今日は夫の【同じ飛行機に、乗ってくれたこと】に恋をした。― ハノイの空港で、3時間。― |2026.07.05
はじめに
このエッセイは、
国際結婚と、海外生活と、マルチリンガル育児の中で、
私が日々つまずきながら、
「わたしらしく生きる」ための実験の記録です。
「毎日、夫に恋する生活を。」
2026年の元旦に、そう決めて、
「今日の夫の好きなところ」を、
一つだけ、言葉にしています。
それだけで、同じ一日が、
少し違って見えることがあります。
完璧な妻でも、理想的な母でもありません。
それでも、結婚と子育てを通して、
女性として、妻として、母として、人として、
成長していきたいなと。
今日もこの記録が、
誰かの生活の中の、
小さな呼吸になりますように。
出発の1時間前に、私はお皿を割った
7月5日。
フランスへの出発の日でした。
フライトは夜。
朝から、今日はパッキングをしようね、
と言って一日が始まりました。
今回はここ2ヶ月間のこともあって。
息子のものを全部、
夫がパッキングすると言ってくれたので、
私は自分のものだけを確認していた。
そして、出発の1時間前に、
私はお皿を割りました。
台所に向かって、大きく投げて。
これ、あなたが片付けて。
そう言って、
出発1時間前の家を出て、
一人でカフェに行きました。
あれは、止めるために投げた
正直に書くと、
あれは我を忘れた末の行動ではありませんでした。
数日前から、
私たちは同じことを繰り返していました。
声を上げて、
言い返して、
どちらも譲らないまま夜が終わる。
7月2日も、3日も、そうだった。
そしてこの朝も、
まったく同じ形が始まっていた。
このまま感情をぶつけ合っても、
行き着く先はもうわかっている。
何十回も、同じ場所に戻ってきていたから。
だから、止めました。
言葉では止められなかった。
お互いに次の言葉が用意されていて、
どちらも引き下がる気がなかったから。
割れる音で、その空気を切った。
そして私は、
割れたお皿のほうに
自分の感情を全部投げ捨てました。
ここに置いていく、と決めて。
人に勧められる方法だとは思っていません。
でもあの朝の私には、
これしか持っていなかった。
空港までの、無言
結局、私はカフェから戻って、
私たちは家族3人で空港に向かいました。
飛行機には乗る。
それだけは決まっていた。
ダナンからハノイへ飛んで、
そこで乗り継いでフランスへ。
ハノイでの乗り継ぎ時間は、約3時間。
その3時間が、
最後のタイムラインでした。
ここで話さなければ、
次は12時間以上のフライトで、
そのあとは3週間、義実家です。
言葉も、家族も、
全部が夫の側にある場所。
そこに、この状態で入るわけにはいかなかった。
ハノイの空港、3時間
ハノイの空港で、
私はとことん詰めました。
やわらかい言い方は、もうしなかった。
ここまでのこと。
去年からのこと。
私が何を抱えていて、
何が見えていなかったのか。
夫に何が見えていないのか、
図にも書いたりして。
搭乗案内のアナウンスが
何度も流れる中で、
ひたすら話し続けました。
海外の空港って、
不思議な場所だなと思います。
家でもないし、目的地でもない。
誰も自分たちのことを知らない。
そして何より、どこにも行けない。
夫婦の話し合いがいちばん進むのは、
たぶんこういう場所です。
家だと、席を立てる。
寝室に行ける。外に出られる。
私はこの数日、実際にそうしてきた。
でも空港では、
どちらも逃げられませんでした。
夫も、泣いた
途中から、
私のほうも涙が止まらなくなっていました。
そして話せば話すほど、
夫の顔が変わっていきました。
反論しなくなって、
言い訳もしなくなって、
だんだん口数が減っていった。
そして途中で、
夫も泣き始めました。
自分がどれだけ見えていなかったのか。
どれだけ聞けていなかったのか。
全力で改善する、愛している、ありがとう、
と言いながら。
そこに、そのとき初めて
本当にたどり着いたみたいでした。
私たちの会話は、
お互いの母語じゃない言語。
だから「わかった」と言われても、
どこまでわかったのかが
いつも測れませんでした。
I understand.
その一言に、どれくらいの重さがあるのか。
本当に届いているのか、
その場を収めたいだけなのか。
第二言語だと、
言葉は最後まで信じきれない。
その後ろには、
文化や教育の違いもある。
でも、目の前にあった涙と、
その奥にある目には、
疑いも、翻訳もいりませんでした。
言語なんて、関係なかった。
目の中に、魂が入っていた
でも、いちばん大きかったのは、
たぶん涙ではありませんでした。
泣き終わったあとに、
夫を見たときのことです。
自分でもびっくりするくらい、
見え方が変わっていました。
お互いの目に、
魂が入っている感じがした。
うまく説明できないけれど、
そこにいたのは、他の誰でもなくて。
家族になろうと決めた時と
同じくらい大好きな夫でした。
そして夫のほうも、
同じものを返してきていた。
何も言っていないのに、
すぐにわかりました。
言い争いも、調整も、
これからも続くと思います。
問題は何ひとつ
解決していませんでした。
ただ、
二人が同じ方向にカチッと向いて、
その方向を、
二人ともちゃんと見ている。
そういう瞬間でした。
子供が生まれてから初めて、
言葉の外で通じ合った気がします。
12時間以上のフライトの前に
搭乗が始まって、
私たちはフランス行きの飛行機に乗りました。
朝、お皿を割った人間と、
空港で泣いた人間が、
同じ飛行機に乗って、
一緒に相手の実家へ向かっている。
きれいな話じゃありません。
でも、
朝より確実に近くにいました。
ハノイの空港が、
私たちのターニングポイントでした。
今日の夫の好きなところ
【同じ飛行機に、乗ってくれたこと】
出発の1時間前に、私はお皿を割った。
言葉では止められなかったから、
音で空気を切って、
そこに感情を投げ捨てた。
これ、片付けて、と言って家を出た。
普通なら、終わっていた朝だと思います。
それでもこの人は、
同じ車に乗って、
同じカウンターに並んで、
同じ飛行機に乗った。
ハノイの乗り継ぎの3時間、
逃げ場のない空港で、
夫は最後まで座っていた。
そして、泣いた。
でもいちばん大きかったのは、
そのあとに目が合った瞬間でした。
そこに、ちゃんとこの人がいた。
何も言わなくてもわかった。
問題は何も解決していない。
それでも私たちは、
同じ方向に向かう便に乗っていました。
今日の夫の好きなところは、
【同じ飛行機に、乗ってくれたこと】。
▼ 「黙って、一人で行ったこと」昨日の話はこちらに。
▼ 屋上で4つの手をつながれた夜から、このシリーズが始まりました。
毎日、夫に恋する生活を。― すれ違いの中で見つけた、たった一つの習慣。―
▼ このシリーズを最初から読む。
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