実践ゼミ#15:血糖モニタリング入門 ── 数字に振り回されるな。道具として使いこなせ。
📗 実践ゼミ #15
初めての方 → 実践ゼミ#1「食後10分ウォーク」
前回 → 実践ゼミ#14「食後ウォークの科学と実践」
「先生、血糖値が180になったんですけど、大丈夫ですか……?」
こういう電話やメッセージをいただくことがあります。
気持ちはわかります。でも、ちょっと待ってください。
血糖値は「あなたの成績表」ではありません。
良い数字が出たら「頑張った自分」、悪い数字が出たら「ダメな自分」——そうやって一喜一憂すると、血糖測定が苦痛になります。そして測らなくなる。それがいちばんもったいない。
血糖値は道具です。車のスピードメーターと同じ。スピードメーターを見て「速すぎる」「ちょうどいい」と判断して、アクセルやブレーキを調整する。怒ったり落ち込んだりする対象ではない。
さあ、この道具を使いこなしましょう。
なぜ測るのか──HbA1cだけでは見えないもの
外来で測るHbA1cは、過去1〜2ヶ月の平均血糖を反映する指標です。とても大事です。
でも、HbA1cは「平均」しか見えない。
HbA1c 7.0%の方が2人いるとします。Aさんは血糖が70〜200の間で乱高下している。Bさんは100〜160の間で安定している。HbA1cは同じでも、血管へのダメージはAさんのほうが大きい。
食後血糖の急上昇(血糖スパイク)や、夜間低血糖は、HbA1cだけでは見えません。
だから、自分で血糖を測る意味がある。
⚠️ぜんぶ代謝のせい#7で見たように、痩せ型の方は空腹時血糖が正常でも食後血糖だけが跳ね上がるパターンがあります。#8のコーヒーの回でも、カフェインが食後血糖を10〜15mg/dL上げうることを見ました。
こうした「平均では見えない真実」を教えてくれるのが、血糖モニタリングです。
血糖を測る3つの方法
① SMBG(自己血糖測定)
穿刺血糖測定。 指先に小さな針を刺して血液を出し、測定器にかける。糖尿病の治療で最も広く使われている方法です。
メリット:
その瞬間の血糖値が正確にわかる
インスリンを使っている方は保険適用で測定器と消耗品が提供される
「食前」「食後2時間」など、ピンポイントで測れる
デメリット:
指に針を刺す痛みがある(慣れると気にならなくなる方が多い)
1日に何度も測るのは面倒
「その瞬間」しかわからない(連続的な変動は見えない)
② CGM(持続血糖モニタリング)
センサーを腕などに貼り付けて、24時間連続で血糖値(正確には間質液中のグルコース値)を測る方法。 リブレ(FreeStyleリブレ)やデクスコムG7などが代表的。
メリット:
24時間の血糖の「波」が見える。食後のスパイク、夜間の低血糖、朝の上昇パターンが一目瞭然
指を刺さなくていい(リブレはスキャン式、デクスコムは自動送信)
「何を食べたらどう動くか」が自分で実験できる
デメリット:
センサーの費用がかかる(保険適用の範囲は治療内容による。自費の場合、2週間で約6千円程度)
SMBG比で5〜15分の時間差がある(急変時はSMBGで確認が必要)
センサーがたまに外れる、かぶれる方がいる
③ 外来での検査(空腹時血糖・HbA1c・75gOGTT)
自分では測らないけど、定期的に外来で検査する方法。
空腹時血糖 → 朝の状態がわかる
HbA1c → 過去1〜2ヶ月の平均がわかる
75gブドウ糖負荷試験(OGTT) → 食後血糖のパターンがわかる。#7で紹介した「痩せ型で空腹時は正常だけど食後だけ高い」パターンを見つけるのに有効
「数字の読み方」を知る
測定することよりも大事なのは、数字をどう読むかです。
目安を知る(ただし個人差あり)

これはあくまで「目安」です。 あなたの目標値は、年齢、合併症、使っている薬によって異なります。主治医と一緒に「自分の目標値」を決めてください。
1回の値に振り回されない
ここがいちばん大事なポイントです。
血糖値は1日の中で常に変動しています。食事、運動、ストレス、睡眠、体調——あらゆることで動く。
180が出たからといって、その日が「失敗」なわけではない。120が出たからといって、すべてが「成功」なわけでもない。
大事なのは「傾向」です。 1回の値ではなく、1週間、1ヶ月の記録を見て「だいたいこのあたりに収まっている」という全体像を見る。
血糖値は天気予報と同じ。 今日の気温が30℃だったからといって「地球温暖化だ!」と騒がない。1ヶ月の平均気温で季節を判断する。血糖も同じです。
道具として「使いこなす」実践テクニック
テクニック① 「実験」として測る
血糖測定がいちばん楽しくなるのは、「自分の体で実験する」ときです。
ラーメンを食べた後に測る → 白米を食べた後に測る → そばを食べた後に測る。 「同じ炭水化物でもこんなに違うのか!」と驚くはず
食後に歩いた日と歩かなかった日を比べる。 #14のウォークの効果を自分の目で確認できる
コーヒーを飲んだ日と飲まなかった日を比べる。 #8で見た「カフェインの影響」を自分で検証できる
寝不足の翌朝と、ぐっすり眠れた翌朝を比べる。 #10の睡眠の効果が数字で見える
こうやって「測る→気づく→次の行動を変える」のサイクルが回ると、血糖測定が苦痛ではなく発見の道具になります。
テクニック② 「食事の前後セット」で測る
食前だけ測っても、食後だけ測っても、情報としては不完全です。
食前→食後2時間のセットで測る。 この「差」が、その食事の血糖への影響を教えてくれます。
食前100→食後180なら、差は80。この食事は血糖を80上げた。次は野菜を先に食べてみよう。次は麺を少し減らしてみよう。
数字は「自分を責める材料」ではなく、「次の一手を考えるデータ」です。
テクニック③ 記録に「メモ」を足す
数字だけ記録しても、後で見返したときに何もわからない。
「何を食べた」「どのくらい動いた」「寝不足だった」「ストレスがあった」 一言メモを添えるだけで、記録の価値が10倍になります。
「あ、この日血糖が高いのは、前の日に寝不足だったからだ」
「この日低いのは、昼に歩いたからだ」
パターンが見えてくると、自分の体の「取扱説明書」ができていく。 それが血糖モニタリングのいちばんの価値です。
テクニック④ 外来に記録を持っていく
自分で測った記録は、外来で最高の武器になります。
HbA1cだけだと「なんとなく良い・悪い」しかわからない。
でも、食前食後のデータ+メモがあれば、医師は「この食事パターンが影響している」「この時間帯に下がりすぎている」と具体的なアドバイスができる。
血糖手帳、アプリのグラフ、CGMのレポート。 何でもいいので、外来のときに見せてください。それだけで、外来の質が劇的に変わります。
「測らなきゃ」のプレッシャーから解放される
ここまで読んで、「毎日測らなきゃいけないの?」と思った方へ。
毎日測る必要はありません。
インスリンを使っている方は、安全のために毎日の測定が推奨されることがあります。でもそうでない方は、「知りたいときに測る」で十分です。
新しい食事を試すとき
体調が変わったとき
外来の前の1週間だけ集中的に測る
#14のウォークの効果を確認したいとき
「義務」ではなく「好奇心」で測る。 そのほうが続くし、楽しい。
測らない日があっても、自分を責めない。
測った日の記録が、必ず役に立つ。
CGMを使ってみたい方へ
最近、保険適用の範囲が広がり、CGMを使える方が増えています。
「一度試してみたい」という方は、主治医に相談してください。
2週間だけ装着して、自分の血糖パターンを「見てみる」だけでも価値があります。
「食後にこんなに上がっていたのか」
「夜中にこんなに下がっていたのか」
「コーヒーを飲むとこう動くのか」
自分の体の「波」が見えると、食事と運動の意味が体感として理解できるようになります。 入門講座やDシリーズで読んだ知識が、自分の波形と重なる瞬間。それがいちばんの学びです。
まとめ
血糖値は「成績表」ではなく「道具」。 スピードメーターと同じ。振り回されるのではなく、使いこなす
HbA1cだけでは「平均」しか見えない。食後のスパイクや夜間低血糖は、自分で測って初めてわかる
測り方は3つ:SMBG(指先)、CGM(センサー)、外来検査。自分に合った方法を選ぶ
1回の値に振り回されない。 「傾向」を見る。天気予報と同じ
「実験」として測ると楽しい。 ラーメン vs そば、歩いた日 vs 歩かなかった日
食前→食後2時間のセットで測り、「差」を見る。 数字は次の一手を考えるデータ
記録に一言メモを足すと価値が10倍。外来に持っていくと外来の質が変わる
毎日測らなくていい。 「義務」ではなく「好奇心」で測る
血糖計は、あなたの体の「通訳」です。体が何を言っているか、数字で翻訳してくれる。その声に耳を傾けるも無視するも、あなた次第。でも、聞いてみると面白いですよ。

参考情報
・日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』血糖モニタリング
・ADA Standards of Care 2025
📗 実践ゼミ一覧 → マガジン「できた!を増やす実践スタジオ」
📘 基礎から学びたい方 → マガジン「つまずかない!基礎から血糖攻略!!」
⚠️ 代謝のつながりを知りたい方 → マガジン「それ、代謝のせいですけど?」
🏫 全コンテンツ → この学校の歩き方
🧑⚕️ 日々の血糖ネタ → X(@medinoto)
※この記事は一般的な情報提供を目的としています。血糖測定の方法や目標値は個人によって異なります。主治医にご相談ください。
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