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睡眠の質を上げる方法|100万円のマットレスより効く「0円の睡眠改善」を医師が解説

100万円のマットレスより、0円の「やめること」のほうが効く。

寝る前のスマホをやめるだけで、寝つきは目に見えて変わる。お金は1円もかからない。

自分もかつてはベッドでXを見ていた。サプリに月5万かけていた時期もある。高級マットレスも試した。謎のトゲトゲがついた、「シャク」で始まって「ティ」で終わるマットまで買った。ただ、その前にやることがあった。

17年トレーニングを続けてきて、ここ最近、やっと分かったことがある。睡眠は「何を足すか」ではなく「何をやめるか」で決まる。
夜10時以降にやめるだけで、眠りが変わるものが4つある。
全部タダで、何も買わなくていい。

これを知らないまま寝具にお金をかけているなら、もったいないと思う。

① 夜のSNSスクロール

「ブルーライトが悪い」とよく言われる。アメリカの成人12万2058人を調べた横断研究では、就寝前に毎日画面を使う人は、使わない人より睡眠の質が悪いと答える割合が33%高かった²⁾。

もちろんブルーライトの影響はある。ただ、それだけじゃない。つい見続けて、寝る時刻が後ろにずれる。情報と通知で頭が休まらない。この3つが重なる。

「あと5分だけ」のつもりが、気づけば30分。寝るのが後ろにずれていく、いちばんよくあるパターンだ。毎晩30分、寝る時刻が後ろにずれるだけでも、1年で182時間になる。7時間睡眠なら、26晩分がまるごと消える計算だ。どんな高級マットレスを買っても、この時間は取り返せない。

他人の成功。炎上。ニュース。脳がそれを処理しようとして、勝手に興奮状態に入る。ネガティブな情報だけではない。友人の旅行写真、同僚の昇進報告。ポジティブな刺激でも脳は覚醒する。「いいなぁ」と思った時点で、もう眠りは遠ざかっている。

もともと日本は、削る余裕のあるほうではない。OECDが各国の生活時間をまとめたデータでは、日本の睡眠は7時間42分。載っている35の国と地域で、いちばん短い¹⁾。そこからさらに毎晩30分持っていかれる。時間が足りていないなら、質を上げる工夫より先に、寝る時刻を戻すほうが早い。

「情報収集だから」と言い訳していた過去の自分に言いたい。あれは情報収集ではない。脳に興奮剤を打っているのと同じだ。

ブルーライトカットメガネをかけて、これで大丈夫だと思ってスマホを見続けるのが、いちばんまずい。これは12万人のJAMA研究の記事でも書いた。問題は光そのものより、つい使い続けて寝るのが遅くなること、脳が興奮してしまうことだ。

じゃあ寝る前に何をするか。紙の本を数ページめくるだけでいい。

画面の刺激がない分、頭が静まりやすい。本棚から1冊持ってくるだけで、お金もかからない。

ポイントは「紙の本」であること。KindleのE Ink端末のように自分では光らないやつなら大丈夫かもしれないし、スマホやタブレットの液晶とは違う気がするけど、自分は紙の本にしている。なんとなく落ち着くから。人類は紙の本とともに生きてきた。スマホの読書アプリは論外だ。通知が気になるし、光る画面を持った時点で、寝つきは遠ざかる。

自分は寝室にスマホを持ち込まないことにしている。充電器をリビングに置くだけ。これがいちばんラクだった。仕組みにしてしまえば、意志の力はいらない。通知が視界に入らないだけで、スマホに手が伸びる回数がはっきり減る。

② 夜の「重い会話」

仕事の問題。家族との議論。 お金の話。将来の不安。

寝る直前に、その日のうちに終わらない話を始める。すると布団に入ってからも、頭の中で続きが始まる。言い返せなかった一言を、何度も再生する。布団で目が冴えるのは、たいていここからだ。

「でも話し合わないと…」。わかる。でも夜にやる必要はない。

自分も以前、夜に妻と子供の教育方針とプロテインの置き場所について 話し合おうとして大失敗したことがある。

夜に浮かんだ不安は、紙に書き出して明日にまわす。

ベイラー大学の研究が分かりやすい⁴⁾。健康な18〜30歳57人を、一晩だけ脳波を測りながら眠らせた実験だ。寝る前の5分にこれからやることを書き出した群は、寝つくまでが平均15.8分。終わった作業を書いた群は25.1分だった。差はおよそ9分で、細かく書いた人ほど早かった。

一晩だけの実験で、対象は不眠のない若い人だ。なぜ効くのかも分かっていない。ただ、紙とペンだけで試せる。

自分はベッドサイドにメモ帳を置いている。夜に浮かんだ不安は全部そこに書いて、「これは明日の自分の仕事」と決める。書いた瞬間に、頭から抜ける。この感覚は、一度やると戻れない。

③ 夜の明るすぎる照明

夜の強い光は、メラトニンの分泌が始まる時刻を大きく遅らせる。

ハーバード大学のグループが、過去の実験データをまとめて解析している⁵⁾。就寝前の8時間を明るい室内灯で過ごした場合と、薄暗い明かりで過ごした場合の比較だ。室内灯のほうが、メラトニンの出はじめが遅かった。104人中103人でそうだった。分泌が続く時間そのものも、1時間半ほど短くなっていた。

同じ論文には、ふだん眠っている時間帯に起こしたまま室内灯を当てた実験もある。13回の試行のうち11回で、メラトニンが半分以上抑えられていた。

特にやっかいなのが白色LED(色温度5000K以上)だ。オフィスの蛍光灯やコンビニの照明がこれにあたる。多くの家庭のリビングも5000K前後の昼白色だ。寝る1時間前までコンビニにいるのと、そう変わらない光の中で過ごしている人が多い。

メラトニンは「睡眠ホルモン」と呼ばれるけれど、正確には「暗闇のホルモン」だ。暗くなって、はじめて出てくる。つまり夜に明るい光を浴びている時点で、体は「まだ昼だ」と思っている。眠くならないのは当然だ。

じゃあどうするか。夜の照明には順番がある。まず暗くする。天井の照明を消す。調光できるなら絞る。手元の灯りだけにする。そのうえで、替えられるなら暖色にする。

自分は夜になったら、リビングの天井照明を全部消して、暖色の間接照明だけにしている。最初は暗くて違和感があった。でも3日で慣れた。そして寝つきが明らかに早くなった。

電球を暖色に替えるなら、1000〜2000円で済む。ただ、これは買い物なので後回しでいい。消す、絞る、手元だけにする。ここまでは今夜0円でできる。

もうひとつ。スマホの画面も夜はナイトモードにしたい。とはいえ①でスマホを寝室に持ち込まなければ、この問題は勝手に消える。

光を意識するのは夜だけではない。日中に浴びる自然光も代謝を健康に保つために大切になるという話を一日中、天井の白い光しか浴びてないと代謝が狂い始めるにまとめた(メンバー限定)。

④ 寝る直前の食事

「寝る前に食べると太る」は有名だけど、本当の問題は体重ではない。

寝る直前に大きな食事をとると、夜中に目が覚めやすくなる人がいる。

オーストラリアの大学生793人に聞いた調査では、就寝3時間以内に食べる人ほど、夜中に目が覚めると答えていた⁷⁾。

寝る直前に食事をすると、胃腸が消化を始めて、食事誘発性熱産生で深部体温が上がる。体は寝ているのに、内臓だけ起きている状態だ。これで睡眠の質が上がるわけがない。

シドニー大学の横断研究(Chung et al., 2020)では、就寝3時間以内の食事と、夜中に目が覚めることの関連が報告されている(OR=1.61)。大学生を対象にした自己申告の調査なので、これだけで断定はできないけれど、外来の実感とは合っている。

自分の患者さんでも、「夜中に目が覚める」と訴える人の多くは、夕食が遅い。時間をずらすだけで楽になるケースを、何度も見てきた。

じゃあどうするか。夕食は寝る2〜3時間前に終わらせる。

どうしても空腹で眠れないなら白湯だけにする。固形物は入れない。仕事で夕食が遅くなるなら、18時ごろに軽く食べておいて、夜は味噌汁だけにするのも手だ。

特にアルコールは要注意だ。「酒を飲むとよく眠れる」は半分勘違いだ。アルコールは入眠を早める。ここは事実。でも後半の睡眠を浅くして、レム睡眠を削り、中途覚醒を増やす。朝のだるさが段違いになる。詳しくは「寝酒は、睡眠じゃない」に書いた。

この4つをやっても眠れないなら

ここに挙げた4つは今も続けている。睡眠の質ははるかによくなった。それでも夜中に何度も目が覚めた。朝の光か。夕食か。寝室の環境か。思いつくものは全部疑った。答えは全部違った。中等度の睡眠時無呼吸だった。

CPAPを始めたら、中途覚醒がなくなった。朝の休養感が増え、筋トレの調子も上がった。これは自分の個人的な話で、全員にCPAPが必要になるわけではない。でも、治療が必要な睡眠時無呼吸の患者さんは900万人以上いると言われている。いびき、無呼吸、日中の眠気、頭痛などの思い当たる症状があれば、ほかの症状がそろうのを待たず医療機関へ相談してほしい¹²⁾。運転中に眠くなるなら運転を控え、早めに相談してほしい。

「パパ、うるさい」で検査したら、睡眠時無呼吸だった|呼吸器内科医のCPAP体験記

まとめ

  • スマホは寝る前に寝室の外へ。充電器をリビングに置くだけでいい

  • 寝る直前に、その日のうちに終わらない話を始めない

  • 夜はまず照明を暗くする。暖色に替えるのはその次

  • 就寝直前の多めの夕食とお酒を避ける

  • それでも眠れないなら、睡眠時無呼吸を疑う

経営者を診ていて思うのは、パフォーマンスが高い人ほど「やること」より「やめること」の選び方がうまいということだ。ナシーム・タレブの言う「via negativa(引き算の道)」は、健康にもそのまま当てはまる。サプリを足すより、夜のスマホを引く。睡眠グッズを買うより、白い照明を消す。足し算は不確実で、引き算は確実だ。

睡眠は「休息」ではない。翌日の判断力への投資だ。
まずは今夜、スマホの充電器を寝室の外へ移す。

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1) OECD. Time Use Database. 2026年4月30日更新(日本の値は2021年社会生活基本調査に基づく).
2) Zhong C, Masters M, Donzella SM, Diver WR, Patel AV. Electronic screen use and sleep duration and timing in adults. JAMA Netw Open. 2025;8(3):e252493. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.2493
3) Bauducco S, Pillion M, Bartel K, Reynolds C, Kahn M, Gradisar M. A bidirectional model of sleep and technology use: A theoretical review of How much, for whom, and which mechanisms. Sleep Med Rev. 2024;76:101933. doi:10.1016/j.smrv.2024.101933
4) Scullin MK, Krueger ML, Ballard HK, Pruett N, Bliwise DL. The effects of bedtime writing on difficulty falling asleep: A polysomnographic study comparing to-do lists and completed activity lists. J Exp Psychol Gen. 2018;147(1):139-146. doi:10.1037/xge0000374
5) Gooley JJ, Chamberlain K, Smith KA, et al. Exposure to room light before bedtime suppresses melatonin onset and shortens melatonin duration in humans. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96(3):E463-E472. doi:10.1210/jc.2010-2098
6) Esposito T, Houser K. Correlated color temperature is not a suitable proxy for the biological potency of light. Sci Rep. 2022;12:20223. doi:10.1038/s41598-022-21755-7
7) Chung N, Bin YS, Cistulli PA, Chow CM. Does the proximity of meals to bedtime influence the sleep of young adults? A cross-sectional survey of university students. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(8):2677. doi:10.3390/ijerph17082677
8) Saidi O, Rochette E, Dambel L, St-Onge MP, Duché P. Chrono-nutrition and sleep: lessons from the temporal feature of eating patterns in human studies - A systematic scoping review. Sleep Med Rev. 2024;76:101953. doi:10.1016/j.smrv.2024.101953
9) Driver HS, Shulman I, Baker FC, Buffenstein R. Energy content of the evening meal alters nocturnal body temperature but not sleep. Physiol Behav. 1999;68(1-2):17-23. doi:10.1016/s0031-9384(99)00145-6
10) Piesman M, Hwang I, Maydonovitch C, Wong RK. Nocturnal reflux episodes following the administration of a standardized meal. Does timing matter? Am J Gastroenterol. 2007;102(10):2128-2134. doi:10.1111/j.1572-0241.2007.01348.x
11) Edinger JD, Arnedt JT, Bertisch SM, et al. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17(2):255-262. doi:10.5664/jcsm.8986

※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。睡眠の不調が続く場合、日中の仕事や運転に支障がある場合、いびき、呼吸が止まっているという指摘、強い眠気がある場合は、医療機関へご相談ください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。

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