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サウジアラビア財政リスクとビジョン2030の行方


 サウジアラビアの現状について解説します。2025年10月3日、大手格付け会社のフィッチがサウジアラビアの財政状況がリスクにさらされているという認識を示しました。サウジアラビアと言えば、原油が湧いてくるような国だというイメージを持っている方も多いかもしれませんが、実はその懐事情は厳しくなっています。この記事では、そのサウジアラビアの最近の動向をアップデートします。

 近年では「出世したければ中東で稼げ」と言われるほど、金融機関やコンサルティング会社にとって中東は最も利益率の高い市場となっています。サウジアラビアが資金難で計画の見直しを進め、ドバイやアブダビの開発も成熟しつつある今、「次に稼げる国」として注目を集めているのがクウェートなのです。

クウェートが外資に狙われる構造的背景

フィッチが挙げたリスク要因

原油価格の下落

 まずフィッチが挙げたリスク要因の一つが原油価格の下落です。サウジアラビアは原油採掘コストが非常に低い国ですが、国が成熟してきたことで社会保障費が増加し、財政負担が重くなっています。さらに、人口増加に伴う大規模なインフラ維持コスト、そして大規模プロジェクトにかかる支出も重なり、国家財政は決して余裕のある状態ではありません。

 IMFなどの試算によれば、サウジアラビアが財政赤字にならないために必要な「財政均衡原油価格」は100ドルを超える水準だとされています。しかし現在の原油価格は60ドル台で推移しており、財政を大きく圧迫しているのが実情です。

サウジアラビアの財政が均衡するオイル価格、「Breakeven Oil Price(ブレイクイーブンオイルプライス)」と言いますが、この価格が96ドルほどに上がったとIMFが発表したことです。

サウジアラムコの決算とサウジアラビア経済

 近年は、価格維持のためにOPECプラスで減産を続けてきましたが、これを続けると市場シェアを失っていくという問題があります。さらに、2025年にトランプ氏がアメリカ大統領に就任し、「原油を掘りまくれ」という方針に転換したことで、サウジとしてはこれ以上アメリカにシェアを奪われるわけにはいかず、久しぶりに増産方針へと舵を切りました。そのため、価格はますます下がりやすくなり、財政は苦しいのにシェア回復を狙わなければならないという難しい状況に置かれています。

巨大プロジェクト「ビジョン2030」の負担

 フィッチがもう一つ挙げたリスクが「ビジョン2030」です。これは脱石油依存を掲げ、都市計画や産業育成、観光開発など総額2兆ドル以上の投資が行われる巨大プロジェクトです。しかし、これほどの規模を国家予算で賄うことは到底できないため、その大部分を政府系ファンド(PIF)からの投資という形で実施しています。

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 政府の赤字としては表面に出てこないものの、政府系ファンドへの出資を増やさなければいけないという構造上、財政の機動性が失われているという指摘があります。また、このビジョン2030には無謀とも言われる計画が多く含まれており、すでに計画変更や減損処理を行ったプロジェクトも出てきています。

聖地メッカとメディナでの規制緩和

 サウジアラビアは自前で莫大な資金をまかなうことが難しくなっており、近年は海外投資家の資金を呼び込むために大幅な規制緩和を進めています。その規制緩和の一つが、メッカとメディナに不動産を持つ企業への海外投資の解禁です。これまでは聖地保護の観点から外国企業は投資できなかったのですが、これを緩和して海外資金を呼び込もうとしています。

メッカ巡礼者の増加と経済効果
 巡礼者の増加はサウジアラビア経済に一定の効果をもたらしています。巡礼者は滞在中に宿泊費や飲食費、交通費を消費するため、経済的な恩恵があります。そのため、サウジアラビア政府は巡礼者の受け入れ体制を強化するためのインフラ整備を進めています。

サウジアラビアの観光政策の現状

 サウジアラビアの観光は盛り上がっているように見えるかもしれませんが、実際にはその多くがイスラム教徒の巡礼目的です。海外観光客2,970万人のほとんどが巡礼によるものとされていて、テーマパークや新都市開発によって観光立国を目指すという話は、現状では実態を伴っていません。
 より多くの巡礼客を受け入れるには聖地周辺のホテル・飲食店の整備が必要ですが、それには莫大な資金が必要となるため、海外投資を解禁したという流れです。しかし、宗教的に特別な場所に海外投資家が関与することは、場合によっては危うい面を持っています。聖地でどのようなビジネスを行うのか、海外投資家の意向が強まるというのは、宗教的にも政治的にも繊細な問題を含んでいます。

資産売却で資金捻出を図る

 このほか、国営石油会社サウジアラムコが保有する火力発電所を海外ファンドに売却する計画も進めています。サウジアラビアは経済成長を促すために、どんどん資産を外資に売却し始めている状態です。
 オフィスビルや都市開発用地を売却する程度であればまだ理解できますが、聖地にまで外資を入れようとする動きについては、慎重であるべきではないかと感じてしまいます。しかし財政的に余裕がないため、その選択肢を取らざるを得ないというのが現実でしょう。

ビジョン2030は成功するのか

 石油収入に頼らない国づくりを進めていく中で、莫大な資金を使い続けているサウジアラビアですが、財政の持続可能性という観点では寿命を縮めているのではないかと思ってしまいます。もしビジョン2030が失敗に終わった場合、膨大な負債と外資に支配された聖地だけが残るという可能性も否定できません。

私の考え

 サウジアラビアは産油国としての影響力が大きく、イスラム世界においても強い発言力を持っています。そのため、ビジョン2030の行方は世界的にも無視できない影響を与える可能性があります。ビジョン2030と財政問題は密接に絡み合っており、展開次第では中東情勢や原油市場にも大きな影響が及ぶ可能性があります。引き続き、その動向を注視していきたいと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考(サウジアラビア記事のまとめ)

■ サウジアラビア経済と欧米企業の関係(2024/10/27)
■ 2034年のW杯開催国であるサウジアラビアの計画(2024/12/21)
■ サウジアラムコ減配とサウジアラビア財政の行方(2025/3/8)
■ 資金難のサウジアラビア、国有インフラの売却へ(2025/7/12)
■ サウジアラビアのビジョン2030の現実と投資停滞(2025/8/26)

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