睡眠スコア95点の日に、外来中に寝落ちしかけた医者の話
Oura Ringの睡眠スコアが95点だった朝、自分はけっこういい気分で外来に向かった。
昨日は22時に寝た。深い睡眠もしっかり取れている。HRVも高い。アプリが「Optimal(最高!)」と表示している。
ところが、午前の外来中にめちゃくちゃ眠かった。
別に寝落ちしたわけじゃない。でも患者さんの話を聞きながら「あ、いま集中力切れてるな」と自覚する瞬間が何度かあった。カルテ打ちながらぼんやりしている自分に気づいて、コーヒーを入れに立った。
95点なのに、これ?
3年間毎日スコアを見て「高い日=いい日」だと思い込んでいたけど、この日に全部崩れた。
データが体調を決めるんじゃない。体調がデータに反映されるだけ。
順番が逆だった。これは自分だけの話じゃないと思う。スマートウォッチで睡眠スコアを毎朝チェックしている人に、今日は「数字との付き合い方」について書いてみたい。
自分がスマートウォッチでやらかしたこと
95点で寝落ちの件以外にも、恥ずかしい話がいくつかある。
朝起きて最初に見るのが、妻の顔じゃなくて睡眠スコアだった。スコアが80以上だと機嫌がいい。70以下だと朝から不機嫌。妻に「数字で機嫌変わるのやめて」と言われた。ぐうの音も出ない。
息子とお風呂に入りながらApple Watchで心拍数を確認していた。
「パパ、また時計見てる」
「お湯の温度で心拍数がどれくらい上がるか見てて」
妻「時計外しな」
外した。反省した。
妻が真剣に話しているときに手首をチラッと見た。
「私とあんたの心拍変動、どっちが大事なの」。時計を裏返した。
このとき気づいた。自分はデータを見ているつもりで、目の前の人を見ていなかった。
そもそもスマートウォッチの睡眠データはどこまで正確なのか
スマートウォッチのデータは、ほとんどの人にとって「見すぎ」になっている。
心拍数。HRV。血中酸素濃度。睡眠ステージ。これ全部、医療機器じゃない。Apple WatchだろうがOura Ringだろうが、医療機器として認証されているのはごく一部の機能だけ。睡眠スコアやHRVは「参考値」の域を出ない。
2024年にBrigham and Women's Hospital(ハーバード大学医学部の関連病院)の研究チームが、20〜50歳の健常者35人を対象に、Oura Ring・Apple Watch・Fitbitの睡眠ステージ精度を医療用の脳波検査(PSG)と比較している¹⁾。
最も精度が高かったOura Ringでも、睡眠ステージの検出感度は76〜79.5%だった。
ただしこの76〜79.5%は、深い眠り・浅い眠り・REMといったステージの細かい分類の話だ。実はこのステージ分けは、医療用の脳波検査でも難しい。同じ一晩を専門の技師が2人で別々に判定しても、判定はぴったりとは揃わない。人間の専門家でも割れるところなので、デバイスがずれるのを責めるのは酷な気もする。
「寝ているか起きているか」の単純な判定なら、この研究でもどのデバイスも感度95%以上だった。
つまりスマートウォッチが苦手なのは細かいステージ分けのほうで、
「だいたい合っているけど、ステージ分類は5回に1回はズレる」レベル。
その数字に毎朝一喜一憂するほどの精度かと言われると、うーん、という感じ。
もっと気になるデータがある。
2025年にAntwerp大学のSchyvensらが、6種類のウェアラブルを検証した研究がある²⁾。対象は睡眠検査室で一晩測った62人(平均46歳)で、半分以上は睡眠時無呼吸の疑いで検査に来た人たちだ。この研究では「寝ている」の検出感度が全デバイスで90%以上だった。ここだけ見ると優秀に見える。
でも「起きている」の検出特異度は29〜52%。機種によっては、覚醒の7割を見逃している。実際は目が覚めているのに、デバイスは「寝てますよ」と判定している。
そりゃ睡眠スコアが高く出るわけだ。寝ていない時間を寝ていることにしているのだから。自分の「95点なのに眠い」はまさにこれだったんだと思う。
完璧なスコアを追い求めて眠れなくなる(オルソソムニア)
睡眠医学に「orthosomnia(オルソソムニア)」という呼び名がある。2017年にRush大学の睡眠研究者Baron氏らが報告した状態だ³⁾。
完璧な睡眠スコアを追い求めるあまり、かえって眠れなくなることだ。
睡眠スコアが低い → 不安になる → 眠れない → スコアが下がる。無限ループ。

Baron氏らの論文では3人の患者さんの症例が報告されている。共通していたのは、トラッカーのデータに合わせて行動を変えてしまうこと。3人とも、トラッカーが表示する睡眠時間を増やそうとしてベッドにいる時間を延ばしていた。それがかえって不眠を悪化させた可能性がある、と著者らは書いている。
もっと厄介なのは、病院で脳波検査をして「ちゃんと眠れてますよ」と伝えても、「でもトラッカーでは眠れていないことになっている」と信じてしまうケース。医療機器より自分のスマートウォッチを信じてしまう。
笑い事じゃなくて、自分の「70以下で不機嫌になる」はまさにこの入口だった。
話それるけど、外来でもこれに近い患者さんを何人か診ている。「先生、スコアが60台なんですけど大丈夫ですか」って真剣な顔で聞いてくる。よく話を聞くと、日中は普通に元気だったりする。数字に体調を決められてしまっている。
見るべき数値と、見なくていい数値(ウェアラブルデータの使い分け)
3年間毎日スマートウォッチのデータを記録して、いまはこう使い分けている。
毎日見なくていいもの:
睡眠スコア。1日の消費カロリー。血中酸素濃度。心拍数の1拍単位の変動。歩数。どれも気になるだけで、その日の動きは変わらない。
週単位で見ると意味があるもの:
安静時心拍数のトレンド。HRVの週平均。睡眠時間の平均。
上がっているか下がっているか。方向だけ見ればいい。数字の絶対値は気にしない。先週より上がっているか下がっているか、それだけ。
安静時心拍数は、週平均で3bpm以上上がっていたら要注意。
オーバートレーニングか体調不良の兆候。自分の場合は普段50前半で、60を超えると大体風邪の前兆。
HRVの週平均は、自分の過去データとの比較だけ。
個人差が大きすぎるので他人と比較しても意味がない。
2週間以上連続で下降トレンドなら、休養を増やすタイミング。
本当に大事な数値はスマートウォッチにはない。
血圧。HbA1c。LDLコレステロール。尿酸値。これは年1回の健康診断でしか取れない。でもこっちのほうが命に直結する。
健診の「異常なし」では見えない検査項目(空腹時インスリン、ApoB、高感度CRPなど)はオールAの死角。健診では見えない血管リスクに書いた。スマートウォッチを毎日見るより、こっちを年1回きちんと見るほうが効く。
スマートウォッチを毎日見ているのに、健康診断を受けていない人はけっこういると思うけれど、見るものの優先順位が逆になっている。
データは見るな。体を見よう。
じゃあスマートウォッチの代わりに何を見ればいいのか。自分が毎朝やっているセルフチェックを書いておく。

朝のセルフチェック(スマートウォッチ不要):
①目覚めたとき、自然に起きられたか?
アラームが鳴る前に目が覚めたなら、それだけで十分眠れている。
②起き上がるとき、体が重くないか?
なんとなくだるいなら、睡眠スコアが何点でも休養が足りていない。
③午前中の集中力はどうか?
10時くらいまでにぼんやりする回数が多ければ、睡眠の質が落ちている。
たったこれだけ。数値は一切見ない。
自分の感覚のほうが、デバイスのアルゴリズムより当てになることが多いと3年かけて学んだ。
朝起きて、なんとなくだるい。それは睡眠スコアより正確な情報。
食後に眠い。それは血糖値スパイクのサイン。スマートウォッチには映らない。CGMをつけて2週間追ったら、寝不足や夜遅い食事の翌日に血糖が露骨に乱れていた話を「リブレをつけて気づいた血糖値の意外すぎる真実」に書いた。
筋トレ中に関節が痛い。それはHRVより大事な警告。いくらHRVが良くても、関節が痛ければ負荷は落としたほうがいい。
自分の体が出すシグナルは、どんなデバイスより精度が高いことがある。
スマートウォッチを否定しているんじゃない。自分もまだつけている。でも朝起きて最初に見るのは、睡眠スコアじゃなくて隣で寝ている息子の顔だ。
今日やること、ひとつだけ
スマートウォッチの睡眠スコア通知をOFFにする。
Apple Watchなら:Watch Appの「睡眠」から「通知」をオフ
Oura Ringなら:アプリの「設定」→「通知」→「睡眠サマリー」をオフ
1週間後、自分の体調を振り返ってみてほしい。スコアを見なかった日のほうが調子いいなら、それが答えかもしれない。
まとめ
睡眠ステージの検出感度は、いちばん一致していたOura Ringでも76〜79.5%(医療用PSGと比較)。Apple Watchは深い眠りだと50.5%まで落ちる
オルソソムニア=ウェアラブルの睡眠データを完璧にすることに執着して不眠になる状態毎日見ない:睡眠スコア・カロリー・血中酸素・歩数。週単位の方向だけ見る
朝のセルフチェック3つ(自然覚醒・体の重さ・午前集中力)。自分は3年かけて、数字よりこっちを先に見るようになった
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
役に立ったら「スキ」をもらえると、すごく励みになります。自分の体でも試した健康の話を、睡眠や運動を中心に、数日に1本くらい出しています。
ぜひフォローしてくれると嬉しいです。
もっと深く知りたい方へ(関連記事)
スコアを見るのをやめたあとに読む2本を選びました。環境から整える話と、自分の感覚で採点する話です。
▼ 数字の前に、土台を整える(無料)
睡眠サプリより先にやるべき5つのこと
室温・入浴・ブルーライト・カフェイン・起床時間。スマートウォッチを見るより先に、まず物理的な環境と習慣を整える話です。
▼ 数字を捨てて、5問の自作チェックを使う(無料)
睡眠スコア95点で外来中に寝落ちした医者が作った「5問セルフチェック」
本記事の「朝のセルフチェック」をさらに具体化した姉妹記事。30秒で自分の睡眠を判定する5つの質問です。
メンバーシップ「Dr.もさりラボ」のお知らせ
メンバーシップ『Dr.もさりラボ』を運営しています。X・無料noteでは出せない、もう一段踏み込んだ話を書いています。
経営者の主治医として、外来で実際に話している内容
論文を読みながら自分の体で試した、効いた・効かなかった記録
検査数値の読み方、サプリ・薬の選び方
メンバー限定の掲示板Q&A
月額1000円で全記事読み放題です。合わなかったらすぐ解約できます。気になった方は、覗いてみてください。
※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
Robbins R, et al. Accuracy of Three Commercial Wearable Devices for Sleep Tracking in Healthy Adults. Sensors. 2024;24(20):6532.
Schyvens AM, et al. A performance validation of six commercial wrist-worn wearable sleep-tracking devices for sleep stage scoring compared to polysomnography. SLEEP Advances. 2025;6(2):zpaf021.
Baron KG, et al. Orthosomnia: Are Some Patients Taking the Quantified Self Too Far? J Clin Sleep Med. 2017;13(2):351-354.
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 