見出し画像

スマホと睡眠|12万人のデータが覆した「ブルーライト犯人説」

寝る前にスマホを見るのが体に悪い。

もう誰でも知っている。知っていて、やめられない。自分もそうだった。
外来が終わって帰宅して、子どもを寝かしつけたあとの30分くらい、Xを開いてだらだらスクロールする。「まあ明日も早いし、そろそろ寝るか」と思ってから、もう15分。

こういう話題で必ず出てくるのが「ブルーライトが悪い」という説明だ。
だからブルーライトカットメガネを買い、iPhoneのNight Shiftをオンにする。それで安心する。自分の周りの経営者にも、「これかけてるから大丈夫っすよ」と言う人が多い。

本当にそうなのか。2025年に出た複数の論文を読むと、この「ブルーライト犯人説」が、かなり怪しいことがわかる。

メガネはかけて、画面はそのまま見続けている。光だけ気にして、見る時間はむしろ延びる。これだと、 いちばん効く対策を外したまま、安心だけしていることになる。

12万人の大規模研究が示したこと(JAMA)

2025年3月、JAMA Network Openに載った研究がある(Zhong et al., 2025)。アメリカで122,058人の成人を対象に、就寝前のスクリーン使用と睡眠の関連を調べたものだ。

毎日寝る前にスクリーンを使う人は、まったく使わない人に比べて、1週間あたり約48分睡眠が短かった。睡眠の質が悪いと感じている割合も33%高い。

週48分。1日にすると約7分。たいしたことないように聞こえるかもしれない。でも1年続くと約42時間。丸2日分近い睡眠を失っている計算だ。しかも平均値なので、ヘビーユーザーはもっと削られている。

たった7分でも、毎晩のことだ。睡眠が後ろに削られ続けると、日中の集中が確実に落ちる。経営者にとっては、翌日の判断の質に直結する。

もう一つ、面白い発見があった。夜型の人ほど、影響が大きかったのだ。

朝型の人は、就寝前にスクリーンを使っても睡眠時間の減りが小さかった。もともとの就寝が早いので、多少後ろにずれても翌朝の起床まで余裕がある。夜型の人はそうはいかない。もともと就寝が遅いところにスマホが乗って、寝るのがもっと後ろにずれる。でも翌朝の出勤時間は変わらない。ずれた分だけ、睡眠が丸ごと削られる。

もしブルーライトが犯人なら、同じ画面を見ている朝型も夜型も、同じように削られるはずだ。でも実際は、夜型のほうがはっきり大きく削られた。 差を生んだのは光の波長ではなく、「寝るのが後ろにずれたとき、翌朝の起床までに余裕があるかどうか」だった。

外来でも、夜型の経営者ほど「寝る前のスマホがやめられない」と「朝がつらい」がセットになっている。光のせいというより、寝る時間がずるずる延びて、起きる時間だけ動かないからだ。

アメリカだけの話じゃない

この傾向は、アメリカの中高年に限った話ではない。

2025年にFrontiers in Psychiatryに載ったノルウェーの研究では、約45,000人の大学生(18〜28歳)で同じテーマを調べている。ベッドでのスクリーン使用が1時間増えるごとに、不眠症状のリスクが59%上がり、睡眠時間は平均24分短くなっていた。

この研究では、SNS・動画・ゲームと活動の種類も比べている。でも、睡眠への影響に差はなかった。著者は「コンテンツの種類ではなく、使う時間そのものが問題」と結論している。

ただ、自分はコンテンツが無関係とまでは思っていない。どんな画面でも、脳を覚醒させる仕組みは共通して働くからだ。

ショート動画を見たあと、脳内でリプレイが止まらない。 「あと5分だけ」のつもりが、30分溶ける。 スマホを伏せても「通知が来てるかも」と、脳がアイドリングし続ける。

スマホがやっかいなのは、次に何が出てくるかわからないからだ。スロットと同じで、当たりがいつ来るか読めないから手が止まらない。SNSも動画もゲームも同じで、だから種類で差が出なかったのだと思う。自分も、何度それで時間を溶かしたかわからない。意志でどうにかなる相手じゃない。

だからこそ、 「何を見るか」を変えるより、「スマホを手放すかどうか」のほうが効く。

ブルーライトカットメガネは効くのか

じゃあ「ブルーライトをカットすれば解決するのでは」という発想はどうか。

ブルーライトに作用がないわけではない。
強い光はメラトニンの分泌を抑えて、出る時刻も後ろにずらす。
ここは昔から実験で確かめられている。

でも、それは煌々とした実験室の光の話だ。スマホの画面くらいの明るさだと、影響は実験室ほど大きくないと考えられている。だから光を少しカットしても、大勢は変わらない。

2025年のメタアナリシス(Luna-Rangel et al., Frontiers in Neurology)が、これに答えを出している。過去のRCT(ランダム化比較試験)をまとめて、ブルーライトカットメガネの睡眠改善効果を検証したものだ。

結果はシンプルだった。寝つきから夜中の目覚めまで、どれも統計的に意味のある改善はなかった。ただ、この研究には弱点もある。対象になったRCTは3本、合計49人と少ない。「効果がない」と言い切るには、まだ早い。

それでも、 「メガネをかければ安心」という態度に根拠がないのは確かだ。 メガネで光をカットしても、Instagramのリールが面白くて止まらない問題は、何も解決しない。

じゃあどうするか

ブルーライトの遮断は悪いことではない。でも、それだけで安心するのが間違いだ。メガネを買う前にやることがある。

いちばん効くのは、寝る前にスマホを物理的に遠ざけることだ。

「スマホの使用時間を減らすと何が起きるか」を調べた2025年のRCT(Pieh et al., BMC Medicine)がある。111人の大学生に、スマホを1日2時間以下に3週間制限してもらったところ、不眠症状・ストレス・抑うつ・幸福感のすべてが改善した。

ただし、やめると戻りやすい。制限をやめると、スマホの時間は6週間後にはほぼ元に戻った。ストレスや気分の改善も群の差としては消えていった。ただ、睡眠だけは追跡時にも差が残っていた。といっても、論文の著者自身は慎重だ。これは介入群が保ったというより、比べた対照群が後から悪くなっただけかもしれない、と書いている。だから過信はしない。一度がんばって終わり、でもない。自分も3週間で区切らずゆるく続けている。

自分がやっているのは、寝る30分前(できれば1時間前)に、スマホを寝室の外に置くことだ。充電器をリビングに置くだけでいい。最初の3日はそわそわする。でも1週間もすると慣れる。外来で患者さんにも勧めているけど、「意外と平気だった」という声が多い。

どうしても枕元に置くなら、せめて通知はオフにする。「来てるかも」で何度も画面を確認するのを止めるだけでも、手が伸びる回数は減る。

ベッドで何か読みたい人には、Kindleや紙の本という手もある。Kindleは通知が来ないのが大きい。スマホの厄介なところは、本を読もうとしても通知でSNSに引きずり込まれることだ。通知のないものに変えるだけで、ずるずる続く回数はかなり減る。

共通しているのは、意志の力で我慢しないことだ。 メガネをかけて見続けるのは、我慢で押し切る方向。スマホを別の部屋に置くのは、そもそも我慢しなくて済むようにするだけだ。続くのは、たいてい後者だった。

あとは、朝の光だ。夜のブルーライトを気にするより、朝に光を浴びるほうが、体内時計のリセットにはよほど効く。朝にしっかり光を入れると、夜にメラトニンが出る時刻も整いやすい。寝る時刻のばらつき、つまり規則性を整える話は、別の無料記事にまとめた。ここでは「朝に15分、外を歩く」とだけ伝える。通勤を一駅手前で降りてもいいし、休みの日ならベランダでコーヒーを飲むだけでもいい。

この研究をどこまで信じるか

JAMAの研究は横断研究なので、「スマホを使うから睡眠が短くなる」とは言い切れない。眠れないからスマホを見るのか、スマホを見るから眠れないのか。横断研究だけでは、その向きまでは決められない。

ただ、12万人規模で、年齢・性別・寝室の明るさなど複数の要因をそろえても関連が残ったのは重い。さらに、スマホを減らしたら睡眠が改善したというランダム化試験もある。少なくとも、眠れない人が触っているだけ、という一方通行の関係ではなさそうだ。

対象が米国の中高年(年齢の中央値56歳、女性が8割)に偏っている点も気になる。日本の30〜40代の経営者にそのまま当てはまるかは、わからない。ただ、ノルウェーの若年4.5万人でも同じ方向が出ていて、向きはかなり一貫している。

メガネのメタアナリシスもn=49と小さく、大きな試験が出れば結論が変わる可能性は残る。それでも、いま言えることはある。

「ブルーライトカットメガネをかけて、安心してスマホを見続ける」のが、たぶんいちばんまずい。 メガネより先に、スマホを手放す時間をつくる。 地味だけど、これがいちばん続くし、結局よく効いた。

まとめ

  • JAMAの12万人横断研究:寝る前のスクリーンで、1週間あたり約48分の睡眠減・質の悪化が33%増

  • ノルウェーの4.5万人でも同方向。ベッドでのスクリーン1時間増ごとに不眠リスク59%増

  • ブルーライトカットメガネは睡眠改善が確認できず(n=49のメタ分析。まだ小さいが方向は明確)

  • 差を生むのは「光の波長」ではなく「寝るのが後ろにずれるか」と「脳の覚醒」

  • メガネより先に、スマホを物理的に遠ざける。充電器をリビングに置くだけでいい

  • 「我慢」より「仕組み」。メガネで耐えるより、スマホを別の部屋に置くほうが続く

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
役に立ったら「スキ」をもらえると、すごく励みになります。自分の体でも試した健康の話を、いろんなテーマで、数日に1本くらい出しています。
ぜひフォローしてくれると嬉しいです。


もっと深く知りたい方へ(関連記事)

「光じゃない」とわかったら、次は具体的に何をやめて、何を食べるか。眠りを底上げする2本です。

▼ スマホの次は、夜の「やめる」をあと3つ
100万円のマットレスより効く「0円の睡眠改善」
スマホを手放したら、次は重い会話・白い照明・寝る直前の食事です。夜10時以降にやめるだけで眠りが変わる話をまとめています。

▼ スマホを手放しても眠れないなら、犯人は夕食かもしれない
10万の枕より効いた"眠れる食事"のつくりかた
スマホを手放しても眠れない人は、夕食が原因のことが多いです。何をいつ食べると眠りが深くなるか、経営者外来で実際に出している食事パターンをまとめています。


メンバーシップ「Dr.もさりラボ」のお知らせ
メンバーシップ『Dr.もさりラボ』を運営しています。X・無料noteでは出せない、もう一段踏み込んだ話を書いています。

  • 経営者の主治医として、外来で実際に話している内容

  • 論文を読みながら自分の体で試した、効いた・効かなかった記録

  • 検査数値の読み方、サプリ・薬の選び方

  • メンバー限定の掲示板Q&A

月額1000円で全記事読み放題です。合わなかったらすぐ解約できます。気になった方は、覗いてみてください。

※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。睡眠の不調が続く場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。

参考文献

Zhong S, et al. Screen Use Before Bedtime and Sleep in U.S. Adults. JAMA Netw Open. 2025.

Pieh C, et al. Effects of smartphone use restriction on mental health: A randomized controlled trial. BMC Medicine. 2025.

Hjetland GJ, et al. Screen use in bed and sleep among university students. Front Psychiatry. 2025.

Luna-Rangel AC, et al. Effectiveness of blue light filtering lenses on sleep: A meta-analysis. Frontiers in Neurology. 2025.

いいなと思ったら応援しよう!

Dr.もさり|山本 康博 いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!