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倒れる前に体が出す4つのサイン

「別に普通ですよ。ちょっと疲れやすくなったかな、くらいです」

この「ちょっと疲れやすくなった」が一番怖い。たとえば、心筋梗塞を起こした患者さんの多くが、発症の数日〜数週間前から漠然とした疲労感や息切れを感じていたことが複数の研究で報告されている。でも大半が「年のせい」「忙しいから」で片付けていた。

外来には体調を崩して初めて来る人が多い。話を聞くと全員ほぼ同じことを言う。 「まさか自分がこうなるとは思わなかった」倒れる人は、倒れる前日まで自分は大丈夫だと思っている。

でも体はちゃんとサインを出していた。出しているのに忙しすぎて気づかない。あるいは気づいても「年のせいだろう」で済ませてしまう。

この記事では自分が外来と自分自身の体調管理で、変化を見落とさないために確かめている4つのサインを紹介したい。1つでも当てはまったら、それは年のせいだけではない可能性がある。

サイン1:安静時心拍数が、去年より上がっている

安静時心拍数は、地味に一番見落とされている。

Apple WatchやOura Ringをつけている経営者は増えた。でも「安静時心拍数を毎月チェックしている」という人にはほとんど出会ったことがない。せっかくデータが取れているのに見ていない。宝の持ち腐れだ。

安静時心拍数は、体の余裕を映す鏡みたいなものだ。心臓は1回の拍動で送り出せる血液の量(1回拍出量)が多いほど、少ない拍動で全身に血液を送れる。だから心肺機能が高い人は安静時心拍が低い。

逆に、体に負荷がかかると安静時心拍は上がる。寝不足、飲酒、発熱、脱水、貧血、甲状腺の異常、仕事や運動のストレスでも変化する。だから自分は、心臓だけの数字ではなく、全身の負荷のバロメーターとして使っている。

数字で見ると怖さがわかる。124万人を対象にしたメタ分析では、安静時心拍数が10拍/分高い群は、全死亡リスクが9%高かった¹⁾。これは観察研究のメタ分析なので「心拍が高いから死ぬ」という因果関係ではない。ただ「体に何かが起きている」ことを拾うセンサーとしては非常に優秀だ。

もっと気になる研究がある。5,794人を25年間追跡した研究では、安静時心拍数の「変化の軌跡」を分析している。ポイントは「今の数値」ではなく「上がっているか下がっているか」を見たこと。年々上昇していた群は、下降していた群に比べて心不全リスクが65%高く、全死亡リスクが69%高かった²⁾。

ただし、この研究は学会で発表された段階のもので、まだ査読を経た論文としては出ていない。数字はあくまで暫定値として読んでほしい。

それでも、自分は今の一発の値だけでなく「上がってきているか」を重視している。一回の値は、前の晩の寝不足やその日の緊張で簡単にぶれる。外来でも、まだ正常範囲なのにじわじわ上がっている人ほど、あとで何か抱えていることがある。 だから一発の値だけで安心せず、上がってきていないかを確かめる。それくらいでちょうどいい。

チェック方法

スマートウォッチを持っている人は、アプリの「安静時心拍数」の月平均を出してほしい。3ヶ月前、半年前、1年前と並べて比べる。持っていない人は、朝起きてトイレに行く前に手首で15秒測って4倍すればいい。これを1週間続けて平均を出す。

医学的に「前年比いくら上がったら異常」という共通基準があるわけではないけど、自分は5拍上がったら注意している。5拍は、この研究から出した数字でもない。自分が見落とさないために決めているアラートだ。

月平均が去年より5拍以上高い状態が続いたら、ストレス、睡眠不足、運動不足、アルコールなど生活習慣を振り返りたい。

体の状態を映す指標としてはHRV(心拍変動)も優秀だ。ただいきなりHRVと言われても馴染みがないし、数値の解釈もちょっとややこしい。安静時心拍数は誰でもすぐ測れて、数字の意味もわかりやすいから、まずはここから始めてほしい。

ちなみに自分はこれが怖くてスマートウォッチを365日つけている。安静時心拍が上がる時期があって、大体そういう時は仕事が立て込んで睡眠時間が削られている。医者の不養生。わかっていてもやってしまう。

安静時心拍の今の数字と3カ月の動きをもう少し細かく確かめたい人は、Apple Watchの安静時心拍、70超えてたら黄色信号にまとめている。

サイン2:ペットボトルの蓋が、固く感じる(握力の低下)

「いやいや、そんなことで?」と思うかもしれない。でも、これはかなり重大なサインだ。

握力は「手の力」というよりも、全身の神経筋機能を映す指標だと考えたほうがいい。脳からの運動指令が神経を通って筋肉に届き、筋肉が収縮する。この一連のシステムがうまく動いているかどうかを、手を握るという単純な動作で測れる。だから握力が落ちているということは、手の筋肉だけでなく、全身の筋力や神経機能に何かが起きている可能性がある。

Lancetに載った大規模観察研究(PURE研究)では、17カ国約14万人を追跡し、握力が5kg低いごとに、全死亡が16%、心血管死が17%多かった³⁾。

繰り返すけれど、これも観察研究だ。「握力が落ちたから死ぬ」のではなく、「握力が低い人は、体のどこかに問題が起きていることが多い」。自分はそう考えている。握力は体全体の健康状態を手のひらサイズで測れるセンサーのようなものだ。

問題はこの「握力の低下」に本人がまったく気づかないこと。ジムに通っていない限り、自分の握力を測る機会なんてない。だからペットボトルの蓋みたいな日常動作で異変に気づけるかどうかがカギになる。

瓶の蓋が開けにくくなった。重い買い物袋を持つのがしんどくなった。タオルを絞る力が弱くなった気がする。 こういう「前はなんでもなかったのに」が増えてきたら、握力を確かめるきっかけになる。

去年来た50代の経営者が「最近ゴルフのドライバーが飛ばなくなった」と言っていて、調べてみたら握力が同年代平均より10kg以上低かった。本人は「老眼のせいでスイングが」とか言っていたけど、老眼で飛距離は落ちない。その後トレーニングを始めたかどうかは聞いていなくて、ゴルフの話だけやたら熱心で、自分はゴルフをやらないので盛り上がれず、微妙な空気で外来が終わった。

サイン3:「寝ても疲れが取れない」が2週間以上続いている

1日、2日なら誰でもある。でも、2週間以上続く場合は立ち止まってほしい。医学的に「2週間で異常」と決まっているわけではない。それでも2週間ずっと朝から重いなら、「歳のせい」「忙しいから仕方ない」で済ませず、一度原因を確かめたい。

知っておいてほしいのが、「睡眠の量」と「睡眠の質」は全く別物だという話だ。

睡眠には段階がある。浅い睡眠(ノンレム睡眠のステージ1〜2)と深い睡眠(ノンレム睡眠のステージ3)、そしてレム睡眠。このうち深い睡眠は、成長ホルモンの分泌や免疫機能、脳に溜まった老廃物の排出に関わる。ここが削られると、7時間寝ても回復感が乏しいことがある。見た目の睡眠時間は足りているのに、中身がスカスカという状態だ。

疲労の原因は、もちろん3つだけではない。貧血、甲状腺の異常、感染症、薬の影響、気分の不調が隠れていることもある。
そのうえで、経営者の相談で自分が最初に確認するのは、だいたいこの3つだ。

アルコール

寝る前に飲むとすぐ眠れるから「酒は睡眠薬」だと思っている経営者が多い。実際には、アルコールは寝つきを早くする一方で、睡眠後半とレム睡眠を乱しやすい。量が増えるほど影響も大きくなる⁴⁾。「すぐ眠れた」と「回復できた」は別だ。

毎晩ワインを2杯飲んでいる人がいた。睡眠時間は7時間取れている。「寝てるのに疲れが取れない」としか言わない。スマートウォッチの睡眠データを、飲んだ日と飲まなかった日で比べてもらった。端末が推定した深い睡眠の量が全然違った。飲んだ日はほぼゼロに近い。本人が一番驚いていた。数字で見ると言い逃れできなくなる。詳しくは寝酒は、睡眠じゃないで解説した。

睡眠時無呼吸

パートナーにいびきや呼吸が止まっていると言われたことがある人は、かなり疑わしい。BMIが高い人、顎が小さい人は要注意だ。本人は寝ているつもりでも、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりして、脳が短く覚醒する。この厄介さは「本人に自覚がない」ことに尽きる。本人の感覚だけではわかりにくい。確かめるには睡眠検査が必要だ⁶⁾。日本には900万人以上の治療が必要な睡眠時無呼吸の人がいて、治療されているのはごくわずかだ。

呼吸器内科医の自分も「体重が重いのは筋肉だから」と言い訳して、無呼吸を後回しにした。検査を受けたらAHI20.3。中等症だった。CPAPを始めるまでの顛末は、「パパ、うるさい」で検査したら、睡眠時無呼吸だった|呼吸器内科医のCPAP体験記に書いた。

寝る直前まで、頭の中で会議をしている

コルチゾールはいわゆるストレスホルモンで、本来は朝に高くて夜に低くなるリズムを持っている。慢性的な不眠がある人では、よく眠れている人よりコルチゾールが平均的に高い傾向も報告されている⁷⁾。ただ、疲れているから「コルチゾール過剰」と決められるわけではない。

経営者に多いパターンだ。寝る直前までメールを見て、翌朝の会議の段取りを頭の中で組み立てて、そのまま布団に入る。体はベッドにいる。でも頭はまだ会社にいる。

2週間以上「寝ても疲れが取れない」が続いているなら、飲んだ日と飲まなかった日を比べる。いびきや日中の眠気があれば睡眠検査を相談する。寝る直前まで仕事が続いていないか振り返る。この3つをおすすめする。

サイン4:体重は変わらないのに、ベルトの穴が変わった(TOFI)

体重計の数字は同じなのに、ベルトがきつくなった。スーツのウエストが入らなくなった。

医学にはTOFI(Thin Outside, Fat Inside)という概念がある。見た目は痩せている。BMIも正常。でも体の内側、とくに内臓のまわりに脂肪がべったりついている状態だ。

MRIで体脂肪の分布を調べた研究では、BMI20〜25の人でも男性の14%、女性の12%がTOFIに分類された⁸⁾。別の横断研究では、BMIが正常でも体脂肪率で見ると「正常体重肥満」に該当する人が、男性で26%、女性で38%いた⁹⁾。TOFIと正常体重肥満は同じ定義ではない。ただ、BMIだけでは体の中身がわからないという点は共通している。

日本人を含む東アジア人では、欧米人より低いBMIでも内臓脂肪が多いことがある。複数民族を比べた研究では、東アジア人はBMIの上昇に伴う内臓脂肪の増え方が大きかった¹⁰⁾。

BMIが正常範囲でも、日本人ではそれだけで安心しないほうがいい。TOFIについては、痩せてる脂肪肝が一番怖い|TOFIというリスクでもっと詳しく書いている。

前に「スーツのズボンが入らなくなった」って友達がいた。本人は太ったと思って食事制限を始めていた。でも体組成を確かめると、筋肉が落ちて脂肪が増えていた。体重は変わっていない。食事制限で筋肉がさらに落ちる。そうすると脂肪がもっとつきやすくなる。最悪のループに入りかけていた。

こういう人、外来でものすごく多い。「体重変わってないんで大丈夫だと思ってました」って言う。でも体重が同じでも、中身が入れ替わっていたら全然大丈夫じゃない。

もう一つ知っておいてほしいのが、脂肪とホルモンの関係だ。脂肪組織にはアロマターゼという酵素があり、肥満の男性ではテストステロンが低いことがある。筋肉が落ちると活動量も減り、さらに脂肪が増えやすくなる。

筋肉が落ちるとさらに脂肪が増える。脂肪が増えるとさらにテストステロンが減る。このループがいったん回り始めると、自力で止めるのがかなり難しい。

体重より体組成。 ここだけ覚えて帰ってほしい。

4つのサインに共通しているのは、「本人が気づかない」ことだ。

安静時心拍が上がっても痛くない。握力が落ちても生活はできる。疲れが取れなくても仕事は回る。ベルトがきつくなっても穴を1つずらせばいい。

人間、都合の悪いサインほど天才的にスルーできる生き物だ。

体は、健診の基準値を飛び越える前から少しずつ変わる。自分が知りたいのは、今の数字が正常範囲かだけじゃない。去年の自分からどう動いたかだ。

じゃあ、どうすればいいのか。

🚩ここから先は、4つのサインごとに、自分が体調管理で気をつけていることを書いています。メンバーシップ「Dr.もさりラボ」で読めます。過去記事もすべて読み放題です。

安静時心拍数が上がっている人がやるべきこと

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