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インドネシアでの暴動とその経済的背景


 インドネシアで大規模な暴動が発生していることは、テレビや新聞などでも広く報道されていると思います。この混乱を受けて、2025年9月3日の上海協力機構の首脳会議に、インドネシアのプラボウォ大統領は欠席することを発表しました。国際的な重要会議を見送ってまで国内問題に専念する姿勢からも、今回の暴動が非常に大きな問題であることがうかがえます。

プラボウォ大統領は9月1日、大統領宮殿で労働組合代表と面会した。全インドネシア労働組合連合(KSPSI)のアンディ・ガニ会長やインドネシア労働組合連合(KSPI)議長のサイド・イクバル氏らが出席し、抗議活動の非暴力維持を確認したうえで、犯罪行為による資産の接収法案や雇用関連法案の早期審議を要望した。

ジェトロ【2025/9/5】

インドネシア経済の表面的な成長

 インドネシアという国について、経済的な情報が意外と少ないと感じる方も多いかもしれません。ただ今回の問題は、まさにその経済状況と深く結びついています。インドネシアは多民族国家であり、宗教的な背景も複雑で説明が容易ではありませんが、この記事では経済面に焦点を当てて解説したいと思います。

 ここ数年、インドネシアは目覚ましい経済成長を遂げてきました。ジャカルタには高層ビルが立ち並び、一人当たりGDPが日本の大阪を超えたという話も耳にした方がいるかもしれません。実際、経済成長率は他国と比較しても高水準を維持してきました。

 ・2020年はコロナ禍の影響でマイナス2.1%となりましたが、
 ・2021年はプラス3.7%、
 ・2022年は5.3%、
 ・2023年は5.1%、そして
 ・2024年もほぼ5.0%と、安定的な成長を続けています。アジア全体で見れば、インドやベトナムほどではないにしても、かなり高い成長を維持していると言えるでしょう。

インドネシアの経済成長の裏に潜む格差拡大

 しかし、これはあくまでも国全体としての数字です。中身を見てみると、そこには大きな問題が隠れています。それが「格差の拡大」です。2024年にインドネシア統計局が発表したデータによると、2019年に5,700万人いた中間層が、2024年には4,800万人へと減少しました。

 経済発展を遂げる国では通常、中間層が拡大して消費が活発化し、さらなる成長につながるというサイクルが期待されます。実際、過去の中国でもそうした現象が見られました。しかし、インドネシアでは経済成長が続く中で、中間層がむしろ減少しているのです。しかも、中間層の人々が富裕層に上がったわけではありません。中間層の上位層すら減少しており、増えているのは「中間層予備軍」と呼ばれる低所得層です。つまり、多くの人々の生活が苦しくなっているのです。

中間層の定義と生活実態

 インドネシアにおける中間層の定義は世界銀行の基準に基づき、月間支出額が200万ルピアから990万ルピア、つまり日本円で約1万8,000円から8万円程度とされています。この基準を下回る人々が増えているということは、最低限の生活費すら賄えない層が増えているという意味です。
 月1万8,000円以下での暮らしは、インドネシアの物価水準を考えても、食費や水道光熱費でほぼ消えてしまい、家電や耐久財を購入する余裕が全くない状況です。この5年間で900万人もの中間層が失われた一方、人口は1,400万人近く増加しています。経済全体としてはGDPが成長しているのに、その中身はむしろ厳しいものになっているのです。

資源大国インドネシアと富の偏在

 インドネシアといえば資源大国として知られていますが、その資源による利益はごく一部の人々に集中し、国民全体には行き渡っていません。格差の拡大はインドネシアに限らず世界的な傾向で、富の集中は進む一方です。世界不平等研究所(World Inequality Lab)が2022年に発表したレポートによれば、世界の上位1%の富裕層が全体資産の3割以上を保有し、上位10%で76%を占めているとされています。日本でもデフレは脱しつつありますが、賃金上昇が物価に追いつかず、生活が苦しいと感じる人が増えています。

出所)inequalitylab.world

プラボウォ大統領の政策とばらまき路線

 こうした中で、プラボウォ大統領は2024年の大統領選挙に圧勝し、政権を握りました。その政策は「ばらまき」とも評されるもので、例えば8,300万人に無料で食事を提供する政策を打ち出しています。その費用は年間450兆ルピア、日本円にして約4兆円に上ります。2025年はまず1,500万人の子どもを対象にし、6,000億円規模の予算を組んでいます。
 ただし、この財源を国債に依存すれば金利上昇を招くため、インフラ投資の削減など歳出カットも同時に進めています。さらに、2024年以降に進められる予定だった首都移転計画も、新政権発足後は優先順位が下がり、事実上停滞しているとみられます。

インドネシアの財政問題と税制改革

 財政悪化を避けるため、政府は2025年1月から付加価値税(日本の消費税に相当)の引き上げを予定していました。しかし国民の強い反発を受け、直前で贅沢品のみに限定する形に変更されました。

 世界では、こうした問題に対応するため、「給付付き税額控除(negative VAT)」などの制度改革も進められています。

消費税と輸出免税と還付金

 これも財政への不安を増大させ、ルピアは2024年から2025年初めにかけて大きく下落しました。こうした状況の中で、歳出削減や増税の必要性は認識されつつも、現実にはばらまき的な政策が優先され、財政運営の難しさが浮き彫りになっています。

政治体制の変化とデモへの発展

 プラボウォ大統領は高い支持率を背景に、選挙後には国会議席の8割以上を占める巨大与党連合を成立させました。さらに軍人出身という経歴を生かし、法律を改正して軍関係者が政治に参画しやすい仕組みを作り、多数の政府ポストに軍人を登用しています。

 しかし、政治への不信はプラボウォ政権になってから始まったわけではなく、前政権の時代からすでに根強いものでした。

 こうした中、昨年9月から国会議員の宿舎が老朽化したことを理由に、議員たちが5,000万ルピア(約45万円)の住宅手当を受け取っていたことが発覚しました。生活が苦しい人々が増えている中で、議員が多額の手当を受け取っていることに国民の怒りが爆発し、抗議デモへと発展しました。さらにデモ隊の男性が警察車両に轢かれて死亡する事件が起きたことで、暴動は一気に拡大しました。財務大臣の自宅が襲撃され、地方都市でも駅が放火されるなど、混乱は広がっています。

今後の展望と懸念

 国民の政治不信は根強く、政府が力で暴動を抑え込もうとしても、根本的な不満は解消されない可能性が高いでしょう。経済格差が限界に達した時、政治家への暴動という形で反発が噴出するのは、最も分かりやすい現象だと言えます。制度や背景の違いはあっても、似たような状況は世界各地で見られ、今後の広がりが懸念されます。インドネシア政府がこの混乱をどのように収めるのか、世界が注目しています。


ご参考

アメリカの株式市場は右肩上がりで成長してきましたが、その一方で、多くのアメリカ国民が景気回復を実感できず、物価高に苦しむ状況が続いていました。

関税で株価急落、背景にある格差と政治の構造

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