境目は、どこにあった #シロクマ文芸部
水曜日にはカフェに行くことにしている。一週間の真ん中の、ひそかな楽しみ。
慣れた足取りでカフェに入る。すっかり顔なじみになった店員が「いらっしゃいませ、こんにちは」と笑顔をくれる。
店内を見回して適当な席に着くと、店員が注文を取りにきてくれた。
「いつものでよろしいですか?」
「はい、お願いします」
それだけのやりとりを交わしただけのことで、私の中には「いつも通り」が広がっていく。それがひどく安心するのだ。
しばらくして「お待たせしました」と差し出されたものに、私は困惑するしかなかった。
「あ、あの、」
「はい、他にご注文ですか?」
「いえ、あの、これって……」
提供されたものを指しても、伝わらないようだった。
「どうかされましたか?」
店員は一瞬だけきょとんとした顔を見せたあと、からかうそぶりもなく、にこやかに言う。
「え、あ、はい……」
違う、と言い返せない自分が恥ずかしくもあったけれど、どうしようもなかった。
いつもと違うことは、私をいつも以上に気弱にさせる。
「ごゆっくりどうぞ」と穏やかに言う店員の笑顔は、いつも通りなのに。
注文が違っていたことを指摘できなかったのは自分の責任。
しかたなく、出されたそれを口に運ぶと、それは思ったよりも悪くない。
まあ、それは当然か。カフェで、人が口にできないようなものが出てくるわけはないのだから。
一口、二口と飲み進めるうちに、悪くない、というよりも、いつも頼むものよりおいしいんじゃないかとさえ思えてきた。
ああ、そっか。
いつもと違うのも、悪くない。
新しい発見をしたみたいに、少しだけいい気分になる。
お会計のときに「おいしかったです」と伝えると、店員は少し驚いたようだった。
『いつもの』と出されたそれに、改めて『おいしい』と伝えたことが奇妙だったのかもしれない。
「また、よろしくお願いします」
それでもやっぱり店員は、柔らかく言った。
いつも通り。いつもと違う。
両方のバランスが、大事なのかもしれない。
なんとなくいい気分で、足取り軽く店の外に出た私の足は、ピタリと止まった。
——ここは、どこ——
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2025.06.22 もげら
