睡眠スコア95点で外来中に寝落ちした医者が作った「5問セルフチェック」
睡眠スコア95点を叩き出した翌日に、外来中に寝落ちしかけた。
午後の外来で、患者さんの話を聞きながら意識がふっと遠のいた。カルテに目を落とした瞬間、文字がぼやけて、まぶたが勝手に落ちかける。慌てて姿勢を正したけど、内心めちゃくちゃ焦った。
医者が外来で寝落ちしかけた。しかも「完璧な睡眠」の翌日に。
帰ってから原因を考えた。前日の夜、たしかにすぐ寝た。中途覚醒もなかった。睡眠時間も7時間。スマートウォッチが高スコアを出すのは当然だった。
でも思い返すと、その日は朝から頭が重かったし、いつもの「シャキッ」がなかった。
睡眠の「量」は足りていた。足りていなかったのは「質」のほうだ。そして、その質はスマートウォッチには映らなかった。
スマートウォッチの睡眠スコアに振り回されている人は、外来でも本当に増えた。今回は、ガジェットの数字ではなく自分の体で睡眠の質をたしかめる「5問セルフチェック」を紹介する。毎朝30秒、メモ帳だけでできる。
スマートウォッチに映らないもの(睡眠スコアの正体)
最近、こういう相談が増えた。
「先生、Apple Watchの睡眠スコアが低いんですけど、大丈夫ですか?」
スマートウォッチが「深い睡眠40分」と表示して、それで不安になっている。でも本人に聞くと「日中は普通に元気です」と言う。
逆もある。「睡眠スコア85点」と出ているのに、午後の会議で毎日意識が飛んでいるビジネスパーソン。数字と体感が、まるで噛み合っていない。
理由はシンプルだ。スマートウォッチが拾っているのは、手首の動きと心拍の変動パターン。「動かなかった=深く寝ていた」と推定しているだけで、脳が本当に休まったかどうかまでは、手首のセンサーには届かない。
しかもそのアルゴリズムはメーカーごとに違う。Apple Watchで80点だった人が、Oura Ringで測ると70点になる、なんてことは普通にある。
つまり、スマートウォッチの出す「睡眠スコア」は、睡眠の質の推定値にすぎない。
それに対して「今日、体が軽いか」「午後に眠くなったか」は、体が直接出しているフィードバックだ。推定じゃない。体験そのものだ。
自分の95点寝落ち事件が、まさにそれだった。推定値は完璧なのに、体からのフィードバックは最悪。
自分も一時期、毎朝スコアを見ては一喜一憂していた。低い日は「今日は調子が悪いはずだ」と思い込む。
睡眠医学に「orthosomnia(オルソソムニア)」という呼び名がある¹⁾。睡眠データを気にしすぎること自体が、かえって睡眠を悪くしてしまう現象だ。自分がまさにハマっていた。
それで切り替えた。スマートウォッチを外して、自分の感覚で採点するようにした。これが、驚くほどうまくいった。
「主観」も意外と当てになる(PSQIという物差し)
「主観なんて当てにならないでしょ」
そう思うかもしれない。
でも、世界中の睡眠研究でいちばん使われている評価ツールのひとつは、脳波計でもスマートウォッチでもない。「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」という、紙のアンケートだ。
Buysseらが1989年にPsychiatry Research誌で発表して以来、30年以上、数えきれない論文で使われ続けている²⁾。脳波も心拍も使わない。
スコアに使う項目が、すべて本人の主観で成り立っている。
同居者に答えてもらう設問も5つあるが、これは臨床の参考用で、点数には入らない。点数を作っているのは、すべて本人が答えた19項目のほうだ。
なぜ主観で成り立つのか。
睡眠の質のゴールは、最終的に「日中どれだけ動けているか」だからだ。
どれだけ深い睡眠をセンサーで精密に測っても、翌日ぼーっとしているなら、その睡眠を「質が高い」とは呼びにくい。
逆に、数字が悪くても日中キレキレで動けているなら、まず問題ない。実際、PSQIの7つの評価項目のうち1つは、そのまま「日中の機能障害」だ。眠っている間ではなく、起きている間の自覚を測っている。
PSQIが測っているのは、脳波で見る睡眠の中身そのものではなく、本人が感じた睡眠の質のほうだ。開発者のBuysse自身が後年、地域住民187人を調べている。PSQIのスコアは、脳波検査で測った客観的な睡眠指標とは結びついていなかった³⁾。つまりPSQIは脳波の代わりではない。脳波では拾えないほうを測る道具として、30年以上使われてきたということだ。
「今日はちゃんと眠れた気がする」という感覚は、思っているより無視できない。ここに気づいてから、自分は「数字だけで測る」のをやめて「自分でも採点する」に変えた。
毎朝30秒の5問セルフチェック

起きた直後に、5問を0〜2点で答えるだけ。スマホのメモ帳でもノートでもいい。
①【入眠】布団に入ってから、眠るまで15分以内だった?
→ 15分以内=2点/30分以内=1点/それ以上=0点
②【中途覚醒】夜中に目が覚めた?
→ 覚えていない・0回=2点/1回=1点/2回以上=0点
③【起床感】目覚めたとき、体が軽い?
→ スッキリ=2点/普通=1点/だるい=0点
④【日中の眠気】昨日の午後、眠くなった?
→ まったくない=2点/少し眠い=1点/意識が飛んだ=0点
⑤【アラーム依存度】自然に目覚めた?
→ アラーム前に起きた=2点/アラーム1回=1点/スヌーズ2回以上=0点
合計10点満点。
なぜ、この5問なのか
適当に選んだわけじゃない。
この5問で、睡眠の質をつくる流れをまるごとカバーできる。
ことわっておくと、この5問はPSQIのように検証された質問票ではない。
簡単に使いやすくした、自分のオリジナルのチェックリストだ。
それでも、入眠・中途覚醒・起床感・日中の眠気・体内時計という、睡眠の質を左右する場所はひととおり押さえてある。
「入眠」と「中途覚醒」は、夜の睡眠そのもの。寝つきが悪い、何度も起きる。これは睡眠の「過程」でつまずいている。原因はたいてい、寝室が暑すぎる、カフェインが残っている、入浴のタイミングがずれている、のどれかだ。
「起床感」は、睡眠から目覚めへの移り変わりの質。深く眠れていれば、起きたときに体が軽い。ここが悪いと、時間は寝ているのに回復できていない。自分の95点事件は、まさにこれだった。スマートウォッチは「よく寝た」と言い、体は「全然回復してない」と言っていた。
「日中の眠気」は、睡眠の結果。どれだけ良い睡眠だったかは、翌日どれだけ動けるかで最終的に決まる。午後の会議で意識が飛ぶなら、前夜の睡眠に問題がある。
「アラーム依存度」は、体内時計の整い具合。毎日ほぼ同じ時間に自然に目が覚めるなら、体内時計はちゃんと回っている。スヌーズを何度も叩いているなら、起床時間と体内時計がズレている。
この5問で「睡眠の過程→回復→日中のパフォーマンス→体内時計」を、一気にスキャンできる。1問あたり6秒。全部で30秒だ。
スコア別のアクション表
ただ点数を出すだけだと、もったいない。点に応じて何をするかまで決めておくと、ここから先が変わる。
9〜10点:いじらない。 睡眠は整っている。変に新しいことを足さないこと。サプリもガジェットもいらない。うまくいっているときこそ手を出さない。これがいちばん難しくて、いちばん大事だ。
7〜8点:2つだけたしかめる。 寝室の温度は少し低めか。14時以降にカフェインをとっていないか。この2つだけで、7点が9点に化けることがある。デッドリフトのグリップを変えただけで重量が跳ね上がるのと似ている(わかりづらい例えかもしれない)。実際、何人もそうなった。
5〜6点:4つを順に点検する。
①寝室の温度(少し低めに)
②カフェインの締め切り(午後は控える)
③入浴のタイミング(寝る90分前)
④寝る前のスマホ。 だいたい、このどれか1つが犯人だ。
この4つを今夜からどう直すかは、別の記事に手順まで書いた。
睡眠サプリより先にやるべき5つのこと
4点以下:生活習慣だけでは説明がつかないことがある。
睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、うつ病の初期。こうした病気が隠れていることがある。「気合いが足りない」で片づけないでほしい。一度、睡眠の専門外来にかかる価値はある。自分の患者さんでも、スコアが慢性的に4点以下だった人を検査に回したら無呼吸が見つかった、というケースが何件かあった。治療を始めてから、朝のだるさが軽くなったと言う人が多い。
1週間続けると「曜日のクセ」が見える(ソーシャルジェットラグ)
このチェック、1日だけだと「たまたま」かもしれない。1週間続けると、見え方が変わってくる。
ある患者さんは、1週間記録して月曜だけスコアが4点だった。原因は週末の寝だめ。
「ソーシャルジェットラグ」と呼ばれる状態だ⁴⁾。休日と平日で「寝ついた時刻と起きた時刻の真ん中」がどれだけずれるかで測る。夜ふかしと朝寝坊が重なるほど、この真ん中は後ろへ動いていく。体だけ休日仕様の時間割のまま、月曜の朝を迎えることになる。
このずれが大きい人ほど肥満や代謝の数値が悪かった、という報告は積み上がっている⁵⁾。(どれも観察研究で、ずれを直せば数値がよくなると確かめた試験はまだないけど、体内時計と健康の関連はとても注目されてきている)
その患者さんは起床時間を休日も固定した。翌週から月曜のスコアが7点に上がって、本人は「月曜が怖くなくなった」と言っていた。
こういうのを見つけた瞬間はこっちも嬉しくなる。「それだ」ってなる感じ。外来でいちばんテンションが上がる瞬間かもしれない。
別の例。40代でIT企業勤めの患者さんは、平均スコアが5点で安定していた。寝室の温度を下げて、カフェインの締め切りを14時にした。2週間後、「8点になってます」と連絡があった。その後どうなったかは知らない。来なくなったから。よくなって必要なくなったのかもしれないし、忙しくて記録をやめたのかもしれない。
もう1つ。30代の女性の患者さん。1週間のスコアが、8・8・3・8・8・8・8。水曜だけ3点だった。聞いてみたら、水曜だけ夜に子どもの習い事の送迎があって、入浴が寝る直前にずれていた。入浴を送迎の前に動かしただけで、翌週の水曜は7点に戻った。
クセが見えると、原因がわかる。
原因がわかると、手が打てる。
手が打てると、スコアが上がる。
この流れが回りはじめると、睡眠の改善は半分くらい自動で進むようになる。
「三日坊主になりそう」への答え
先に言っておく。自分も患者さんに「毎朝つけてね」と頼むと、半分以上が1週間以内にやめる。
だから最近は、こう伝えている。「5問全部じゃなくていい。③の『起床感』だけでいい」と。
朝起きた瞬間に、スッキリか、普通か、だるいか。これを3段階で、1秒で決めるだけ。
メモ帳を開く必要すらない。カレンダーアプリに○△×を書く。手帳派なら、日付の横に1文字。それだけでいい。これだけでも、1週間続けると「自分の睡眠のクセ」が見えてくる。△と×が並んだ日に、共通する行動はないか。○が続いた週に、何をしていたか。
余裕が出てきたら、5問に増やせばいい。まずは「起きた瞬間の、1秒の自己採点」から。これなら続く。
自分のスコアも公開しておく
先週7日間の平均は、8.4点だった。
水曜だけ6点。原因はわかっている。夜トレーニングの日で、交感神経が興奮して入眠に時間がかかった。最近は夜トレの日だけ、入浴温度を下げたり対策している。
こうやって「なぜその日だけ低いのか」を考えるクセがつくと、翌週の対策が一手ずつ具体的になる。
ちなみに、95点寝落ち事件のころの自分がこのチェックをやっていたら、③起床感と④日中の眠気で、確実に0点をつけていた。合計はおそらく5〜6点。スマートウォッチは、95点をつけていたのに。
数字と体感のズレに、もっと早く気づいていればよかったと思う。
スマートウォッチを捨てる必要はない
ここまで読むと「じゃあスマートウォッチは無駄なのか」と思うかもしれないけど、そんなことはない。長い目で睡眠のトレンドを追う道具としては、むしろ優秀だ。「先月より今月のほうが、平均睡眠時間が30分減っている」みたいな変化は、スマートウォッチのほうがよくわかる。
問題は使い方のほうだ。毎日のスコアに一喜一憂して、体の感覚より数字を信じてしまう。これが罠になる。
スマートウォッチは参考資料。最終判断は、自分の体に聞く。この使い分けができるようになると、ガジェットもセルフチェックも、両方ちゃんと活きてくる。
まとめ
スマートウォッチの睡眠スコアは「推定値」。脳がちゃんと休まったかは、手首のセンサーには映らない
体が出すフィードバック(朝の軽さ・午後の眠気・自然な目覚め)は推定じゃなく体験そのもの。こっちも当てになる。
起きた直後の5問×0〜2点、合計10点で、入眠・中途覚醒・起床感・日中の眠気・アラーム依存をまとめてスキャンできる
続かないなら③「起床感」だけ。○△×を1秒つけるだけで、1週間で弱い曜日が見える
4点以下が続くなら、生活習慣だけの問題ではないかもしれない。無呼吸などを疑って、一度は睡眠外来へ
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。役に立ったら「スキ」をもらえると、すごく励みになります。
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※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
1) Baron KG, et al. Orthosomnia: Are Some Patients Taking the Quantified Self Too Far? J Clin Sleep Med. 2017;13(2):351-354.
2) Buysse DJ, et al. The Pittsburgh Sleep Quality Index: a new instrument for psychiatric practice and research. Psychiatry Res. 1989;28(2):193-213.
3) Buysse DJ, et al. Relationships between the Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI), Epworth Sleepiness Scale (ESS), and clinical/polysomnographic measures in a community sample. J Clin Sleep Med. 2008;4(6):563-571.
4) Wittmann M, et al. Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiol Int. 2006;23(1-2):497-509.
5) Roenneberg T, et al. Social jetlag and obesity. Curr Biol. 2012;22(10):939-943.
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