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別々の現実を生きる社長と社員を、同じ問いに置く(後半)|フューチャードリブン経営論

対立の構図は、目的ではなく、目標だった

社長の目標は、事業を拡大することです。

社員の目標は、
家族との時間を守ることかもしれません。
安定した収入を得ることかもしれません。
専門性を高めることや、
将来の選択肢を増やすことかもしれません。

目標だけを並べれば、社長と社員は別の方向を向いています。

しかし、目的まで視点を引くと、構図が変わります。

ここでいう目標とは、現在の自分が実現しようとしている具体的な到達点です。

目的とは、その目標によって、何を実現したいのかという方向です。

そして、フューチャードリブンでいう未来は、目的と同じものではありません。
この連載でいう「未来」とは、将来のことではありません。

未来とは、未来に実現している状態を前提にした、現在の判断基準のことです。

社長は、事業を拡大したい。
その目的は、会社がより高い付加価値を生み、顧客から必要とされ続けることです。

社員は、家族との時間を守りたい。安定して働きたい。自分の力を高めたい。
そのためには、会社が顧客へ価値を提供し続け、自分もそこで無理なく力を発揮できる状態が必要です。

具体的な目標は違っていても、その目標を一段高いところから見れば、接続できる目的が現れます。

社長と社員が対立していたのは、目的ではなく、目標だったのです。

もちろん、すべての目的が一致するわけではありません。

社員が会社とは別の道を望んでいることもあります。
会社が必要とする変化と、社員が望む人生が、本当に両立しないこともあります。

だから、抽象度を上げれば必ず一つになるという話ではありません。

しかし、具体的な目標の違いを、そのまま目的の対立だと決めつければ、本当は接続できた可能性まで見失います。

会社には、違う目標を束ねる未来が必要である

社員全員に、社長と同じ目標を持たせることはできません。

社長が売上を二倍にしたいからといって、社員一人ひとりが同じ熱量で売上二倍を望むとは限りません。

新しい拠点を出したい。
社員数を増やしたい。
新規事業を成功させたい。

これらは会社にとって重要な目標です。

しかし、目標だけでは組織全体を駆動できません。

社員にとって、その目標が自分の人生とどう関係しているのかが見えないからです。

会社に必要なのは、社員全員を同じ目標へ従わせる力ではありません。

異なる目標を持つ人が、自分の未来との接点を見つけられるだけの、会社の未来です。
先に述べた通り、未来とは、未来に実現している状態を前提にした、現在の判断基準のことです。

売上が二倍になった先で
この会社はどのような存在になっているのか。
顧客へ、今までにないどのような価値を届けているのか。
そこで働く人は、どのような力を発揮し、
どのような可能性を広げているのか。
社会や地域にとって、どのような会社になっているのか。

その状態が十分に描かれていれば、社員は社長と同じ目標を持たなくても、自分の未来との接点を探すことができます。

会社が提供する価値を高めることが、自分の専門性を高めることにつながる人もいます。
会社が新しい市場へ進むことが、自分の仕事の選択肢を増やすことにつながる人もいます。
会社が安定して価値を生み続けることが、家族との生活を守ることにつながる人もいます。

全員が同じ未来を描く必要はありません。

会社の未来が、それぞれの目標を接続できる器になっていることが必要なのです。

「前提を受け容れる」とは、従うことでも妥協でもない

社員の前提を受け容れるというと、社員の希望をすべて聞き入れることだと誤解されることがあります。

新規事業に反対されたら、計画を取りやめる。
懇親会に参加したくないと言われたら、社員同士の関係づくりを諦める。
仕事を増やしたくないと言われたら、会社の変化を止める。

前提受容とは、そのようなことではありません。

前提とは、その人が現実を判断するときに、意識的、あるいは無意識に使っている土台です。

相手の答えを受け容れるのではなく、その答えを生んだ前提を受け容れる。

それが、前提受容です。

なぜ社員は新規事業に反対しているのか。
何を失うことを恐れているのか。
何が守られるなら、新しい方法を検討できるのか。
どのような未来なら、自分もそこに参加したいと思えるのか。

社員が見ている現実を受け取ることで、社長は、社員を説得するのではなく、会社の未来と社員自身の目標が接続する地点を探せます。

同じように、社員も、社長が何を見ているのかを知る必要があります。

なぜ今、変える必要があるのか。
何もしなければ、何が失われると社長は考えているのか。
社長が守ろうとしているものは何か。

前提を受け容れるとは、互いの要求を半分ずつ採用することではありません。

互いが立っている場所を確認したうえで、どこへ向かうのかを改めて考えることです。

同じ答えではなく、同じ問いを置く

社長と社員が、同じ答えを持つ必要はありません。

社長は
「新規事業を始めるべきだ」と考えている。

社員は
「今の状態では始めるべきではない」と考えている。

答えは違ったままで構いません。

問題は、二人が別々の問いに答えていることです。

社長は、
「どうすれば次の収益源をつくれるか」
と考えている。

社員は、
「どうすればこれ以上、現場の負担を増やさずに済むか」
と考えている。

問いが違えば、答えがかみ合わないのは当然です。

同じ問いは、社長と社員の意見を平均して作るものではありません。

会社の未来から、現在に向けて問い直すことで生まれます。

例えば、

「この会社が、より高い付加価値を生み続け、そこで働く人も自分の可能性を広げられる状態にあるとしたら、今、何を変え、何を守る必要があるか」

この問いであれば、社長も社員も、それぞれの立場と目標を持ったまま参加できます。

社長は、
次の収益源をつくる可能性を考えられる。

社員は、
現場と生活を守る条件を提示できる。

同じ問いを持つとは、全員が同じ意見になることではありません。

異なる答えを、同じ未来の状態に照らして検討できる場所に立つことです。

何をどうするかを揃える前に、何のためにどうするのかへ戻る。

そこから、同じ問いが生まれます。

問いが変わると、今まで見えなかった選択肢が浮かび上がる

「新規事業を始めるか、始めないか」という問いでは、選択肢は二つしかありません。

社長が押し切るか。
社員の反対を受けて見送るか。
中間を取り、規模を少し小さくするか。

しかし、問いが「現場を壊さずに、次の付加価値をどう確かめるか」に変わると、判断基準も変わります。

判断基準が変わると、それまで検討対象に入らなかった選択肢が見えるようになります。

最初から全社で始めず、一つの顧客層に絞って試す。
三か月だけ検証し、続ける条件とやめる条件を先に決める。
新しい仕事を一つ増やすなら、既存業務を一つやめる。
既存顧客への影響と現場負荷を、売上と同じように測る。

これらが唯一の正解ではありません。

重要なのは、最初の問いの中では見えなかった選択肢が、問いを変えることで認識できるようになることです。

現状の中で答えを探していると、過去に使った方法や、現在持っている資源の範囲でしか考えられません。

未来に実現している状態を先に置き、そこから問いを作ると、今まで固定されていた前提が外れます。

未来が変われば、判断が変わります。
判断が変われば、行動も変わります。

ここで扱っている「問いを変える」とは、現在の判断を生み出す起点を変えることです。

未来は、正解を与えてくれるものではありません。

今まで見えていなかった問いと選択肢を、現在に浮かび上がらせるものです。

未来を掲げただけでは、組織は駆動しない

ただし、会社の未来を描き、同じ問いを置いただけで、組織が自動的に動くわけではありません。

その問いが、日々の会議で使われているか。
社員一人ひとりの役割へ翻訳されているか。
管理職が、経営の言葉を現場へ伝えるだけでなく、現場が見ている現実を経営へ返しているか。
評価や優先順位が、会社の未来と矛盾していないか。
同じ問いを、会議の設計、管理職の役割、評価、業務の優先順位へどう組み込むのか。
社員それぞれの前提を受け取りながら、組織の方向を分散させないためには何が必要なのか。

その方法については、後半の実装編で詳しく扱います。

ここで確認したいのは、その一つ前です。

会社は、異なる目標を持つ人たちを駆動できるだけの未来を持っているか。

そして、その未来から、社長と社員が共に立てる問いを生み出せているか。

社長が描いた未来は、本当に未来なのか

会社には、異なる目標を持つ人たちを束ねる未来が必要です。

けれど、その未来が、社長の不安や過去の成功体験から生まれたものなら、現在の判断も過去に縛られます。

既存事業が衰退することが怖いから、新しい事業を加える。
競合に負けたくないから、売上規模を追う。
過去に成功した方法を、さらに大きく再現しようとする。

それは将来の目標に見えても、過去由来の未来です。

会社の未来が、社長と社員の異なる目標を束ねるためには、その未来自体が、現在の不安や過去の成功の延長であってはなりません。

では、この連載でいう「未来」とは、何なのでしょうか。

未来に実現している状態を前提に、現在を判断するとは、どういうことなのでしょうか。

次回は、「Future」「Future Driven」という言葉を曖昧にせず、フューチャードリブン経営の考え方を定義します。

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