09|『思考のショートカット廊下』🛤️
『深層行動SF 脳の地形図』(全22話のもくじへ)
— 脳は最短ルートを作るのが上手すぎる
仕事中、ふと「どうして私はいつも同じ考え方に戻ってしまうんだろう」と思う瞬間がある。
結論がワンパターンになる。視点のクセが抜けない。
その日、私は脳内で奇妙な場所に迷い込んだ。
そこは——長い廊下だった。
ただし、普通の廊下ではない。
分岐がほとんどない。
どの曲がり角も、同じ方向に吸い寄せられるように一本化されている。
まるで建物全体が「こっちへ行け」と決めているような作りだ。
「なんだここ……?」
すると天井から淡い光が降り、声がした。
「ここは “思考のショートカット廊下” です。」
声の主は姿を持たない。
だが、壁のラインがふわっと揺れ、廊下全体がその声を支えているように見えた。
「人間の脳は“よく通る考え方”ほど最適化して、
最短ルートを自動生成する のです。
本来はいくつもある道を、一本にまとめてしまうのですね。」
廊下には、使われなくなった古い道の痕跡があった。
ぼんやりとした影のような、消えかけた分岐。
どうやら私の頭の中で「通らなくなった思考ルート」らしい。
「でも…これじゃ新しい発想が出ないよ。」
「それが問題でもあり、救いでもあります。
脳は最短ルートを作ることで“認知コスト”を節約している。
同じ考え方に戻るのは、怠慢ではなく“省エネ運転”です。」
歩いていると、廊下の先に
ひとつだけ新しい扉があった。
扉には何も書かれていない。
ただ、壁の古い分岐線がふっと揺れ、
その扉に向かってつながっていくのが見えた。
「あなたが“別の視点を持ちたい”と思うと、
廊下の工事が始まります。
使われていなかった道が少しずつ復元されるのです。」
私は扉を開けた。
その瞬間、短い風が廊下を吹き抜け、
新しい白い道がスッと伸びた。
たった一度の試しの一歩が、
脳の中に新しいルートを作るのだ。
「あなたが思考を変えようとする、その行為こそが——
新しい廊下を作る工事そのもの です。」
現実に戻った時、
私はいつもより少しだけ、
違う角度からものを考えられる気がした。
ワンパターンな脳ではなかった。
ただ、省エネが得意すぎただけだ。
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