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包括的核実験禁止条約
CTBT|Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty
採択|1996年9月10日
署名開放|1996年9月24日
日本署名|1996年9月24日
日本批准|1997年7月8日
状態|未発効
核兵器の開発を、「核爆発そのもの」を禁止することで制約する
1945年7月16日、アメリカがニューメキシコ州で実施した Trinity から、人類の核実験の歴史が始まりアメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国などが核実験を繰り返した。
核実験は、核兵器が実際に作動することを確認するだけではない。
新しい核弾頭の開発、兵器性能の確認、核兵器国としての能力の実証にも利用されてきた。
1963年には PTBT( 部分的核実験禁止条約 )によって、地下核実験を除く、大気圏内・宇宙空間・水中での核実験が禁止された。
その残された領域まで含め、「 場所を問わず、核兵器の実験的爆発およびその他の核爆発を禁止する 」ために作られたのが、CTBT 包括的核実験禁止条約 である。
CTBT には、極めて特徴的な現実がある。
1996年に成立したにもかかわらず、現在も条約そのものは発効していない。
それでも世界には、核実験を監視する巨大な国際システムがすでに構築され、24時間観測を続けている。
CTBT は、「 条約が発効していないのに、そのために作られた制度はすでに世界を監視している 」という、国際安全保障制度の特殊な事例でもある。
1945年 核実験の始まり
1945年7月16日、アメリカは マンハッタン計画 によって開発したプルトニウム型原子爆弾をニューメキシコ州で爆発させた。
さらに核兵器は原子爆弾から、より大きな爆発力を持つ水素爆弾へ発展、冷戦 の進行とともに、核実験は 核兵器開発競争 の一部となっていった。
大気圏核実験
初期の核実験の多くは、大気圏内で実施された。
しかし大気圏内核実験では、放射性物質が大気中へ放出され、放射性降下物 Fallout は国境を越えて拡散する。
1954年3月1日、アメリカはビキニ環礁で水爆実験 Castle Bravo を実施し、予想を大きく上回る爆発規模となり、周辺地域に大量の放射性降下物が広がり、日本の マグロ漁船第五福竜丸 も被曝した。
1963年 PTBT
1963年8月5日、Partial Test Ban Treaty|PTBT 部分的核実験禁止条約 がモスクワで署名された。
PTBTによって、大気圏内・宇宙空間・水中 での核爆発は禁止された。
しかし、地下で放射性物質が領域外へ拡散しない条件であれば、核実験を継続することが可能だった。
なぜ地下核実験まで禁止するのか
地下核実験は、大気圏内核実験と比較すれば放射性物質を外部へ拡散させにくい。
しかし、地下核実験を許容したままでは、核兵器の改良・開発を実際の核爆発によって検証する経路 が残るため、核実験禁止の対象を地下まで広げる構想が長年議論されることになる。
NPTとの接続
1968年には、NPT|核兵器不拡散条約 が署名開放された。
NPT は、核不拡散・核軍縮・原子力の平和利用 を三本柱とする。
NPT = 核兵器をめぐる世界的な基本制度
CTBT = 核爆発実験を禁止する制度
核兵器を持つ国を増やさない、核軍縮を進める。
そして核兵器開発・改良に利用される核爆発実験を禁止する。
冷戦終結
包括的核実験禁止 については、冷戦中 から長期間にわたって議論されていたが、米ソ対立と検証技術などの問題によって実現には至らなかった。
大きな環境変化となったのが、冷戦 の終結である。
1990年代には 核軍縮・軍備管理 をさらに進める国際的な動きが強まり、包括的核実験禁止条約 の交渉も本格化する。
1996年 CTBT
CTBT 交渉はジュネーブの 軍縮会議( Conference on Disarmament )で進められた。
しかし最終的に、軍縮会議では全会一致による採択に至らなかった。
そこで条約案は 国連総会 へ提出される。
1996年9月10日、国連総会は CTBT を採択、同年9月24日、条約は署名のため開放された。
アメリカのビル・クリントン大統領が最初に署名し、多数の国々が続いた。
日本も同日に署名している。
何を禁止したのか
CTBT 第1条は、締約国に対して、核兵器の実験的爆発 および その他の核爆発 を実施しないことを義務づける。
自国の管轄・管理下にある場所で核爆発が行われることを禁止・防止する。
ここが「 Partial = 部分的 」だった PTBT と、「 Comprehensive = 包括的 」である CTBT の決定的な違いである。
どうやって核実験を見つけるのか
条約で禁止しても、秘密裏に地下核実験を行われれば意味がない。
そこでCTBTには、大規模な国際監視制度が組み込まれた。
International Monitoring System|IMS 国際監視制度 である。
世界各地に監視施設を配置し、核爆発に伴って発生する複数種類の物理現象を観測する。
地震波監視
地下核実験では、爆発によって地面に強い振動が発生する。
そこで利用されるのが、Seismic Monitoring|地震波監視 である。
世界各地の地震観測所によって地面の振動を検出する。
水中音響監視
海中で大規模な爆発が発生すると、音波が海中を長距離伝播する。
これを検出するのが、Hydroacoustic Monitoring|水中音響監視 である。
海底や島嶼に設置された観測設備によって、海中を伝わる音響信号を監視。
微気圧振動監視
大気中の大規模爆発は、人間には聞こえない低周波の音波 Infrasoundを発生させる。
そこで、Infrasound Monitoring|微気圧振動監視 によって、大気中を伝わる低周波を観測する。
放射性核種監視
そこで世界各地で大気を採取し、Radionuclide Monitoring|放射性核種監視 を行う。
特定の放射性同位体や放射性希ガスなどを検出することで、観測された爆発が核爆発だった可能性 を確認する重要な証拠になる。
世界を覆う監視ネットワーク
CTBT の国際監視制度は、完成時には世界各地の337施設から構成される設計になっている。
観測データはウィーンにある、International Data Centre|IDC 国際データセンター へ送られ、そこで世界各地から集まったデータが処理・分析され、CTBT 署名国へ提供される。
CTBTO準備委員会
CTBT はまだ発効していないため、正式な 包括的核実験禁止条約機関( CTBTO )も、条約上の組織としてはまだ発足していない。
現在活動しているのは、Preparatory Commission for the Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty Organization CTBTO準備委員会 である。
本部はオーストリア・ウィーン、CTBT 発効に備えて、国際監視制度の構築
データ収集・検証技術の開発・各国との協力 などを行っている。
なぜまだ発効していないのか
CTBT 最大の特徴がここにある。
条約は1996年に採択され、多数の国が署名し、批准している。
CTBT では、通常の国際条約より厳しい発効条件が設定された。
条約交渉当時、原子力研究炉や原子力発電能力を持つなど、軍縮会議に参加していた特定の 44か国 Annex 2 States すべての批准が必要とされた。
発効を止めている国々
Annex 2の44か国のうち、現在もCTBT発効に必要な手続きを完了していない国( United States・China・India・Pakistan・North Korea )が存在。
さらにロシアは2000年に批准したが、2023年に批准を撤回した。
核実験を実際に行う能力を持つ国家を制度に参加させなければ意味が弱くなるが、その国家すべての同意を発効条件にすると、条約そのものが発効できなくなる。
それでも核実験は大幅に減った
CTBT は未発効である。
しかし1996年以降、核実験を取り巻く状況は大きく変化した。
1998年にはインドとパキスタンが核実験を実施。
北朝鮮は2006年以降、複数回の地下核実験を実施。
核実験を監視する技術的制度 と、核爆発実験を行わないという国際的規範
の形成には大きく関与している。
日本とCTBT
日本は1996年9月24日、CTBT へ署名し、1997年7月8日に批准。
日本は CTBT の早期発効を継続して支持している。
また日本国内には、CTBT 国際監視制度に接続する複数の観測施設が設置されている。
日本は唯一の 戦争被爆国 として 核軍縮を外交政策の重要な要素 としてきた一方、日米安全保障体制の下でアメリカの拡大抑止にも依存している。
核実験を「見えなくさせない」
核実験を禁止するという理念だけでは、秘密の核実験を止めることはできなず、重要なのは、違反を確認できること である。
CTBT が構築した国際監視制度は、地震・海中音響・大気中の低周波・放射性物質 という地球そのものを利用して核爆発を検出する。
CTBT の本質は、核実験を禁止すると宣言したことだけではない。
核爆発を世界のどこかで行っても、それを国際社会から隠すことを難しくする仕組みを作ったこと。
ここに、CTBT が Security 制度 として持つ大きな意味がある。
Archive Point
CTBT の役割は、「 核爆発によって核兵器を実験する 」という行為を世界規模で禁止し、それを検証可能にすること。
条約は現在も発効していないが、世界各地には地震波、水中音響、微気圧振動、放射性核種を観測する監視網が構築され、核爆発を監視し続けている。
禁止するという理念だけでなく、違反を発見する仕組みまで作る。
CTBT は、宣言と検証を接続することで核兵器を制約しようとした 国際Security制度 である。

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