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文字を持たなかった昭和 続・帰省余話10~桜島を臨む部屋

 昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。

 あらたに、先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、強く印象に残ったことの簡単なまとめに続きいくつかエピソードを書いた。次に、帰省中のお出かけについて順に振り返っている。お出かけの準備外出先でのランチに続き、前項は桜島を眼前にするホテルに向かっているところまで。

 目的地のSホテルに着いたのはチェックイン開始時間の14時とほぼ同時。ホテルからは、車椅子や玄関に近い駐車場を手配する関係で車のナンバーを知らせてほしいと言われていたので、レンタカーの中から到着予定時間とともに伝えてあった。

 車寄せに停車するとフロント担当の男性スタッフが出迎えてくれる。玄関に用意してあった車椅子にミヨ子さんを移すと、女性のベルスタッフが推してくれた。レンタカーを家人が駐車しにいく間、二三四(わたし)はチェックインする。今回は離島住まいのミヨ子さんの妹(叔母)すみちゃんも来てくれることになっていて全部で2室4名だが、すみちゃんのチェックインはあとになることを伝える。そうこうするうちに、予約担当の主任さんが挨拶に見えたので事前の連絡へのお礼を伝える。

 ホテルは13階建て。最上階に大浴場とレストランがあり、ミヨ子さんたちの客室は12階だ。ツインは桜島側、シングルは市街地側という配置。ベッドを追加して女性3人「川の字」で寝るつもりの部屋は、もちろん桜島側である。

 責任が重く疲労も重なるドライバー担当の家人は、気の毒にも桜島は一切見えない部屋だ。しかも、お世辞にも広いとは言えない。
「お風呂から桜島が見えるからいいけど、ビジネスホテルみたいだな…」
とぼそり。スミマセン。

 女性たちの客室は、ベッドの追加と車椅子操作がしやすい広めの部屋だ(もちろん、ちょっと高い)。何よりトイレがバリアフリー対応で車椅子でも入れるほどゆったりしている。

 部屋に入ると、目の前の錦江湾(鹿児島湾)そして桜島が、広い窓の外から迫ってくる。部屋の奥側には追加されたベッドを含む3台のベッドが、窓に平行にまさに川の字に並んでいる。追加のベッドもふつうの大きさだ。部屋に入ってすぐの手前のスペースも広めにとってあり、大きなソファのセットが置かれている。

 ミヨ子さんの車椅子を桜島に正対する位置に停め、
「お母さん、ほら、桜島だよ」
と促す。
「ほんとだねえ、大きく見えるね。……船も、見える」
折からの晴天、海も空も青い。今日の桜島は噴煙を上げていないが、山頂附近に白い雲がかかり、煙のようだ。
「あれは煙かね?」とミヨ子さん。
「今日は噴火してないと思うよ。雲じゃない?」と二三四。

「お母さん、ちょっと待っててね」
途中で買った飲み物のキャップを開け、ミヨ子さんに渡す。次の「ミッション」が待っているのだ。短時間だがミッション遂行の間、ミヨ子さんには家人についていてもらうことにしてある。二三四はさきほどの予約担当主任に電話を入れてから、廊下に出た。

※前回の帰省については「帰省余話」127

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