神のデス・ギフト第4話~ロスの空気は、脳の発酵菌に風を通した。異文化の初日。セキュリティの洗礼と、異国の重さ
これは、神から贈られた“死にかけるほどのギフト”の開封記録。異文化の初日。俺は“自由”の国で、自由を疑われた俺の実話。

アメリカの入り口、そう空港での洗礼。その時アメリカは俺を簡単に旅させなかった。
飛行機を降りた俺は、ロサンゼルス空港(LAX)の空気に触れた。
12時間寝ていたせいで、体は軽い。脳は発酵しきって、糸を引いていた。
しかし、現実は発酵を許さない。アメリカは、俺の“菌”を検疫しようとしていた。
早くアメリカの地を踏み、風景を味わい、風を浴び、浸透したかった。気持ちが早っている。
しかし、そんな浮遊感は入国審査の列で一瞬にして崩れた。
「全員、1時間以上かかる」 そう言われた(様に聞こえた)
911のテロから数年。アメリカは、“誰が来たか”を疑う国になっていた。
俺は日本人。
しかも無職。
しかも片道航空券。
しかもホテルはCランク。
荷物はバスケットボール以下。
怪しさしかない。強制送還されるのでは?
だれか否定できるかな?
列に並びながら、俺は自分の“旅の設計”が、アメリカの設計とぶつかっていることに気づいた。
心「今更、やるしかない。ちゃんと話せば・・・?英語が話せない!」
前の外国人が、入国審査官に詰められていた。
審査官「なぜ来た?」
審査官「どこに泊まる?」
審査官「何日いる?」
審査官「帰りのチケットは?」
審査官「パスポートは?」
俺は、全部答えられない。
“旅”は、自由の象徴だったはずなのに、ここでは“計画”がないと通れない。
順番が来た。
俺は、笑顔でパスポートを差し出した。 審査官は無表情だった。
審査官「職業は?」
俺「……今は、無職です」
審査官「なぜ来た?」
俺「旅です」
審査官「どこに泊まる?」
俺「Cランクのホテルです」
審査官「帰りのチケットは?」
俺「……買ってません。現地で買います」
審査官は、俺を見た。 長く、深く、無言で。
俺は、いつ外国に行ってもいいように数年前にパスポートを作っていた。
その時写真の髪形は金髪でひげが無い。
所がこの時の髪形は黒髪で長い。しかも失職してからひげをそっていない。キャップをかぶっている。
なぜこんな風貌か説明すると、できるだけ現地人の様にふるまうことで観光客目当てのアメリカ人につかまりたくなかったからだ。(後でこの風貌は役に立つ)
心「別人じゃないかーーーー。」
汗がにじみ出た。
この沈黙が、怖かった。
しかし、脳が発酵していた俺は、怖さを感じる前に、「外人の顔をまじまじと見るの初めてだなぁ、うぉぉぉ。」となっていた。
審査官は、俺を見た。
長く、深く、無言で。
俺は、整えた。
呼吸を一つ、深く。
俺の心「この沈黙も、俺の旅の一部だ」
入国の条件として、写真を撮る事、指10本の指紋を提出する事が条件の様な言葉を言ったか言わないか、写真を撮られ、指紋を取られた。
審査官「通ってよーーし!」
そしてスタンプが押された。 俺は、アメリカに入国した。
飛行機を出て2時間以上経過していた。

いざ、タクシーで「Cクラス」ホテルへ。
俺の脳は飛行機で12時間寝ていても万全ではなかった。会社を辞めさせられたダメージはまだ旅の序盤では回復しきれない。
適当にタクシーを選びホテル名が書いてある紙を出して運転手に向かってもらった。
車窓を見ながらここが異国であることを痛感しながらだ。
アメリカ第二の都市。ロサンゼルス。あらゆる映画の舞台でもみる本当にあるのかわからない幻の土地。
目に焼き付ける。
恐ろしく高層のビル群。建築デザインも日本とは違う。
歩いている人も、アジア人がいない。
走っている車もシボレーやフォードなどのアメ車が圧倒的。走る車線も右車線。
驚きと、大都会の風景で圧倒されていた。
心「す、す、凄まじい」
感動の中で、ドライバーが話し出した。
どうやらホテルに近いらしい。
とりあえず、旅が一旦セーブされる感覚が感じられ疲れがドッと出てきた。
ドライバー「お客さん、もう直ぐ着くよ。」
ドライバー「ただ、このホテルのエリアはヒスパニックの居住地域。昼も危険で、夜は外に出るな。現地アメリカ人も近づかない」
俺「オッケー」映画みたいだ。
心「観光じゃないんだから、出るでしょ」
この時は、俺は完全にアメリカのメキシコ人を舐めていた。

チェックインから日用品の準備でスーパーへ
ホテルはまるでゾンビ映画で出るようなロビーの作りのおそらく築50年はたっているような作りだった。
入り口を入るとワイン色のじゅうたん張り。大理石の様な壁。
薄暗い巨大なロビーに人がほとんどいない。
左右に2階まで通じる階段。
ゾンビ映画が好きな私は喜びのあまり泡立った。
俺は、最新のホテルではつまらないと思っていたので、この雰囲気は大歓迎だ。
心「いい、古さと不気味感だ!」
フロントでチェックインをしている中で、荷物を運ぶから渡すよう言われた。いわゆるポーターだ。
しかし、俺は言った。
俺「俺の荷物はこのリュックだけだよ。」
荷物の少なさにホテルマンから、
「クレイジーボーイ!!!」
と言われて、新たな勲章だと胸を高鳴らせた。
チェックインはサクッと行き部屋へ。
エレベーターで8階に行き暗い廊下を歩き、重いドアを開けた。
俺「広っろー!、ベッドでっかー!」
アメリカンサイズだった。
浴室をチェック。
まさかとは思ったが、やはりそうだった。
シャワーがちゃんと出ない。蛇口からも半分の水が飛んできた。
いよいよ、この不完全さにワクワクしてきた。
こうでなくては!
飲み物は必須のため、まずは外に出てスーパーを探す。
ホテルから出て左手奥200m先にスーパーマーケットらしき看板が見えた。
初の歩きにはちょうどいい。空気と風景に直に触れ合いながら進んだ。
俺の身長は177cm。日本では俺より大きい人とすれ違うのはほぼなかった。
が、しかし、全員俺より大きくまた胸板・腕の筋肉が日本人のそれより倍はある。
腕だけで、小学生くらいの体積ではないか!
全員重量挙げの選手の様だった。
心「これでは俺が中学生ではないか。しかも幼児体型だ!!」
いいカルチャーショック。これは、実際に行かないとわからない。
早くも貴重な体験をした。
その直後、もっと貴重な体験をスーパーですることになる。
スーパーを一回りしたが、意味のわからないものばかり。英語が読めない。
そのため、希望通りお茶を買いだめしようと思った。
飲み物売り場へ行って、俺は唖然とした。
ペットボトルが無く、全部缶。しかも500ml。ビニールで包んであり16本セット。日本茶は1種類。
これを買うしかないが、持ち手なしの8kg。
異国のアメリカのまだ恐怖感が強い序盤、両手で持って200m歩いて帰れるか?
アホな旅行客だと目をつけられないか?
不安な走馬灯が走るのを無理やり振り払い、根性で購入。
足早にホテルに帰る。
自室に戻り荷物を下ろす。
汗と、息が、吹き出してホッとする。
喉がカラカラだ。
しかし心配は無用。
16本買ったジャパニーズグリーンティーがあるではないか!
ラベルには緑茶と五重塔と桜が書いてある。
良いじゃないか。
俺は砂漠の様な乾きを潤すために一気飲みをした。
心「ゴクゴクゴクゴク!!!!ん?バカな!」
俺は固まった。
違う飲み物を買ったのか?
何を買ったんだ?
ラベルを見る「ジャパニーズグリーンティー」間違いない。ラベルも京都風だ。
もう一度飲む。
間違いない。
この緑茶にはガムシロップが大量に入っていた。
ブラックコーヒーだと思って飲んだら、キャラメルマキアートだった経験はあるだろうか?
まるでその感覚。ドロッとしていた。
喉は、全く潤わなかった。
これが本当に現地でのファーストインプレッション、初衝撃だった。
残った緑茶(らしきジュース)を飲みながら、15本を眺めていた。
俺の脳は、静かにロサンゼルスの菌により脳の発酵が進んでいた。

旅行本しかない俺。ネットなし。情報収集にリトル東京へ
オレはホテルから出て本に書いてある「リトルトーキョー」を目指すことにした。
日本人もしくは日系人の街だ。
まずは現地で日本語でこの旅の目的地を2~3箇所目星を付けたかった。
かなり遠い。
が、地図を見ながらなら簡単だろう。
しかし、ロサンゼルスで観光ホイホイに引っ掛かりカツアゲされては大変だ!オレは暗記して向かうことにした。
オレは方向音痴ではない。実は地図は子供のころから好きで暗記できるほど得意だ。
東京では上野から笹塚まで一度も迷わずに歩いたことがある。
余裕をぶちかましていた俺に、現実の刃が襲い掛かる。
それは、ショートカットなどと迂闊な決断をした俺への神の怒りだった。
マンションや住宅が並ぶ道を通り過ぎるとき、ふと窓が目に入ってきた。
すべての家の1階部分の窓が鉄格子によってふさがれている。
おそらくだが、窓ガラスを割って侵入されないような措置だろう。
すべてと言っていい家が鉄格子になっていた。違和感が襲い掛かる。
いわゆるコンビニ(酒屋か日用品の小売店)を覗き込むとレジの商品を受け渡す部分以外も鉄格子になっている。売り場とカウンターが完全に柵で区切られている。強盗から身を守るための鉄格子なのだろう。
そして驚くべきことに、その店の酒売り場で酒を飲みながら寝ている人がいる!
オレは、ゾワッとした。
脳が自動的に副交感神経から交感神経へ緊急で切り替えた感覚だ。
心「調子に乗っていた!ここはアメリカのロサンゼルスのメキシコ人街だ!タクシーのおやじが言ってたじゃないか」
その時の俺は、甘いジャパニーズグリーンティーを笑った俺ではなかった。
なぜなら、町をよく見ると日陰の部分に何日も風呂に入っていないような人が酒瓶を握りしめが倒れて寝ているからだ。
俺は素直に大通りに戻りリトルトーキョーへの道を進むことにした。
しかし、気付くのが遅かった・・・
俺はすでに、ロサンゼルスのヒップホッパー風の複数人に目を付けられていた。
不良「ヘイ!ジャパニーズ!ジャパニーズ!」
一番背の高い男が近づいてくる。
忘れもしないシカゴ・カブス(MLB)の帽子をかぶった髭が長く整えられた、アフリカ系アメリカ人だ。身長は190cm以上はある。筋肉はもりもりだ。
(なんでドジャースじゃないんだ?と考える余白もなかった)
俺の肩に触り、組んできた。
不良「カモーン」
心「これは映画か!こんなシーン見たことあるぞ!」
映画の様な非常階段やゴミ捨て場がある。
到着初日に早くも絡まれることとなったが、俺の発酵し泡立った脳は現実と映画の違いを認識していない。
いや、恐怖が臨界点を超え思考がお花畑に行っていたのかもしれない。
俺は囲まれた。
間違いなく退路も断たれていた。
何を言われているのかわからないが、理解できる単語はあった「マネー」
不良は手のひらを上げ、親指と残りの指でお札を数えるようなしぐさをしていた。
不良「アーユー、スピーク、イングリッシュ?」
余裕をかましながら、笑顔で質問してきた。
その優しい質問が逆に俺の不安を倍増させた。
俺は0.8秒の間に急いで考えた。
どういえば良いんだ?
英語ができないというべきか。
いや、それは即死亡のフラグだ。
しかし、無言が続くのはそれはそれで危険なフラグな気がする。
ごまかして走って逃げるのも不可能だ。
その0.2秒後に不良が合計1秒の長い沈黙を破ってきたのだ!
不良「ヘイ、ジャパニーズ、マネープリーズ!」
俺の脳が進化を遂げた瞬間だった。
その不良のセリフを逆手に取る反論をすることにしたのだ!
反射神経のレベルでの反論。
ただし、演技では乗り切れない!なり切るしかないのだ!ええい!
俺「ノー!アイ、アム、ノーーース、コリアーーー!」(俺は北朝鮮人だー!)
俺は叫んだ。そして、自信満々に不良の目を見た。
不良たちは、一瞬で引いて行くのが分かったのだ。
この効き目は何なのだ?
不良たちが「オイオイ」と目を見つめあって混乱している。
俺は今しかない!と思い。
俺「グッバーイ!」大声で。
と言い、ゆっくり後ろを向いて、ゆっくり歩き去る。
心「絶対追ってくるなよー、絶対話しかけるなよー」
祈りながら大通りに出るまでの10mが長いの長いの。
どうやら不良たちは状況が理解できないのか誰も動けなくなっていた。
そう。俺は、逃げ出せたのだ。
アメリカ初日にいきなり絡まれ全財産を取られそうになった瞬間に最大の機転を利かせ買ったのだ!

俺はうれしいというより、これからの身の振り方を確認するには十分すぎる経験を噛みしめていた。
アメリカは自由には発酵させてくれない。気を付けなければ。
しばらくは大通りを出てからもその路地が完全にい視界に入らなくなるまで振り返らなかった。
どのくらい歩いただろうか。
リトルトーキョーの入口らしきところに到着した。
思っていたよりリトルトーキョーは小さい集落だった。
中央の噴水の周りにベンチがある。
俺はそこに座り、甘いグリーンティーを飲んでどこに行くか考えた。
しかし、人がまるでいない。
腹も減ったし、目の前の日本料理店に入ることにした。
俺的には日本料理店は不本意だった。
なぜなら、アメリカに旅に来てまで日本料理を食べるのはあり得ないだろうという感覚だ。
例えば、イタリアに旅行に行ってロシア料理を食べるか?
しかし、俺が入った理由は実はメニューにあった。
今(2005年)流行りのカリフォルニアロールの専門店だったからだ。
これは日本料理ではなく、アメリカ料理ではないか!
俺はウキウキして店に入った。
第4話完
次回予告
アメリカの洗礼で脳が泡立ち、 異文化食で五感が再発酵。
味覚、価格、感覚、触覚、計画、すべてが俺を“介して”きた。五感はバグり、感情は再起動。
整えられながら、旅の最大のご褒美「出会い」とともにロサンゼルスの住人になっていく。

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