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寝酒は、睡眠じゃない

ビール2本。体重65kgの人なら、350ml缶で約2本。
この少量から、もうレム睡眠は削られはじめる。

2025年のSleep Medicine Reviews(27研究のメタ解析)が、それを数字で示した。体重あたり0.5g/kg以下(標準飲料で約2杯)の低用量から、レム睡眠の開始が遅れ、レム睡眠そのものも減る。
飲む量が増えるほど悪化する用量依存性も、はっきり出ている。

自分もかつて寝酒をしていた。仕事が終わらない日、頭が止まらない夜。ビール1本で頭がぼんやりして、そのまま布団に入るとスッと落ちる。

あれを「睡眠」だと思っていた。

厳密にいうと、ビール1本(約14gのエタノール、体重65kgで0.22g/kg)はメタ解析が影響を定量化した閾値より下。一晩トータルで見ればレム睡眠の削られ方は小さい。でも「飲む日が続く」と話が変わってくる。毎晩飲む人は、毎晩ちょっとずつ睡眠の後半に代償を払い続けていることになる。

アルコールは睡眠に何をしているのか。2025年の最新メタ解析、日本人の約半数が持つALDH2部分欠損の追加リスク、寝酒をやめるための実践プロトコル、この3つを書く。


なぜ酒を飲むと眠くなるのか(GABAとグルタミン酸)

アルコールはGABA(抑制性の神経伝達物質)の働きを強めて、脳の活動を鎮める。同時にグルタミン酸(興奮性の神経伝達物質)を抑える。

脳のブレーキを強く踏みながら、アクセルも外している状態だ。

そりゃ眠くなる。入眠が早くなるのは事実。

ただし入眠が早い=よく眠れる、じゃないんですよね。
睡眠の中身をたどると、後半で別のことが起きている。


前半は「深い」、後半は「代償」を払う

お酒を飲んで寝ると、最初の2〜3時間は確かに深く眠れる。

深いノンレム睡眠(ステージ3)が増えて、成長ホルモンもそれなりに出る。だから「酒を飲んだ日はぐっすり眠れた」と感じる。

睡眠の前半だけを切り取れば、確かに「よく眠れた」ように見える。
でも後半は違う。血中アルコール濃度が下がり始めると、前半に抑えられていたレム睡眠が反動的に出てきたり、覚醒閾値が下がって中途覚醒が増えたりする。

夜中に目が覚める。妙に早く起きる。二度寝できない。飲んだ日の翌朝、8時間寝たはずなのにダルい。頭がぼんやりする。

これは「飲みすぎたから」じゃない。睡眠の前半で深さに下駄を履かせた分、後半で代償を払っているからだ。


レム睡眠が激減すると、ビジネスにどう響くか

そもそもレム睡眠とは何か。

睡眠は大きく2種類に分かれる。ノンレム睡眠とレム睡眠。

ノンレム睡眠は「身体の修復」の時間。
深いステージでは成長ホルモンが出て、筋肉や細胞を修復する。最近の研究では、海馬から大脳皮質への記憶の移し替え(専門的にいうと、宣言的記憶の固定)も、この深いノンレム睡眠で起きているとされる。 脳内老廃物の排出(グリンパティック系)も、ノンレム優位で進む。

レム睡眠は「情動処理と創造的結合」の時間。
レム(REM)とは、Rapid Eye Movement、まぶたの下で眼球が激しく動いている状態。夢を見ているのもこのとき。感情の処理、手続き記憶の統合、一見関係ない情報同士のつなぎ合わせ(創造性)がここで行われる。

「ノンレムは身体、レムは脳」というざっくり分けは、実は正確じゃない。ノンレムも脳のメンテナンスを担っている。両方揃って、初めて脳と身体の修復が完了する。

睡眠は約90分サイクルでノンレムとレムが交互に繰り返される。一晩に4〜5回。睡眠の前半はノンレム睡眠が多く、後半になるほどレム睡眠が長くなる。
レム睡眠は「明け方の睡眠」に集中している。アルコールはこの後半のレム睡眠を直撃する。

経営者やビジネスパーソンにとって、レム睡眠が減るとどうなるか。

感情のコントロールが甘くなって、些細なことでイライラする。
創造的な発想は湧きにくい。複数の情報を結びつける、あの仕事のキレが落ちる。

外来で「最近判断が鈍い」「集中力が続かない」と訴える方がいた。睡眠時間は7時間以上取れている。でも毎晩ビール2〜3本飲んでいた。飲酒を週2回に減らしただけで「頭のクリアさが全然違う」と言われたことがある。

睡眠時間は変えていない。変えたのは「睡眠の中身」。


日本人の半数弱は、もっと長引く|ALDH2部分欠損の追加リスク

日本人の約45%(半数弱)は、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)の活性が低い/欠損している遺伝子型を持っている。

内訳はヘテロ欠損型(活性が約1/16に低下)が35〜40%、ホモ欠損型(活性ほぼゼロ)が5〜10%(1割弱)。アルコール分解の中間産物アセトアルデヒドを酢酸に分解する酵素で、これが弱いと、同じ量を飲んでもアセトアルデヒドが体内に長く居座る。

セルフチェックは「過去に飲酒で顔が赤くなったことがあるか」(フラッシング歴)だけで概ね判定できる。日本人男性を対象にした研究では、この「顔が赤くなるか」の有無を聞くだけで、約9割の精度で遺伝子型を見分けられた(感度90%・特異度88%)。 全員をカバーするわけではないが、セルフチェックとしては十分実用的。ちなみに自分もビール1杯で顔が赤くなるフラッシャーだ。

フラッシャーの場合、アセトアルデヒドの代謝が遅れて、血中・唾液中濃度が長く高い状態が続く。このことから「睡眠の後半までアルコール由来の代謝産物が体内に残り、レム睡眠の崩壊がより長引く」可能性が指摘されている。ただ、この仕組みを脳波で直接確かめた研究はまだなくて、いまのところ仮説の段階。

それでも「飲んだ翌朝は頭が割れるように痛い」「ビール1本でも翌朝に響く」と感じる人は、ALDH2部分欠損の可能性が高い。それは、寝酒との相性が遺伝的に悪い、という話になる。

ちなみに、休肝日の長さ(48hか72hか)、ハームリダクションのプロトコル、フラッシャーの食道癌リスクについては、Q&A第3回で詳しくまとめた。


成長ホルモンとテストステロンが消える

筋トレしている人にとっては、これが一番怖い話。

成長ホルモンは深いノンレム睡眠中にどっと出る。特に男性では、一晩分の成長ホルモンの大半が「寝入りばなの最初の深いノンレム」に集中している。筋肉の修復、脂肪の分解、細胞の再生。

本番はここだ。ただ、ここが厄介だ。アルコールは前半の深いノンレム睡眠を「むしろ増やす」。

だから前半だけ見ると成長ホルモンも出ているように見える。でも実際は逆で、飲酒自体が成長ホルモンを出す指令を撹乱している。

これは新しい話ではなくて、40年以上前から分かっている。就寝前にお酒を飲むと、深い睡眠は増えるのに、夜間の成長ホルモンは抑えられる。量が増えるほどはっきりしていて、缶ビール7本前後(体重65kgで1.5g/kg)の大量飲酒になると、夜間のピークそのものが大きく崩れる。

テストステロンも下がる。

缶ビール約7本相当(体重65kgで1.5g/kg)の大量飲酒のあと、10〜16時間後にテストステロンが約23%下がったという報告がある。「飲んだ瞬間に急落」じゃなく、代謝が進む過程で遅れて下がってくる。「飲んだ翌朝〜翌昼にじわじわ響く」と覚えたほうが実感に合う。

テストステロンが下がると、筋タンパク合成が落ちる。コルチゾール(筋肉を分解するホルモン)が上がりやすい。寝ている間〜翌日昼にかけて、「筋肉を作るスイッチ」がオフになって「筋肉を壊すスイッチ」がオンになる。

ある研究では、健常な男性8人が運動の直後に缶ビール7〜8本相当(70kgで1.5g/kg)を一気に飲んだ。 アルコールを糖質と一緒に摂った群は、プロテインだけの群にくらべて筋タンパク合成が37%低下。 プロテイン25gを一緒に摂った群でも、24%の抑制が残った。 プロテインで多少は和らぐけれど、打ち消せはしない。

これは晩酌レベルじゃなくて「運動後の深酒」の話。ただし用量依存性はあるので、量が増えるほどダメージは積み上がる。運動した日の打ち上げが習慣化している人は、筋肉を作りに行ったはずが結果としてキャンセルし続けていることになる。

自分はトレーニングした日は基本飲まない。17年間の筋トレ人生で学んだ、たぶん最もコスパのいいルールがこれ。プロテインのタイミングや量についての考え方は、「トレ後30分以内にプロテイン」はもう古いで別途書いた。


「少量なら大丈夫」は錯覚

「ビール1本くらいなら大丈夫でしょ?」

これが一番多い質問。

先のメタ解析の答えは明確。0.5g/kg以下(体重65kgで350ml缶ビール約2本、標準飲料で約2杯)の低用量から、レム睡眠の開始時刻が遅れ、レム睡眠そのものが減る。

「ちょっとだけ」でも、それなりに影響は出ている。

もちろん量が増えればダメージも増える。体重あたり0.85g/kg以上(体重65kgで350ml缶ビール約4本、標準飲料で約5杯)になると、入眠自体は早くなるけど、そのぶん睡眠の後半の崩壊が深くなる。

少量〜中等量で早くなる「入眠」は、脳波上は真の睡眠。ただし睡眠の後半は断片化してレム睡眠が削られるので、「眠りやすくなる薬」というより「前半だけよく眠れて後半に代償を払う薬」。大量飲酒での「寝落ち」は鎮静や意識消失に近くて、これは通常の睡眠とは別物。


じゃあどうすればいいのか(6つのルール)

「酒をやめろ」とは言わない。自分もゼロじゃないし、付き合いもある。おいしい酒もある。ただし、ダメージを最小限にするためのルールはある。

1. 寝る3時間前には飲み終える

アルコールの代謝時間を確保する。体重65kgの人が350ml缶2本(純アルコール約28g)を飲んだ場合、健常な男性でおよそ3〜4時間かかる。500ml缶2本なら4〜5時間。女性は肝臓のアルコール脱水素酵素活性が男性より低く分布容積も小さいので、もっと長い。ALDH2ヘテロ欠損(フラッシャー)では、アセトアルデヒドが数時間余分に残ることもある。寝る直前まで飲んでいると、血中アルコール濃度が高い状態で睡眠に入ることになり、後半の崩壊が長引く。

2. 飲む日は週2日以内にする

連日飲むと睡眠の質が慢性的に低下する。外来では「火曜と金曜だけ」のように曜日を決めてもらうことが多い。決めないと、ズルズル毎日になる。

3. トレーニングした日は飲まない

筋タンパク合成が最大になるのは運動後24〜48時間。この回復のゴールデンタイムにアルコール、特に大量のアルコールを入れるのは、自分でボーナスを取りに行くチャンスを潰すようなもの。

4. 飲んだ日は水を倍飲む

アルコールには利尿作用がある。脱水は睡眠の質の足を引っ張る。ビール1杯につき水1杯。寝る前にコップ1杯の水を追加。

5. マグネシウムを補給する

アルコールには、マグネシウムを尿に押し出す働きがある。飲むと、その排泄が2〜3倍に増える。 マグネシウムが足りないと、眠りに関わるGABA神経の働きも落ちやすい。不足が気になる人は補ってもいい。ただ、マグネシウムで睡眠そのものが立て直せるという証拠は弱いので、決定打ではない。サプリで足すなら1日350mgまで、お腹がゆるくなる人は減らす。
ちなみに脳に届くマグネシウムの形態の選び方は、以下の記事で詳しく書いた。

6. 休肝日の翌朝の目覚めを記録する

「飲まなかった翌朝」と「飲んだ翌朝」の差を、自分の体で実感するのが一番の説得材料。スマートウォッチやスマートリングを持っている人は、睡眠スコアを比較してみてほしい。数字で見ると言い訳できなくなる。


まとめ

酒が悪い、とは言わない。でも「酒で眠れる」は半分勘違い。

入眠を早めるのは事実。でも睡眠の後半を壊し、レム睡眠を削り、成長ホルモンを抑え、テストステロンを翌日にかけて下げる。日本人の半数弱を占めるALDH2フラッシャーでは、その崩壊がより長引く可能性がある。

8時間寝たのに疲れが取れない。判断力が鈍い、筋肉がつかない。全部「飲んでいるから」かもしれない。

睡眠改善は「引き算」。スマホを寝室に置かない、白い照明を消す、重い会話を夜にしない、夕食を早めに終わらせる。そしてもう1つ。寝る3時間前にグラスを置く。

たったこれだけで、明日の朝が変わる。

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