神のデス・ギフト第5話~俺の脳が泡立った日、寿司とレッドカーペットと偶然の出会い。俺の価値観崩壊の午後
これは、神から贈られた“死にかけるほどのギフト”の開封記録。
やっと旅らしくなってきた。
そう、巨大な巻物兵器と、レッドカーペットの発酵力の実話。

俺は、ロサンゼルスの不良に絡まれた心の鼓動を抑えるために、日本人街のリトルトーキョーに逃げ込んだ。
殺されそうになった直後だ!逃げ足はマッハだった。
そして、
一呼吸おいて落ち着きをとり戻したのち目についた日本料理店へ入り、店員に目的地としてふさわしい場所のアイディアを2~3個もらおうと思っていたところだ。
日本料理といっても、寿司屋。看板メニューがカリフォルニアロールだった。
店内の静けさが、俺の鼓動を吸い取った。
殺風景なレストランで、日本料理というよりは昭和の喫茶店の様な作りだった。
ショーケースにお目当ての異様な巻き寿司があった。
迷わず注文した。
俺は、人生で一番高い寿司を食べた。
しかも、死にかけた直後に。祝いか?
すぐ出てきたが驚いた。
今の時代では普通かもしれないが、海苔巻きなのに、のりを内側でご飯巻きだった。
ご飯は酢飯ではなく、中にはアボカドやエビやチリソースそしてシーチキンがくるまっていた。
寿司というより、アメリカの巻物兵器だった。巨大な大砲だ。
およそ日本人が思う一般的な寿司ではない。少なくとも2005年時点では。
太さがすごい!
直径は5cmくらい、長さは30cmはあると記憶している。
食べてみた。また一つアメリカの旅の思い出ができた。

食の異文化で俺の脳は急速にアメリカの脳へ返還されていった
寿司をカリフォルニアロールをフォークで食べた違和感、そして甘い味覚で味の感想にたどり着けない。
シナプスが迷子になっている。
心「早く思考よ戻れ!」
私は心で強く呼びかけた。
すると脳が反応した!
エビチリソースが甘辛く、エビがシャキシャキ、アボカドがねっとりなのだ。しかも米はパラパラ。
寿司というより、斬新なサラダロールではないか!
先ほどのジャパニーズグリーンティーにこそ合いそうだ。
心「おいおい、おいしいよ。おいしいけど、サラダ巻きって最初から言えばいいじゃん。一致しないよ」
カリフォルニアロールは、寿司の皮をかぶったサラダだった。
俺は疲れていたのと、カリフォルニアロールが食べたかった気持ちで注文したが値段を見ていなかった。
心「!サラダロール1本2800円!(20ドル)」
アメリカの物価の高さを思い知った。
所持金600ドルの俺にとって、20ドルの消費は大きい。
俺の財布は、アメリカの物価に殴られて泣いていた。
だって地下鉄乗るのに1ドルだぞ!
地下鉄1ドル。寿司20ドル。俺の価値観、崩壊寸前。
心「元を取ってやる!情報収集で絶対いいの手に入れる!」
俺は心を強く持って、閑古鳥の鳴く店内の日系2世らしいおばさんの店員に話しかけた。
俺「今日アメリカに来たんです。目的もなく来たので、おすすめの行くところありますか?」
店員「あらそうなの?ラッキーかもしれないわよ」
俺「ラッキーとは?」
店員「明日、ハリウッドで映画のアカデミーショーあるのよ。今リハーサルでレッドカーペット張っているから、レッドカーペット今日だけ歩けると思うよ」
俺は、神に選ばれたのかもしれない。
心「なんと素晴らしいタイミング!こりゃ1年の中で一番いい時にロサンゼルスに来たらしい。」
俺「ありがとう、レッドカーペットの上を歩けるよう、このあと急いでいきます!」

俺は、感謝の気持ちと寿司のおいしさの礼を言い外に出た。
噴水でたばこを吸いながら、
心「さて、どうやってハリウッドに行くんだろう?」
軽く途方に暮れていた。
そんな時、日本語の会話が聞こえてきた。
同じ噴水のふちに座って会話している、明らかに日本人女子2人が楽しそうにしているではないか!
表参道を歩いていそうな清楚な可愛い系のペアだ。ロングヘアーとショートボブがどちらも似合っている。
俺はナンパなど出来ないタイプだが、今は会話が生命線。
俺は、藁が千切れてもつかんでやる、という強い気持ちで話しかける。
「俺、今日初めてロサンゼルスに来たんだ!ハリウッドのアカデミーショーが見たいから行き方を教えてください」
女性たちは顔を見あって回答に困っている。
しかし俺の声が、彼女たちの笑顔に届いた気がした。
明るい2人の表情から回答に不安は感じられなかった。
女子「私たちハリウッドにはこれから行くつもりですけど、アカデミーショーの会場にはいく予定はないの。私たちの目的のメルローズアベニューにいった後だったら寄ってもいいよ」
俺の孤独が、ほどけていった。
俺「ありがたいです」
メルローズアベニューは知らないし聞いたこともない、有名らしい。
私は2つ返事で同行のお願いをし、3人旅のスタートとなった。
二人は、青山学院大学の英文科4年生で卒業旅行で来たらしい。
よって英語はペラペラだった。
ロサンゼルスで右も左もわからない俺には付いていくだけで地の利ができる。
感謝の気持ちでいっぱいだった。
早速、地下鉄の電車を進められ、初の電車に乗ってハリウッドへ向かった。
俺は、まだハリウッドの地図を持っていなかった。
でも、旅は始まっていた。

メルローズアベニューという名の女子受けする雑貨・古着・音楽の商店街
さて、地下鉄の乗り方から切符の買い方まで教えてもらい、ハリウッドへ向かう
俺は観光本で学んでいた。
切符を買うのは簡単だ。どこまで乗っても同じ料金らしい。
俺は、明日以降もこの経験が生きると自信を持った。
そして、本場アメリカの危なそうな地下鉄に乗っている雰囲気にも酔いしれていた。
誰にも絡まれないようカッコつけて電車で乗ること15分くらいだっただろうか。
英語が飛び交う街で、俺の脳はじわじわと発酵していた。
まるで、異文化という酵母に包まれて、俺の価値観が泡立ち始めたようだった。
お目当ての駅に着いた。
駅を出ると、そこは観光地。
爆発するほどの人混みがある!
タイガースやジャイアンツの優勝パレードの様だった。
ガードマンも大勢いる。メンインブラックの様な人が見えるだけで50人。

心「明日は英語が喋れないとこの場所では捕まるな。今日で正解だ」
奥には、あの有名なアカデミーショーの授賞式を行うコダックシアターが神々しくたっていて、明日行われる授賞式に向けて道路は封鎖され美しいレッドカーペットが敷き詰められていた。
カーペットにはビニールがかけられている。当日まで汚さないためだろう。
しかし、ビニールの上なら歩いて良いらしい!
トムハンクスやトムクルーズ、デンゼルワシントンが歩く同じカーペットだ!
心「怒られても何されても歩かなきゃ損だ!」
10mくらい堪能して歩いた。
明らかなるセレブ達が見まわす限り大勢いるその中を歩いたのだ。
みすぼらしい日本人は俺だけだったがここぞとばかり胸を張って歩いた。
スニーカーとジーパンとTシャツなんて俺だけだった。
絨毯の毛は長く3cmくらいあり、ふかふかだった。しかも柔らかい。
心「これが世界の成功者の歩く道か…運が変わりだしてきた気がするなぁ」
俺は、夢にまで見た赤絨毯の上で現実を歩いていた。
現実半分映画の中に入り込んでいる錯覚が始まった。
一つの俺の大きな夢と最高の土産話の経験を得て、俺は、醸造酒のように仕上がっていた。
おっと、女性2人の目的地メルローズアベニューに行かなければ失礼になる。
2人の女性は近くのお土産屋さんでオスカー像のレプリカを買っていた。
合流し3人で歩いていくことにした。
どのほど進んだだろうか。バストと徒歩で30分くらいか。
長かったけど、アメリカの風景を見ながら、英語を話せる仲間といる俺は純粋に風景と空気を満喫した。
脳には透き通ったアメリカの乾いた風が通り脳の発酵はサラサラになっている。

メルローズ通りは本当にオシャレな町だった。当然試練もついてきたのだ。
高い商品などなく、アメリカの西海岸らしい洋服の古着店やCD・レコードの店、カフェやクレープの店などがおよそ100件以上は連続して並んでいたと思う。
古着の店からは、誰かの青春の匂いがした。 レコードの音は、風景のBGMになっていた。 クレープの甘い香りが、俺の疲れた足を引き止めた。
一度端まで歩いて、戻りながら入りたい候補の店に入り女性たちは買い物をする。
女性たちはミックスCDが目的のようだ。
俺も欲しかったが、550ドルしかない俺は目で楽しみ、買い物をしている彼女たちと楽しく会話した。
疲れた時にとある個人経営のカフェに入り、コーヒーを飲んだ。
甘めのコーヒー牛乳のようなものだったが、Mサイズを頼んだら日本のLLくらいの大きさが出てきた!
話も風景も雰囲気も楽しい、喉も乾いていたから飲み切れたが、通常ならどうやって飲むんだろう?
よくよく考えたが、メルローズアベニューにはコンビニはなく、公衆トイレもない。
トイレに行きたくなったらどうするのだろう・・・俺は一抹の不安を覚えた。
トイレがない国って、どうやって生きてるんだ?
俺の膀胱は、アメリカの自由に置き去りにされた。
コーヒーはバケツサイズ。
俺の下腹部は、アメリカに試されていた。
そして飲み終え3人でまたウィンドウショッピングを続ける。
幸せなアメリカ初日だった。
が、やはり来た。
強烈な尿意に襲われたのだ。異国でだ。考える時間も余裕もない。
俺は女子たちに懇願した。
俺「おしっこが爆発しそう。英語でお店の人にお願いしてください」
女子「嫌だよー(笑)せっかく旅に来たんだったら自分でチャレンジ!」
心「くっそーかわいいなー。ドSだな。でもオッケー」
女子「じゃあ、ヒントね。トイレは英語じゃないよ。WCだからウォータークローゼット。行ってきなー」
俺は重要なヒントをもらい自信を持ち、考える余裕もなく店に飛び込み用を足した。
楽しく3人でお目当ての観光と買い物を終え、ハリウッドのアカデミーショー会場に戻ることにした。
どうやら彼女たちはアカデミーショー会場近くのハリウッドスター達が下積み時代必ず寄るという聖地のマクドナルドに行きたかったようだ。
女子「レオナルドディカプリオが座って食べていた席は保存されてて今でも座って食べれるんだよ」
心「なんて、素晴らしい情報だ!当然俺も行きたい!」
このハリウッドで、俺の脳に新たな酵素が入ってきた。まだまだ発酵の余地はありそうだ。
第5話完
次回予告
俺は、ハリウッドのマクドナルドで、 レオナルド・ディカプリオが座ったという席に腰を下ろす。
ポテトの香りが、スターの残像を呼び起こす。この席、まだあったかい気がする…
俺の妄想は、ケチャップより濃かった。
そして翌日俺の旅は、芸術と知性の天然の発酵室へと向かう。
郊外都市パサディナのノートン美術館で、 絵画に語りかけられ、 カリフォルニア大学で、 知の風に吹かれる俺の脳は、 さらに発酵を深めていく。

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