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みずほ証券の富裕層ビジネス強化とリテール改革


 みずほ証券が、国内のリテール事業の立て直しを発表しました。5億円以上の金融資産を保有する富裕層をターゲットに人員を再配置するというものです。これは、証券業界全体の流れの中でも重要な動きと言えます。私自身、普段は証券会社に対してやや厳しい意見を述べることが多いのですが、この記事はできるだけ偏りのない視点で整理してみたいと思います。

証券会社、銀行の業務の中で、個人や中小企業などを対象とした小口の業務のことをさす。
証券会社の場合、個人投資家向けの株式や投信、債券などの販売営業などがある。

野村証券

みずほ証券の歴史の振り返り

 まずは、みずほ証券という会社がどのような成り立ちを持っているのか、その歴史を振り返ってみましょう。この会社は、みずほフィナンシャルグループ(FG)の証券部門を担う会社ですが、その形成過程は非常に複雑で、今の社員でも正確に説明できる人は少ないと思います。理解のためには、2009年頃までさかのぼる必要があります。

出所)みずほ証券

みずほ証券の合併の歴史

 2009年5月時点で、みずほFGには「みずほ証券」、「新光証券」、「みずほインベスターズ証券」という3つの証券会社がありました。これらが統合され、現在のみずほ証券となっています。みずほ証券はもともと旧・興銀証券を母体としており、リテール部門を持たない機関投資家・法人向けのビジネスに強みを持っていました。つまり、個人顧客向けよりも企業や投資家相手のホールセール業務が中心だったわけです。
 一方、新光証券は、旧・日本興業銀行系で、2000年に新日本証券と和光証券が合併して誕生した会社でした。バブル崩壊後の1990年代には経営が傾き、銀行の支援を受けて立て直した経緯もあります。
 そしてみずほインベスターズ証券は、第一勧業銀行系の勧角証券や富士証券などの流れをくむ会社で、やはり中堅証券の寄せ集め的な存在でした。

リテールの弱さ

 こうして形成された現在のみずほ証券ですが、リテール分野の基盤は決して強くありません。2009年当時の段階でリテールの中心を担っていたのは新光証券とみずほインベスターズ証券であり、その前身をたどると中堅クラスの証券会社ばかりです。野村証券や日興証券のように一貫して個人営業に力を入れてきた大手とは明確に異なる構造でした。

合併後の課題

 野村やSMBC日興のリテール部門は長年の積み重ねがあり、組織としての文化や顧客基盤も盤石です。三菱UFJモルガン・スタンレー証券も複数の証券会社を統合してできた経緯がありますが、リテール戦略に早くから注力していました。
 一方のみずほ証券は、2013年に現在の形になってからも、銀行店舗を活用して証券サービスを提供するなど、銀行との連携を強める努力を続けてきました。しかし、それでも2025年6月時点での預かり資産は約55兆円と、野村証券の3分の1程度にとどまります。資金流入は9年連続で続いているものの、富裕層への営業力は依然として弱いとされてきました。

富裕層ビジネスの難しさ

 「合併から10年以上経っているのに、まだ影響が残っているのか」と思われるかもしれません。しかし、証券業界には顧客層のヒエラルキーが強く残っており、それを崩すのは容易ではありません。富裕層とは、企業オーナー一族や医療法人の経営者、地主といった、何世代にもわたる資産家が中心です。彼らは複数の証券会社と取引を持っていますが、中堅証券との取引規模は小さいことが多く、取り扱い商品も限定されます。

多くの宗教法人が証券会社と深い付き合いがあることがわかります。様々な方法で集められた宗教法人のお金で、結果として証券会社が潤っているという状況があります。

宗教法人と金融機関の意外な関係

 合併によって「大手になった」と言っても、彼らが急にみずほ証券に資産を預けるようになるわけではないのです。

 証券業界は日本では珍しく、富裕層を徹底的に特別扱いする世界です。日本社会全体は比較的フラットな構造を持っていますが、この業界だけは違います。なぜなら、同じ投資信託を販売しても、100万円の顧客と10億円の顧客とでは手数料収入が1,000倍も違うからです。だからこそ、証券会社は富裕層に全力でサービスを提供してきました。

みずほ証券の遅れと今後の方向性

 こうした背景の中で、みずほ証券は富裕層ビジネスにおいて大きく出遅れてきました。対照的に、三菱UFJ証券は2000年代から富裕層特化の戦略を推進し、山一証券破綻後の店舗をメリルリンチが引き継いだ際も、それを生かして「三菱UFJメリルリンチPB証券」を設立するなど、早期から高額資産家向けの営業に取り組んできました。

 今回のみずほ証券の方針転換は、まさにその遅れを取り戻す動きです。

 2023年12月には楽天証券への出資比率を49%まで引き上げ、小口顧客の対応はネットやコールセンターに任せ、人員を富裕層向けのサービスに集中させる方針を明確にしました。これまで本社勤務だった社員を支店に再配置する動きも見られますが、富裕層ビジネスは参入障壁が高く、短期的な成果は簡単ではないでしょう。

営業スタイルの転換と意識改革が鍵

 富裕層ビジネスの難しさは、営業スタイルそのものにあります。100万円の顧客を対象にする営業と、10億円の顧客を相手にする営業では発想がまったく異なります。少額顧客相手では件数を重ねることが重要ですが、富裕層の場合は一件の取引が年間目標を達成してしまうこともあります。逆に、取れなければ成果はゼロ。リスクが極めて高い世界です。そのため、マネジメントの考え方から変えなければうまくいきません。
 みずほ証券は、野村証券から幹部を引き抜くなどして改革を進めていますが、社員の意識改革には時間がかかるでしょう。それでも、富裕層ビジネスへの本格参入は避けて通れない課題です。世界的に見ても、金融業界は富裕層を取り込む方向へとシフトしています。みずほ証券の挑戦が、今後どこまで成果を上げられるのか注目されます。


ご参考

最近の銀行は、一般大衆向けのサービスにはなるべく人手をかけず、その分のリソースを富裕層向けのサービスに投下するという戦略をとるようになってきています。証券会社でも同様の動きが見られます。

通帳廃止の流れに見る銀行の意図と注意喚起

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