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炎上する住宅・教育「マウント」投稿、アッパーミドル層が引き起こす【分断と政治】の行方

皆さん、こんにちは。村田雅志です。
最近、目にした米国人によるコラムの内容をご紹介したいと思います。

BloombergのコラムニストであるAllison Schrager氏は、米国での貧富の差の拡大は、富豪によるものではなく、アッパーミドル(中の上)層が増えたためと指摘しています。

US Economy Has an Upper Middle Class Problem: Allison Schrager

https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2026-02-12/think-the-us-economy-is-unfair-blame-the-upper-middle-class

Schrager氏によれば、年収15万-30万ドル(約2,300万-4,500万円)の高所得者層が増えたことで、米国家計の所得分布の形が山型から平たい形に変化したといいます。

興味深いことに、多くの人がより豊かになり、全体として貧困層は減少したにもかかわらず、米国ではアッパーミドル層の増加が危機のように取り上げられています。

お金はたくさんあるが危機の最中

Schrager氏は、増え過ぎたアッパーミドル層が、限られた高級な商品・不動産・サービス(良い学校、上質な旅行、医療、ライブやスポーツ等)を、あたかも必需品であるかのように奪い合っていると指摘します。

ここでは、アッパーミドル層が「必需品っぽく」奪い合う財・サービスを、あえて“ポジショナル財”と呼ぶことにします。

こうした話は、私たちが住む日本でも、目にしたり、聞いたりことが増えてきた気がします。たとえばSNSでは、都心近接・人気学区・私立の教育投資・体験消費といった「枠が限られているもの」をめぐって、空気が妙にピリついていることが確認できます。

しかも不思議なのは、景気が絶好調というわけでもないのに、なぜか「取れない」「並ぶ」「高すぎる」と感じる人が増えている点です。

この違和感の正体は何でしょうか。

今回の記事では、日本のアッパーミドル層の現状を整理し、日本の社会が抱きがちな「不満」と、不満に対応する政治がどのように変質する可能性があるかについて考えていきたいと思います。


日本のアッパーミドルを所得で考える

厚生労働省の国民生活基礎調査(2024年)では、全世帯の平均所得金額は536万円、中央値は410万円です。また、所得1,000万円以上の割合は、全世帯で12.3%、児童のいる世帯で25.5%と示されています。

各種世帯の所得等の状況

2024(令和6)年 国民生活基礎調査
所得金額階級別世帯数の相対度数分布(国民生活基礎調査)

SNSでは、子育て期にあたるアッパーミドル層が、住まい・教育等のポジショナル財を取りに行く構図がたびたび指摘されています。子育て期全体の4分の1が所得1,000万円以上であるならば、こうした指摘が単なる印象論ではなく、母集団の厚みによるものと言えそうです。

日本では資産上のアッパーミドル層が存在する

もう一段、話をややこしくしているのが「資産」です。

野村総合研究所(NRI)は純金融資産の階層を整理し、「富裕層(1億円以上5億円未満)+超富裕層(5億円以上)」が165.3万世帯、純金融資産総額が約469兆円と推計しています。

さらに増加要因として、株価・円安・相続などを挙げ、「いつの間にか富裕層」といった“新しい上位層”の存在にも触れています。

純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数

野村総合研究所

つまり日本では年収がアッパーミドルでなくても、

・運用資産の増加(株高)
・円安による外貨資産の評価増
・相続

などによって「資産でアッパーミドル層」になるルートが存在するのです。

そして、資産が増えた層が取りに行くのが、ポジショナル財です。

東京のマンションはポジショナル財の“典型例”

不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ」によると、首都圏の戸当たり平均価格は9,182万円と最高値を更新し、発売戸数は2万1,962戸で1973年以降の最少を更新した、とされています。

同資料では、東京23区の平均価格が1億3,613万円、都心6区(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)が1億9,503万円という水準も示されています。

首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ

不動産経済研究所

供給が限られ、価格が上がる。そして上がった価格が、さらに「買える人」だけを都心側に集める。

この構図は、住宅供給が日本全体で不足しているかどうか、という議論とは別の次元です。

都心近接・駅近・人気学区という“枠が固定された場所”で、購買力を持つ層(所得+資産)が殺到すれば、そこで起きるのは「希少性プレミアムの上乗せ」です。

教育もポジショナル財になりやすい

教育は、価格だけでなく「席」「学区」「受験」という形で枠ができます。

文部科学省の令和5年度子供の学習費調査では、

小学校:公立約36.7万円 vs 私立約174.2万円
中学校:公立約54.2万円 vs 私立約156.0万円
高校:公立約59.7万円 vs 私立約117.9万円

と公立と私立との間で差が大きいことが示されています。  

この差が「払える/払えない」を生み、さらに「良い公立=良い居住地」という形で住宅と連動します。

また、米国ほどではないものの、都市部を中心にアッパーミドル層による(いわゆる)エリート校への需要は根強いと言われており、

・中学受験(私立・国立)
・塾・習い事(学校外活動費)
・良い公立校=良い居住地(住まいと教育が連動)


がポジショナル財になりやすいと推察されます。

日本の「不公平感」は2種類の不満が同時に走るときに強烈に

Schrager氏は米国社会での不満を2種類に分けています。

・価格で排除される層
・期待が満たされないアッパーミドル層

これを日本に当てると、こうなります。

①本当に排除される側(非・アッパーミドル層)

都心新築・人気学区・私立教育投資が「標準装備」っぽく語られるほど、平均所得付近の家計からは距離が開きます。所得中央値が410万円である社会で、都心の平均価格が1億円台後半に達する“枠”が一般化して語られれば、「自分は入場資格がない」と感じるのは自然です。

②アッパーミドル側の“期待ギャップ”

一方で、所得で中の上に届き、あるいは資産増で富裕予備軍化した層が、家・教育・体験を同時に取りに行くと、局所的な希少性にぶつかります。

「この年収(資産)でも無理なのか」

という不満が出やすくなるのです。

整理するとこうなります。

アッパーミドル層の厚みは、所得だけでなく資産増(運用・相続)でも形成される。

⇒アッパーミドル層がポジショナル財を一斉に取りに行く。

⇒ポジショナル財は供給が硬い/枠が固定されているので、価格または取得難易度が上がる。

⇒結果として、非・アッパーミドル層は「排除された」と感じ、アッパーミドル層も「期待した生活パッケージが買えない」と感じる。

そして重要なことは、この“アッパーミドル問題”は、日本全国で均一に起きているのではなく、主に東京のような都市部の「枠が硬い場所」で濃く出る、という点です。

こうして政治が変質する:争点が
「格差」から「生活パッケージの入場券」へ

①と②が同時に強まると、怒りの焦点は「金持ちが得をしている」よりも、「住む場所・学区・保育・医療・介護・移動・体験の枠に入れない」に向きます。

すると政治は、賃上げや給付の抽象論より、次のような“枠”の問題に具体化しやすい。

住宅:供給制約とエリア希少性
教育:学区・受験・無償化の設計(誰が得るか)
子育て:保育枠、学童、働き方(時間の制約)

そして支持を取りやすいのは、だいたい次の2タイプです。

タイプX:価格と利得を“押し戻す”政治

家賃・不動産・学費・保育料の値上がりを止める(上限規制、補助金拡大)
「転売」「投機」「外部の買い手」を悪者にする(規制強化、課税強化、参入制限)

こうした政策は、短期には効いたように見えますが、供給制約を強め、長期的にボトルネックを悪化させるリスクが高くなります。

タイプY:供給とアクセスを“増やす”政治

住宅供給、学校・学童のキャパ増、手続・規制・インセンティブをいじって物理的に枠を増やす。

この考えは、中長期には合理的ですが、短期の痛み(既存住民の反発、負担、景観、混雑)を伴い、政治的に実現が難しいものです。

さらに厄介なのは、政党軸が「左右」より「都市ボトルネック軸」に寄っていくことです。

都市の供給拡大型
vs
既得権・既存住民の保護型

この軸は、党派より「地域」「世代」「持ち家・資産の有無」「子育て期かどうか」で割れやすくなります。

そして最後に燃えやすい火種が、「超富裕層をどうするか」より“中上位層の負担設計”に移っていく点です。

児童手当、教育無償化、医療の負担上限、保育の所得制限。

「払っているのに取れない」という②の感覚が強いほど、この争点は先鋭化します。

問題を「自分ごと」として捉えるための3つの問い

ここまで読んで、「結局なにが言いたいの?」と思われたかもしれません。

私が言いたいのはシンプルです。

日本の不公平感は、所得格差そのものだけでなく、都市部で“生活パッケージの入場券”が高騰し、枠が詰まっていくことで増幅されています。

そして、その入場券を取りに行く主体が、高所得者だけでなく「資産増で厚みを増した中上位層」も含むところに日本の特徴があります。

この構造を自分の生活に引き寄せるためには、以下3つの問いをご自身で答えていくことが必要だと思っています。

  1. 自分が「必需品っぽく」感じているものは、本当に必需品か、それともポジショナル財か。
    (住まい、学区、塾、保育、医療、体験…どれが一番刺さっていますか)

  2. その“枠”は、価格で開く枠か、席や制度で開く枠か。
    価格なら値段が上がり、制度なら並ぶ時間が増える。どちらにしても、体感としては同じ「取れない」になります。

  3. いま見ている政治ニュースは、「再分配の量」の話か、それとも「枠の設計」の話か。
    もし後者が増えているなら、それは社会の不満が「格差」から「入場券」に移っているサインです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回の記事では、統計や制度だけでは見えない「生活者の体感」がいちばん重要と考えています。

いま、あなたが最も“取れない”と感じているポジショナル財は何でしょうか。

住まいですか。教育ですか。保育ですか。それとも別の枠でしょうか。

ぜひコメントで教えてください。

今回の内容が「視点が増えた」「モヤモヤの正体が言語化された」と感じていただけたら、記事へのスキと、noteのフォローをいただけると励みになります。

Xでは、こうした“枠”の問題がニュースでどう立ち上がってくるかを、日々リアルタイムで追いかけています。激動の時期を読み解く一助として、あわせてご活用ください。
https://x.com/muratamasashi

また次回のコラムでお会いしましょう。

村田雅志(むらた・まさし)


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