睡眠サプリより先にやるべき5つのこと
「睡眠の質を上げたいんですけど、何かサプリとかありますか?」
パーソナルドクターとして経営者を診ていると、初診でいちばん多いのがこの質問だ。気持ちはわかる。自分も30代の頃はサプリから入った。グリシン、マグネシウム。ひと通り試した。効果はある程度あると思う。
でも、睡眠専門外来のドクターたちと連携するようになって気づいた。サプリより効果が大きくて、しかもタダでできる 睡眠改善法がある。今日はその中から5つに絞って紹介する。全部、今夜から実行できる。
エアコンの設定温度を変えるだけで眠れる(室温と睡眠の質)
5つの中で、いちばん即効性がある。
人間の体は、 深部体温が下がるときに眠気が来る ようにできている。寝室が暖かすぎると、この深部体温の低下がうまくいかない。
暑い環境では中途覚醒が増え、徐波睡眠(深い眠り)とREM睡眠が減る。複数の睡眠脳波研究をまとめた総説で、繰り返し確認されている¹⁾。26℃と32℃を比べた実験では、26℃側で睡眠が安定していた。
ただし、この総説に「室温を何度にしろ」という具体的な数値は書かれていない。日本の住環境と厚生労働省の睡眠ガイド²⁾を踏まえると、夏場26〜28℃、冬場18〜22℃あたりが現実的なラインだろう。

自分がこれを知ったのは、自分自身の睡眠が壊れていた時期だった。当直明けで家に帰ってきて、暖房ガンガンの部屋で寝ようとして全然眠れない。グリシンを飲んでも変わらない。マグネシウム飲んでもダメ。それで室温を下げてみたら、嘘みたいにすんなり寝つけた。睡眠サプリに課金していたのに、答えはエアコンのリモコンだった。
夏場の冷房は途中で切らないほうがいい。タイマーで切れた後に室温が上がって、明け方に中途覚醒する人が多い。これは睡眠研究の第一人者である筑波大学の柳沢正史先生も繰り返し指摘していることだ。冷房は朝までつけっぱなし。 設定温度を適切にすれば、体が冷えすぎることはない。
入浴は「寝る直前」が逆効果になる(入浴タイミングと深部体温)
「寝る前にお風呂に入るとよく眠れる」
よく聞く話だけど、 タイミングを間違えると逆効果になる。
就寝1〜2時間前に40〜42.5℃のお湯に浸かると、入眠までの時間が短くなる。13件の研究をまとめたメタ解析の結果だ³⁾。著者らは公表時に「平均でおよそ10分早く眠れた計算になる」と説明していた。
メカニズムはシンプルだ。入浴で一時的に深部体温が上がる。その後、体が熱を放散しようとして深部体温が急激に下がる。この「下がり幅」が大きいほど、スムーズに入眠できる。

つまり寝る直前だと、まだ体温が下がりきっていない。「良かれと思って」寝る直前に入浴している人は、 むしろ寝つきを悪くしている可能性がある。
自分は毎晩、寝る90分前に40℃のお湯に15分浸かっている。トレーニング後のリカバリーにもなるし、睡眠の質も上がる。一石二鳥だ。やることは「風呂に入る時間を1時間半ずらす」だけ。
忙しくてシャワーしか浴びられない日は、せめて足湯。洗面器にお湯を張って10分。これだけでも末梢の血管が広がって熱放散が促される。
ブルーライトカットメガネでは解決しない(スマホと睡眠)
誤解している人が本当に多いので、ここは少し丁寧に書きたい。
コクランが複数の試験をまとめたレビューでは、ブルーライトカットレンズだけで睡眠の質が改善するという十分な科学的根拠は見つからなかったと結論づけている⁴⁾。
理由は2つある。
1つ目は、問題がブルーライトだけじゃなく「光の量」そのものだということ。就寝前にiPadを使うと、メラトニン(眠気を誘うホルモン)の分泌が50%以上抑制され、入眠が平均10分遅くなった⁵⁾。ブルーライトカットフィルターを使っても、画面の明るさ自体が高ければメラトニン抑制は起きる。
2つ目は、スマホを見ている時点で脳が活性化してしまうことだ。
SNSの通知、ニュースの見出し、メールの内容。視覚情報が次々に入ってきて、脳は「まだ起きていなきゃいけない」と判断する。ブルーライトをカットしても、脳の覚醒そのものは止まらない。
だから、いちばん効くのは見ないことだ。
ただ「見るな」と意志の話にすると、だいたい負ける。自分は寝室にスマホを持ち込まないことにしている。充電器はリビングに置いて、夜はそこに置いたまま。決めるのは場所だ。我慢ではない。
それでも寝るまでは手元にある。だから寝る2時間前から画面輝度を最低レベルまで下げておく。Night Shiftやダークモードと併用する。自分も21時以降は最低にしている。最初は暗すぎると思ったけど、3日で慣れた。慣れたらもう元の明るさに戻せない。あれは目に痛い。
スマホと睡眠の関係については、12万人規模のデータをもとに別の記事で詳しく書いている。
カフェインの「半減期」を知らない人が多すぎる(カフェインと睡眠)
コーヒー好きの人は多い。自分も1日2杯は飲む。
ただ、 カフェインの半減期は5〜6時間 。14時にコーヒーを飲むと、20時の時点でまだ半分のカフェインが体内に残っている計算になる。就寝6時間前のカフェイン400mg(コーヒー約4杯分)で、睡眠時間が1時間以上短くなった⁶⁾。
6時間前で、1時間。

この数字を初めて見たとき、自分は午後にコーヒーを飲む手が止まった。それ以来、コーヒーは13時で切り上げている。
午後のコーヒーが習慣の人には、デカフェへの切り替えをすすめている。最近のデカフェは本当に美味しくなった。ブラインドテストで区別できない人がほとんどだ。紅茶や緑茶にもカフェインは含まれるので、午後はルイボスティーやハーブティーに変えるのもいい。
ちなみに、カフェインの代謝速度には個人差がある。肝臓の代謝酵素(CYP1A2)の遺伝的な違いで、同じコーヒー1杯でも半減期が3時間の人もいれば8時間以上の人もいる。「自分はコーヒー飲んでも寝られるから大丈夫」と言う人がいるけど、寝られることと睡眠の質が保たれていることは別の話だ。
カフェインの賢い使い方についてはこちらで深掘り解説をしている
起床時間を固定する(体内時計とソーシャルジェットラグ)
5つの中で、これがいちばん効果が大きい。そして、いちばん嫌がられる。
「毎日同じ時間に寝ましょう」とよく言われるけど、自分はちょっと違うアプローチを取っている。
就寝時間ではなく、起床時間を固定する。
就寝時間は、その日の仕事量やストレスで変動する。コントロールしにくい。でも起床時間は、アラームをセットすれば必ず守れる。

ハーバード大学の研究では、睡眠・起床パターンが不規則な学生ほど学業成績(GPA)が低く、体内時計の位相が遅れていた⁷⁾。これは観察研究なので「不規則な睡眠が成績を下げる」と因果は言い切れないが、睡眠リズムの乱れと認知パフォーマンスの低下の関連は他の複数の研究でも一貫して報告されている。
週末に2時間遅く起きるだけで、月曜朝の体内時計は時差ボケ状態になる。これを「ソーシャルジェットラグ」と呼ぶ。東京↔バンコク間の時差ボケが、毎週月曜に起きているようなものだ。
睡眠の「規則性」がどれだけ寿命に影響するかは、以前の記事で論文をもとにまとめている。
睡眠は「時間」より「規則性」で寿命が決まる|論文解説 Sleep 2024
自分は平日も休日も6時起き。
最初の2週間はきつかった。休日の朝、隣で子どもがまだ寝ている中で一人で起きるのは結構つらい。何のために起きてるんだろうと思う瞬間もあった。でも3週目からはアラームが鳴る前に自然に目が覚めるようになって、休日の朝に自分だけの静かな時間ができた。今はこの時間がないと逆に調子が悪い。
ただ、これは万人向けの話じゃない。子どもが小さくて夜中に何度も起きるとか、介護があるとか、そういうライフステージの問題はテクニックだけでは解決しない。自分も子どもが夜泣きしていた頃は、どうにもならなかった。できる人から、できるタイミングで試してみてほしい。
サプリの話をしなかった理由
メラトニンやマグネシウム、グリシンをどう飲むかは、ここまで一度も書いていない。
効果がゼロだとは思わない。実際に、グリシンやマグネシウムで寝つきが良くなったという報告は複数ある。なんなら記事も書いた。でも、サプリを飲みながら寝室は暑いまま、寝る直前に熱い風呂に入って、ベッドでスマホをいじって、午後もコーヒーを飲んで、休日は昼まで寝ている。これは30代の自分そのものだ。
まず土台を整える。サプリは、その後でいい。
今夜のチェックリスト
5つ全部を一度にやる必要はない。今夜は1つだけでいい。
まず今夜: エアコンの設定温度を下げる(温度は季節による)
明日から: カフェインのデッドラインを14時に設定する
今週中に: 入浴を寝る90分前に移動する
来週から: スマホの充電器をリビングに置く(画面輝度も21時以降は最低に)
再来週から: 起床時間を固定する(まず平日だけでもいい)
1つずつ積み上げていくと、1〜2週間後にはこういう変化が出てくる人が多い。中途覚醒が減って、朝までぐっすり眠れる日が増える。朝の目覚めが「だるい」から「スッキリ」に変わる。午前中の集中力が明らかに上がる。
ただ、5つ全部やっても朝の回復感が戻らない人がいる。自分がそうだった。乱れていたのは生活習慣ではなく、眠っている間の呼吸だった。家族にいびきを指摘されているなら、生活習慣だけで粘らず、一度検査を相談してほしい。
睡眠は、最もROIの高い健康投資だ。しかも、ここに挙げた5つは全部タダでできる。あなたが今夜いちばん最初にやるのは、5つのうちどれですか?
まとめ
室温は夏26〜28℃/冬18〜22℃を目安に。5つの中で最速。冷房は朝までつけっぱなし
入浴は寝る1〜2時間前。深部体温の「下がり幅」を作る
ブルーライトカットメガネでは解決しない。光を削っても脳の覚醒は止まらない。効くのは見ないこと、その次が暗くすること
カフェインの半減期は5〜6時間。午後はやめる、デッドラインを14時に
就寝より起床時間を固定。週末2時間の寝坊で月曜は時差ボケ
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※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
1) Okamoto-Mizuno K, Mizuno K. Effects of thermal environment on sleep and circadian rhythm. J Physiol Anthropol. 2012;31(1):14. doi:10.1186/1880-6805-31-14.
2) 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023.
3) Haghayegh S, Khoshnevis S, Smolensky MH, Diller KR, Castriotta RJ. Before-bedtime passive body heating by warm shower or bath to improve sleep: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2019;46:124-135. doi:10.1016/j.smrv.2019.04.008.
4) Singh S, Keller PR, Busija L, et al. Blue-light filtering spectacle lenses for visual performance, sleep, and macular health in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2023;8(8):CD013244. doi:10.1002/14651858.CD013244.pub2.
5) Chang AM, Aeschbach D, Duffy JF, Czeisler CA. Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015;112(4):1232-1237. doi:10.1073/pnas.1418490112.
6) Drake C, Roehrs T, Shambroom J, Roth T. Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before going to bed. J Clin Sleep Med. 2013;9(11):1195-1200. doi:10.5664/jcsm.3170.
7) Phillips AJK, Clerx WM, O'Brien CS, et al. Irregular sleep/wake patterns are associated with poorer academic performance and delayed circadian and sleep/wake timing. Sci Rep. 2017;7(1):3216. doi:10.1038/s41598-017-03171-4.
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