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14|『無意識の交通管制塔』🛰️

『深層行動SF 脳の地形図』(全22話のもくじへ)

— 脳は同時にいくつの行動を捌いているのか

手を洗いながら、
夕飯の献立を考えて、
さらに頭の片隅で今日のメールの返信を思い出している。

“同時に三つも考えてる。
私の脳、どうなってるんだろう?”

そう思った瞬間、
周囲の風景が薄い光に溶け、
私は巨大な塔の内部へ立っていた。

そこは “無意識の交通管制塔” と呼ばれる場所だった。

塔の中心には、
いくつもの行動指令が光の線として飛び交っている。

歩く、考える、感じる、思い出す。
それらはすべて別々の色を持ち、
空間の中で複雑に交差していた。

「ここでは、あなたが“無意識のうちに”行っている
 複数タスクを整理しています。」

声はどこからともなく響いた。

「人間は、一度に多くのことを考えているように思えて、
 実は “高速でタスクを切り替えている” だけなのです。」

光の線が塔の中央でクロスし、
一瞬だけ強い光を放った。

「歩くタスクが優先されれば、
 思考が少し遅れます。
 逆に深く考え始めると、
 体の操作は無意識が担当します。」

塔の最上階には、
巨大な“調整パネル”があった。

そこでは、
「優先度」「危険回避」「習慣度」「疲労度」
などの情報が重ねられ、
タスク同士の衝突を回避していた。

「じゃあ……考えごとをしながら歩けるのは?」

「歩行が“自動化されたタスク”だからです。
 自動化された行動は、
 交通管制塔の下層で独立して処理されます。

少し離れた場所では、
“注意逸脱アラート”が淡く点滅していた。

「意識が抜けたと感じる瞬間は、
 上層タスクが処理落ちしたときです。
 ここではすぐに補正しますが、
 たまに間に合わず物を落としてしまうのです。」

私は思わず笑った。
「つまり、ドジな時は管制が混雑してる?」

「そう。
 あなたの不注意は故障ではなく“混雑”です。
 脳はいつも、
 最も安全な道を選んで負荷を分散しています。」

塔の窓の外に、
細かい光の流れが無限に広がっていた。

それは、
私の体と心を動かすタスクたちの軌跡だった。

「あなたが思う以上に、
 脳は同時進行に優れたシステムです。
 ただし——完璧ではない。
 だからこそ人間は“揺れと隙”を抱えて生きているのです。」

次の瞬間、私は現実に戻っていた。

歩きながら献立を考える自分を、
少し誇らしく感じた。

その裏で、
交通管制塔が静かに光っていることを知っているから。


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