12|『判断ルーム』🧠
『深層行動SF 脳の地形図』(全22話のもくじへ)
— 脳が結論を出す前に立ち寄る所
その部屋は、決断の一歩手前に存在していた。
私はそこを「判断ルーム」と呼ぶことにした。
部屋は狭く、小さな机がひとつ。
机の上には、選択肢が紙のように並んでいる。
どれも見覚えのないデザインなのに、
すべて“私が今から悩む予定の選択肢”だった。
すると部屋の奥から声がした。
「あなたの脳が、ここで“試しに選んでいる”んですよ。」
声の主は姿を持たず、
代わりに部屋全体がかすかに震えて応えた。
「試しに?」
「ええ。
人間の脳は結論を出す前に、
水面下で何百回も“仮の選択”をしています。
ここはその“予備選択”の倉庫です。」
机に並ぶ紙をよく見ると、
“捨てられた選択肢”だけが淡い灰色で透けていた。
「こんなに捨ててるのか…」
「そうしないと“あなたらしい判断”になりません。
取捨選択とは“自分という存在を形づくる作業”ですからね。」
私は思わず笑ってしまった。
自分の脳がここまで影で働いていたとは知らなかった。
すると部屋の空気が、ふっと軽くなった。
「では、そろそろ戻りましょう。
本番の選択をする時間です。」
次の瞬間、私は現実に戻っていた。
目の前には本物の選択肢がある。
だが迷いは一瞬で消えた。
判断ルームで“何度も選んで捨ててきた”記憶が、
静かに背中を押したからだ。
私はボタンを押した。
その選択は、不思議なくらい自然だった。
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