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連載17:過ぎ越し〈聖金曜日のゲッセマネ〉5-3

マークス神父と「また煌堂で」

受難の始まり/聖週間2020

5-3 過ぎ越し〈聖金曜日のゲッセマネ〉

 コロナ禍が日本に伝播して間もない春4月。
 2020年、聖木曜日の夜。
 全く眠れない長い時間、一晩中、夜が明けるまで、マークス神父は寝床の中で、主キリストとともにいた。

 ジョー・マークスは祈りの人であった。

 彼の祈りはBeingであった。
 彼にとって、祈りはDoingではなかった。

 あるがままの自分を正直に開き、神にそのまま差し出し、神の愛の中で呼吸をしながら、神に生かされ、神とともに在ること(Being)。
 それがマークス神父の祈りであった。

 もちろん例えば、神の言葉を聴いて黙想し、神を賛美し、神に感謝し、自ら悔い改め、懇願し、…そういったことも、確かに祈りの中に含まれはした。それら「も」必要である。軽視されるべきではない。
 しかし、ジョーにとって、いずれも祈りの一部分でしかなかった。

 修道者であった彼は、毎朝三時に起床し、神の御前に座した。
 時間の「長さ」が大事なのではなかった。

 愛である神の御前で、自身の全身全霊を賭けて、神のうちに、神のために、神とともに、神によって在る、その神との関係性を深めること。
 それこそがジョーにとっての祈りであり、それが彼の祈りの全てであった。

 マークス神父の祈り、それは、愛である方の御前にただ在り、ともに在ること(Being)であった。
 彼にとって、何かすること(Doing)は、Beingから波及して自ずと現れ出るものであった。

 嗚咽し、全身を震わせて捧げた聖木曜日の夕ミサ後、ジョーは「マークスのゲッセマネ」と自ら名づけたその寝床の中で、ただただ主とともにいた。
 聖金曜日の朝を迎えようとする暗闇の中で、ずっと、ゲッセマネで血の汗を滴らせて祈る主イエス・キリストとともに、彼もそこにいた。

 あの年あの時のジョー・マークス神父の「Beingの祈り」は、何らかの事情で眠れない夜を悶々と過ごしている世界中の人々を、今も、時空を超えて、きっと今も、主とともに支えているのだろうと、私は思っている。

 一夜明けた朝、聖金曜日であった。
 タブレット越しのジョーは、疲れきっているようには見えたが、とても穏やかな顔をしていた。

 カトリック教会の聖金曜日、すなわち「主の受難の金曜日」の典礼は、通常のミサとは一線を画すものである。

 祭壇は布もロウソクも取り払われ、祭壇前の生花も前夜(聖木曜日)のうちに片づけられる。

 入祭の歌はなく、司式司祭は床にひれ伏すかひざまずき、沈黙の後に集会祈願に入る。

 「ことばの典礼」では、「主の僕(しもべ)の苦難」として知られるイザヤ書(52:13〜53:12)と、「救いはキリストのただ一度の贖罪によって成就された」というヘブライ書(4:14-16、5:7-9)、ヨハネ福音書の受難箇所(18:1~19:42)が朗読される。

 そして、説教の後に、全教会・全人類のために、荘厳な共同祈願が捧げられる。

 次に、キリストの十字架が高々と掲げられ、信徒たちはそれを仰ぎ見て崇敬を表明する。

 その後、すぐに「交わりの儀」に移る。
 通常のミサのような「感謝の典礼」はない。
 そもそもミサは「主の過ぎ越しを記念する祭儀」であって、聖金曜日の受難はまだ過ぎ越しの真っ只中だからである。

 信徒たちは、聖木曜日の典礼で聖別された聖体を拝領する。

 拝領後は祈願が捧げられ、誰もが沈黙のうちに帰路に着く。

 これが例年の聖金曜日である。
 けれども、この年は前夜と同様に、人々はインターネット配信されたライブ映像を介して、典礼に一致した。※※

 マークス神父も、この日ばかりはリモートミサを行わず、私たちはタブレット越しのバーチャル聖堂「煌堂」で、聖金曜日の典礼箇所を朗読し、互いに祈りを分かち合って過ごした。


文中※※↓↓関連記事:聖金曜日・主の受難

2020年4月10日付「東京教区からのお知らせ」より


mikageです:

コロナ禍中に
恩師マークス神父(仮名)と過ごした
バーチャル聖堂「煌堂」での祈りの日々を
連載で綴っています。

(たまに単発で短編を挟むことがあります)

更新は不定期です。
1話ごと、祈りの中で言葉を紡いでおります。
気長にお付き合いくださいませ。

なお、本作は実話録ではありますが、
主人公はじめ登場人物・組織名等は、
(少なくとも当面は)仮称を用います。

読者の皆様には、ジョー・マークスを、
世間的な「肩書き」や、修道会・教会という組織の名称とは切り離された、ただ「神の御前に何ものでもない、一人の無名の老人」として、受け取っていただきたいと望んでおります。

また、記事は事実をベースとしつつ、
一部の出来事や時系列などに、再構成や脚色を含みます。

続き(連載18)はこちら↓

本記事(5-3)「過ぎ越し」の
(5-1)はこちら↓

連載の第1回はこちら↓

単発短編はこちら↓

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今後ともよろしくお願いいたします。

目を留めてくださるお一人おひとりに
祝福を祈りつつ…
mikage

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