩いて5分のビーチまで、
夫と、お揃いの服をきて、手をつないで歩きました。
昼間は冷たかった海が、
夜になると、
真っ黒な大きな気配になっていて。
その上に、
花火が上がりました。
7月に入ってから、
私たちはたくさんぶつかりました。
お皿を割って、
空港で3時間話して、
一昨日は、
パリに帰る便まで調べた。
その同じ月に、
同じ人と手をつないで、
フランスの花火を見ている。
息子は、
おじいちゃんとおばあちゃんに預けて。
安心して預けられる人が、
この国にもちゃんといる。
だから、
二人だけになれた。
派手な仲直りの言葉も、
特別なプレゼントもいらなくて。
ペアルックの長袖を着て、
手をつないで、
花火を見て、
一日を終える。
ただそれだけのことが、
7月のこの日に戻ってきたことが、
私にはいちばん、うれしかった。
今日の夫の好きなところ
【何も起きない一日を、くれたこと】
牡蠣を食べて、
砂浜に座って、
夜は花火を見て、
それだけの一日でした。
一昨日、
声が筒抜けの家で大喧嘩をして、
私はパリに帰る便まで調べたのに。
その二日後に、
同じ人と手をつないで、
フランスの花火を見ている。
夫は、
特別なことを何もしていません。
でも、
嵐のあとにちゃんと凪が来て、
その凪を、
同じ人と味わえること。
長袖を着て、
手をつないで、
花火を見て、一日を終えられること。
それは、
当たり前のようで、
当たり前じゃないと思っています。
今日の夫の好きなところは、
【何も起きない一日を、くれたこと】。
▼ 「父に、打ち明けてくれたこと」昨日の話はこちらに。
▼ お義父さんが、どんな人かはこちらに。
▼ このシリーズを最初から読む。
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