50年の窓 第3章
第3章 推測
2036年1月
ケントはT2Ksの名前でWHOに類似案件の有無を問い合わせる。また、OECDに教育現場の類似案件について問い合わせるが、どちらも、2035年夏の時点では「関連情報無し」という回答であった。
2月
ケントは、断られることを承知で、戦略としてHHSにレターを書き、調査の必要性を説くが、ケースの数が少なく受け入れられない。彼は、エビデンスを少しずつ積みあげることでT2Ksの発言力を上げてゆくことを考え、更に小規模な調査を自費で行うことをカレンに提案し、また「自然発生ではない」と言ったテッド指導教授の了解をとり、教授の名前を借りて必要最低限の調査を行う事を提案し、カレンも合意。
「そうね、分かったわ。財団の返事も来ないし、HHSもつれないし、遺伝子調査の費用は財団が乗った後で精算するつもりで、始めましょう。T2Ksの支出は主に私の旅費で遺伝子解析費はAI任せであまり費用はかからないので、いずれ私の身の回りの費用なので私が管理します。」
「500名ほどの遺伝子変化が確認できればよし、としよう。」
「以前の教育長との交渉ケースから、我々は公の機関ではないのでプライバシー保護の観点から肝心の遺伝子については、500名の保護者承諾は結構時間がかかるわ、、、」
「最初のプレ調査では、100名の児童で16名の異常が報告され、4名が自閉症で、2名が正常で10名が遺伝子異常だったから、同じ比率が得られると仮定すれば500名の異常遺伝子保有者を特定するためには、少なくとも5000名の検査が必要ね。」
「5000名の遺伝子獲得は、結構な行程になるので旅費が馬鹿にならないかも。」
「元気で、活発で好奇心旺盛の子は、最初から調査対象から外そう。今回の調査は対応が必要かどうかを判断するためであり。今、暗黙に考えている仮説を考えれば、その対象数削除は安全サイドだと思う。」
「更に、100名ずつ調査を行って、その度に財団とHHSに報告し、どちらかが『よし、解った。』というまで積み上げてゆくのはどうだろう。費用は僕も負担するよ。」
「今の段階で財団の返事がない以上、HHSとの交渉も含めて、覚悟しないとダメね。仮に進めても数字が伸びないで財団もHHSも説得できなければ、それは『大きな問題では無いということで、よかった』ということだし、いいわ、その100名ずつ積み上げてゆくアイディアは素晴らしいわ。ただし、費用の限界は決めておきたいわ。准教授にもなっていないので、、」
「保護者承諾の件は、調査項目から氏名を落とせば教育長はOkayするかな?」
「多分ね。だけど、証拠としての価値がなくならない?」
「各地域の教育長に『個人情報保護の視点から氏名は削除するが、このデータは現実の児童に1対1で対応していることを認める。』とかなんとか書いて署名して貰って、なおかつ将来に備えて名簿は教育長に保管してもらってはどうだろう?」
「それって、いいかも。まずそれを試してみましょうよ?」
ケントは、マサチューセッツ州の全てのエレメンタリー・スクールの教育長にT2Ksの名前とテッド教授の名前も添えて調査依頼を出した。調査対象児童の条件には「自閉症」という限定せずに、その症状を記述し健全な児童を含まないこととし、ただしロシア系移民の児童は全員対象にしてほしいという条件で。
2036年3月当初
ケントは州内の教育長を訪ねまわり、説得を繰り返すスケジュールにはまり込んだ。100名の被験者がまとまる度に、カレンに引き渡し、インタビューと遺伝子調査を行い続ける、2ヶ月が過ぎた。
「カレン、今日は昼食一緒にどう?
データが少し貯まったから次のステップ、相談しよう。
STEMのそばの寿司でもどう?」
「いいわね、私も、この辺でゆっくり相談したいと思っていたの。」
「こないだ、MITでの同期の日本人がマンハッタンに社用で来て、寿司をご馳走になっちゃった。初めて、だったけど、生の魚があんなに美味しいと思わなかったよ。それで今日は寿司を提案。」
「私、箸、使えるわよ。私も学生の時、日本人の留学生から、箸で豆をつかむのを教わった。」
「やってみて、このマグロの握り掴んでみて。」
「やっぱり無理。」
「インドからの留学生が『食べ方も、味のうち』と言っていたのを思い出すな。彼はカレーを指で摘んで食べていた。寿司も元々は手でつかむそうだよ。狭いようで、世界は広い、知らないことばかり、
ロシアの子供を思うと、どんな国で、どんな両親にどんなふうに育てられたのか、何かにつけて思いがそこに飛ぶんだよな。」
「私も、何がロシアにあったのか未だわからないけど、あの子達が被害者であることに間違いはないわね。」
「昔あった、ロボトミーみたいな話が、ロシアにあってもおかしくないし、我々はそういった過去の勢力と戦う事になるのだろうか。」
「私も同じことを考えていたの。エビデンスがないことだけど、ロシアで何かがあって、子供達が被害に遭って。何かの事情で3年くらい遅れて他国でも被害が出ている。という仮説には、その土台として合理性があると思うの?」
「テッド教授のレポートにあった『人為的』という言葉は、当たっていて欲しくないけど、、、、
さっき言った同期の日本人から聞いたけど、マンハッタンの寿司は、東京の寿司屋より美味しいって。東京の市場で仕入れたものを空輸するんだって。旨いわけだ。高いけど、、
ロシアでどんな事が起こり得たのか、推論を立ててゆこう。」
「注目すべきは、それぞれの移民の子供達のルートと、ロシアとの関係だと思うの。遺伝子に変異のあった子には可能な限り両親とのインタビューをして、移住の時期とルートを確認することをスケジュールに組み込むわ。」
3月末
ようやく、遺伝子異常の児童が、初期の調査を含めて150になった。予定通り100を超えた段階で、財団とHHSには、定期報告を開始した。
4月末には、更に100を積み上げ第2回の報告をすることができた。今回は、ロシア系移民の児童が他の児童と明確な違いと言っても意味のある結果がみえ、報告書にはその観察事実も添えた。
その見えた結果とは、ロシア系移民の児童は100%を調査対象にした結果、
第1の明確な事実はロシア系移民の児童の100%が遺伝子障害を持つことだ。
第2は、ロシア系児童の遺伝子障害者は、9歳以下であり、その他の児童は7歳以下である。
このことから、T2Ksは、事実を整理し、その事実に基づく1つの独自の仮説をまとめて、HHSと財団向けの報告書に添付した。
確認された事実
1、概ね2026年以降にロシアで誕生した児童は全員遺伝子障害を発症している。
2、ロシア以外の国においては、2028年以降に誕生した児童の一部に遺伝子障害が見られる。
3、この遺伝子障害は、脳の発達期に障害をもたらし、更なる確認が必要であるが「好奇心の醸成を阻むものと」と想定すべきであり、その結果想定される個人の障害は日常生活にはほとんど影響は見られず、好奇心が非常に少ない人格となる、と考えられる。このことは探究心の低下も想定され、疑問を持つ、多方面に渡り新たなアイディアを創出事ができなくなると思われる。(テッド教授)
4、この遺伝子障害は、過去に報告の無い障害であり広いエリアに、2026年以降何らかの方法(人工的である可能性が考えられる。)で広く伝染し始めたと考えるべき、状態にある。(テッド教授)
5、ウイルスを利用したDNAの書き換えという研究分野は既にある。(テッド教授)
想定される仮説
1、この障害の伝染は未発見であるが遺伝子の特定の箇所を書き換える伝染性のウイルスによるものである可能性がある。
2、2026年経済崩壊したロシアは、政権が経済崩壊を乗り越えようとしている時期に実行に移され、ロシアの経済崩壊でロシア国内から、海外への脱出をした移民を経由して伝染・流行した。
仮説に基づいて今後予想するべきこと
1、多国籍の患者が既に多数でていることから、これがウイルスによる感染であれば、このウイルスの感染力は無視できるものでない。
2、上記の仮説が事実であれば、そのウイルスは、感染しても風邪や頭痛などの自覚症状が全くないウイルスであることが発見を遅らせている原因になっており、放置することは人類の明確な危機になると考えるべきである。
200の症例ではあったが、この報告は非常に強いメッセージであり、5月7日、財団はともかく、いきなりNSA(国家安全保障局)からケントに事情を聞きたいという命令に近い要求があった。
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