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神のデス・ギフト-F- 第8話 塩と酵母の密室で—再発か?社畜現象が発酵する音がした

これは、神から贈られた“死にかけるほどのギフト”の開封記録。
酵母のように静かに膨らみ、腐敗と紙一重の温度で、俺の魂を発酵させていく恐怖の実話。

今までの神のデスギフトの”もくじ”はこちら

謎の会社の人生最恐の悪魔の扉

60歳手前の覇気がない爺さんが何も言わず歩いていく。
その丸まった背中には、過去の失敗も苦悩も蒸れたカエルのように湿って貼りついていた。
まるで八の字を書いたような額のしわが印象的なくらい男だ。

八の字「おーい、こっちに来て」

力なく八の字は俺を呼ぶ。
俺は、この会社が何なのか、それすら分からない。
分からないのに、面接の部屋へ手招きされている。

心「なんか、おっさん。かったるそうにしてるけど大丈夫なの?」

この会社の志望動機を聞かれても何も言えない。
恐る恐る奥の小さな部屋に入った。
俺は、『怖い』と思った。

心「今までに無い感覚だ…」

ゆっくり入り驚愕した。
中には70代くらいの肌艶がいいバランスの悪い爺さんと、標準で怒り顔の50代のおっさんもいる。

俺「失礼します」
心「えぇー、終わったな」

楕円のテーブルに着かされ、俺はしょんぼりしてきた。
しかし、今までの社畜魂の矜持がそれを許さなかった。

心「こうなりゃ、思いっきし面接してやる!」

俺の目が鋭さを増し、意識が戻ってくる。
落ちても喜べる様に、思いっきり嫌われてもいい。

心「まずは話を聞こうじゃないか」

はじめて入った部屋は配置も含め不安要素が多い。
知らない人に囲まれるのも不安が多い。
ここがどこで、なんの会社か分からないのも不安が多い。

しかし、俺は無職だ。

今までまともな会社で働いたことは無いが、無職でいるわけにもいかない。
もしかしたら『有り』な会社かもしれない。
俺がこの会社を採用してやるくらいの懐で迎え入れてもいいじゃないか。

状況がわからないだけに、決定打がなく揺れに揺れる俺の精神。

この謎の密室で俺の酵母に大量の食塩がぶち込まれていくのを実感した。
食塩は俺の細胞から水分を絞り取り、
代わりに塩辛い現実だけを染み込ませてくる。
脳の血液の濃度が濃くなり、血圧が上がっている現実がそこにはあった。

俺のメンタルが整ったと同時に、
70代くらいの肌艶がいいバランスの悪い爺さんが話し始めた。

肌艶「ここUの下請けなの。俺はUの株主の会社からの天下り社長」

俺「はぁ」
心「なんだよー。いきなり面倒くさいなー。うなずくしかないよ」

肌艶「この会社の20代、この前サクっと辞めちゃったから」

俺「はい」
心「うぉぉぉ、コエー」

標準で怒り顔の50代のおっさんも話に混ざる。
もちろん八の字も。

怒り顔「そんな時、経験者がUに電話かけたの聞いたんだよ」

八の字「この会社何してる会社か分かる」

俺「申し訳ないですが、ちゃんとわかっていません」

普通じゃない。普通の面接じゃない。普通の社会ではない。
この発酵室は見たことのない微生物を独自に増殖させている。
寒気と悪寒が同時に襲い、まるでインフルエンザの様な体調になった。

肌艶「採用!」

俺は、この会社に採用されることになってしまった。

俺「へ?」
心「いや、まだ、返事はしていない。まだだ言いたいことが言えてない!」

左から「八の字」「艶肌」「怒り顔」。面接が不安で困る俺

面接で俺が聞く番。もう失敗したくない。

勝手に『結果・採用』と言われたが俺は言いたい事を言えていない。
まだ、ほぼ全容が掴めていない。

不採用になった方が幸せということもある。
俺の今までの経験がそれを即座に察知した。

俺「お待ちください。私から数点聞きたいことがあります」

艶肌「いいだろう。何?」

俺「この会社の人は、挨拶ができますか?」

3人が目を見つめあって5秒ほどの無言が続く。
今までのヤバい会社の人たちは挨拶が全くできなかったのだ。

艶肌「ちゃんとかどうかわからないけど、挨拶はできるよ」
心「なんかスッキリしないな」

俺「この会社はUの下請けということですが、同業種で近い事をしますか?」

艶肌「Uの会社の一部の部署と同じ仕事をする」
心「なるほど、多少は安心か」

俺「会社の雰囲気はいいですか?ここにいない人の情報も」

艶肌「ここに居ないのは、総務の50代と30代とバイトの40代。あなたの部署に、40代と30代と20代。あなたの部署では、この怒り顔が部長で、八の字が担当部長」

艶肌「雰囲気としては・・・・良い様な気はする、俺あんまりここ居ないし」

俺は最後の答えを聞いて額から酵母の泡がたらりと垂れた。
他の二人の様子を見た。

心「二人とも天井を見て、目が泳いでいるじゃないか!」

これもまた、即決即断の神の罠。
しかし、即決即断は難しい。
どうする。
無職か、早くも地獄臭のする会社に入るか。

心「えぇい!業界に戻れたんだ!やってやる!」

俺は東京タワーの舞台から飛び降りたつもりでこう言った。

俺「よろしくお願いいたします。ぜひ働かせてください」

毎回、突然訪れる面接。
そして、違和感の中での採用通知。
志望動機の薄い俺の心。
神はその気持ちを嘲笑う様にかき混ぜる。

神の作ったシナリオに乗ってしまった時、
その時はすでに降りる方法はない。

俺は後付けでやる気と動機をマインドコントロールで埋めていった。
それが社畜で6社退社した男の矜持。つまりプライドだった。

もう働くしか選択肢がわかなかったため、不足情報を無理に埋めている俺

もう7回目の初出社。緊張より不安しかない

初出社が28歳で7回目か。バイトも含め。
嫌な意味で慣れていた。

俺はあまりの職務経歴の多さに情けなさを感じながらUの子会社UPへ向かった。
Uの前を通り、その15分奥の住宅地に入る道筋だ。
Uを見るたびに、すでに負けメンタルになってしまっているのは気のせいか。

初日なので定時9時30分の5分前に会社に到着した。

ガチャ

俺「おはようございます。本日から働きます。よろしくお願いします」

見たことがない人が数人いる。
肌艶が入っていた人たちか。
10人程度の社員、俺は歳が下から2番目。平均年齢は50歳近辺。

この会社の総務部長が俺の席へ案内する。
総務部長と入っても総務部は部長とバイトの二人だけ。

俺の席に案内された時、隣に太ったオタクがいた。

俺「よろしくお願いします」

オタク「よろしく。俺は主任だから偉いから。辛いだろうけど頑張れよ」

俺「はい。頑張ります」
心「なんだこのスカした太ったオタクは!恐怖しか湧かん」

椅子に座り、見慣れない風景を目に焼き付けながら必要なものを揃える。
パソコン周りも一通り綺麗になり、少しホッとした。
その時!

今まで気づかなかった部屋があった。
クリエイト用の部屋だ。
中から人間の大人が絶対出さない『甲高い大声の奇声』が聞こえた。

?「ヒエーーーイ!」
?「流石、カッコウィーーーイ」
?「ヘイ!ヘイ!ヘーーーイ!」
?「ウェイウェイ、なんだよー肩揉んでやってるのに嫌がって!」

?「あー辞めてください!」

普通の会社ではあり得ない声だ。
この密室で何が行われているんだ。
この会社も発酵室だがさらに二重で発酵室があるなんて。

その部屋から20代の男が飛び出てきた。
まるでピロリ菌に取り憑かれている様な大正時代のイケメンだ。

俺「始めました。よろしくお願いします」

ピロリ菌「あぁ君がきてくれたおかげで、やっと終わる。よろしくね」

流石の地獄と社畜の生活を堪能した俺でも、
今の恐怖のジャンル分けができないでいた。
忙しいでも、難しいでも、どれでもなく、未知の恐怖。

まだ9時40分。
膝がガクガク笑って立てなくなっていたのは覚えている。

心「完全に来るべきではなかったのか?もう遅い?」

ピロリ菌「あの中に入って、中の人に挨拶した方がいいよ。しないと死ぬよ」

絶対に、絶対にアドバイスじゃない。
俺があそこに入るの見てをピロリ菌の目は楽しんでいる。
でも、挨拶は必要だ。

俺は、重い防音ドアを開けて入っていった。
気圧の変化で、俺ごと風が中に吸い込まれていった。

謎の奇声が聞こえる部屋、俺の部署のボスがいるらしいのだが

防音室の中は地獄であり、俺の地獄の始まり

開けた瞬間、あまりのハイテクさに思わず周りを見回した。
最新型のデスクトップマックの端末、ウィンドウズのワークステーション、簡易画像編集として使われている端末もハイスペック。
全てパーテーションで区切られ、窓がなく、仕事に集中できそうだ。

全てが業務用機械で埋め尽くされ、設備投資は怠っていない会社だと一瞬だけ安心した。

しかし、それが見えた。いや、それは居た。見ていた。住んでた。

アラフィフ、頭頂部に髪がなく、両サイドが髪が伸び放題。
体重は100キロほど。前歯がない。5頭身。
メガネは20年くらい前の黒縁。服装はダサ古いネルシャツとチノパン。

しかし、そのハゲサイドは自信を持ってエヘら笑いをしている。
見たこともない蛇を見た時の様に鳥肌が立ち、身動きできなくなった。
カエルの気持ちが痛いほどよくわかった。

心「これ、死ぬフラグ出しすぎだろ神」

ハゲサイド「イエーい!お前何?経験者?東京?舐めんなよ。」

その爬虫類の様な笑顔は、怒りとも喜びともつかない“無目的な加害性”が滲んでいた。
一切の論理もなく、ただそこにある“濁った感情”だけが俺を見下ろしていた。

俺「え?」

ハゲサイド「東京なんて使えねー奴のいる場所だ。一人で何もできねー」

俺「え?」

ハゲサイド「俺はなんでもできる」
ハゲサイド「ちょっとここに座ってみろ」

椅子に座らされ、ハゲサイドは俺の後ろに回った。
そして、肩に両手をかけた。

ハゲサイド「肩もんでやる」

俺「いでででででで!」

全力で親指をめり込ませてきたのである。
つい鋭い視線で振り返って顔を見てしまった。
笑っていた。

ハゲサイド「ケッケッケッケッケ。暴力じゃないよツボ押しだからな」

ハゲサイドはオフィスの部屋へ戻っていった。

俺は、ピロリ菌からハゲサイドのアシスタントを引き継ぐ形になる。
なんて理不尽な会社なのか…

大正時代風イケメンのピロリ菌は俺より歳が1歳下でそっと支え合っていけると思っていたが、完全にハゲサイドの標的にならぬ様としている。

完璧なハゲサイド側の男だ。

どんな事でもピロリ菌は俺を売ってハゲサイドから気に入られようとする。

特にこの会社で身近な部署としてすでに、
『八の字』『ハゲサイド』『オタク』『ピロリ菌』VS『俺』という構図ができていた。

この時代は教育と称しいじめや暴力も多少の意味があれば推奨されていた時代。
我慢するもの、静かに耐えるもの。それは弱きもの。または美徳。
日本がまだ未完成で、『成長のためなら切り捨ても構わない』と本気で思われていた時代。

神は俺にどんな人生を歩ませたいのだろう。
俺は、もう頭蓋骨の中には塩がみっちり詰まっている。
目や耳からは発酵の泡が常に流れ出している。

心「1年。まず1年頑張ってみよう」

神の誘いに乗って、今回初めて神とぶつかろうと決めた。
乗り越えられない壁は来ない。と聞く。

もう雪が振り出し、植物の上にはうっすら積雪がある。
今晩は積もるだろう。
明日は火曜日。
全ては最初の1週間が決め手であり、理想と現実の誤差を少しでも減らすための時間だ。

発酵とは、長期保存するために、あえて微生物に分解を促す行為だ。
腐敗とは、放置して腐らせる全く逆の工程なのだ。

俺という白菜が、
ただ腐って捨てられるんじゃなく、
酸味と塩辛さをまとった“食える何か”として長期保存されるように、
ちゃんとした酵母で発酵させて世に出せることを願う。

そのために必要なのは、折れずに学ぶ姿勢だけだ。

会社Uの下請け会社UPの悪魔の4人との戦いが始まる。

◆次回予告

朝の出社、鍵は閉ざされ入れない。
仕事は教えられず、余計なことはするなと言われる。

俺の心の酵母は混乱し、塩と酸と絶望で発酵していく。

最終手段──
ハゲサイドへの弟子入り。
しかしそれさえ許されず、俺は静かに腐敗していく。

これは発酵か、腐敗か。
地獄はまだ序章だった。

前の話 I 全編もくじ I 次の話

ハゲサイドの恐怖に俺は立ちくらみにあう

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