2026年7月をどう読むか ― "売れる月"という思い込みを疑う ―【月刊販促設計 2026年7月号 第1回】
このシリーズについて
「月刊販促設計」は、総務省統計局が毎月発表する家計調査データと気象庁の気象データを活用し、3か月先の販促計画を立案するための実践的な情報を提供するシリーズです。
今回の2026年7月号では、2025年7月分の家計調査データと気象庁の気象データを分析し、2026年7月の販促判断に使える「読み方」を整理します。全3回の構成で、第1回は消費と気象のデータを重ねながら、7月という月の本質を定義します。最終回公開後には「2026年7月販促設計カレンダー(PDF版)」を配布予定です。
こんにちは。ミタカ販促設計ラボ室長のサタケです。
先日公開した2026年1月号の検証記事では、55点という評価を自分につけました。
予測の方向が逆だったことに加え、費目の構成内容を確認せずに費目名から意味を読み違えるという構造的なミスがありました。その反省を踏まえ、今号からデータの読み方に一段階、丁寧さを加えています。
まず結論から言います。
2026年7月は、「売れる月」ではなく、「差が出る月」です。
ボーナス、猛暑、夏本番。条件だけ並べると7月は最強の販促月に見えます。しかし前年データが示したのは、そこまで単純ではない消費の姿でした。
【前年同月分析】2025年7月、消費の全体像
2025年7月の二人以上の世帯における消費支出は305,694円。前年の同じ月と比べると、物価の影響を除いた実質ベースで1.4%の増加でした。
数字だけ見れば、確かに増えています。6月の1.3%増よりも伸び率は高い。しかし同じ月の収入側を見ると、話が変わります。勤労者世帯の実収入は実質2.5%の減少でした。
6月号の第1回で「使えるお金は減っているのに消費支出は増えている」という構図を確認しました。
7月はその構図がさらに鮮明になっています。収入の実質減少幅が6月(1.7%減)より拡大しているにもかかわらず、消費の伸び率は6月より上がっている。これは消費マインドが強くなったのではなく、7月に固有の「動かざるを得ない支出」が集中したと読むのが正確です。
「盛り上がっているように見えて、選別が強い月」
これが2025年7月の本質です。
何が動き、何が止まったのか
費目の内訳が、この月の構造を明確に示しています。
実質で増加した費目(前年同月比)
交通・通信:大幅増加(自動車等関連費が主な牽引)
保健医療:増加(猛暑による体調管理需要)
住居:増加
実質で減少した費目(前年同月比)
食料:減少
教養娯楽:減少傾向
この対比を見ると、6月と同じ「選別消費」の構造が続いていることがわかります。自動車関連という大型支出が伸びを牽引し、日常的な食料や娯楽の支出は抑えられました。
ここで注意が必要なのは、自動車関連の伸びです。1月号の検証でも触れましたが、寄与度の大きい項目が「一時的な変動か、定着した変化か」を考える必要があります。自動車購入は数年に一度の支出であり、2025年7月に動いた世帯が2026年7月にまた動くとは考えにくい。この項目を「7月は強い」という前提の根拠にしてしまうと、読み間違えます。
食料の減少も見落とせません。猛暑で外出が増えれば外食が伸び、内食は落ちる。この構造は6月と同じです。食料全体の数字が下がっていても、中身では外食と内食で方向が逆になっている可能性があります。食品を扱う販促担当者は、「食料」という費目全体の数字ではなく、その内側の動きを意識する必要があります。
【前年同月分析 気象との関係】2025年7月は記録的猛暑
2025年7月の月平均気温は、1898年の統計開始以降の7月として過去最高となりました。北・東・西日本のいずれも7月として1位の高温で、全国153の気象台等のうち98地点で月平均気温の歴代最高を更新しています。日本の月平均気温の平年からの偏差は+2.89℃で、2024年の記録を0.73℃上回りました。
7月30日には兵庫県丹波市で41.2℃が観測され、全国の観測史上最高気温が更新されました。
降水量については、太平洋高気圧に覆われやすく梅雨前線の影響が弱かった北・東・西日本日本海側は降水量がかなり少なく、東日本日本海側では1946年の統計開始以降の7月として1位の少雨となりました
この気象条件が消費に与えた影響は2つの方向で同時に現れました。
一つは「今すぐ必要なもの」への集中です。猛暑が続けば、飲料・冷感グッズ・熱中症対策商品への支出は緊急性を持ちます。保健医療の増加には、こうした夏特有の体調管理需要が含まれています。
もう一つは外出需要の変化です。猛暑が厳しすぎると、人は出かけることを選ばなくなります。特に買い物目的の外出は気温が高すぎると抑制される場合があります。来店時間帯が早朝や夕方に偏り、日中の客数が落ちるという現象も記録的猛暑の年には起きやすい。教養娯楽の減少は、猛暑による外出自粛が一因である可能性があります。
猛暑は「売れる条件」ではなく「何かを急かす条件」です。
急かされるのは、緊急性の高いカテゴリーだけです。
「分散月」という読み方
ここまでのデータを整理すると、2025年7月の消費構造は3点に集約されます。
消費支出は実質増加したが、収入の減少幅は拡大していた
自動車関連と保健医療が牽引し、食料と教養娯楽は落ちた
記録的猛暑が「今すぐ必要なもの」への支出を急かしたが、外出自粛も生んだ
この構造を踏まえると、7月を「拡大月」と読むのは正確ではありません。消費は一部で明確に動いていますが、均等には伸びていない。伸びたカテゴリーと落ちたカテゴリーの差が、6月よりも大きくなっている月です。
これを「分散月」と呼びます。消費が広がるのではなく、動く場所と動かない場所に分かれる月、という意味です。
この読み方が販促設計に何をもたらすか。
7月は「強い月だから全方位で攻める」という戦略が最も外れやすい月です。自動車関連の大幅増という数字を見て「7月は消費意欲が高い」と判断し、衣料や娯楽に予算を積んでも、それらは前年実績で落ちているカテゴリーです。前年の消費増を「月全体の盛り上がり」と読むのか、「特定カテゴリーの急増」と読むのか。この違いが、2026年7月の販促計画の質を決めます。
読み間違いを防ぐために
2026年1月号の検証記事で確認したのは、「急伸した翌年は反動減の可能性が高い」という視点でした。今号でも同じ構造を確認できます。
2025年7月の自動車等関連費は大幅増でした。2026年7月にこのカテゴリーが同じ水準で動く可能性は低い。前年の強い数字を「今年の前提」にしてはいけない。これは費目の一時性を見極めるという、検証で学んだ視点の実践です。
一方で、保健医療は6月も7月も安定して増加しています。これは一時的な変動ではなく、定着しつつある傾向として読むことができます。「急伸した翌年」ではなく「継続している動き」として扱うべきカテゴリーです。
前年の数字を起点にしながら、何が一時的で何が定着しているかを見極める。
それが今号の7月を読む上での基本姿勢です。
6月の観察を、7月の武器にする
6月号の第3回で、6月中に記録しておくべき3つの観察ポイントとして「雨の影響」「価格への反応」「在庫の回転」を挙げました。
その記録を持って7月に入ると、最初の1週間から仮説の検証ができます。
7月の販促設計に向けて、今追加しておくべき問いがあります。
自分が扱っているカテゴリーは、「猛暑が急かす支出」に入っているか、それとも「猛暑が抑える支出」に入っているか。
この問いに答えを持っておくことが、次回以降で扱う週単位の判断の出発点になります。
次回予告
第2回では「7月販促で考えておきたい3つの視点」として、期待しすぎない・二極化を前提にする・暑さを主役にするという思考軸を提示します。「売れる月」という思い込みが現場でどんな失敗を生むかを中心に掘り下げます。
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室長プロフィール
佐竹 昭治|株式会社サタケプランニングオフィス 代表取締役
小売・サービス業の現場で、生活者視点を軸にした販促戦略を提案。マーケティングプランナーとしての経験(20年以上)×データ分析×AI活用による「ハイブリッド販促設計」で、「伝わる販促」「来店してもらえる仕掛け」づくりをサポート中。
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公開記事では家計調査と気象データの2つに絞って分析していますが、実際のコンサルティング業務では商業動態統計、景気動向指数、地域別データ、業界団体レポートなど複数のデータソースを統合して分析します。「自社の商圏で使える販促の根拠が欲しい」という方は、お気軽にお問い合わせください。
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チップは今後の調査・記事制作の資金として大切に使わせていただきます。──室長・サタケ