ネパールの貿易構造と暴動とその経済的背景
ネパールで大規模な暴動が発生し、政府機関などへの襲撃も行われ、19人以上が亡くなったと報じられています。今回の暴動は、政府が発表したSNS規制に対する反発がきっかけとされています。また、Z世代が中心となって、政治家の汚職などに抗議している姿も大きく取り上げられています。
一方で、ネパールという国の経済状況については広く知られていない部分が多いのも事実です。私のところにもいくつか質問が届いていますので、この記事ではネパール経済の実情と暴動の背景について考えながら振り返ってみたいと思います。

出所)外務省
ネパールの経済規模と一人当たりGDP
まず、ネパールの経済規模ですが、IMFの予想によると2025年は世界で100位とされています。金額にすると461億ドルという規模で、日本で言えば鳥取県よりやや大きい程度というイメージです。ただし、人口は3,000万人近くいるため、一人当たりのGDPは1,389ドルにとどまっています。一般的に3,000ドル以下は貧困国とされることからも、ネパールが非常に貧しい国であることが分かります。さらに、この一人当たりGDPはインドのおよそ半分であり、その厳しさが一層理解しやすいでしょう。
ネパール(Nepal):経済概況
GDP約408億ドル、一人当たりGDP約1,337ドル(2022年度)の後発開発途上国(LDC)。
出稼ぎと海外送金が支える経済
こうした貧困の中で、国民が選ぶ手段の一つが出稼ぎです。例えば日本に出稼ぎに行き、数万円を仕送りすると、それはネパールでは非常に大きな金額となり、家族を大いに助けることになります。ネパール人が最も多く出稼ぎに行っている国はインドとされます。両国はオープンボーダーで、ビザやパスポートなしで行き来が可能なため、多くの人がインドで働いています。インドはヒンドゥー教の国であり、ネパールも人口の8割以上がヒンドゥー教徒という共通点を持ち、文化的にも政治的にも深い関係を築いてきました。
一方、それ以外にもマレーシア、サウジアラビア、カタール、UAE、クウェートなどの中東産油国に多くの出稼ぎ労働者が渡っています。アセアン諸国にも派遣され、その総数は500万人を超えるとされています。そのため、出稼ぎ労働者からの送金がネパール経済を支える大きな柱となっています。アジア開発銀行のデータによれば、2015年時点で海外からの送金はGDPの32.3%に達していました。
ネパールの貿易構造と経済の制約
一方で、輸出は低迷しています。経済規模が小さく、人件費が安いにもかかわらず輸出産業は育たず、貿易収支は赤字になりやすい構造です。これは投資不足に加え、ネパールが内陸国であり、インドと中国の国境に位置する高地であるため物流が極めて不便であることも大きな要因です。結果として、経済発展は進まず、農業がいまだにGDPの最大の割合を占めています。
ネパール(Nepal):経済概況
経済構造では、農林水産業がGDPの約24.1%及び就労人口の57.3%を占める。
このように貿易赤字体質の国では、本来であれば資金不足に陥りやすいのですが、ネパールは出稼ぎ労働者からの送金により比較的潤沢な外貨を確保しているという特徴を持っています。しかしながら、一人当たりGDPが1,300ドル台にとどまっていることからも、貧困国である現実は変わりません。
出稼ぎ労働と人権問題
近年、中東地域の建設ラッシュを背景に、ドバイやサウジアラビアなどで働くネパール人も増えています。しかし、そうした現場で最も厳しい労働を担っているのがインド人やネパール人、バングラデシュ人などの労働者です。
増えているのは富裕層だけではありません。建設現場などで働く労働者や新興国からの出稼ぎ労働者も増加し、都市全体の人口構造に影響を与えています。
中東では労働環境が劣悪であるとして、人権問題がたびたび指摘されています。つまり、ネパールの人々は出稼ぎに出ても必ずしも安定した暮らしを得られているわけではなく、非常に厳しい現実に直面しているのです。また、こうした労働者にとって、遠く離れた家族と連絡を取る際にSNSは欠かせないツールとなっています。今回の暴動がSNS規制とどの程度関係しているかは定かではありませんが、社会構造として大きな影響を与えた可能性は否定できません。
ネパールの政治と暴動の背景
今回の暴動を受けて辞任したオリ首相は、2015年から3度にわたり首相を務めた共産党の政治家です。1996年から2006年にかけてのネパール内戦で政府軍と戦ったネパール人民解放軍に源流を持っています。2008年の王制廃止以降、この共産党は長く政権を担い続けてきました。
オリ氏の前任であるプラチャンダ氏も共産党員で、両者ともに中国寄りの立場を取ってきました。そのため、近年は海外からの直接投資も中国が最大となっています。オリ政権はインドよりも中国を重視する政策を進めてきましたが、今回の暴動にはこうした政治的な対立や、中国寄りの共産党政権による汚職、SNS規制といった政策への不満が影響していると考えられます。
ネパール暴動の今後の見通し
近隣のインドネシアでも反政府的な暴動が発生しましたが、ネパールの事例も平和的なデモを超えて暴力へと発展している点が注目されます。暮らしが一向に良くならない中で、政治家が私腹を肥やし、選挙公約を果たさない現実が国民の怒りを爆発させているのです。こうした傾向は暴動に発展していない国でも見られ、今後他国にも広がる可能性があります。
ネパールのように経済規模は小さくても、インドと中国の狭間に位置する地政学的重要性を持つ国は、国際政治の流れに大きく関わる存在となります。
出稼ぎ労働者の送金に依存する経済、発展しない産業、厳しい労働環境、そして中国寄りの政治体制。こうした要素が複雑に絡み合い、国民の不満が爆発したのが今回の事態だと言えるでしょう。今後も情報が出てくる中で、ネパールの政治と経済の行方に注目が集まります。
ご参考
国民の政治不信は根強く、政府が力で暴動を抑え込もうとしても、根本的な不満は解消されない可能性が高いでしょう。経済格差が限界に達した時、政治家への暴動という形で反発が噴出するのは、最も分かりやすい現象だと言えます。
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