断捨離したい50代の私、エアフライヤーを買う。
あれはちょうど、去年の今頃のことだった。夫婦でファミリードクターに呼び出された。血液検査の結果が出たから、という、静かに逃げ場のない呼び出しだった。
女医のドクターマーシャルは、カナダに来てからずっとお世話になっている人で、年齢はたぶん、私より5歳ほど年上だろう。軽く雑談をしてから、ドクターはパソコンに向かった。指を水平にパッと広げたハの字でバチャバチャとキーを叩きながら、小指だけピンと立っている独特の打ち方でデータを調べている様子を、1分ほど静かに見守っていた。
結果はこうだった。
夫は悪玉コレステロールが高い。薬スタート。
私の方はギリギリで、薬はなし。
「40過ぎるとね、上がってくる人が多いのよ」
そう言われた。ハイコレステロールは大人(初老)のたしなみ。こうして抗えないものの種類が、少しずつ自然と増えてくる年齢なのだなと思った。
さらに彼女は続けた。
「ハイコレステロールはストローク(脳梗塞)になりやすいからね。あと、Naoは脂肪肝ぎみ。甲状腺の値も高め。薬の検討はまた後日、血液検査してからにしましょう」と。
怖い。
彼女はさらにこう続けた。
「運動して、食事も気をつけて。不飽和脂肪酸はいいけど飽和脂肪酸は減らしてね。あ、エアフライヤー使ってる?あれいいわよ」
健康の話から急に家電の話題に飛ぶところが、この国らしい。
その日の夜、仕事帰りの夫が大きな箱を抱えて帰ってきた。電化製品好きの夫のことだ、行動は早い。箱の中身はエアフライヤーだった。
箱を見た瞬間、私は思った。いや、増やすの?今?
断捨離やミニマリストが一般的になり、「物は減らして身軽に生きましょう」が半ば常識になりつつある時代に、家電を増やすのか。
しかも私はもう若くない。初老である。四捨五入すればアラカンだ。若ぶってアラフィフなどと言っている場合ではない。増やすより減らしていくフェーズのはずなのに、ここでまさかの、「追加 」 である。
人生の持ち物欄に、新しいアイコンが増える。しかも家電。だいたい家電というのは、静かにドドンと居座る類のものだ。
私は昭和育ち。人類が初めて月に着陸した頃に生まれた私は、家電といえば重くてデザインも部屋になじみにくく(色柄がポップ、花柄等)、そんな家電を出しっぱなしにするしかない狭いキッチンで育った。
親の仕事の影響で転勤がやたらと多く、重い家電を運ぶのを何度も手伝わされた記憶が、今も影響しているのかもしれない。
そもそもうちのキッチンはすでに満席だった。オーブン、電子レンジ、トースター、電気ポット、エスプレッソマシーン。それぞれが確固たる役割を背負い、押しも押されぬスタメンとして、きっちり場所を取っている。そこに、エアフライヤー。
エアなのに場所を取るのか?
そう思いながら大きな箱を開けてみたら、あれ?と思った。
出してみたら思っていたより、大きくない。拍子抜けするほどコンパクトなサイズだった。
機能を見るとエアフライヤー以外にもベイクなど5種類ほどついている。一瞬また引いて、こんなに機能いる?と思いながらも、でもまあ、ドクターもおすすめしてたし、と半分あきらめながら説明書を開いた。別にこれでなくても、今ある家電で充分料理できるでしょ、そんな感じだった。
どうしても使いこなせなければ返品すればいい。カナダは返品天国だ。そんなことを思いながら、私はエアフライヤーをキッチンに設置するスペースをなんとか作った。
それから1年使ってみた。
今ではもう、毎日朝から晩まで使い倒している。いや。すっかり頼りきっている。
実は、私は料理の火加減、特に肉を焼くのが苦手だ。例えば、フライパンで肉を焼くと、外はこんがり焼けているのに中がまだレアだったり、逆にしっかり火を通そうとして肉がガチガチに固くなったりする。そうやって食材を駄目にしてしまったときのあの無念さ、後悔は言葉にできない。
おまけに夫は元料理人だったこともあり、味にうるさく、微妙な味や焼き加減にこだわる人なので、ただでさえ火加減が苦手な私にとってハードルはさらに上がり、プレッシャーで調理する気力さえ萎えさせてしまう。料理ってもっと、楽しいものなのではないのか? 本来は。
ところがだ。エアフライヤーは、拍子抜けするくらいにちょうどいい塩梅で火が通る。いや、エアが通るのだ。
火加減でも、さじ加減でもなく、エア加減。ちょうどいい塩梅で調理する。そもそも健康のために、余計な脂を減らすために買ったのだ。食材の余分な脂が網の下にちゃんと落ちている。それでいて焼きすぎないし、生でもない。なんなんだこの子は。
エアフライヤーで揚げない唐揚げもよく作る。お肉をいれてスイッチオン、あとはセットした時間まで、好きなことをしていればいい。

フィニッシュには自動で高温になり、こんがりとした焼き目がつく機能もこれには付いているので、まるで揚げたかの如くおいしそうなきつね色、それでいてお肉はやわらかくジューシーだ。余分な脂はこんなに底に落ちている。料理中、部屋に調理の湯気や油の混じった匂いがほとんど漂わないので、換気扇は回していない。調理前の余熱もいらない。

油は一滴もつかっていないのに皮はカリッ、中はジューシーだ。
エアフライヤーで作る揚げない唐揚げのレシピはこちら
いままで油で揚げていたのは一体なんだったのだろうかと思ってしまう。
油のハネを「アチッ!アチッ!」とよけつつ大量の油を使って揚げていたあの時間を返してほしいとさえ思う。揚げたあとの揚げ油の酸化や、処理に気を遣っていた頃が、もはや懐かしい。

また、ケールのドライは我が家の常備菜だ。これもエアフライヤーで作るようになった。

以前はオーブントースターで作っていた。扉の前で、焦げるか焦げないかの微妙な境界線をずっと見張っていたものだ。それでも部分的に少し焦げてしまい、きれいな緑色がところどころ茶色になってしまった。もしくは、乾いているかと思いきや、時間が経つとまたしんなり戻ってくることもあった。
でもエアフライヤーは違う。4分ほどのエア加減で、焦げることなく水分だけがきれいに抜けていく。パリッパリのケールチップスもこのとおり。時間がたってもずっとパリッとしたまま。まるでビリジアンの見本のような緑色にも惚れ惚れしてしまう。軽く指で潰すだけでケールふりかけもすぐできるし、保存もしやすい。
エアフライヤーで簡単!万能ドライケールの作り方のコツと保存法|レシピはこちら
そんなエアフライヤーだが、もちろん、いいことばかりではない。洗い物は少々面倒だ。外側のボックスと内側のトレイをそれぞれ洗わなければならない。あの重さがもう少し増したら、きっと億劫になって使わなくなっていただろう。しかし今のサイズなら、ギリギリ許容範囲だ。
確かに、フライパンの方がさっと洗えて手軽ではある。それでも、私は結局エアフライヤーを使ってしまう。
ものを減らしたいと思っていた矢先に、家電を一つ増やしてしまった。矛盾しているようで、実は大きな変化だった。同時に、私の自由な時間も確実に増えた。火の番をしながらつきっきりで調理をする手間がなくなったからだ。
何より嬉しいのは、オイルの消費量が劇的に減ったことだ。以前のように頻繁に油を買う必要がなくなり、家計にも優しい。健康面でも、余分な脂を控えられるのはありがたい。
さじ加減でもなく、
火加減でもなく、
これからは、
エア加減でいく。
かくしてエアフライヤーは、大きな味方になった。物は増えても、悪玉コレステロールは減らしたいものだ。
帳尻は、そこで合えばいい。
筆者:桜野ナオミ
プロフィールはこちら
写真クレジット:すべて筆者撮影
/
エアフライヤーの料理集はこちら
\
この記事はAmazonアソシエイトプログラム(アフィリエイト広告)を利用しています。
