「パパ、うるさい」で検査したら、睡眠時無呼吸だった|呼吸器内科医のCPAP体験記
「パパ、うるさい」
子どもから、寝ているときのいびきを注意されるようになった。
いびきは、前から妻にも言われていた。
「無呼吸なんじゃないの?体重重いんだから」
身長182cm、体重85kg。BMIは25.7で、数字だけ見れば肥満ぎりぎり。ただ、自分は筋トレを17年続けている。筋肉量は多いし、体脂肪もそれほど多くない。
「これは肥満じゃない。筋肉の重さだしぃ……」
そんな理屈をつけて、しばらく様子を見ていた。
夜中に何度か目が覚めることも増えていた。不眠か、中途覚醒か、と思っていた。
「…疲れているのか?朝の日光が足りないのか?寝る前の食事か?寝室の環境か?スクワットを追い込んでオーバートレーニングなのか?まさか….ストレス…?いや、ガチでストレスはない…」
思いつくものを一つずつ疑ったけど、思い当たるものは何もなかった。
呼吸器内科医なのに、自分の呼吸だけはとりあえず後回しにした。
子どもから「パパ、うるさい」と言われる回数が増えたところで、ようやくクリニックの睡眠検査(精密ポリソムノグラフィー)を受けた。最近は自宅でも受けられる。
検査結果は、AHI20.3。
AHIとは「無呼吸低呼吸指数」のことで、1時間の睡眠中に無呼吸と低呼吸が何回起きたかを示す。5未満が正常範囲。5以上15未満が軽症。15以上30未満が中等症。30以上が重症とされる¹⁾。
自分は、中等症の睡眠時無呼吸だった。
1時間あたり20.3回だから、6時間眠れば単純計算で約120回になる。一晩に100回以上、呼吸が止まるか浅くなっているということ。どう考えても健康には良くない。
CPAPを始めた。
最高だった。
中途覚醒がなくなった。日中も疲れにくくなった。何より、朝起きたときの「ちゃんと休めた」という感覚が、すごく良くなった。
自分は不眠を直そうとしていた。
でも、実際に乱れていたのは、眠っている間の呼吸だった。
睡眠時無呼吸は、珍しい病気ではない。
推計では、日本の30〜69歳で、睡眠時無呼吸症候群が約940万人いるとされる¹⁾。
これは診断済みの人数ではなく、有病率から計算された推計だ。それでも、かなり多い。
この記事を読んで「自分も怪しいかも」と思ったら、いびきや中途覚醒をそのままにしないでほしい。一度、睡眠検査について医療機関で相談してみてほしい。
この記事は、CPAPを全員にすすめる話ではない。
睡眠時間を確保している。朝の光や寝る前の習慣も見直した。それでも夜中に目が覚める。朝に回復した感じがしない。
そんな人に、無呼吸を疑う選択肢があると伝えたい。
筋肉が多いから大丈夫、は通らなかった
肥満は睡眠時無呼吸の大きな要因だ。首まわりや上気道の周囲に脂肪がつくと、眠っている間に空気の通り道が狭くなりやすい。
ただし、肥満だけで決まる病気ではない。扁桃や舌が大きい。鼻が詰まっている。下あごが小さい、または後ろへ下がっている。こうした体のつくりでも、眠ると喉の奥は狭くなる。日本呼吸器学会も、肥満でなくても睡眠時無呼吸になると説明している²⁾。
体脂肪が少なくても、睡眠中の空気の通り道は狭くなる。
筋肉量は、無呼吸の免罪符にはならなかった。
自分は「体重が重いのは筋肉だから」と説明できたことで、「無呼吸はないはずだ」まで飛躍していた。かなり都合のいい考え方だった。
不眠だと思っていたら、無呼吸だった
夜中に目が覚めると、多くの人は不眠を考える。
自分もそうだった。
朝の光。夕食の時間。疲労。寝室の温度。眠りを良くするためにできることはいくつもある。どれも睡眠には関係するし、試すこと自体は間違っていない。
ただ、中途覚醒は寝方だけの問題ではない。
睡眠時無呼吸では、眠っている間に気道が狭くなったり塞がったりする。呼吸を戻すために脳が短く覚醒する。本人には「息が止まって苦しかった」という記憶が残らないことも多い。
自覚するのは、たいてい別の症状だ。
夜中に何度も目が覚める
長く寝ても回復した感じがしない
朝に口が乾く
朝に頭が重い
日中に眠い、または疲れやすい
集中力が落ちる
ちなみに、眠気が強くないからといって、無呼吸を否定できるわけではない。重症だけど症状が軽い人もたくさんいる。もしかしたら慣れてしまっているのかもしれない。本人より先に、家族がいびきや呼吸停止に気づくこともある。
睡眠時無呼吸と不眠症状は、二者択一でもない。睡眠時無呼吸に不眠症状が重なることも珍しくない³⁾(最近をこれをCOMISAという)。
眠れないから不眠。いびきがあるから無呼吸。そんなにきれいには分かれない。

自分は眠りを整えようとしていた。でも、呼吸が乱れたままなら、朝の光や夕食だけでは中途覚醒が消えないこともある。
いびきだけの病気ではない
睡眠時無呼吸が危険なのは、いびきと眠気だけではない。
気道が塞がる。酸素が下がる。呼吸を戻すために脳が短く起きる。そのたびに交感神経が活性化し、血圧と心拍が上がる。
寝ているはずなのに、体は一晩中、何度も緊急対応をさせられる。
睡眠時無呼吸は、高血圧や心房細動と関連している。心不全や冠動脈疾患、脳卒中との関連も報告されている⁴⁾。
死亡との関連を調べた有名な研究もある。米国のウィスコンシン睡眠コホート(同じ集団を長年追いかける研究)では、1522人を最長18年間追跡している。
重症の睡眠時無呼吸(AHI>30)は全死亡リスクが約3倍だった⁵⁾。
年齢、性別、BMIを調整した後の数字だ。睡眠時無呼吸を「いびきがうるさいだけ」で終わらせるのは非常に危ない。

CPAP、最高だった
CPAPはマスクから空気を送り、その圧で眠っている間の気道を内側から支える。つぶれかける空気の通り道を、空気圧で開いた状態に保つ治療だ。
自分の場合、最初に変わったのは中途覚醒だった。
夜中に何度か目が覚めていたのが、なくなった。
次に、日中の疲れ方が変わった。睡眠時間を確保しても残っていた「回復しきっていない感じ」が減った。
でも、いちばん違ったのは朝だった。
朝の体調が、全然違う。
起きた瞬間から、ちゃんと休めている。頭も体も、前日の疲れを持ち越していない。「ぐっすり寝た」と感じる。
これは「睡眠休養感」と言う。朝に「睡眠で休養がとれた」と感じられるか、という自分の回復感のことだ。主観的な感覚ではある。でも、ただの気分として片づけていいものではない。
厚生労働省の睡眠ガイドでも、良い睡眠は睡眠時間だけでなく、睡眠休養感も大事だとされている。中途覚醒や休養感の低下が続く場合は、睡眠時無呼吸などの睡眠障害が隠れていることもある⁶⁾。
以前、睡眠スコア95点の日に、外来中に寝落ちしかけた医者の話で、オルソソムニアについて書いた。
睡眠スコアのように機器が出す数字は便利だ。ただし、センサーとアルゴリズムから計算した推定値でもある。
一方で、朝に体が軽いか。前日の疲れが抜けているか。午前中に頭が動くか。「ちゃんと休めた」と感じるか。この睡眠休養感も、睡眠を考えるうえで欠かせない。
睡眠スコアと睡眠休養感は、どちらか一方が正しいという話ではない。数字は呼吸や装着状況を確認する。休養感は、その睡眠が翌日の自分にどう返ってきたかを確認する。
スコアが良くても朝からしんどいなら、「点数が良いから大丈夫」で終わらない。反対に、スコアが少し悪くても体調が良いなら、数字だけで不安になりすぎない。
機器上のAHIが1.7まで下がったのはうれしかった。でも、自分にとってCPAPが本当に良かったと思えた理由は、その数字だけではない。
朝起きたときに、自分で「休めた」とわかった。
それがいちばん大きかった。自分はCPAPを始める前から、睡眠時間はそれなりに取っていた。時間は足りていた。ただ、眠っている時間の中身が、乱れていた。そして、意外と睡眠スコアを見てもわからなかった。
機器に記録されていた数字は、こうだった。

自分に起きた変化は、CPAPで一般に知られている効果とも一致している。
米国睡眠医学会が比較試験をまとめたレビューでは、CPAPなどの陽圧療法は無呼吸と低呼吸を減らす。日中の眠気と、睡眠に関連する生活の質も改善する。血圧もそこまで劇的ではないけれど、下がる⁸⁾。
もちろん、全員が一晩で別人のように変わるわけではない。症状の出方も、治療後の体感も人によって違う。自分の場合は、かなりわかりやすく効いた。
血圧はもともと低めだったが、CPAPを始めてからさらに下がった。筋トレのパフォーマンスも上がった。この期間、食事もトレーニング内容も生活習慣も変えていない。変えたのはCPAPだけだった。だから自分は、血圧と筋トレの変化もCPAPの効果だと思っている。
CPAPは、つけている間に気道を支える治療だ。無呼吸になりやすい体の条件そのものを消すわけではない。外せば、また気道は狭くなりうる。
保険診療で使うCPAPは、医療機関から機械を借り、定期的にデータを確認してもらいながら使う⁹⁾。
自分の感覚では、睡眠のサブスクに近い。だいたい月4500円くらい。いろんなサブスクがあるけど、月4500円で毎日ぐっすり眠れるのだから、投資リターンとしてはめちゃくちゃ良いと個人的には思っている。
それに、薬を体に入れる治療ではないので、薬のような全身の副作用の心配は少ない。
もちろん、CPAPそのものの負担がゼロというわけではない。鼻や喉が乾く。鼻が詰まる。マスクが当たる。空気が漏れる。圧に慣れるまで寝にくい人もいる¹⁰⁾。
今まで自分は、朝の光がどうだ。寝る前の食事がどうだ。カフェインがどうだと、睡眠について散々偉そうに記事を書いてきた。
どれも間違いではない。ただ、少なくとも自分の中途覚醒には、無呼吸がかなり関わっていた。不眠だと思っていた。無呼吸だった。
本当に、もっと早くやっておけばよかった。
少し興奮しながら、妻に報告した。
「不眠じゃなくて無呼吸だったわ!」
返ってきたのは、
「そりゃそうじゃん。バカなの?」
だった。
何も言い返せなかった。
自分が朝の光や夕食の時間をあれこれ考えている間、家族にはもっと単純な事実が見えていた。
寝ている自分のいびきが、うるさかったのだ。
家族の「うるさい」は、検査を考える手掛かり
睡眠時無呼吸は、本人が眠っている間に起きる。
だから本人より、隣で寝ている家族が先に気づくことがある。
次の項目が重なるなら、生活習慣だけで粘らず、一度検査について相談してみてほしい。
大きないびきを指摘された
呼吸が止まる、フガッみたいな息を吹き返すような音をしてると言われた
夜中に何度も目が覚める
朝に口が乾く、頭痛がある
夜中に何度もトイレへ行く
日中の眠気、疲労、集中力低下がある
朝の血圧が高い、または治療しても血圧が下がりにくい
スマートウォッチの酸素飽和度や、いびき録音アプリが手掛かりになることはある。ただ、それだけで睡眠時無呼吸を確定も否定もできない。
寝方を整えても、回復しない人へ
睡眠時間を増やす。起きたら朝の光を浴びる。寝る前のスマホをやめる。カフェインを早めに切る。夕食を遅くしすぎない。
どれも試す価値がある。
ただ、それでも中途覚醒が続くなら、自分の努力が足りないとは限らない。
眠っている間の呼吸が、本人の知らないところで睡眠を細切れにしていることがある。
家族からいびきを指摘されている。朝に回復感がない。日中も疲れやすい。こうした項目が重なるなら、睡眠外来で相談する意味がある。
自分より先に異変へ気づいたのは、検査機器でも医師でもなかった。
「パパ、うるさい」と言った子どもだった。
参考:2026年6月からCPAPの保険基準が変わった
2026年6月1日から、日本の保険診療上のCPAP導入基準が一部見直された。従来はAHI20以上だった基準が15以上へ、AHI40以上だった別の線が30以上へ下がった¹¹⁾。つまりCPAPのハードルは下がったと言うこと。
まとめ
筋肉量が多く、体脂肪が少なくても睡眠時無呼吸は除外できない
中途覚醒は、不眠だけでなく無呼吸でも起こる
重症の睡眠時無呼吸では、全死亡の起こりやすさが約3倍だった観察研究がある
自分は中途覚醒がなくなり、朝の睡眠休養感と日中の疲れが改善した。血圧も下がり、筋トレのパフォーマンスも上がった(一人の経験談)
家族からのいびきや呼吸停止の指摘は、軽く扱わないほうがいい
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参考文献
1) Kasai T, et al. JCS 2023 Guideline on Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing in Cardiovascular Disease. Circ J. 2024;88(11):1865-1935. doi:10.1253/circj.CJ-23-0489.
2) 日本呼吸器学会.睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS).
3) Sweetman A, et al. Comorbid Insomnia and Sleep Apnea. Sleep Med Clin. 2022;17(4):597-617. doi:10.1016/j.jsmc.2022.07.006.
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※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
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