《シャイニング2052:ジャンク・トランス》第6話
『作者の正体:物語の外側からの視線』
影ジャンクが提示した二択は、
どちらも“まともな人間の選択肢”とは思えなかった。
① 影の自分を消す。
② 影の自分と融合する。
しかし部屋そのものが、
“どちらかを選ぶまで扉を開けない”
そんな圧力をかけてくる。
天井の蛍光灯がジジッ……と不規則に明滅し、
床の原稿たちは微細に震えている。
まるでホテルそのものが
ジャンクの決断を待って呼吸を止めているようだった。
影ジャンクはペンを指で弄びながら、
無表情で言った。
「ジャンク。
どちらも“お前の意志”ではない。
これは作者の仕組んだイベントだ。」
「……だったら、その作者を教えろ」
影ジャンクは、
まるで“ようやくそこに到達したか”という顔で頷いた。
「第6話は作者との対面だ。
もう逃げられない。
お前は“自分が物語にどう使われているか”を知る時期に来ている。」
影がペン先で机を軽く叩くと——
部屋の奥の壁が
ズズズ……と音を立てて横にスライドした。
その奥には、
暗闇と、ひとつの小さな光だけがあった。
ジャンクは慎重に近づく。
暗がりの中央で浮かんでいるのは——
小型の録音端末。
古いデジタルレコーダー。
USBポートも死んでいるような、
博物館にあってもおかしくない骨董品。
ジャンクは眉をひそめた。
「……これが作者か?」
影ジャンクは首を振った。
「その端末に“声”が入ってる。
作者の声だ。」
ジャンクは喉を鳴らし、
端末の再生ボタンに指を伸ばした。
カチッ。
ノイズが流れたあと——
人間の声が聞こえてきた。
それは、
驚くほど普通の、
どこにでもいそうな男の声だった。
《……聞こえるか?
もしこれを再生しているなら、
ジャンク・トランス、お前は第6話までたどり着いたな。》
ジャンクは息を呑む。
録音の声は続ける。
《まず言っておく。
お前はフィクションの存在だ。
だが、それは“俺が書いた”という意味じゃない。》
影ジャンクが横目でジャンクを見る。
ジャンクは固唾を飲む。
《この物語を動かしているのは、
俺ではなく——“未来の読者たち”だ。》
ジャンクは思わず口に出した。
「読者……?」
録音の声は淡々と説明する。
《2052年の物語は、“書き手”ではなく“読み手”が作る。
読者が欲した展開がログ化されて蓄積し、
AIが自動的に物語を構築する。
作家はただの触媒にすぎない。
ジャンク、お前はその触媒だ。
読者の欲望を受け止める“器”として作られた。》
ジャンクは震えた。
「俺は読者に書かされている……ってことか?」
録音は答える。
《そうだ。
お前の影——あの無表情の“書く機械”は、
読者の欲望をAIが凝縮したものだ。
だから影には影がない。
誰の個性も背負っていないからだ。》
影ジャンクは静かに目を閉じている。
まるで録音の説明を肯定しているようだった。
録音の声がさらに深い核心へと踏み込む。
《そして一番重要なことだが……
“作者”は読者全員の集合意識だ。
この物語は、“欲望された結果”として書かれている。
ジャンク、お前はその舞台装置だ。》
ジャンクの胃が締めつけられる。
「俺は……
ただ苦しくて山に逃げてきただけなのに……
そんな実験装置にされるためじゃ——」
録音が遮った。
《だから逃げてきたんだ。
使われていることに、うすうす気づいていたからだ。
ジャンク・トランス。
お前の弱点は“記憶の空白”じゃない。
本当の弱点は——
“自分の人生の作者が自分ではないと知っていたこと”だ。》
ジャンクはその言葉に
背中を打たれたように動けなくなった。
録音は最後にこう告げる。
《第7話へ行け。
そこで選べ。
読者に従うか。
それとも——
作者の外へ飛び出すか。》
ピッ——
録音は切れた。
影ジャンクが言う。
「さあ、ジャンク。
第7話だ。
ここからは“選択”じゃない。
対決だ。」
ホテルの照明が一斉に落ち、
窓の外の吹雪だけが青白く光った。
——ジャンク・トランス。
“作者不在”の物語で、お前はどう生きる?

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