世界を、消してしまった夜 #シロクマ文芸部
深夜二時、いつもの場所に集まる。
集まる、といってもウェブ上の話だ。チャットルームのようなもので、しかしそれは、決まった人たちの集まりでもなかった。
深夜二時から三十分間だけの集まりだった。
そのページは三十分経つとなんの予告もなく途切れ、また、この三十分以外の時間に開いても繋がらないのだ。
『お探しのページは表示できません。』
灰色の背景に、白い文字が、無機質に表示される。
そこに温度はない。
私が初めてそのページを開いたときの記憶はどうしてかひどく曖昧だ。たぶん、その夜も寝付けずにネットサーフィンをしていたのだとは思う。
けれど、どうやってたどり着いたのかは思い出せないでいる。
今日あったこと。
最近気になること。
読んだ本のこと。
観た映画のこと。
なにも、しなかったこと。
どこの誰ともわからない人たちとの会話。
三十分経つと消えてしまう会話。
次の日には残らない会話。
誰がなんのために作ったのかわからない。
それでも確かに、ここには、三十分間だけの世界があった。
招待された記憶もない。ただぽつりと迷い込んでしまった世界。
現実だったなら、孤独感や疎外感に泣き出してしまいそうな世界。
それなのに、そこに私は温度を感じることができた。
三十分の間だけは、まるで唯一の世界であるかのようでもあった。
どこかの誰かが居る気配。姿もなく、音もない。なにもありはしないのに、なにかがある世界。
もしかすると、どこか別の世界と繋がっていたりして、なんてことを考えたこともあった。
ある夜、私は何気なく打ち込んでみた。
「みなさんはどうしてこの場所にたどり着いたか覚えていますか?」
画面の向こうで、空気が変わったのがわかった。
顔が見えているわけではない。声が聞こえているわけでもない。
それなのに「あ、」と気付いた。
聞いてはいけなかったような気がした。
無風の部屋の中で、微かに冷えた風が背筋を上がってくるような感覚。
あるいは、ぬるく湿った空気が身体にまとわりついているようでもあった。
その両極の感覚に、私の肌はぞわりと立つ。
次の瞬間、画面が切り替わる。
『お探しのページは存在しません。』
世界が、ひとつ、消えた。
#シロクマ文芸部 企画に参加しました。
ワクワクするような、ざわざわするような、
そんな不思議な時間、深夜二時。
まあ、だいたいろくなことは考えてないですね、深夜ってね。
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・境目は、どこにあった 6/19「水曜日」
・記憶の色彩、未来の無色 6/26「青い雨」
・出口の蛇口 7/3「蛇口から」
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2025.07.12 もげら
