実践ゼミ#5:糖尿病初期の人のダイエット── 診断直後に何から始めるか
📗 実践ゼミ#5 / ダイエットシリーズ(初期の方向け)
全体ガイド → #4-7まとめ「あなたに合ったダイエットはどれ?」
前回 → #4「GLP-1の魅力と課題」
「糖尿病と言われたんですけど、まず何をすればいいですか?」
外来でこの質問をされるたびに、私は少し立ち止まります。この一言の裏に、診断を受けた日の動揺や、ネットで調べて情報に溺れた夜や、「自分のせいだ」という自責の気持ちが詰まっていることを知っているから。
今日はその問いに、できるだけ具体的に答えます。
ひとつ最初に確認しておきたいことがあります。「この記事は2型糖尿病の方を対象にしています。」インスリンの分泌不全が主体の1型糖尿病は、アプローチが異なります(入門講座#6〜9をご参照ください)。
2型糖尿病と診断されたばかりの方へ。初期だからこそ、できることがたくさんあります。
初期だからこそ、生活習慣が主役になれる
「まだ初期だから大丈夫」という言葉を、安心のために使うことがあります。でも私がお伝えしたいのは少し違う意味の「大丈夫」です。
初期は、生活習慣の介入が最も効きやすい時期です。
糖尿病が進行すると、膵臓のインスリンを分泌する細胞(β細胞)が少しずつ傷んでいきます。初期のうちはまだβ細胞の機能が残っているため、食事・運動・体重管理の効果が血糖値に直結しやすい。
「初期だから軽い」ではなく、「初期だからこそチャンスが大きい」。そういう目で、この時期を捉えてほしいのです。
その頑張りでとてつもないレガシーが得られます!
食事療法 ── 何を、どれだけ、どの順番で
まずカロリーの目安を知る
食事療法の出発点は、適切なエネルギー量を把握することです。
2型糖尿病の食事療法における標準的な1日の目標カロリーは、以下を目安にします。
目標カロリー=標準体重 × 身体活動量
① 標準体重(kg)= 身長(m) × 身長(m) × 22
② 身体活動量の目安
軽い労働(デスクワーク中心):25〜30kcal/kg
普通の労働(立ち仕事あり):30〜35kcal/kg
重い労働(肉体労働):35〜kcal/kg
例:身長165cm・デスクワークの方なら
標準体重=1.65×1.65×22=約60kg
目標カロリー=60×25〜30=1,500〜1,800kcal/日
「厳しく制限しなければ」と思う方も多いですが、極端な制限は続きません。まずはこの目安の範囲を意識することから始めてください。

炭水化物は「減らす」より「選んで・分散する」
カロリーの中でも血糖に直結するのが炭水化物です。ただし「炭水化物を全部カット」は推奨しません。急激な制限は筋肉を落とし、リバウンドのリスクも高めます。
意識してほしいのは2つです。
選ぶ:白米より麦ごはん、食パンより全粒粉パン。同じ量でも血糖の上がり方が緩やかになります。
分散する:1食に炭水化物を集中させない。朝食を抜いて昼に大盛りを食べると血糖スパイクが起きやすくなります。3食に分けることが、血糖の安定につながります。
食べる順番で血糖の上がり方が変わる
同じ食事でも、食べる順番で食後血糖は変わります。
野菜・きのこ・海藻 → 肉・魚・卵・豆腐 → ごはん・パン・麺
野菜の食物繊維が糖の吸収を遅らせ、たんぱく質がインスリン分泌を先行させてくれます。完璧にできなくていい。「ごはんを最後にする」だけでも、続けると違いが出てきます。その方が主食でバクバク食べないで済むのが大きいです!
朝食を抜かない理由
「朝は食欲がないのでコーヒーだけ」という方によく会います。ただ2型糖尿病の方に朝食抜きはおすすめしません。
朝食を抜くと昼食後の血糖スパイクが大きくなることがわかっています(セカンドミール効果の逆)。また空腹時間が長くなると、昼食を急いで食べてしまいがちです。
小さくてもいい。バナナ1本+ゆで卵でも、朝に何か食べる習慣を作ってください。
運動療法 ─ 筋肉を「第2の血糖処理装置」として使う
実践ゼミ#1で「食後10分ウォーク」の効果を詳しくお伝えしました。今回は少し別の角度から、なぜ筋肉を鍛えることが血糖管理に直結するのかをお伝えします。
筋肉はインスリンなしで糖を取り込める
通常、細胞が血液中の糖を取り込むにはインスリンという「鍵」が必要です。ところが筋肉には例外があります。運動中・運動後の筋肉は、インスリンなしでも糖を取り込めるという特別な仕組みを持っています。
筋肉量が多いほど、血液中の糖を「逃がす先」が増える。つまり筋肉は「第2の血糖処理装置」として働いてくれます。
何をどれくらいやればいいか
有酸素運動:週150分以上が目標。早歩き・自転車・水泳など。一度に長くやらなくていい、1日20〜30分×週5日で十分です。
筋力トレーニング:週2〜3回が目標。スクワット・腕立て・椅子から立ち上がる動作でも効果があります。ジムに行かなくてもできることから始めてください。
「運動できない日」の免罪符
どうしても動けない日もあります。そんな日は「食後に10分立つ」だけでも意味があります。横になるのと座るのでも違う。完璧にできない日があっても、それで全部がリセットされるわけではありません。
体重減少の目標設定
「何キロ落とせばいいですか?」という質問への答えは、「まず今の体重の5〜10%」です。
体重80kgの方なら4〜8kg。これだけでインスリン抵抗性が明らかに改善し、血糖・血圧・脂質のすべてに良い影響が出ることがわかっています。
現実的な目標:3ヶ月で2〜3kg減。焦らなくていい。急激な減量は筋肉を落とし、リバウンドを招きます。
また、体重より先にHbA1cや血圧が改善することも少なくありません。体重計の数字だけを見ていると、変化を見落とすことがあります。次の受診でHbA1cがどう変わったか、そこも変化のバロメーターにしてください。
薬との関係
薬を使わずに始める場合、まず3〜6ヶ月間は生活習慣の介入を試みるのが標準的な流れです。この期間にHbA1cが目標値(多くの場合7.0%未満)に近づけば、そのまま継続します。
薬を使いながら始める場合も、生活習慣が土台であることは変わりません。薬は血糖を下げるサポートをしてくれますが、筋肉をつけてくれるわけでも、食習慣を変えてくれるわけでもない。
GLP-1受容体作動薬を使っている方も同じです。薬で食欲が落ち着いているうちに生活習慣を整える。それが実践ゼミ#4でお伝えした「出口戦略」です。
寛解を目指す考え方
2型糖尿病の「寛解」とは、薬を使わずにHbA1c 6.5%未満が3ヶ月以上続いている状態を指します(2021年国際コンセンサス定義)。
寛解しやすい条件があります。
① 診断から年数が浅い(理想は2年以内)
② 肥満がある(体重を落とす余地がある)
③ 膵臓のインスリン分泌がある程度残っている
④ 体重を5〜10%以上落とせる
すべてに当てはまる必要はありませんが、初期・肥満ありの方はこの中でも寛解の可能性が最も高いグループです。
ただし「寛解を目指す」と「できなくても自分を責めない」は矛盾しません。目標として持ちながら、できる範囲で続ける。それがこの学校のやり方です。
まとめ:今日から始める3つだけ
難しいことを全部一度にやる必要はありません。今日からこの3つだけ意識してください。
① 食事は「野菜から食べる」を1食だけ試してみる
完璧でなくていい。1食から始めれば十分です。
② 食後に5分だけ歩く(または立つ)
10分が無理な日は5分でも、立つだけでも。筋肉を動かすことに意味があります。
③ 体重より「HbA1c」を変化のものさしにする
次の受診でHbA1cが下がっていたら、それは確かな前進です。
初期という時期は、体が一番応えてくれる時期でもあります。焦らず、責めず、小さな変化を積み重ねていきましょう。
次回(実践ゼミ#6)は「合併症ありの人のダイエット」。初期とは異なる制約と工夫について、丁寧にお伝えします。
👣 今日の一歩:自分の標準体重と目標カロリーを1回だけ計算してみてください。計算式は本文中にあります。
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