ちっぽけなあたしの死を嗤え #09
【尾崎陽空・14歳】その2
次の週末、陽空は自転車でとある場所を目指した。市街から随分と離れた場所にある、『火葬場』を見学しに行こうと考えた。
リーチがかかったビンゴカードの五マス目の死因は、「焼死」だった。
見学と言っても、小学校の頃社会科見学で訪れた菓子工場ではあるまいし、火葬される人の様子がガラス張りの向こうに見学できるワケではないのは重々承知していた。おまけに火葬場に搬送される遺体は既にそれぞれの原因で死んでいて、そこから焼かれるのだから、「焼死」には当てはまらない。
陽空は思い出していた。父親の遺体が、火葬場で焼かれた日の事を。父親が詰め込まれた棺と一緒に、車で一時間近く走ってようやく火葬場に到着した。鬱蒼とした森の中のそこは、社会から切り離されたように厳かでどこか崇高な場所に思えた。
父親が灰になるまでの間、独りで館内とその周辺を歩いた。マスコミもここまでは追って来ない。少しだけ父親を羨ましく思った。死後の世界は、きっとこの場所のように、喧騒とも狂乱とも無縁の静寂の場所だ。陽空は、凪いでいく穏やかな気持ちの中、この場所が好きかもしれないと感じた。
あの日の心の平穏を求めて、陽空は火葬場を目指したのだ。
父親が灰になった場所よりも、多少は近場に新しく火葬場が建設された事を、図書館で見れる無料のインターネットサービスで知った。地図を打ち出し、それを頼りにペダルをこいだ。
晩秋と呼ばれる、少し肌寒くなってきたこの季節だと言うのに、うっすらと額と背中に汗が浮かぶのを感じ始めた頃、道路の周辺にいくつもの看板が立ち並び始めたのが気になった。
「斎場建設絶対反対!」「火葬場はこの街から出ていけ!」「住民の安心と平和を返せ!!」
白地に赤の太い文字で書かれたそれらは、どの看板からも敵意のパワーが満ち溢れている。
陽空には分からなかった。
なぜ「死」を毛嫌いする必要があるのだろうか、誰もがいずれは辿りつく「生」の終点だと言うのに。
「……中坊と同じレベルじゃん」
陽空は思わず呟いた。「死」を穢れだと言って遠ざけようとするのは、「死」を軽んじて考えているからに他ならない。分かっていない。どいつもこいつも全く分かっていない。イライラとした気持ちが、ペダルを踏む力を強くさせた。丘の上の目的地まで、もう少しだった。
「○○家の御関係者の方ですか?」
斎場の周辺だけ歩ければと考えていたが、陽空は引き込まれるように建物に足を踏み入れていた。
「はい、そうです」
受付で声を掛けられ、沈んだ顔で頷いて見せると安全ピンのついた白色の小さなリボンを手渡された。これで中を自由に歩けるようだった。念の為、学生服を着て来て良かったと安堵する。
広い廊下にはほとんど人はおらず、時折姿を見せる人影は皆一様に黒い服をまとっている。遠くから聴こえる読経の声。ひんやりとした空気は全くの無臭で、この建物の中で人体が高温で焼かれているだなんて想像もできない。
ここに来て良かった。やはりこの場所は、陽空の心を落ち着かせてくれる。肉体が灰と化す最期の場所。人間も動物も木々も虫も、灰になれば皆同じ。となると、ここは人が人としての形から解き放たれる唯一の場所。
こういう場所で、いつか働く事が出来たらなぁと、陽空は思い描く。
―― あと三年と少しだ。
高校を出たら就職して、母の元を去るのだ。
「あんたさえ出来なかったら、あんな男と結婚しなかった」
母はそう言って、陽空を罵った。自分が陥った不幸は、全て陽空がこの世に生を受けた事によって始まったのだと言うように。
自分が母と縁を切ったからと言って、今更母が幸せになれるとは思えないし、家を出るのは決して母の為ではない。実の母親に、顔を合わせる度に毒を吐かれるのが面倒になっただけだ。陽空はただ、独りで静かに暮らしたかった。誰からも存在を否定されない環境で、生きていきたかった。
廊下の奥の部屋から、黒い服の集団が姿を見せた。
先頭の男性が、四角い箱を胸に抱え歩いてくる。この国では皆、最期にはあの形になるのだ。そこから墓の下に埋められたり、海や山にまかれたり、宇宙葬だなんてのもあると聞く。生前の故人の意向で決まるのだろうが、実際どんな風に葬られたかなんて、死んでしまっては分かるはずもないのにとも思う。どこかから、故人の魂が覗いているのかもと宙を見上げてみたが、そこには真っ白な天井が広がるだけだった。
自分はいったい、いつ、誰に、どんな風に見送られるのだろうか。どんな風にして死んでいくのだろうか。その死因は、あのビンゴカードの新たなマスを開くのだろうか。斎場を後にする人々の背中を見送りながら、陽空は自分の未来を想った。
その日、深夜に目が覚めたのは、何か悪い予感を感じ取ってしまったからなのか。
枕元の目覚まし時計で時刻を確認すると、まだ午前三時だった。押入れのふすまを細く開け、部屋の様子を覗きみる。
このアパートで暮らし始めた当初から、陽空は押入れで眠る生活を送っていた。眠るだけではない。母親が家にいる際には、押入れにライトを持ち込みそこで宿題をしたりもした。陽空の姿が見えなければ、基本母親は穏やかだったからだ。
既に160cmを超えつつある身長で、押入れで眠るのは困難ではあったけれど、膝を抱えて丸まるようにすればなんとかなったし、その姿勢がやけに落ち着くので苦ではなかった。
とはいえ、それが母親の胎内にいたときの体勢だからだと、何かの書物で読んだ時には「それとは全く関係ない」と全否定したくなったが。
部屋の床には、母親の服やバッグがそこかしこに投げ捨てられていた。どうやら帰宅はしているが、辺りに姿が見えなかった。
耳を澄ますと、風呂場の方から何やらぼそぼそと囁くような声が聞こえてくる。母親が誰かと電話で話をしているようだった。
だがおかしい。いつも母親は、客や仕事仲間と電話で話す時には、例え真夜中で陽空が寝ていようが構わずに、ベッド代わりにしている安いソファに寝転びながら、けたたましい笑い声を上げて話しているのに、何故今夜に限ってこそこそと隠れて電話をしているのだろう。
音を立てないように押入れから忍び出て、壁に耳をあてる。
「うん、そう。証書も全部届いたし、手続きはこれで完璧なはず」
シャワーを流しっぱなしにして、音を消そうとしているようだが、安普請のアパートの壁では、神経を集中させれば母親の声だけを聞きとる事が出来た。
「あとはアンタが、バレないようにやってくれるんでしょ?」
何かを企む者の、張りつめた空気が伝わってくる。一体、母親は何をしようと言うのか。
「早いとこお願いね。借金も早くかたをつけたいし、高校入られたらまた金かかるからさ」
『高校』の言葉に、母親が話しているのが自分の事だと気がついた。そして断片から想像される、母親が密かに誰かと交わしていた会話の全貌にも。
衝撃を受け止めたまま、陽空は再び自分のねぐらへと潜り込んだ。
証書、借金、やってくれ。母親が発した言葉が、脳内をぐるぐる駆け巡る。
両目から、涙が次から次へと溢れてきた。母親から嫌われているのは分かっていたはずなのに、母親の愛情なんてもう少しも期待していなかったのに、なんでこんなに哀しいのか。陽空は、不思議でならなかった。
化粧品が並んだカラーボックスの裏側。
その場所に母親が、大事な物を隠している事は知っていた。通帳に現金、いまだ返済しきれていない借金の借用書。
母親が出掛けた後に、その場所を探った陽空は、それらに混じって、初めて見掛ける数社の保険会社の名前が入った封筒の束を見つけた。
昨夜、耳にしてしまった母親の計画が、夢ではなかった事が確定した。
自分は間もなく殺されるのだ。実の母親の依頼で、誰かに。保険金目当てで。
(焼き殺されたら、ビンゴになるな……)
陽空はひとり、皮肉な笑みを浮かべる。涙はもう、とうに枯れ果てていた。
母親が隠し持っていた現金すべてと、リュックに詰められるだけの衣類をまとめて、陽空は街に出た。二度と家に戻るつもりはなかった。どこかに助けを請いに行くべきなのだろうか。警察? 学校? それとも児童相談所と呼ばれる所か?
どこかから『殺し屋』が自分の命を狙っているかもしれない。なるべく人気の多い所に身を隠そうと、陽空は駅ビルの待合広場に座りながらこれからの自分の未来を想った。
広場に置かれた大型テレビでは、何処かの局のワイドショーが流れている。出演者たちが熱く議論を交わしているのは、どこかの街で発覚した、実の父親による虐待によって死亡した僅か十歳の少女に関しての話題だった。少女は学校にも児童相談所にも、日常的に行われていた父親の暴力を訴えていたのに、大人たちは彼女を護りきることは出来なかった。
いつだってそうだ。大人が信用出来た事が、今まであっただろうか。「殺し屋」呼ばわりされて、孤立し続けていた陽空に、手を差し伸べてくれる教師がいたか? 母親からばい菌の様な扱いを受け続けている自分を、心配してくれる近所の人間や親せきがいたか?
大人なんて、社会なんて信用できない。自分の手で何とかしなければ。
陽空が次に向かったのは、飛び降り自殺を目撃した事故現場だった。
あの日から半月近くが経ったが、女子高生が倒れていた小路のビル沿いには、花やぬいぐるみやお菓子の箱などが供えられていて、まだ事故の生々しさが残されている。
「あー、マジ受験勉強もうやだ。いっそアタシも飛び降りちゃいたーい」
「ホント、若くて美しいうちに死ぬのが華かもねぇ」
同じ制服を着て、同じような髪形をした女子高生三人組が、やかましく喋りながらその場を通る。
「あ、でも聞いた? 死んだ子の自殺の原因って、受験を苦にしてじゃなくって、三角関係のもつれだったらしいよ」
「はぁ!? 何それ。 受験生が、恋愛なんかしてんじゃねぇよ」
「リア充やだやだ。同情して損した」
三角関係のもつれ ――
愕然とした。自ら死を選ぶほどの勇気があった彼女の自殺の原因が、たかだか恋愛に関する悩みだったとは。そんなくだらない事で、あの高さから飛ぶ事が出来るだなんて。『愛情』だなんて言う物が、どんなに薄っぺらくて脆いものなのか、陽空は自分の父親と母親から痛いほどに学んでいた。
M女学院生だった彼女は、もっと大きな使命や責務を全うしようとして死んだのだと、陽空は勝手に信じ込んでいた。そう例えば、ジャンヌ・ダルクのように。
つまらない。なんてつまらない。彼女も結局、自だけ分が可愛いが為に家族を見捨てて独りで死んでいった、父親と同じだ。
自分は死なない。絶対に自ら死を選んだりしない。そして ―― 殺されてもたまるもんか。
陽空は、自分のこれからの行先を心に決めた。
最期にもう一度、さよならを告げる為に、ある場所へと向かった。
「ごめんなさい。マイケル君は、三ヶ月ほど前に亡くなったんです」
何度店先を訪れても、マイケルの写真が看板に出ていなかったのはそういう事だったのか。
「今まで可愛がってくれて、ありがとうございます」
訪れた猫カフェで、お気に入りだったマイケルの不在の理由を陽空が尋ねると、店員は哀しげな表情で彼の死を告げた。
「あぁ、マイケルってアレでしょ? スコの子でしょ? スコはダメだよぉ。人工的に造られた奇形だからね、すぐ病気になる」
「いえ、田村さん。ウチのマイケル君は、ちゃんとしたブリーダーさんからお引き取りした純血種ですからそういった事は……」
田村と呼ばれた常連客らしき中年の男性が、陽空と店員の会話に訳知り顔で入り込んできた。
「……造られた奇形って、どういう事ですか?」
「何? キミ知らないの? スコティッシュフォールドとかマンチカンみたいな耳折れや短足のネコちゃんの種類はね、突然変異で生まれたコなの。それが『可愛い』とか言われて人気が出ちゃったから、今じゃ人工的に交配して製造されているってワケ。人間のエゴで産まれた、生き物として不自然な存在なの」
「田村さん、その言い方はちょっと……。あ、お客様? お客様!」
自分を呼び止める店員の声を振り切り、陽空は店を飛び出した。
人間のエゴで産まれたマイケルに、自分の姿が重なった。見捨てて独りで逝ってしまったのに、何故父親は家族を作った? 最期まで愛せないのに、何故母親は自分を生んだ? エゴだ。二人のエゴで、自分はこの世に産み出された不自然な存在なのだ。
マイケルの死が、陽空の決意を確固たるものにした。
完成させるのだ。死のビンゴを。
このままのたれ死ぬのもご免だ。金の為に殺されるのもご免だ。
『人殺し』の息子らしく、『殺し屋』の名に相応しい様に、殺してやる。この手で。『死』を大切にしない者たちを、片っ端から。
陽空は、ポケットにしまっていたビンゴの紙片を取り出した。可能な限り、このマスを埋めるのだ。そうすればきっと、自分は自由になれる。解放される。父親からも、母親からも。そして『死』という概念からも ――
ビンゴの中心のマスに書かれた『Free』を、この手で掴み取るのだ。
猫カフェを後にした陽空は、すぐさま図書館に向かい、これからの計画に関して調べられるだけの知識を詰め込むと、必要な物を入手する為に自転車であらゆる場所を駆け回った。
最後の夜は、朝まで営業しているスーパー銭湯で過ごした。巡回していた従業員には、「隣で寝ているのが父です」と告げて、酔っ払ってイイ気分になっているのか、大きないびきをかきながら眠りこけている男に、勝手に父親になってもらった。ぽってりと腹が出て、何の悩みもなさそうな呑気で凡庸な外見だったけれど、どこか大らかで優しげな印象を受ける男だった。
(もし、こんな人が本当に父親だったら……)
お風呂で背中を流し合って、大盛りの牛丼を食べて、卓球をして、カラオケをして……。父親と、いや家族とも友達とも出来なかったそんなたわいのない事も出来ていたのかも……。
浅いまどろみの中で陽空は、ほんのひと時の夢を見ていた。
月曜の朝、一番で学校に着いた。
ここからは、一秒も時間は無駄にできない。もし昨夜の内に、隠していた現金を陽空が持ち出したと気付かれていたら、陽空を探しに、母親が学校へと乗り込んでくる可能性も考えられる。
僅かな時間で、いくつビンゴのマスを開く事が出来るか。これは自由を掴み取る為の、挑戦でもあるのだ。
陽空はまず加納の靴箱に、彼を呼び出す為のメモを入れた。そして、理科室の備品庫、図書室の予備室、三年の女子トイレ、野球部の部室、武道館の倉庫、犯行の現場に選んだ場所を素早くチェックし、しかるべき準備を施した。
なるべく人が来ない場所、犯行がすぐに発覚しない場所、そこから責めていかねばたちまち騒動になって計画を断念せざるをえなくなる。
ポツポツと登校してくる生徒の中に、リストに名を上げた人物が来ないかと、陽空は昇降口の陰から静かに見張る。
「おはよう、榛名さん」
最初に現れたターゲットは、クラスメイトの榛名清美だった。
「私も、あっくんの後を追って今すぐ死にたい」
半年ほど前に、清美はそう言って教室でさめざめと泣いていた。不運な事故で命を落としてしまった、人気のyoutuberだかなんだかの話だったと記憶している。
「榛名さん、『死にたい』って言ってたよね? 叶えてあげるよ、僕が」
ナイフで脅し、大きな声をあげさせずに連れ込んだ理科室の備品庫で、陽空は清美にそう宣言した。
「……うそ、なんでこんなこと?」
両手両足を座らせた椅子に縛り上げられ、大粒の涙を流す清美に、陽空は持参したペットボトルの中身を全て飲み干すように命じる。
昨日、自転車を田園地帯まで走らせて、ずさんな管理をしていた農家の倉庫から盗んできた農薬が、ペットボトルの中には大量に混入してあった。
「ぐぅ、ぐぅぇぇっっ」
白目をむいて泡を吹きながら全身を痙攣させた清美の身体が、数分して動かなくなるのを見届けて、陽空は次の標的を探しに向かった。
『毒殺』のマスが完了したのだ。
次は『刺殺』の番だった。
清美を脅すのに使ったナイフで、今度は隣りのクラスの手塚沙彩を図書室の予備室に連れ込み、叫び声を上げさせる間もなくめった刺しにして殺した。
「別れるなら死んでやるっ」
彼女が交際していた男子生徒と、人目を気にすることなく痴話喧嘩していたのはつい先日の事だ。望み通りにしてやった。
制服が詰襟で良かったと、陽空は思った。飛び散った返り血が、目立たなくて済んだからだ。
三人目からのリストには、男子の名前が書かれている。女子よりも手強いかもしれないと、陽空は気を引き締め直す。
校庭の端に建つ、野球部の部室の出入り口を見張る。部活の荷物を置いて、教室に向かう部員たちが次々と出ていき、最後にキャプテンである三年生の菱沼克紀が現れ、部室のドアに施錠をしようとしたその背後に、陽空は静かに忍び寄った。
「うわぁっ」
用意していた催涙スプレーを菱沼の顔面に吹きかける。激しい痛みに目を抑え、足元をふらつかせた菱沼の背中を、陽空は思い切り蹴りつけ部室の中に押し込んだ。部室の隅に立てかけられている金属バットを手にした陽空は、倒れ込んで苦しむ菱沼の頭部目がけて容赦なく振り落とす。何度も、何度も。
「……キャプテン、練習が厳しすぎて、いつも『死ぬ』『死ぬ』って騒いでいたよね? コレで楽になれるよ」
二枚目で人気者だった野球部のキャプテンの凛々しかった顔立ちが、見るも無残に潰されていく。
『撲殺』の完成だった。
加納を呼び出した武道館の倉庫の傍で、陽空は彼の到着を待った。不機嫌そうな顔で加納が現れ、倉庫の中に入ったのを見計らって、入口に外から鍵を掛けた。
「おい! 誰だ!? 鍵掛けやがったのは! 殺し屋か? 尾崎、お前なのか!? うわっ! なんだこれっ」
倉庫に誰かが侵入したら、天井に仕掛けたバケツから大量の液体着火剤が降り注がれるように仕組んであった。陽空は格子が取り付けられている窓を細く開けると、その隙間から火を灯したマッチを加納に向かって投げ放った。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
一瞬にして、加納は全身を炎に包まれた。
ここ武道館は、校舎から一番離れた場所にある。誰かに気づかれるまでには、きっと加納は誰だか分からない程に黒焦げになっているだろう。
「加納君。キミが言ったんだよね? 僕が『殺し屋』だって。だから『殺す』んだよ。キミの言葉が真実になる様に」
『焼死』
ついにビンゴが完成した。
騒然とした中学校に、消防車、救急車、パトカーのサイレンが次々に流れ込む。
燃え盛る武道館の前で、血だらけのバットを手に立ち尽くしていた陽空は、警察に保護される際に警官に繰り返しこう尋ねた。
「女子トイレ、女子トイレはどうなりましたか? ガスで誰か死にましたか? 死んだらコレで二列目のビンゴなんですよ。いいんですよ、死んだって。だってあいつらいっつも『死ぬ死ぬ』言ってたんだから」
女子トイレには、洗剤を使って毒性のガスが発生する装置が陽空の手によって仕組まれていた。結果として、三人の女子生徒が命を落とし、彼女たちを助けようとした一人の男性教師が重態となった。
「これで僕が『死刑』になったら、ビンゴが三列目も開くんだけどなぁ。無理ですよね? 僕、まだ14歳ですもん。死刑には出来ませんよね?」
そう言って高らかに笑った陽空の姿は、今まで見た事もない、まるで名前の通りの怪物と化した狂人の姿であったと、補導の瞬間を目撃した同級生たちは語った。
それから十数年の月日を経て、模範的な保護期間を過ごした陽空は、奇跡的に社会に戻る事となる。
尾崎陽空の名前を変え、静かな暮らしを送りながらも、ずっと忘れる事のなかったビンゴの続きを完成させる計画を、彼が密かに企て始めている事を、今はまだ誰も気づいてはいない。
※ ※ ※ ※ ※
あの日、「自分が死んでも世界は変わらない」と叫んだあの少女は、知る由もなかった。
飛び降りた女子高生の自殺死体を目撃したひとりの少年が取り憑かれた、『死のビンゴカード』が完成されていく悪夢のシナリオを ――
