昼に食べた野菜がその夜の睡眠を変えていた|論文解説 Sleep Health 2025
「先生、最近どうしてもぐっすり眠れなくて」
外来でこの相談が来ると、自分はまず生活習慣を聞く。寝る時間、起きる時間、カフェイン、スマホ。だいたいの人はそのあたりを自分なりに対策している。枕を変えた、マットレスを買い替えた、寝室を暗くした、寝る前のスマホをやめた。それでも改善しない、と。
睡眠の質を変えたくて10万の枕を買う人がいる。でも2025年の研究が示したのは、昼のサラダ1皿のほうが効くかもしれないということだった。
今回は「野菜と果物の摂取量が、その日の夜の睡眠の質にすぐ効く」という2025年の研究を紹介する。自分もトレーニングを17年やってきた中で「食事が雑な週は寝つきが悪くなる」と体感的には気づいていた。でもそれを客観データで「同じ日のうちに効果が出る」と示した研究はこれが初めてだった。
「食事を変えたらその夜に効く」という発見(睡眠と食事の即日効果)
2025年、シカゴ大学とコロンビア大学の共同チームがSleep Health誌に発表した研究がある。
対象は20〜49歳の健康な成人34人。参加者には毎日の食事をアプリで記録してもらいつつ、手首にアクチグラフ(加速度計)を装着してもらい、睡眠を客観的に計測した。自分もGarminでHRVを毎日見ているけど、こういうウェアラブルデバイスのデータが研究に使われる時代になったのは素直にうれしい。
注目した指標は「sleep fragmentation(睡眠断片化)」。夜中に何回覚醒したか、深い眠りから浅い眠りに何度移行したかを数値化したもので、低いほど「途切れずぐっすり眠れている」ことを意味する。主観的な「よく寝た感」ではなく、腕のセンサーが拾った客観データ。
で、この指標と食事を日単位で突き合わせた。
「今日たくさん野菜を食べた日は、今日の夜にぐっすり眠れているか?」という問いの立て方。ここが地味だけどこの研究のすごいところで、従来の研究は「普段から野菜をよく食べる人は睡眠の質が良い」という集団レベルの話だった。それを「同じ個人の、日ごとの食事→その夜の睡眠」という個人内変動で見ている。
結果。

その日に果物と野菜を多く食べた人ほど、その夜の睡眠断片化が低かった。つまり深く、途切れにくい眠りになっていた。全粒穀物の摂取量も同様に、睡眠の質との正の関連が見られた。
CDCが推奨する1日5カップ(果物2カップ+野菜3カップ。日本の感覚だと野菜350g+果物200gくらい)を達成した人は、果物・野菜をまったく食べなかった人と比較して、睡眠の質が16%良かったという結果が出ている。
研究者のTasali教授(シカゴ大学睡眠センター所長)が「24時間以内にこれほど有意な変化が見られるとは」とコメントしている。睡眠の研究者が驚いているくらいだから、即効性としてはかなりのインパクト。
医師として、この論文をどう読むか(果物・野菜と睡眠の質)
この研究にはいくつか限界がある。
まず対象が34人と少ない。健康な若年成人(21〜35歳)のみで、中高年や持病のある人に同じ効果があるかはわからない。研究デザインは観察研究なので「野菜を食べたから眠れた」という因果関係を証明したわけではなく、「野菜を多く食べた日は睡眠が良かった」という関連を示したもの。
たとえば「野菜をたくさん食べる日は全体的に健康を意識した行動をとっていて、それが睡眠に好影響を与えた」という可能性は排除できていない。
ただ、自分がこの研究を評価する理由が2つある。
1つ目は、自己報告ではなくアクチグラフという客観的な測定をしている点。「よく眠れた気がする」というバイアスが入りにくい。
2つ目は、被験者内の日ごとの比較をしている点。同じ人の「野菜を食べた日」と「食べなかった日」を比べているので、個人差(遺伝、体質、生活環境)の影響を相当程度排除できている。34人という小規模でも統計的に意味のあるデータが出やすい設計で、ここは評価していいと思う。
メカニズムはまだ完全には解明されていないけど、腸は脳への"ホットライン"を持っている。食物繊維やフィトケミカルが腸内細菌叢を変えて、その情報が迷走神経を通じて数時間で脳の睡眠スイッチに届く可能性がある。近年この「腸→脳シグナル」の即時性を示す報告が増えてきていて、この研究の「同日効果」とも整合性がある。
あと、これは自分の臨床的な感覚だけど、野菜と果物を食べると食後血糖の上がり方がなだらかになる。血糖値の急上昇→急降下は夜間の覚醒の原因の一つとして知られていて、食物繊維がそれを緩衝している可能性がある。このあたりはまだ仮説の段階。書いていて思ったことだけれど、自分の患者さんで「夜中に目が覚める」と訴える人にCGM(持続血糖測定)をつけてもらったら、夜間に血糖がガクッと落ちているケースが何件かあった。因果はわからないけど、気になるデータではある。
自分自身も2週間リブレ(CGM)をつけたとき、寝不足の翌日や夜遅い食事の日に血糖の動きが明らかに悪くなった。詳しくはリブレをつけて気づいた血糖値の意外すぎる真実に書いた。
もう一つ、この研究で個人的に気に入っているのは、「何を食べないか」ではなく「何を食べるか」で結果が出ている点。高脂肪食や高糖質食の害を示す研究は山ほどあるけど、「プラスすることで改善する」というポジティブな方向の結果は実践ハードルが低い。「お菓子をやめなさい」より「野菜を1品足しなさい」の方が、忙しい人には100倍やりやすい。
じゃあ何をすればいいか(食事で睡眠を変える実践法)
自分が経営者の患者さんに実際に伝えている方法をそのまま書く。
まず昼食に「先に野菜を食べる」こと。
サラダでもいいし、コンビニのカット野菜でもいい。野菜から先に食べると食後血糖のスパイクが抑えられるデータがあるし、食物繊維の摂取量も自然に増える。
次に果物を朝食に1個入れる。
バナナでもりんごでもキウイでも何でもいい。朝にプロテインだけで済ませている人は、果物を1つ追加するだけでビタミン・ミネラル・食物繊維が入る。自分はトレーニング日はバナナ、オフの日はキウイが多い。たまたまそうなっているだけで、こだわりがあるわけじゃないけど。
夕食では味噌汁に野菜を多めに入れるのが一番ラク。
ブロッコリー、ほうれん草、きのこ類あたりを適当に放り込んでおけば、それだけで野菜の量がかなり増える。

注意点として、野菜ジュースはこの研究の「果物・野菜摂取」にはカウントしづらい。繊維が除去されているものが多いし、糖分が濃縮されているケースもある。あくまで「食べる」ほうの野菜と果物が対象。
あとは寝る直前の食事は避ける。これは今回の研究と直接関係ないけど、消化活動が睡眠を妨げることは他の研究で繰り返し報告されている。自分は就寝2時間前までに食事を終えるようにしている。
枕やマットレスを変える前に、まず冷蔵庫の中を見直してみてほしい。
自分自身、出張で外食が続いた週と、自炊で野菜をしっかり食べた週の睡眠の差は体感でわかる。この研究でそれが「同日効果」として確認されたのは、個人的にも腑に落ちた。
まとめ
2025年Sleep Health論文。昼の野菜・果物が「同日の夜」の睡眠の質を有意に改善した
CDC推奨の1日5カップ(野菜350g+果物200g)を達成すると、ゼロの日と比べ睡眠の質が16%良い
メカニズムの仮説:腸→迷走神経→脳の睡眠スイッチ。食物繊維による血糖の緩衝も寄与しうる
34人・観察研究という限界はあるが、被験者内日次比較で個人差が排除されている強み
「お菓子をやめる」より「野菜を1品足す」のほうが、続く
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※本記事の内容は特定の治療を推奨するものではありません。個別の健康上の判断は主治医にご相談ください。
参考文献: Boege HL, et al. Higher daytime intake of fruits and vegetables predicts less disrupted nighttime sleep in younger adults. Sleep Health. 2025;11(5):590-596. doi:10.1016/j.sleh.2025.05.003
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