軌道に乗った会社ほど、過去を起点に未来を語る。|フューチャードリブン経営論
前回の記事では、フューチャードリブン経営を、次のように定義しました。
現在の会社から未来を考えるのではない。
Futureにすでに存在している会社から、現在の会社を判断する。
そして、こうも書きました。
「実績や前例からしか目標をつくれないなら、経営者はいらない。」
実績や前例を確認し、現在の延長線上にある数字を計算するだけなら、過去のデータと一定の分析能力があればできることが多いです。
経営者にしかできない仕事は、まだ存在していない会社を先に描き、その会社から現在を判断することです。
ところが、事業が軌道に乗るほど、経営者はこの仕事から離れていきます。
未来を語らなくなるからではありません。
むしろ逆です。
未来を語り、目標を掲げ、事業計画をつくっているからこそ、自分が過去を起点に考えていることに気づけなくなります。
未来を語っているから、過去起点に気づけない
経営者は、日常的に未来について考えています。
来期の売上をどうするか。
どの事業へ投資するか。
新しい拠点を出すか。
何人採用するか。
次の市場へ進出するか。
どれも、未来についての話です。
しかし、その未来がどこからつくられているかは、別の問題です。
前年の実績から、どの程度なら伸ばせるか。
現在の人員で、どこまで対応できるか。
今の商品を、どこまで広げられるか。
既存顧客の要望に、何を追加できるか。
これらは未来の話に見えますが、判断の起点は過去と現在です。
過去にできたこと。
今できること。
すでに持っているもの。
その範囲で、これからできそうなことを探しています。
未来という名前がついていても、過去と現在を少し先まで伸ばしているだけです。
だから気づけません。
過去を見ている人なら、自分が過去を見ていると分かります。
しかし、
過去を材料にして未来を語っている人は、自分を未来志向だと思っています。
ここに、経営者が過去起点から抜けられなくなる大きな盲点があります。
会社が軌道に乗るほど、頼れる過去が増えていく
創業時には、頼れる過去がほとんどありません。
十分な実績もない。
顧客も少ない。
信用もない。
組織も出来上がっていない。
成功した方法も確立されていない。
それでも創業者は、まだ存在していない会社を先に描きます。
こんな商品を世に出したい。
こういう顧客に価値を届けたい。
この会社を、ここまで大きくしたい。
その時点では、実現に必要なものがそろっているわけではありません。
人がいなければ探す。
能力がなければ身につける。
信用がなければ積み上げる。
顧客がいなければ、価値を伝えて獲得する。
今あるもので何ができるかではなく、実現したい未来に必要なものを、後からつくっていきます。
ところが、会社が軌道に乗ると状況が変わります。
実績が生まれます。
顧客が増えます。
社員が集まります。
信用が積み上がります。
利益を生む事業の形が出来上がります。
どれも、会社にとって大切な資産です。
しかし、頼れるものが増えるほど、経営者の問いは変わっていきます。
Futureに必要なものを、どうつくるか。
ではなく、
今の会社なら、次に何ができるか。
へ変わります。
過去の成功は、Futureを実現するための力です。
同時に、Futureを過去の延長へ戻す強い重力でもあります。
過去からつくられた未来は、未来の顔をしている
過去起点の経営は、必ずしも守りに見えるわけではありません。
売上目標を上げる。
新商品を出す。
設備投資をする。
新しい店舗を出す。
新規事業を始める。
見た目には、十分に攻めています。
しかし、現在の事業をどこまで拡大できるか。
既存の商品をどう横展開するか。
今いる人材で、どこまで進めるか。
その範囲で未来を考えている限り、立っている場所は現在です。
過去の実績と、現在持っているものの範囲から未来を探している限り、現状の外側は生まれない。
改善はできます。
効率化もできます。
既存事業を拡大することもできます。
しかし、現在の会社そのものを突破することはできません。
経営者の仕事は、すでに存在する選択肢の中から、最も良いものを選ぶことだけではありません。
Futureに必要なら、今は存在していない選択肢そのものをつくることです。
人材がいない。
能力がない。
資金がない。
前例がない。
過去起点の経営では、それらは「できない理由」になります。
Future Drivenでは違います。
Futureに必要なのであれば、
どう獲得するのか。
どう育てるのか。
どう調達するのか。
どう成立させるのか。
「ない」の先に、「では、どうする」が続きます。
創業社長も承継社長も、出来上がった会社を受け継ぐ
承継社長は、先代が創り上げた会社を受け継ぎます。
創業社長は、自分自身が創り上げた会社を受け継ぎます。
創業社長にとっての先代は、過去の自分です。
承継社長は、先代が証明した成功を判断基準にしやすい。
創業社長は、自分が証明した成功を判断基準にしやすい。
むしろ、
自分で築いた成功だからこそ、疑うことは難しいかもしれません。
「あの判断で成功した。」
「このやり方で会社を大きくした。」
「この顧客に選ばれてきた。」
それらはすべて事実です。
しかし、過去に正しかったことと、次のFutureに必要なことは同じではありません。
創業社長と承継社長で違うのは、過去をつくった人物です。
事業が軌道に乗った後、出来上がった会社を土台に未来を考えやすくなる構造は変わりません。
「事業が軌道に乗ったとき、すべての社長は、出来上がった会社の承継者になる。」
だから、創業社長にも承継社長にも、同じ問いが必要です。
過去の自分や先代なら、どう判断するか。
ではありません。
「Futureにいる会社なら、ここでどう判断するか。」
です。
経営者こそ、Future Drivenを適用し続けなければならない
Future Drivenは、創業時にだけ必要な考え方ではありません。
会社がまだ小さく、何も持っていないときに、夢を実現するための思考法でもありません。
むしろ、会社が軌道に乗った後にこそ必要になります。
会社が大きくなるほど、経営者は現在の現実へ深く関わります。
売上。
資金繰り。
社員の生活。
顧客との関係。
取引先との信用。
既存事業の収益。
目の前にある現実は、どれも無視できません。
だから、
経営者は何もしなければ現在へ戻ります。
今あるものを守り、今できることを選び、現在の会社から見える未来を語るようになります。
その引力から離れるために、Future Drivenを判断原理として持ち続けなければなりません。
Futureにあるべき会社なら、何を選ぶのか。
何を続け、何をやめるのか。
誰を迎えるのか。
どこへ投資するのか。
今ないものを、どうつくるのか。
Futureを一度掲げて終わりではありません。
経営判断のたびに、Futureへ立ち直す。
現在の会社がFutureを考えるのではなく、
Futureにいる会社から現在を見直す。
それを繰り返すことが、Future Drivenな経営です。
Future Drivenが必要なのは、会社が軌道に乗ってからである
何もなかった創業時には、過去に頼ることができませんでした。
だから、
まだない未来から現在を動かすことができました。
しかし、
会社が軌道に乗ると、頼れる過去が増えていきます。
実績もある。
前例もある。
顧客もいる。
社員もいる。
成功した方法もある。
そのとき、Futureは自然には生まれません。
意識的に過去から立脚点を外し、Futureから現在を判断しなければ、未来は過去によって決められます。
Future Drivenが必要なのは、会社を創るときより、軌道に乗ってから
創業時、会社はFuture Drivenでなければ生まれませんでした。
軌道に乗った後、会社はFuture Drivenでなければ、次の未来を生み出せません。
経営者の仕事は、出来上がった会社を基準に、実現できそうな未来を選ぶことではありません。
まだないFutureを描き、そこから現在を判断し続けることです。
その仕事を手放した瞬間、未来を決めるのは経営者ではなく、過去になります。
次の記事から、第3部に入ります。
会社が軌道に乗るほど、経営者には守るものが増えていきます。
社員とその家族。
顧客。
取引先。
積み上げてきた信用。
現在の売上と利益。
それらを守ろうとすることは、経営者の弱さではありません。
会社が社会に根を張り、多くの人に必要とされるようになった証拠です。
しかし、会社を守ることと、今の会社の形をそのまま残すことは同じではありません。
次の記事では、会社が軌道に乗るほど、なぜ未来を創ることよりも、現在を守ることへ最適化されていくのか。その構造について考えます。
第2部 了
