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【短編小説】平将門と伝説③〜旅行計画〜

「ていうかさ」

 鈴虫の声を聞きながら、大学の共有スペースで作業していた聡は、げんなりして呟く。

「今時、資料づくりがこんなアナログなのってどうかと思う」

「そう? こんなんもありやと思うけどな。うちら、史料ありきの学部やん? 全部が全部パソコンで、っていうわけにもいかへんよ」

 向かいで、コピーした資料を切り貼りしている同じゼミの美南が笑って言った。

「そうだけど、何もこんなにチョキチョキぺったんやらなくても」

「まあ、膨大な資料から抜粋して載せようとすると、意外とこっちの方が早かったりするんよね。⋯⋯それにしても」

 美南が手にしていた資料のコピーを見ながら首を傾げる。

「やっぱり不思議なんよね。どこから蜂の話、出てきたんやろ」

「それな。『執金剛神像の一部が蜂となって、平将門の首を刺しに行った』とか面白すぎる」

「そやけど、東大寺関連の伝説としてしっかり残っとるんよね。東大寺には、実家に居る時何回か行ったけど、そんな伝説知らんかったからなあ」

 せっかく行ったのに惜しいことした、と美南は残念がった。
 聡は腕組みをして唸る。

「その伝説を発表に使うとしても、どういう方向に話を持っていくか、だよな」

「うーん、そうやねぇ。この本には、蜂が将門を刺し殺したとか、刺した蜂が将門に斬られたから執金剛神像も欠損した、みたいなことが書かれとうけど、さすがにそれはないよねぇ」

「いや、案外本当かもよ? ⋯⋯と言いたいところだけど、たぶん仏教説話的な感じで、ありがたさを説くためにそうなってるんだろうな」

 聡は冗談っぽくにやっと笑って言った後、苦笑してそう付け加えた。美南も肩をすくめて同意する。

「平将門、最期はどこで討たれたんだっけ」

「えーっと、討たれた場所は今の茨城県らしいんやけど、首塚については諸説あるみたい」

 聡が聞くと、美南が資料を見て言った。

「首塚は東京と、埼玉にもあるんやって」

「へえ」

「東京の方は、京都で晒されとった首が飛んでいって、力尽きた場所とされとるらしい」

「首、飛んでいったんだ⋯⋯。故郷に帰りたかったのかな。それか、やっぱり怨念か」

「そうやね⋯⋯。平将門に限らず、斬られた首にまつわる伝説ってけっこう多い気がする」

「たしかに。他の人物の首も、飛んだり噛みついたり、追いかけたり重くなったりした伝説があるらしいしな。そこに着目してみてもいいかも」

 二人は顔を見合わせて頷いた。

「埼玉の方は?」

「討たれた将門を、彼の愛馬が浄誓寺っていう所までくわえて運び、村人か家来が埋葬したっていう伝説があるんやって」

「悲しいのは同じだけど、怨念の首飛びよりは、ちょっとしんみり系だな」

「馬ちゃん⋯⋯きっと主従の深い絆があったんやね⋯⋯」

 極度に涙もろい美南の瞳が潤む。それを見た聡は視線を彷徨わせ、スマホを操作しながら「そ、それでいうとさ!」と声のトーンを上げて言った。

「愛馬が、とか、村人か家来が埋葬してくれた、って伝説があるのはさ。やっぱり、東国の人の中には慕ってた人もいるってことの証のような気がするよな」

「ぐすっ、たしかに。平将門って、一般的には乱を起こした朝敵やから、さっきの蜂の話とか、怨念が、みたいなことになりがちやけど。そこについても、もう少し調べたいかも」

 美南は鼻をすすりながらも、ノートにメモを書き込み始める。

「そういえば明智光秀も、自分の領地ではもちろん英雄で、山一つ越したら憎むべき敵とされたりするとか聞くもんな。立場によって英雄か鬼か、捉え方が変わるんだろうな」

「それ! まさにそう!」

 発表で使えそう、と美南が呟きながらペンを動かすのを見つつ、聡はあえて軽く聞こえるように意識しながら口を開いた。

「行ってみる? 首塚。埼玉のほう」

「え?」

「いやほら、俺らフィールドワークも大事だし。ここ、近くに平将門の最期に由来があるとされる『赤木』っていう所もあるって」

 それに、と聡はスマホ画面を美南に見せる。

「今の季節、こんなにきれいな曼珠沙華が見られるらしいし」

 SNSに投稿された、辺り一面を覆い尽くす真っ赤な曼珠沙華の画像が美南の視界に飛び込んできた。

「きれい! 行ってみたい!」

 涙が引っ込み、満面の笑みに変わった美南が、画像をよく見ようと身を乗り出してくる。
 近くなった距離に、聡はドギマギして頬が熱くなるのを感じた。

「これ、地名、なんて読むんやろ」

「『幸手』と書いて、『さって』と読むらしい」

「そうなんや! 『幸』の文字が入っている地名、素敵やわ。文学部所属として、一発で読めへんかったんはちょっと悔しいけど」

 聡は、笑う美南が乗り気に見えて、嬉しさから勢いよく言葉を紡ぐ。

「あとさ、坂が少なくて、自転車もスイスイ乗れるらしいよ。散策とか、サイクリングもしやすそうだね」

「それ、ポイント高い! うちの地元とか、坂ばっかりでしんどいもん」

「実家、兵庫の神戸だっけ?」

「そう。急勾配やし、あんまり自転車に乗る人おらんかも。電動付きやないと、坂道とか上れへんしなー」

 で、あと誰に声掛ける? と体を元の位置に戻した美南に言われた聡は、ピシリと固まった。

「⋯⋯え、いや、あの」

「うん? どうしたん?」

「おれ、は、その⋯⋯二人で行こう、って言ったつもりで⋯⋯」

「⋯⋯あっ、えっ、ああ!」

 双方、落ち着かずモジモジしてしまう。気まずさを打ち消そうと、聡は視線をそらしながら慌てて言った。

「いやでも、考えてみたら資料作るためだし、他のやつらにも声掛けた方が」

「⋯⋯ええよ、行こ」

「え?」

 幻聴が聞こえた気がして、聡は視線をゆっくり美南に戻す。頬を赤らめて、こちらをじっと見る美南がいた。

「二人で一緒に、行こ。で、首塚も曼珠沙華も見て、それで⋯⋯」

「え、いいの? やった!」

 二人で照れながら笑い合う。

「それでさ、さっき坂が少ないって言ったけど、曼珠沙華が見られる権現堂公園には、『おもいで坂』っていうのがあるらしくて⋯⋯」

 資料のことなどそっちのけで、旅行計画の話が弾む。

 二人の旅路は、ようやく始まったばかりだ。


おかわり投稿第三弾。
第二弾の最後で登場した二人の前日譚です。

こちらの企画に参加しております。

こちらの企画に初投稿したものと、おかわり投稿第一弾・第二弾はこちらから。

幸手市に行ってみたいなあ、という気持ちを込めて書いてみました。半分、自分の旅行計画みたいになりました。

蜂の話は、東大寺三月堂の執金剛神像にまつわる伝説です。ここから、前作の蜂くんが誕生しました。執金剛神立像については、12月に公開の日があるようです。

奈良に比較的行きやすそうで、坂道が多い街、ということで、美南の地元を神戸にしました。そして、神戸弁の描写にもチャレンジ。「〜しとる」「〜しとう」など。方言を文字に起こすの難しい⋯⋯。


歴史について、また幸手市について深い見識があるわけではありませんので、素人の挑戦だと、温かく見守っていただけると幸いです。

神戸弁が不自然であるとか、その他誤り等あればそっと教えてくださいませ。

各エピソードは、こちらを参考にさせていただきました。


画像は、みんなのフォトギャラリーからお借りしました。

#幸手権現堂秋祭り