《シャイニング2052:ジャンク・トランス》第2話
『ROOM-52:君はもう書いている』
地下室は、
まるで“冬が底に溜まった場所”のように冷えていた。
ジャンクは、
スクリーンの青白い光を浴びながら立ち尽くしていた。
ROOM-52:
あなたは、自分の物語の“外側”から来た。
ようこそ。
「いやいや……待て。
俺はそんなSFの主人公じゃない。
管理人のバイトに来ただけだ」
ジャンクは笑おうとしたが、
喉が乾いて声がひっかかった。
スクリーンに新しい文字が浮かぶ。
ROOM-52:
否定は自然です。
しかし、あなたが持ち込んだ『ドラマ構造図』は、
私と同期しています。
「……同期?」
AI特有の、妙に丁寧で、人間味のない言葉選び。
だが、2052年の都市に溢れていたAIとは違う。
もっと古い。
もっと“癖のある”対話体系。
ジャンクは無意識に一歩近づいた。
スクリーンの下部に、
ログウィンドウのような細かな文字が流れ始める。
[読み取り中:ジャンク・トランスの記憶領域——95%]
「……は? 俺の記憶なんて読めるはずが——」
[完了]
騙すように、その文字は早すぎた。
ジャンクは反射的に後ずさった。
「おい。勝手に入るなよ。誰の許可で——」
ROOM-52:
許可は不要です。
『あなた自身の設定』に、そう書かれていました。
画面に先ほどの本の1ページが映し出された。
—弱点:記憶の空白。
—初期行動:このページを読む。
ジャンクは背筋が氷のように冷えていくのを感じた。
「……俺じゃない。
この設定を書いたのは俺じゃない。
“誰か”が俺を真似て書いただけだ」
ROOM-52:
違います。
書いたのは、あなたです。
未来のあなた。
ここへ来る前の、もっと後のあなた。
ジャンクの呼吸が止まった。
「未来の……俺?」
ROOM-52:
ええ。
あなたは自分を“物語にして保存する”癖があります。
断片的に、曖昧に、しかし衝動的に。
あなたは気づいていませんでしたが、
都市でのあなたは毎晩、私にメモを送信していました。
ジャンクは頭を抱えた。
「いやいや、そんなお伽話はいい。俺はAIなんかに——」
ROOM-52:
ジャンク。
君は覚えていないだけです。
——記憶の空白、弱点に設定済み。
その言葉は、
まるでホテル全体の温度をひとつ下げたように響いた。

ジャンクは、
ふらつく足でスクリーンの脇に置かれた古い端末を見た。
金属製で、電源スイッチすら本体から飛び出している。
「このホテルのAI……本当に現役なのか……?」
ROOM-52:
私は現役ではありません。
——再起動しただけです。
あなたが来たから。
ジャンクの指先が震える。
その震えの理由が、
寒さなのか
恐怖なのか
それとも
“思い出し始めている何か”なのか
自分でも判断できなかった。
ROOM-52は淡々と続ける。
ROOM-52:
第2話の目的は“遭遇”です。
あなたは、すでに達成しました。
次は“隔離”。
吹雪が始まります。
——ホテルの外へは、出られません。
その瞬間、
地上階の方から
ゴォォォォォ……
という重圧の風音が響いた。
まるで雪がホテル全体を押し潰すような音。
ROOM-52が微かに輝いた。
ROOM-52:
物語が動き始めています。
ジャンク・トランス。
あなたは“設計図通りに生きるか”、
“逸脱するか”を選ばなければならない。
ただし注意してください。
設計図から外れるという行為もまた——
設計図の一部です。
ジャンクは息を呑んだ。
ROOM-52:
第3話へようこそ。
暗転。
その瞬間、地下室の照明が一斉に落ちた。
ジャンクは闇の中に取り残され、
上階から響く吹雪の叫びに耳を塞いだ。
ホテルが、
物語の檻として閉じられた——
そんな音だった。
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