睡眠は「時間」より「規則性」で寿命が決まる|論文解説 Sleep 2024
睡眠の相談を受けると、前は時間の長さばかり聞いていた。「何時間寝てますか」と。最近は、最初に聞くことを変えた。
「平日と休日で、寝る時間ってどれくらいズレてますか?」
返ってくる答えは、だいたい似ている。
「平日は1時に寝て6時起き、週末は3時まで起きて10時まで寝てます」。
週末だけで4〜5時間ぶんのズレだ。
自分も、睡眠は時間がすべてだと思っていた。7時間さえ確保すれば合格、くらいの感覚で患者さんにも話していた。その考えを変えたのが、今回の研究だ。
2024年にSleep誌に出た約6万人の研究が、「何時間寝たか」より「毎日同じ時間に寝起きしているか」のほうが死亡リスクとよく結びついていた、という方向のデータを出している。寝る時間のバラつきのほうが、睡眠時間そのものより体に効いているかもしれない、という話だ。
とくに当てはまるのが、平日はきっちり管理しているのに週末だけ生活が崩れる人だ。経営者や、夜の予定が多いビジネスパーソンに多い。
6万人の手首にセンサーを巻いて記録した(Sleep Regularity Index)
2024年、モナッシュ大学のWindredらがSleep誌に発表した研究がある。
イギリスの大規模データベース(UK Biobank)に登録された約6万人の手首にセンサーを巻いて、1週間の睡眠を記録した。自己申告ではなく、機械が拾った客観的な数字だ。自己申告の睡眠時間は、だいたい当てにならない。
ここで使われたのがSleep Regularity Index(SRI)という指標。「毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きているか」を0〜100でスコア化したものだ。100に近いほどリズムが安定している。昼寝や途中で目覚めた時間も全部反映されるので、就寝時刻のズレだけより、生活全体のリズムを捉えられる。
たとえば、毎日23時に寝て6時に起きる人は、SRIが高い。逆に、ある日は0時、次の日は3時、休日は朝までとバラつく人は低くなる。同じ「平均7時間」でも、この2人はまったく別物として扱われる。
このスコアで対象者を5グループに分けて、その後の死亡を平均で約6年(最長7.8年)追いかけた。
規則正しく寝ている人ほど、死亡リスクが低かった
結果が、かなりはっきりしていた。
睡眠リズムが最も安定しているグループは、最もバラバラなグループと比べて死亡リスクが低かった。規則的なグループほど差は大きい。いちばん大きく見積もると、全死亡で48%、心血管代謝系(心臓や糖尿病に関わる死因)で57%、がんで39%低かった。
ただし、この48%は年齢・性別・人種だけをそろえた数字だ。いちばん粗い段階の値だと思ってほしい。さらに喫煙・運動習慣・社会経済状況・交代勤務などまでそろえて計算し直すと、全死亡で約30%、心血管で約38%、がんで約24%まで縮む。それでも、これだけ条件をそろえてなお差が残るのは大きい。
数字の読み方の補足。これはハザード比で、「リスク」そのものとは少し違う。6万人のうち亡くなったのは約1,900人で、イベントが少ない集団では、%の表記が実感より大きく見えることがある。
自分がいちばん引っかかったのは、この点だった。著者らは「睡眠の規則性は、睡眠時間より死亡リスクの予測力が高い」と言っている。同じ統計モデルに睡眠時間とSRIの両方を入れても、効いていたのはSRIのほうで、睡眠時間を足しても予測はほとんど良くならなかった。
「何時間寝たか」より「毎日同じ時間に寝ているか」。こっちのほうが、死亡リスクとよく結びついていた。
ただ、睡眠時間を軽く見ていいという話ではない。極端に短ければ当然よくない。ただ、そこそこ眠れているのに調子が出ない人は、時間より「毎日バラバラなこと」のほうに原因があるのかもしれない。
これを補強する別の研究もある。2025年にChaputらが7万2000人以上を対象に、睡眠の規則性と心血管イベント(心筋梗塞・心不全・脳卒中)の関連を調べた。不規則な睡眠の人はリスクが26%高く、約8年の追跡で方向は一致していた。心筋梗塞や脳卒中で救急に運ばれるレベルの出来事が、それだけ増えるということだ。ただ、こちらも同じUK Biobankのデータを使った別解析なので、完全に独立した追試とは言えない。それでも、別チームの手で同じ方向が出た事実は重い。
なぜ睡眠の「バラつき」が体に効くのか(社会的時差ボケ)
メカニズムの仮説は、いくつかある。
人間の体内時計は、約24.2時間の周期で回っている。毎日、光や食事のタイミングでリセットされる仕組みだ。ところが就寝・起床の時間が日によって2〜3時間ずれると、このリセットが間に合わない。覚醒を促すコルチゾールと、眠りを誘うメラトニン。この2つの出るタイミングがずれて、体の中だけが時差ボケを起こした状態になる。
わかりやすいのが、朝の光だ。休日に遅くまで寝ていると、本来あびるはずの朝の光を逃す。光は体内時計をいちばん強くリセットする合図なので、これを後ろにずらすと、時計そのものが遅れていく。月曜の朝がつらいのは、気合いの問題ではなく、体内時計がまだ週末の時間に取り残されているからだ。
これを「社会的時差ボケ」と呼ぶ研究者もいる。飛行機に乗ったわけでもないのに、毎週末、体の中で時差ボケが起きている。
先月、相談を受けた友人がまさにこれだった。平日は23時就寝、休日は映画を見て深夜2時。本人は「たった3時間のズレですよ」と言っていた。でも3時間って、東京とバンコクの時差とほぼ同じだ。毎週タイに飛んで帰ってきているようなものですよと伝えたら、少し考え込んでいた。その後ちゃんと直したかは、まだ聞いていない。
別の研究では、この状態が続くと血糖の調節が乱れ、交感神経が優位になり、炎症の指標が上がることが報告されている。交代勤務の人にがんや心血管の病気が多いことは、前から知られていた。同じような仕組みが、普通に暮らしているけど睡眠リズムがバラバラな人にも当てはまるのではないか。今回の研究は、その可能性を示している。
この研究だけで結論は出せない。でも無視もできない
大事な注意がある。
これは観察研究なので、「睡眠を規則正しくしたら寿命が延びる」と証明されたわけではない。睡眠が不規則な人は、ほかの健康リスク(慢性的なストレス、不規則な食事、社会的な孤立など)も同時に抱えていることがある。研究チームは多くの交絡因子をそろえているけれど、観察研究で取り除ける範囲には限界がある。
たとえば、順番の問題がある。もともと体調が悪い人ほど、生活のリズムは乱れやすい。だから「リズムの乱れが死を早めた」のか「もともとの不健康がリズムを乱した」のか、この研究だけでは、はっきりとは分けきれない。
それでも無視できないと思うのは、3つそろっているからだ。6万人規模であること。センサーによる客観データであること。そして別の7万人規模の解析でも同じ方向が出ていること。1本の論文で確定とまでは言わない。でも、ここまでそろうと「やれることはやっておこう」という判断になる。
自分がやっていること、経営者にすすめていること
やっていることは、地味なものばかりだ。
まず、就寝時刻のアラームを設定する。
起きる時間のアラームは誰でもかけている。でも、寝る時間のアラームをかけている人はほとんどいない。自分は23時にスマホのアラームを鳴らして、そこから30分以内にベッドに入る。iPhoneの「おやすみモード」のスケジュール機能で十分だ。
次に、平日と休日のズレを30分以内に抑える。
これは最初、けっこうつらかった。金曜の夜に「もう少し起きていたい」と思うのは普通だ。でも2週間続けたあたりで、月曜の朝のだるさが消えた。自分の体感なので万人に当てはまるとは言わないけれど、試す価値はあると思う。
週末の寝だめは、期待しすぎない。
平日の睡眠がどうしても足りない人が、週末に多く寝ること自体は仕方ない。ただ「週末に取り返せばプラマイゼロ」とはいかない。寝だめで睡眠負債は多少返せても、リズムの乱れは別口のダメージとして残る。眠いときは、夜にまとめて返すより、昼に20分の仮眠で細かく補うほうが、リズムへの傷が小さい。
もうひとつ、起きたら朝の光をあびる。
カーテンを開けて、数分そのまま立つだけでいい。光が体内時計を「今が朝だ」とリセットしてくれる。休日に寝坊した日ほど、起きたらまず光をあびると、その日のうちにリズムを戻しやすい。
ひとつ、補足しておきたい。すでに「寝つけない」「夜中に何度も起きる」人は、就寝アラームで早く布団に入るのが逆効果になることがある。布団の中で眠れない時間が延びるからだ。そういう人は、寝る時刻を早めるより、起きる時刻を固定するほうから始めるといい。眠れない状態が続くなら、睡眠の外来で一度みてもらってほしい。
寝室の環境を整えるのも大事だ。でも、その前に「毎日同じ時間に寝ているか」をたしかめるほうが、コスパがいい。枕を変えるのは1万円かかる。就寝アラームは0円で、今日から始められる。「何時間寝たか」だけを気にしていた頃には、もう戻れない。
まとめ
2024年Sleep論文。6万人のセンサーデータで、睡眠の規則性(SRI)が睡眠時間より死亡リスクの予測力が高かった
最も規則的な群は最も不規則な群より、全死亡48%・心血管57%・がん39%低かった(いずれも調整前の最大値。条件をそろえると約30%・38%・24%。観察研究・ハザード比)
2025年の7万2000人解析でも同方向。不規則な睡眠は心血管イベントが26%多かった
仕組みの仮説は「社会的時差ボケ」。3時間のズレは、東京とバンコクの時差とほぼ同じ
就寝アラーム、休日も30分以内のズレ、寝だめより昼の仮眠。地味だけど効く
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
役に立ったら「スキ」をもらえると、すごく励みになります。 自分の体でも試した健康の話を、いろんなテーマで、数日に1本くらい出しています。
ぜひフォローしてくれると嬉しいです。
もっと深く知りたい方へ(関連記事)
規則性は、眠りの土台のひとつです。あと一歩、底上げする3本を選びました。
▼ リズムとは別口で、夜に「やめる」だけで眠りが変わる
100万円のマットレスより効く「0円の睡眠改善」「いつ寝るか」を整えたら、次は「夜10時以降に何をやめるか」です。スマホ・照明・夜の食事など、お金をかけずに眠りを変える話をまとめています。
▼ 昼の野菜が、その夜の睡眠を変えていた
昼に食べた野菜がその夜の睡眠を変えていた
規則性が「いつ寝るか」だとすれば、こちらは「何を食べるか」です。野菜・果物をとった量が、その日の夜の睡眠の質と結びついていた、という同じ日のなかの関連の話をまとめています。
▼ 規則性の次は、何を何時に食べるか
10万の枕より効いた"眠れる食事"のつくりかた
「規則的に寝るのはわかった、では何時に何を食べればいいのか」の具体策です。経営者外来で実際に出している食事パターンをまとめています。
メンバーシップ「Dr.もさりラボ」のお知らせ
メンバーシップ『Dr.もさりラボ』を運営しています。X・無料noteでは出せない、もう一段踏み込んだ話を書いています。
経営者の主治医として、外来で実際に話している内容
論文を読みながら自分の体で試した、効いた・効かなかった記録
検査数値の読み方、サプリ・薬の選び方
メンバー限定の掲示板Q&A
月額1000円で全記事読み放題です。合わなかったらすぐ解約できます。気になった方は、覗いてみてください。
※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。睡眠の不調が続く場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
1) Windred DP, et al. Sleep regularity is a stronger predictor of mortality risk than sleep duration: A prospective cohort study. Sleep. 2024;47(1):zsad253.
2) Chaput JP, et al. Sleep regularity and major adverse cardiovascular events: a device-based prospective study in 72,269 UK adults. J Epidemiol Community Health. 2025;79(4):257-264.
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 