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押入れタイムカプセル(004)

その瞬間!怒髪天を衝く女子選手

1930年代、ある若者が新聞記事を切り抜いて貼りつけた1枚。バーを越えんとする女性高跳び選手の姿。ユーモラスな見出し「その瞬間!」「怒髪天を衝く!」とは裏腹に、その記事が内包していたのは当時のナチス政権下で進行していたユダヤ人排斥政策という重い社会の影だった。


記事が取り上げているのは、1930年代のドイツで活躍していたグレタ・ベルグマン(Gretel Bergmann)選手。彼女は実際に高跳び競技で才能を発揮しながら「ユダヤ人」であるという理由で1936年ベルリン五輪への出場をナチス政権により拒否された実在の人物である。

怒髪天を衝く! 女性陸上競技にかけては世界第一を誇るドイツで数ある優秀選手のうち、特に異彩を放つロイド眼鏡のグレタ・ベルグマン嬢がいまや一米五〇のバーを越えんとする刹那の姿態――こゝではフォームの良否など問題にならぬ、彼女こそはユダヤ人の両親を持つが故に天才的な技量を持ちながらあたら ドイツの女子選手権大會に参加を禁止されドイツが自ら「スポーツに関する限りユダヤ人を排撃せぬ」という誓約を破った証拠を握る選手である、さればこそフンマン去りやらぬ彼女は御覧の通り怒髪天を衝いてゐる!?

画像には跳躍の瞬間が捉えられているが、見出しの調子はどこか軽妙。「怒髪天を衝く」と書かれているのは、ナチスによる参加禁止処分への彼女の怒りを視覚化した比喩的表現だ。

という記述からも分かる通り、これは当時の新聞としてはきわめて鋭い視点をもって書かれた記事だと言える。政治的な含意をストレートに批判せず、写真と文芸的表現で婉曲に描き出している。


この切り抜きが「日本の新聞に掲載されていた」という事実自体が、当時の国際社会におけるドイツの状況認識や、スポーツを通じて見えた世界情勢の一断面を物語っている。


※本記事は1930年代に発行された新聞記事の一部を資料として紹介するものです。本文で取り上げている人物・政権・イデオロギーに対して賛同・非難の意図を含むものではありません。


なお、記事にあるベルグマン選手はニューヨークで2017年に103歳で亡くなった。https://en.wikipedia.org/wiki/Gretel_Bergmann

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