平幹二朗の色紙と甘い小鉢の店の話
阿倍野駅でランチ難民になり、仕方なく知らない店に入った。
和食の店のようで
値段がどれも安く、失敗しても傷は浅いと考えた。
知人はサービスセット。私は日替わり。
お味噌汁と沢庵、小鉢は大根と人参の紅白なます
そこまでは一緒。
食べ始めてすぐ
隣で「かあーっ」という呻き声がした。
「なんじゃこりゃ、甘すぎます、無理です、これは無理です、
食べられません。甘いです、甘すぎです、、」
壊れたロボットのように知人はさえずった。
実は私もさっきから驚いていた。
こんなに甘いなますは食べたことがない。
砂糖の量を間違えたのかと思うほどの衝撃的な甘さだった。
知人は小鉢を私の前に押しやった。
ええ、これを二人分?
だが、甘すぎる中にせめぎ合う酸っぱさもある。
飲んだことはないが
みちょぱの原液を飲んでしまったと思えばいいのだ、
もったいないから両方平らげた。
食後のサービスでホットコーヒーが来て、寛ぐ。
店内は狸の置物だらけ。
壁には
「白たぬきさんへ 平幹二朗」というサイン色紙が飾ってあった。
席を立って、財布を出しながら
ごちそうさまです
ところであのサインはもしや、と訊くと
お客様、
平幹二朗をご存知ですか、そうなんですよ。
と、サイン色紙がここにある経緯を話してくれた。
ご存知も何も
大好きな俳優さんなので、私も
「樅ノ木は残った」の原田甲斐!
「国盗り物語」の斎藤道三!!
私、お芝居も見ました。「マクベス」!!!
マクベス夫人が栗原小巻だったんですよー!!!!
女将自身はファンではなかったようで、
私の熱量に対しては無言だった。
彼女からおつりを受け取りながら
「とてもおいしかったです。
あの小鉢、甘くて疲れが取れました。」
と言うと、
「そうでしょう! よく言われます!
お客様にとても喜ばれてて、あれは
息子の発明なんですよ。」
と、満面の笑顔で見送ってくれた。
発明か。
そうか、やっぱりな。
すごい甘さやったもんな。
あんなん日本中探してもないと思う。
おまけのコーヒーが、
上品で昭和の、レトロなサーバーとカップで提供され、
思いの外旨かったので、店を出て天王寺へ歩きながら
「また来よな。」
「嫌です 二度と来ません」知人はきっぱりと言った。
ところで、後日
この店で何を注文して何を食べたか
さっぱり思い出せない。
どんな定食だったのか
平幹二朗の色紙がなぜあるのかも
詳しく説明してくださったはずなのに
まったく思い出せない。
あれだけ甘いものを二人分食べて
私の脳はすぐに栄養分として吸収し
活性すると思いきや、
あまりの甘さに驚いて、シナプス回路が
ショートしたのかもしれない。
茗荷を食べると物忘れすると云うが
気絶しそうなくらい甘いものを食べても
物忘れを起こすのであろう。
何を食べたか確認すべく
また行こな。と知人に話しかけたら
嫌です。二度と行くものか
と返ってきた。
後日、
「白たぬきさん顛末記」を全6話書き終えて、
お店に手土産持参で詫びに行った。
「1話目のこの記事。なんという失礼な言動をと。」
いいわけと。
そして、このno+eのアドレスを記載したメモをお渡しして。
店主は
「ありがとありがと、後でまた見せてもらいますねー」
で、たぶんまだ
ご覧になっていないのだ。(泣)
ほんっと、すみませんでした。
もしあなたが
白たぬきさんへ行く途中なら
パセリ セージ ローズマリーとタイム
にゃんこが平謝りだったと
伝えてください。
これほど温かなお店を私は知りません。
(私は漢字が不得意で、みちょぱと勝手に呼んでいたが、
美酢(みちょ)という商品名らしい)
写真は
京都で行われた
ブライアン・イーノの大規模個展
「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」から。

