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ケトでLDL高い人に、医者として確認してほしいことがある

「先生、ケトジェニックダイエットでLDLが280まで上がったんですけど、TGは低いしHDLも高いし、代謝は健康ってことですよね?」

先月、健康コンサルで会った経営者にこう聞かれた。

たしか50代前半の方で、糖質制限を始めて1年くらいだったと思う。体型はスリムだし、血圧も正常。本人はすごく自信を持っていた。SNSでいろいろ調べたらしい。肉をメインの食事にして体調がすごく良いと。

自分はその場で「大丈夫ですよ」とは言えなかった。

今回は、ケトジェニックダイエットでLDLコレステロールが高くなったとき本当に安全なのかを、最新の研究データと見落とされがちな遺伝的リスクの両面から、臨床医の視点でまとめてみる。

ケトジェニック食でLDLが跳ね上がること自体は、よく見る現象ではある。LDLの数字だけ見て一喜一憂しても意味がないというのは自分も同意見で、実際の外来ではTG/HDL比やApoB(LDLの"粒の数"を反映する指標)など、複数のマーカーを組み合わせて判断することが多い。

ApoBや頸動脈エコーのような「健診にない数字」をどう読むかは、オールAの死角で詳しく書いた。LDL単独ではなく、血管側をどう確認するかの話だ。

ただ、ここで混同してほしくないことがある。

「LDLだけ見ても意味がない」と「LDL高くても大丈夫」は、似ているようでまったく別の主張だということ。前者は検査値の読み方の話。後者はリスクの否定。この2つを混ぜると、取り返しがつかないことが起きうる。



「LMHR安全説」の根拠、どこまで信じていいか(ケトジェニックとLDL上昇)

「痩せていてTGが低くてHDLが高ければ、LDLが高くても安全」

SNSでこう言っている人たちの根拠になっているのが、LMHR(Lean Mass Hyper-Responder)という概念だ。

ざっくり言うと、ケト食を続けている痩せ型の人がLDLだけ跳ね上がる現象のこと。厳密には以下の3つを同時に満たす場合を指す。

・LDL-C 200以上
・HDL-C 80以上
・TG 70以下

LMHR(Lean Mass Hyper-Responder)

この主張のもとになっている研究が2つある。どちらもSNSで「LMHR安全説が証明された」として広まったので、中身を見ておく価値がある。

1つ目は2024年のKETO trial(Budoff et al., JACC: Advances)。
ケト食でLDL-C 190以上になった80人と一般対照群を冠動脈CTで比較して、「プラーク(血管壁に溜まるコレステロールの塊)のスコアに有意差なし」という結果だった。LDL-C平均272 mg/dLで対照群と差がなかった、と。

ただこれは横断比較であって「プラークが増えなかった」を示したわけではない。ある時点のスナップショットで差がなかっただけだ。しかもBMIの差が残っていたし(KETO群22.5 vs 対照群25.8)、厳密なLMHR基準を満たしていたのは80人中35人だけだった。

2つ目はその後の縦断研究(KETO-CTA、2025年、同じグループ)。
LMHR 100人を1年追跡して「ApoBやLDL-Cの変化量はプラーク進行と関連しなかった」と報告された。SNSでは「やっぱり安全だった」と大きく取り上げられた。

ただし、この論文はその後撤回されている。事前に「この指標で評価する」と登録していた内容と、実際に論文で強調された結果にズレがあること、比較する対照群がいない設計で安全とまで言えるのか、といった批判が出て、最終的に「方法論上の懸念があり、データの信頼性に影響するエラーが特定された」として著者とエディターの合意で取り下げられた。

しかも撤回前のデータでも、参加者の動脈壁に溜まった"柔らかいコレステロールの塊"(非石灰化プラーク)の体積は中央値で年間18.9 mm³増えていた。「安全だった」ではなく「プラークは進行していたが、ApoBとの相関が出なかった」が正確な読みだ。

n=80の横断比較と、撤回された縦断研究。この2つで70年分のLDL因果エビデンスを覆すのは無理がある。

自分が外来で一番やっちゃいけないと思っていることの一つが、ポジティブなデータだけを切り取って患者に伝えることだ。これは、チェリーピッキング(都合のいいデータだけ選ぶ)というとても危険な考え方だ。

「まだわからない」が、今の時点で最も誠実な答えだと自分は思っている。


代謝が良くても血管は壊れる(LDLコレステロールと心血管リスク)

「で、結局自分はどうなの?」と思った方、もう少し付き合ってほしい。

「TGが低くてHDLが高ければ、LDLが高くても血管は安全」

これ、自分も昔はなんとなくそう思っていた。医者なのに、と思うかもしれないけど、研修医の頃はTG/HDL比が良ければまあ大丈夫だろうと漠然と考えていた。で、臨床に出て覆された。

TG低値・HDL高値にもかかわらず、LDL高値の状態で心血管イベントを起こした症例を自分は経験している。たしか40代後半の男性で、見た目も生活習慣もいわゆる「健康的」な方だった。正確な時期は覚えていないけど、あの症例は自分の中にずっと残っている。

学会レベルでも似た報告がある。アメリカ心臓学会(AHA)の2023年学会抄録で、LMHR的な数値の51歳男性の症例が発表された。スタチンをやめてケトに切り替えたところLDLが301まで跳ね上がり、冠動脈疾患が急速に進行してSTEMI(急性心筋梗塞)に至っている。もともと冠動脈疾患の既往があり、遺伝的にリスクが高まるLp(a)(リポプロテインa)も高値だったという追加リスクはあったとはいえ、「LMHR表現型だから安全」が成り立たなかった実例だ。

TG/HDL比はインスリン抵抗性の間接的なマーカーであって、動脈硬化の進行そのものを見ているわけではない。LDLが長期にわたって高値を続けると、血管内皮下にコレステロールが蓄積していくプロセスは代謝マーカーの良し悪しとは独立して進む。

ここの「独立して」がポイント。
代謝が良いから血管も安全、にはならない。

ここを「≒(ニアリーイコール)」で済ませてしまう情報が、SNSにはあまりにも多い。


200人に1人の「見えない爆弾」(家族性高コレステロール血症・FH)

ここが一番書きたかったパートで、ここだけ読んでもらえればいいくらいの気持ちで書いている。

家族性高コレステロール血症(FH)。
日本人の約200〜300人に1人が該当するとされている遺伝性の疾患で、多くはLDL受容体の遺伝子(LDLR)に異常がある。ほかにもAPOBやPCSK9の変異が原因になるケースもあって、いずれもLDLの処理がうまくいかなくなる病態だ。

200人に1人。クラスに1人いてもおかしくない頻度なのに、未診断の方が非常に多い。

FHの怖さは、食事とか代謝の健全さとは別次元の話だというところにある。TGがいくら低くても、HDLがいくら高くても、遺伝的にLDLの処理機構が壊れている以上、LDLは血管壁に溜まり続ける。生まれた時点からLDLへの累積曝露(cumulative LDL exposure)が始まっている。これがFHの本質だ。

ちなみにKETO trialでは参加条件からFHを除外している。
つまり、LMHR研究の「安全だった」はFH抜きの結果であって、FHの人には最初から当てはまらない。SNSではこのこと自体がほとんど触れられていない。

で、ここから想像してみてほしい。

・自分がFHだと知らない人が、ネットで「ケトでLDLが上がったけど、TG/HDLが良いから問題なし!」という情報を見て安心する。
・卵を大量に食べて、LDLがもっと跳ね上がる。
・でもLMHRだから大丈夫だと自己判断する。

この中に、未診断のFHが混ざっていたら?

FHの方にとって「LDL高くても大丈夫」は、命に関わる誤情報になりかねない。情報発信をしている人間は、自分の言葉が未診断のFH患者に届く可能性を常に考えるべきだと自分は思う。

FHのスクリーニング自体はそこまで難しくない。

・家族歴(親や兄弟に若年で心筋梗塞や高LDL血症の人がいるか)
・LDL-C値が180 mg/dL以上
・アキレス腱肥厚などの身体所見

この3点をたしかめるだけで、かなりの精度で拾える。でも健診で引っかかっても「体質でしょ」で流されているケースが多いのが現状だったりする。ちょっと熱くなりすぎたかもしれない。話を整理する。


じゃあ何をすればいいか

10年後、もっと大規模な長期追跡データが揃って「やはり一定条件下ではLDL高値でも安全だった」と証明される可能性はゼロではない。

でも、今その根拠はない。n=80の横断比較と、撤回された縦断研究だけで「安全」を宣言するのは、まだ早すぎる。

「大丈夫」と言い切る人より「まだわからない」と言える人のほうが、医学に対して誠実だと自分は考えている。

この記事で伝えたいのは、ケトを否定することではない。問題は、「体調がいい」「TG/HDL比がいい」だけでLDL高値を無視してしまうことだ。ApoB、家族歴、冠動脈石灰化、FHの可能性まで含めて、どこまで調べるかを医師と相談する。ここが分岐点になる。

やってほしいことは1つだけ。

ケトジェニックを続けていてLDLが高値になっている方は、一度FHのスクリーニング(家族歴の確認+LDL-C値+身体所見)を主治医と相談してほしい。特にLDL-Cが180 mg/dLを超えている方、親族に50代以下で心筋梗塞を起こした方がいる場合は、代謝マーカーが良好でも油断しないでほしい。

ネットの情報で自己判断する前に、自分の体を知っている医師と一緒に考えること。それだけで「見えない爆弾」を踏むリスクは大幅に下がる。


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参考文献

Budoff M, Manubolu VS, Kinninger A, et al. Carbohydrate Restriction-Induced Elevations in LDL-Cholesterol and Atherosclerosis: The KETO Trial. JACC Adv. 2024;3(8):101109.

Soto-Mota A, Norwitz NG, Manubolu VS, et al. Longitudinal Data From the KETO-CTA Study: Plaque Predicts Plaque, ApoB Does Not. JACC Adv. 2025;4(7):101686. (撤回済み:方法論上の懸念によりauthors and editorsの合意で撤回)

López-Moreno M, López-Gil JF. The KETO CTA Study [Letter]. JACC Adv. 2025;4(7):101861.

Soto-Mota A, Norwitz NG, Manubolu VS, et al. Reply: The Keto CTA Study [Letter]. JACC Adv. 2025;4(7):101862.

Norwitz NG, Soto-Mota A, Feldman D, et al. Case Report: Hypercholesterolemia "Lean Mass Hyper-Responder" Phenotype Presents in the Context of a Low Saturated Fat Carbohydrate-Restricted Diet. Front Endocrinol. 2022;13:830325.

Abstract 17807: Rapid Progression of CAD After Stopping Statin and Starting a Ketogenic Diet in a Phenotypic Lean Mass Hyper-Responder. Circulation. 2023;148(Suppl_1).(AHA Scientific Sessions 2023 学会抄録)

Mierzejewski J, Rafałowicz A, Wojciechowska UJ. High LDL Cholesterol, Low Risk? Lean Mass Hyper-responder phenotype – A literature review. Quality in Sport. 2025;43:61260.

Ference BA, Ginsberg HN, Graham I, et al. Low-density lipoproteins cause atherosclerotic cardiovascular disease. 1. Evidence from genetic, epidemiologic, and clinical studies. A consensus statement from the European Atherosclerosis Society Consensus Panel. Eur Heart J. 2017;38(32):2459-2472.


※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。

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